食べる貝・イカタコ学: 2008年7月アーカイブ

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 シジミで卸値キロ当たり1000円を超えると、高いな、と思う。
 1500円を超えると、よほど大きいのかな。
 2千円ともなると、絶対に大きいのだろう。
 なんていろいろ思う。
 最近のシジミの値段は国産で見る限り、大きさで決まるようだ。
 そんななかで、それほど大きいとも思えないのに、値のいいシジミがあって、これがことごとく北海道産なのだ。
 ある日、北海道網走湖産のシジミを見つけて、ネット一キロ買い求めてみる。
 荷主は『丸サチ松永水産』。
 なんと値段がキロ1500円だから、これで1500円税別となる。
 安いものになるとキロ当たり600円しかしないので3倍近い。

 さて、じっくり見てみよう。
 形は典型的なヤマトシジミ。
 ややベッコウ色で光沢がある。
 粒が一定で揃って中ぐらい。
 とにかく見た目がとてもきれいだ。

 これを定法通りにしてみそ汁に。
 特徴はまったくアクがない、泥っぽくないというもの。
 汁にはしっかり旨味が出ており、コクがある。
 そして膨らみのいい身には微かに甘味すらも感じる。

 これなら一キロ1500円しても不思議ではない。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、シジミへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/sijimi/sijimi.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 水産物の図鑑を作っていてもっとも困難に思えるのが巻き貝の同定である。
 巻き貝の貝殻の形だけ見ても種はわからない。
 貝殻の厚み、殻皮(貝殻の表面を被う膜)、割って貝殻の断面の色、そして同じ地域での変異、地域を違えての変異。
 巻き貝を同定するのは職人技なのではないだろうか?
 なかなか貝同定職人の技を身につけることの出来ないボクは「日暮れて道遠し」の感を強くする。

 食用貝のなかにもやっかいなのがあって、現在改訂するにも行き詰まっているのがエゾバイ科Bussinumのなかでもヒモマキバイのグループだ。
 これらを市場では「灯台つぶ」と呼ぶ。
 当然「灯台つぶ」は一種類ではなくクビレバイ、ヒモマキバイ、シライトマキバイ、オオカラフトバイなど複数の種が入り交じる。
 この灯台つぶを見かけるたびに逃げ出したくなるほど、その種を判定するのが難しい。
 素人だけではなく、ボクが想像するに専門家と言われる人たちにも混乱が生じていそうだ。

 厚岸産灯台つぶ、これをいい加減にオオカラフトバイとして夏らしい煮貝をつくる。
 まずよく洗って汚れを落とす。
 鍋にみりん、酒、砂糖少々、醤油と水を入れてオオカラフトバイを加える。
 全部放り込んで火をつけてほどよく煮えたら火をとめて青唐辛子を加えて、がらがらと菜箸でかき混ぜる。
 このまま鍋止めをして、冷えたら、また青唐辛子を加える。

 夏らしい、ぴりっとした煮貝が出来上がる。
 選ぶ酒は隠岐の辛口「高正宗」。
 雑味ありなのだけどバランスのいい酒が、煮貝にもってこいだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、オオカラフトバイ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 夏になるとつぶ(エゾボラ類)のコリコリした食感を楽しみたくなる。
 7月7日七夕祭りの日、市場を歩いていたら厚岸からアツエゾボラが入荷してきていた。
 キロ当たり1500円はちょっと高い。
 量りにのせたら1個200グラムだから、300円+消費税だった。

 つぶには「Aつぶ」もしくは「真つぶ」と呼ばれるエゾボラがあって、そこに一段値段が下がるように「Bつぶ」がある。「Aつぶ」もしくは「真つぶ」というのはエゾボラという一種類の巻き貝だが、「Bつぶ」というのは“真つぶ”以外という意味合いがあるように思われる。
「Bつぶ」をざっと羅列していってみよう。
1 フジイロエゾボラ
2 ウスムラサキエゾボラ
3 チヂミエゾボラ
4 エゾボラモドキ(セイタカエゾボラ)
5 アツエゾボラ
6 マルエゾボラ?
7 カラフトエゾボラ
その他無数
 エゾボラの同定は難しく専門家の間でも論争が絶えない。
 そんななかにあって比較的種が判明しやすいものがアツエゾボラなのだ。
 漢字で書くと「厚蝦夷法螺」。
 貝殻が分厚くごつごつしている。無骨で形的に一定で変化が少ない。
 厚岸などからはきれいに並べられてくるのだけど、これも大きさ形が一定だからだ。
 貝殻が厚いから歩留まりが悪く割高になるのを嫌う人も少なくない。
 でも味はエゾボラ同様に素晴らしい。

 まずは貝殻から身を取り出す。
 取り出し方は以下にある。
http://www.zukan-bouz.com/makigai/ezobai/ezobora/sasimi.html
 刺身になる足の部分を割り、唾液腺を取り出す。
 ここには食べ過ぎると酔っぱらったような症状が出る弱い毒(テトラミン)が存在する。
 これを塩をつけて揉み、滑りをとりさる。
 このときていねいに、手を抜かない。

 後は刺身に切るだけ。
 貝殻を生かして盛りつけると立派だ。

 ちょっと貝の苦みがあるけど甘味が強く、コリコリと涼しさを誘う食感。
 夏にはもってこいの味覚だと思う。

 今宵の酒は京都伏見の「玉乃光」。旨口でいながらさらりと辛い。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アツエゾボラへ
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 島根県の水産アドバイザーを引き受けて、いちばんの課題に思えるのが関東での「白ばい(エッチュウバイ)」の価格である。
 先月の築地場内でのこと島根県大田市産だと思われるのがキロ当たり850円、1200円、1400円と並んでいる。普通大きい方が値が張ると思われるだろうけど、「白ばい」に関して関東では真逆となる。
 小さくて大きさが揃っているほど高く、大きいほど値が下がる。

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築地場内で見かけた島根県産の「白ばい」。小さい方が高い。

 どうしてだろう?
 それがいたって簡単なのである。
 関東では「白ばい」を刺身にしないからだ。
 もっぱら煮るために小さい方が都合がいいし、ついでに言うならば「巻き貝の煮たものは突き出しの定番」でもある。
 ちなみに「突き出し」とは関西でいうところの、前菜としてのあて。
 どうやら関東の料理人は「白ばい」の刺身のうまさをご存じないようだ。

 関東で巻き貝の刺身というとエゾボラ属が主だ。エゾボラは市場では真つぶ。そこにBつぶなどが加わり、すべて刺身用となる。とにかく関東ではエゾボラ属は刺身用、対する「白ばい」を代表とするエゾバイ属は煮物用に決めてしまっている。

 水揚げの多い島根県人にはこれが不思議でならない。
 隠岐島後でいっぱいやっているときにも、「白ばい」の刺身が出て、「うまいなー」なんて食べながら、関東人の不思議を語り合ったものだ。

 さて、最近、「白ばい」の刺身が関東で流行らない理由が、その滑りにあるのではないかと思うようになった。
 エゾボラ属と比べると塩もみしてもなかなか滑り、粘りがとれない。
 コツは一度にたくさん揉むことだ。
 基本的には関東では「白ばい」が安い。
 だからたくさん買い込んで一度期に揉み取ると、簡単に滑り、粘りがとれる。

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 そして「白ばい」の真骨頂はワタがうまいこと。
 このワタだけは塩ゆでして刺身に添えて出す。
 刺身にワタが加わってなんだか、見た目が豪華である。
 我が家では刺身醤油と(辛子)酢みそを用意して好みで食べる。

 さて真つぶと比べると、やや柔らかい。
 シコっとして甘く、貝の風味と旨味がどんどん混ざって複雑なうまさとなる。
 これは間違いなく日本酒に合う肴。
 本日は隠岐島後の銘酒「高正宗」を一献。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、エチュウバイへ
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