食べる魚類学: 2006年11月アーカイブ

穴子の干物

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 三河湾、伊勢湾沿岸に旅に出ると必ず見かけるのが「めじろの開き」、すなわち干物である。「めじろ」は「目白」であり、白目の広いマアナゴのことを差す。面白いことにこの地方で「あなご」と言えばギンアナゴなので、お間違えなきよう。一色魚市場などでよく目にするのだが「アナゴが安いね」なんて感激しているほとんどはギンアナゴ、「めじろ」はやはりある程度は値が張るのだ。この三河、伊勢地方のマアナゴの干物は絶品である。そして干物の中にあって酒の肴(あて)としても最上のものなのである。

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マアナゴの白目の部分は純白で広い

 さて、その知っているつもりの「マアナゴの干物のうまさ」をこれまた嫌と言うほど教えてくれたのは千葉県市原市の「しげ鮨」。大振りのマアナゴを開いて干してぱりっと焼き上げたもの。千葉の海人つづきさんに連れていってもらった地元でも有名なお店だ。確かに寿司にも感激したが、これなどほかでは味わえないものだ。その「しげ鮨」で教わって自分なりに干物造りに励んでいる。
 マアナゴは出来れば大きいものを選びたい。小振りなものもジワリと脂を感じて、ふわっとアナゴ特有の香りが味わえる。でもマアナゴの圧倒的な脂の甘味、皮目の濃厚な旨味は大きいほど強い。
 残念ながら今回のものは平塚の定置網に入った小振りのマアナゴ。平塚ではいろんな魚をまぜこぜに入れ込んだ荷(箱)を「口もの」と呼ぶのだが、そこに1本だけ紛れ込んでいた。これを「市場寿司 たか」で開きにしてもらい塩焼き程度に振り塩。これをビニール袋に密閉して少し寝かせて「半たて」状態にする。そして半日干し上げる。実をいうともう少し強く干し上げたかった。でも当日の酒の肴がないのだ。酒は「土佐鶴」。辛口のくいくい大酒を飲むのに向いているコストパフォーマンスに優れた本醸造。この肴にまさか柿の種ともいくまい。それで半乾きのをやや強めに焼き上げた。
 まあ満足いくできではないが肴としては上々である。マアナゴのこの風味はウナギ目の魚特有のものだろう。これは皮目ではなく真っ白な身から浮き上がってくる。皮から感じられるのは香ばしさと脂の甘さ。
 味わいを表現しても納得いく文字が浮かばない。空回りする。とにかく酒の進む肴である。

●今回の「口もの」は相模原綜合卸売市場腹「デイトレード」にて購入

市場魚貝類図鑑のマアナゴへ
http://www.zukan-bouz.com/unagi/anago/anago.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

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 まな板の前で「どうしたらいいんだろうね」、たかさん、腕組みしてこまっているのだ。「たかさん、がんばってね。今日朝、大磯にあがったばかり、朝どれだからね」、ボクはかたわらで声をかけるだけで楽なものだ。

 まな板の上には真っ黒なクロシビカマス。相模湾一帯では「炭焼き(すみやき)」と呼ばれている。個人的にはどうしてクロシビカマスなんてへたくそな和名になってしまったのか? 残念でならない。絶対に「スミヤキ」がよかったのである。間違いない。それが証拠にこの和名をよく忘れてしまうのだ。それでときどき「炭焼き」の標準和名って「なんだっけな」と思い出せずに苦しむ。この魚、太平洋側では千葉県外房沖からやや温かい地域に棲息する。日中はやや深いところにいて、夜になると浅い場所に来てイワシなどの小魚を追いかけている。見かけも実際にも獰猛な肉食魚である。その歯は鋭く釣り上げたときなど注意しないと怪我をする。

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 まな板の上のクロシビカマスはとりあえずは三枚に卸されている。たかさん、まずは皮を引いてしまう。血合いの部分に小骨が入っているのはいいとしても、皮から身の方に斜めに太くしっかりした骨が並んでいる。これを皮近くの身をそぎ取るようにするとやっと刺身用のリボンのような冊がとれた。「とすると皮は引かなくて最初から骨を避けて身をそぎとればいいのかな?」っとやっと一本分を仕込み終わる。
 まな板の上には大小4枚のリボン状の冊。これを刺身で食べてみる。
「これなんだ」
 追って言葉が出てこないようだ。
「うまいよね」
「…………」
「脂かな甘いのは、それに身の食感もいいでしょ」
 シコシコとした食感で噛みしめるほどに甘味がくる、それが明らかに脂の味わいだろう。そして身自体のうまみもある。
「これなら苦労のしがいがある」

 それを握りで、また帰宅してから煮付け、鍋材料にして堪能した。そして感動した。「炭焼き愛してるよ」と言ってしまった。あまりのうまさに幸せな気分になった。
 あまりにうまかったので手に入れた相模原綜合卸売市場「デイトレード」の小田剛さんにケータイを入れてみた。すると「炭焼きはこれからもっと脂がのってうまくなるんです。しかも値も下がる」とのこと。勝手に「炭焼き(クロシビカマス)」は冬の季語にしてしまおうかな。

今回のものは神奈川県大磯の釣りものである。旬は寒い時期。これからどんどんうまくなってくる。
相模原市相模原綜合卸売市場「デイトレード」にて

市場魚貝類図鑑のクロシビカマスへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/kurotatikamsu/kurotatikamasu.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

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