食べる貝・イカタコ学: 2007年9月アーカイブ

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 活けスルを仕込んでいた『市場寿司 たか』、渡辺隆之さんが、「あらよ!」と軽く湯がいたゲソを握ってくれた。あとは耳との二かん。これが絶品というか官能的な旨さだ。
 この美しいお身足(ゲソ)に興奮するひとも多いだろうなー。あるいはこの握りを見てふと恋人と会いたくなるとか、独り身が切なくなるとか、どこかしら心の中がざわついてくる。
 そして食べたらもっと、もっと、心の中のざわめきが大きくなるのである。きっとこんな握り二かんのために寂しいオヤジはやるせなくて死んでしまうかも知れない。しかも急に秋めいてきている。遠くで聞こえるのは「美しい水車小屋の娘」の旋律、ビオロンの音だろうか? 「寂しいな」、五十路オヤジには夢も恋もないのだ。
 せめてあと3,4かんゲソと耳を握ってくれたら五十路オヤジは救われるのになー。
「おーい、たかさん、ゲソを追加」

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「ダメ……」。

『市場寿司 たか』
http://www.zukan-bouz.com/zkan/zkan/rink/gest.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、スルメイカへ
http://www.zukan-bouz.com/nanntai/tutuika/surumeika.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 スルメイカは旨い上に安い、それに用途が広いと三拍子揃った優れた海産魚貝類である。そのスルメイカが鮮魚として流通するときにふたつの方法がある。ひとつはで下に氷を敷き詰めて、その上にスルメイカを並べたもので市場では「下氷」と呼ぶ。これはやや大型船の上でスルメイカを釣り上げたら、一度氷水でしめ、それから氷の上に並べたもの。もうひとつは、小型船舶によって沿岸で釣り上げたスルメイカを氷海水に生きているまま放り込み、しめ、出来るだけ早く消費地に出荷したもの。市場に到着したときにも氷水の入った海水に入っており、到着したものを触ると吸盤が吸い付いてくる。当然生きているわけではないが、「活魚」のように新鮮という意味合いで「活けスルメイカ」と呼ぶ。
「活けスルメイカ」の産地は千葉県、静岡県、三重県など比較的関東に近い地域。その鮮度と身の活かり具合から「下氷」よりも高値となっている。

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八王子総合卸売センター『総市』に活けスルが格安で売られていた。どうやらこの日、下氷のスルメイカも「活けスル」も市場が飽和状態となるほど入荷量が多かった模様。これが見事なスルメで買わずに通り過ぎるのは無理!

 ボクはこの生きのいいスルメイカをときどき買ってきて、慌ただしい日のお昼ご飯のおかずにする。活けスルメの値段はキロ当たり800円から1200円くらい。1ぱい400グラムから500グラムあるのでお昼ご飯のおかずにに400円から500円の出費。でも後はご飯だけで済むのだから簡単で、外食することから比べて安い昼飯となる。

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 活けスルメはゲソと耳、ワタを取り去る。今回は八王子総合卸売センター『市場寿司 たか』の渡辺隆之さんがワタの醤油漬けを造ってくれた。ゲソと耳、刺身用に切り落としたところは別に冷凍保存する。ということで活けスルメイカに捨てるところはまったくない。
 胴の部分は丁寧に皮を剥いて、薄く厚みを半分に切る。これを素麺状に切ると、これが「いか素麺」の出来上がりである。薬味はネギとショウガ、タレは安直に島根の「隠岐の味覚 飛魚だし(あごだし)」を使った。
 ご飯のおかずには甘味が欲しいので、この「飛魚だし」がまさに、良い加減のものだった。「いか素麺」のタレは醤油、多めの味醂、酒、それとカツオ昆布だしの旨出汁八方なのである。このやや水分の多いタレをかけてそれこそ素麺のようにすするのだ。その八方出汁を作れない時間のないときには「隠岐の味覚 飛魚だし(あごだし)」はとても便利である。

 さて、忙しい日のお昼ご飯、丼の「いか素麺」にタレをぶっかけて、かき回して、ご飯に盛り上がるようにのせる。イカの旨味はアデニール酸、そこにグリセリン、グルタミン酸などが加わって甘味を追加。当然、ご飯の糖質と出合うとドエリャーうまいわけで、ご飯1杯で止められるはずもない。まあ五十路だから2杯で我慢する。これならお昼にカツ丼を食べることを鑑みると抜群のダイエット食だと言える。よく考えると3杯飯を食べてもダイエットにはなるだろう。メタボリックオヤジのお昼ご飯は「いか素麺」に限るということだ。

井ゲタ醤油
http://www.izumo-igeta.co.jp/
海士物産
http://www.tokusen.info/suisan/0017/index.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 オオミゾガイの旨い食べ方はなんだろうね? せっかく産地に電話をかけたのであるからと、斜里で聞いてみた。その答えが「バター焼き」である。ボクは貝の食べ方にあって「困ったときのバター焼き」という自家製慣用句を使っている。これはあまり料理をしない人が見知らぬ貝を見つけると、とりあえず「バター焼き」にするかな? と思うらしい、ということから閃いた言葉である。
 この「オオミゾガイはバター焼きね」という短絡的な答えが多いのには改めて驚いた。市場でオオミゾを買っている料理人ですらそうなのである。まったくモッタイナイとしかいいようがない。

 ボクと八王子の寿司屋である『市場寿司 たか』で試行錯誤、あれこれ料理していちばんというのが刺身である。刺身と言ってもまったく生ではなく「ほっきがい(ウバガイ)」やトリガイと同じように軽く湯通しする。
 気をつけなければならないのが、鰓を中心にして大量の細かな砂を噛んでいるということ。だから仕込みは丁寧にするにこしたことはない。

 これをワサビ醤油で食べるのであるが、その甘味と旨味、食感の良さに思わず感動してしまう。ボクなどオオミゾガイに恋をしてしまうほどに耽溺しているので、市場で見つけると思わず頬スリスリしてしまう。この光景があまりにも奇妙に見えるのかよく仲買から「コラ!」と注意されるのだ。

 さて閑話休題。
 ここでオオミゾガイの3つの魅力を挙げておきたい。
1/うまいこと(わかりやすい!)
2/安いこと。
3/意外に知る人ぞ知るといった存在であること。要するに通ぶることが出来るんだな。

 そのうち、これだけうまいのであるからオオミゾの値段も騰がってくるかも知れない。その昔、バケツ一杯100円でも売れないと言われていたエゾイシカゲ(石垣貝)」が今やキロ当たり3000円前後もする。今の内にせっせとオオミゾガイを飽食するのが、ボクの青田買いなのである。

●マルゼン食品のホームページへ
http://www.interq.or.jp/world/maruzen/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑のオオミゾガイへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/sonotamarusudare/oomizogai.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑のウバガイへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/bakagai/ubagai.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑のサラガイへ
http://www.zukan-bouz.com/nimaigai/heterodonta/nikkougai/saragai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 オオミゾガイというのは、市場でときどき見かけるもので、そんなに珍しくもないだろうというのに、ほとんど一般に知られていない、ボクの大好きな二枚貝である。これがどんな漁法でとられているのか、主要な産地はどこなのかが長い間わからなかった。それが徐々にわかってきたのである。

 9月25日に八王子魚市場で見つけた荷(発泡の箱)には『マルゼン食品』とあって電話番号がある。地名がないので致し方なく電話をかけてみる。これが苫小牧の業者さんであった。苫小牧といったら「ほっきがい(ウバガイ)」の大産地である。電話の方に「オオミゾガイは苫小牧のどのあたりで、どのような漁であがっているか」問うと、斜里からの陸送品であるという。それで斜里漁協に電話すると確かに今現在とれているのが判明した。
 オオミゾガイをどのような漁法でとっているのか聞くと、「ほっき漁」のときに混ざって揚がってくるのであるという。「ほっきがい(ウバガイ)」は船でケタ網というのを引いてとる。言うなれば底引き網漁である。当然、「ほっきがい」以外にも魚も他の貝類もとれる。貝では「白がい(サラガイの仲間)」とオオミゾガイがとれている。すなわち最近市場でも定番的な二枚貝となっている「白がい(アラスジサラガイ、サラガイ)」とオオミゾガイは「ほっき漁」の副産物だったのだ。
 この「白がい」、オオミゾガイが未だに一般にあまり知られず、値段も安いままというのが面白い。確かにオオミゾガイの入荷は少なく、知名度が低いのが当たり前としても「白がい」など市場に毎日のように入荷してきているのだ。

 ここで「ほっきがい」で有名な苫小牧の業者が、斜里からオオミゾガイを買い取っている理由がわかってくる。斜里は北海道でもオホーツク海に面する町で関東からすると遠い。例えば斜里の名産品である「きんき(キチジ)」や「ほっきがい(ウバガイ)」という人気のある値段の高い水産物なら出荷できるが、知名度の低い値段の安い貝を扱うには経費がかかりすぎる。そこで「ほっき漁」の副産物である「白がい」やオオミゾガイをいち早く出荷していた苫小牧まで運んでいるのではないだろうか? ちなみに苫小牧(樽前)、室蘭の「ほっきがい」は築地などでも上物として認知されている。

 さて、ここで書いておきたいのは、刺身にしてオオミゾガイが「ほっきがい」より落ちるかという話。詳しくは02に書くが、ボクは味わいの良さは同等、むしろオオミゾの方が上品ではないかと思っている。市場では「ほっきがい」がキロ1000円前後、オオミゾガイも1000円前後で値段も同じ。と言うことはオオミゾガイ、そんなに安くないでしょう? と思われる方は素人なのである。「ほっきがい」の貝殻は重く、ワタが多い。オオミゾガイの貝殻は薄く、ワタが少ない。また刺身に出来る部分が水管と足なので全体の重さの比率からして多いのである。

 この市場で見つけた無名の二枚貝、こんな存在を見つけるのが市場歩きの醍醐味のひとつだ。そして市場の達人は魚貝類の青田買いに勤しむのである。

●マルゼン食品のホームページへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑のオオミゾガイへ
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 北海道や東北で「つぶ」と呼ばれるものに2系統ある。ひとつはエゾバイ属であり、もうひとつはエゾボラ属である。標準和名でみるとエゾバイ属には最後に「バイ」がつくし、エゾボラ属には「ボラ」がつく、わかりやすいのだが、現実はそんなにあまくない。
 例えば「バイ」のシライトマキバイなど北海道では「灯台つぶ」だし、同じくクシロエゾバイなど「泥つぶ」だったりする。

 面倒なので「バイ」を「煮つぶ」、「ボラ」を「刺身つぶ」と呼んだらいいとボクなど勝手に思っている。その刺身つぶの代表選手が真つぶ(エゾボラ)であり、脇役として何種類か主役回りに並んでいる。この脇役を主役Aに対して市場ではBつぶという。さて脇役だから主役よりも値は安い。確かに味もいちだん落ちる。そのBつぶの中でももっともB級に思えるのがアツエゾボラなのだ。この「アツ」はそのまま「厚みが厚い」、貝殻が厚いと言うこと。だから歩留まりが悪い。その上、身がやや黄味がかっているのだ。

 こんな体たらくだから、なかなか表舞台には出てこない。やっと買われたかと思ったら「安い宴会だからね」とか、「真つぶがないかなね」なんて言われる始末。
 さて、ボクの回りくどい文字の羅列にそろそろ焦れてきたのだと思う。じゃあ、なぜ今回の主役がアツエゾボラなのか? それは単純明快、うまいからだ。

 確かに歩留まりが悪い、でも真つぶキロ当たり1800円に対して1000円はうれしいだろう。それに身の色合い。ボクはクリームイエローは美味しそうな色だと思っている。

 このちょっと苦くて、直ぐ後に甘味がくるつぶの味が大好きなのだ。その合いの手に食うのがワタである。アツエゾボラのワタはうまいのである。だいたいねっとりと甘味がある。
 ちなみに画像のもので1個95円なり。これでもお父さんの晩酌の一品にはちょうどいい大きさだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アツエゾボラへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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