食べる魚類学: 2008年6月アーカイブ

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 さて、昨日は築地場内荷受けの見学に行ってきた。なかでも目に付いたのが島根県浜田市から来た「どんちっちあじ」。これを場内で買い求めてきて食べてみた。

 予め書いておくと、「どんちっち」とは浜田市など島根県石見地方に伝わる石見神楽をさす幼児言葉。もっとつきつめていくと島根県は西部が石見地方、東部が出雲地方。この両地方では人間性も風習も、また産物も大いに違っている。
 島根県でも西部沖でとれるマアジの脂の乗り、身質が極めてよく(日本有数)、これをブランド化するときに石見神楽をさす“どんちっち”という言葉を使ったわけである。
●注/島根県東部のマアジの質が向上してきているという。実際に食べてみてもそう思われる。これは温暖化などのためだろうか? 科学的な調査をお願いしたい。

 1匹120グラムから130グラムほど。マアジではもっとも望ましい大きさ、いちばんうまい大きさでもある。
 これを場内の『富士恭』でキロ当たり900円にて買い求めた。

 卸すなり、手に強い脂がこびりついてくる。頭を落として片身に包丁をいれたら、やたらに重い。
 巻き網でとったものとは思えないほど鮮度がよく、刺身に充分つかえる。
 あとは単純至極、適当に切り、しょうが醤油で食べるだけだ。

 画像を見て頂きたいのだけど、室温にて皮下の脂質が溶け出しているのがおわかりだろうか?
 液化した脂が照明にキラキラと光る。
 これを口に入れると、トロっと溶け出してくるのはクロマグロの大トロを思わせるが、酸味が少なく、甘味を強く感じる。
 また脂が強いのに嫌みがなく、たくさん食べることができるのもクロマグロとは違っているように思える。
 脂の甘味を感じたあとにしっかりマアジの個性を感じる。
「どんちっちあじ」のうまさに圧倒される思いだ。

 さて浜田市浜田漁港に揚がる巻き網のマアジをブランド化するにあたって、この「うまいマアジであることを照明する根拠」を求めた。そして脂質に注目して測定する器械、方法を編み出したのが島根水産技術センターである。この県の技術センターと浜田市、また漁業者によって誕生したのが「どんちっち」ブランドなのである。すなわち、「どんちっちあじ」の特徴はなんといっても脂質が10パーセントを超える脂ののったマアジであることを科学的に証明して出荷しているところにある。
 さて「どんちっち」を整理すると、「近海浜田市西部沖でとれた、脂ののったマアジ」ということになる。
 この「どんちっち」の意味合いをどれくらいの人が知っているだろう。現在のとこと「どんちっち」という言葉だけが先行して、「島根県」「浜田市」「脂質の高い」「鮮度のいい」という肝心なことまで行き当たっていないように思える。

 閑話休題。
 今年ほどマアジをたくさん食べた年も少ない。北は新潟県、南は鹿児島県まで、うまいマアジもあれば、がっかりしたものも多々あった。ようするにマアジは見た目で味を判断しづらいものであるようだ。
 そこに「どんちっち」の価値が急浮上してくる。
 最後に今回のマアジは浜田市の「裕丸」が浜田西沖合でとったものであることを明記しておく。

浜田の水産ブランド どんちっち
http://www.city.hamada.shimane.jp/kurashi/nousui/suisan_don.html
島根県水産技術センター
http://www.pref.shimane.lg.jp/suigi/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マアジへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 ここのところ「まんちょう」をよく見かける。
 買おう買おうと思いながら、なかなか買えないでいる。
 今朝だって、夜明け5時から大忙しで、画像の保存、メールの返信、はたまた雑用色々をこなして、市場に行き、旗野農園で今期最後のトマトを買い、そしてまた外出の時間が差し迫る。
 それでも八王子綜合卸売協同組合『マルコウ水産』クマゴロウのところで「まんちょう」を見つけたら素通りできなかった。

 買ったのが95グラム。
 クマゴロウが「100グラム以下はお売りいたしません」なんて言う。
 それじゃ、「じゃあただでくれるのかな?」というと、「100円置いておけ」という返事。
 キロ当たり1200円なのだからおまけはおまけだな。
 クマゴロウありがとう。

 持ち帰って、縦横に切れ込みを入れる。
 酒とすり下ろしたニンニクを合わせて、これをからめる。
 そして塩コショウ。
 塩一味、塩七味唐辛子、塩山椒というのもいいね。
 ガスレンジに餅焼き網を3枚のせる。
 ほとんど直火に近い形で、ものすごく短時間で焦がしながら焼く。
 できるだけ短時間に焼き上げるのがコツ。

 表面は香ばしく、中はジューシー。
 このジュから強い旨味が感じられて、しかもあっさりしている。
 この料理法が「まんちょう」のもっとも最上の味を楽しめる。

 さて、考えてみると「まんちょう」というのが何であるのかを書いていない。
 漢字は当て字で「万腸」、すなわちマンボウの腸の焼き鶏風である。
●器は倉敷市の武内立爾作

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 ギンダラは関東に出てきて初めて食べた魚だ。
「たら」なんだから鍋にするか、というので切り身を買ったのだが、「安かったから買った」記憶がある。
 これがかれこれ30年以上も前になる。そのギンダラが冷凍にもかかわらず高級品になってしまったと思ったのはここ20年ほどだろう(2008年現在)。
 現在でも市場ではなくてはならない魚のひとつで、棒杭のようなのがカチンカチンに凍り付いて横たわっている。これがキロ当たり2000円前後だろう。冷凍魚としてはもっとも値の張る魚になってしまっている。

 北洋でのサケマス、タラ、メヌケ類に混ざってとれても最初は真っ黒な見た目の悪さから、目立たない魚であったもの。(北洋漁業の初期というと1950年代半ば)
 それが徐々に漁獲量が増えて、食卓では見慣れたものとなったいたのだ。
 だからギンダラといえば北洋(アラスカ、カナダ、ベーリング海)のもの、まさか国内にはいないだろうと思われていそうだ。でも少ないながら、三陸、北海道では揚がる。
 漁場がそれほど遠くないので生のまま水揚げされるわけで、これが珍しいためもあって、凄い高値がつくのだ。
 2008年6月12日、巨大な石巻魚市場に、たった一匹揚がったギンダラは3キロ上。
「1万以下では手に入らないぞ」
 とは言っても、今手に入れないと、次回は何時になるかわからない。
 尾形清雄さん(『天佑丸冷凍冷蔵株式会社』社長)にお願いして、地元の仲卸である『カネキ』さんを紹介してもらい、なんとかこのギンダラを押さえることができた。
 やはり値段は1万円に非常に近い。出費は痛いがうれしいのが倍するものだ。

 持ち帰って、刺身、煮つけ、塩焼きにしてみた。
 渡辺隆之さん(『市場寿司 たか』)にカマをあげたのだけど、「うまかったよー。やっぱり生は違うね」というのを聞いてから、我が家でも塩焼きに。
 刺身は大トロの白身、煮つけは思ったよりも絹のような繊維質の白身で濃厚な旨味があってよかった。
 そして塩焼きだけど、焼きたてのうまさは無類のものであった。
 白身からしたたり落ちてくるのは透明な脂なのだ。
 大量の大根おろしをのせて食べると、ずば抜けてうまい。
 脂にコクがあって、その割に嫌みではない。そこに独特の旨味。
 ギンダラの塩焼きの欠点は「冷めるとうまくない」ということだけだ。
 脂が強いのでたくさん食べられないのも難点だろうか?

 清水の舞台から飛び降りるつもりで買ったギンダラ。飛び降りた甲斐があったと思う。
 でも次回、また買えるのは何時の日だろう。

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 大阪鶴橋のとある路地にある『よあけ』には感動した。
 関東出身のやがらさんと、現に東京多摩地区に住むボクが思わず「東京の飲み屋なんてろくなもんじゃねえ」なんて叫んだほどだから、その『よあけ』の素晴らしさのほどがわかってもらえるだろう。

 そこの働き者の店主さんお勧めの一品が「いわしのぬた」。
 ぬたとは「沼田」と漢字を当てる。
 ぬかるんだ泥田のような酢みそを魚貝類と和えたもの。
 そんなものを想像していたら、まったく違うものが登場してきた。
 マイワシを細かく叩いたものに青ネギを散らして、白の辛子酢みそをどろりとかけたもの。
 うまかったかって、あのとき、やがらさんと半分こしたのが未練に思えるほどの味だったのだ。

 これを島根県美保関定置網から持ち帰ってきた(実は拾ったのだ)「小目(ホソトビウオ)」で再現してみた。
 ホソトビウオは脂が薄く、旨味もマイワシには負ける。
 だからたたかないで超薄切りにしてミョウガ、ネギを合わせて信州の麹みそで和え衣を作った。
 薄切りのホソトビウオに辛子酢みそをどろりとかけたものは、梅雨空をはねとばすほどに爽やかな料理となった。
 これまた絶品である。
 我が家の姫が「からいよー」と泣きながら、それでも箸が伸びていた。
 これは我が家に新料理法が伝わった歴史的瞬間とも言えよう。

 しかし、“よあけ”おそるべし。

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 島根県島根半島は東は松江市、西は出雲市にまたがる。
 まことに雄大な、そして美しい湾が連なって風光明媚なところだ。
 この岬や、湾にたくさんの定置網(大敷き網)があるのだけど、ここであがる魚貝類が見事。
 なにしろ定置で揚がったものは鮮度も取り扱いもよく、市場でも最高ランクに近い評価を得る。
 加うるに日本海長崎から島根県にかけてのマアジは国内でも最高峰の質と脂をもっている。

 こんなことを書いてきて、先日、近しい仲間から素朴な疑問を問い掛けられた。
「定置網って、そんなにいいものなの」
 考えてみると一般に「定置網」が“うまそうな言葉”であるわけがない。
 そこで説明した内容をここで再度挙げていく。

1 高値をつける、もっとも上位に来る漁法は釣りだ。
2 定置網は釣りものにもっとも近い評価を受ける。
  ときに釣りもの以上の評価を受けることがある。
(注/島根県島根半島などで殺菌冷海水を使った処理をしているなど)
3 最低ランクというか評価が低いのが巻き網。
(注/巻き網の魚が単純に評価が低いとはならない場合がある)

 6月20日、島根県松江市美保関、定置網の沖での網上げ、港での選別を見学していた。
 すると次々に地元の方がやって来て、自由に魚を選んで買っていく。
 ここでは好きな魚を選んで計量してもらい買い求めることができるのだ。
 ボクが狙ったのがマアジ、スズキ、イシダイ、アカカマス、その他サメ類他。
 マアジは中でももっとも大きいのを買い求めることができた。
 この感激は誰にもわからないだろうね。
 選別するときに触っただけで、脂ののりがただごとではないことはわかるのだ。
 しかも定置の方にお土産のマアジまでいただいて、二重の喜びを感じたのだ。

 さて土曜日に帰り着くと、美保関の魚貝類も自宅に届いたばかりだった。
 まずは中アジの塩焼き。
 大アジ、スズキ、イシダイ、ホウボウの刺身。
 一本だけ「小目(ホソトビウオ)」が混ざっていて、これは大阪鶴橋『よあけ』で覚えたばかりの「ぬた」にする。
 この食卓に乗り切らぬほどの魚料理。

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 なかでもノックアウトされるほどに驚愕したのが、マアジの皮下の脂が室温で溶けだしていたことだ。
 これを一切れ口に放り込むと、これまたトロっと口の中に脂が放出される。
 放出された脂が甘い。
 甘いの次に来たのが、これまた強い旨味で、「今期最上のマアジはこれだな」の感が浮かぶ。
 でもこの刺身での感激はまだまだ序の口だった。
 マアジがジュウジュウと炎を上げながら、濃厚な香りを室内にふりまいている。
 これだけは焼きたてでなければ、と食べたら、間違いなくKOされてしまったわけで、あとは言語では尽くせない味わいであった。
 皮目は水からの脂で香ばしく揚げたようだし、濃厚な旨味は舌をしびれさせるほど。

 今回のマアジのほとんどが抱卵していて、成熟が進んでいた。
 とすると島根半島のマアジの旬はあとわずかだ。
 これほどうまいマアジは人生に置いてもあと何回食べられるか、わかったものじゃない。
 できるだけ早く、もう一度食べたいけど、誰に頼もうか?

JFしまね
http://www.jf-shimane.or.jp/
島根県水産課
http://www.pref.shimane.lg.jp/suisan/
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 何気なく雑誌を見ていたら、グルメ通と言われる人が、「最近は冷凍魚を使うレストランが多いなか、この店はその日仕入れた新鮮な材料を使っていて素晴らしい」というような内容の文章を書いていた。
 その店のコースが21000円からとなっていたので、「この値段で冷凍魚を使ったら犯罪だろ」と思わず独り言がこぼれた。
 最近では安くてうまい料理を提供するには冷凍魚は欠かせない素材なのだ。
 なかでも高い安いがあって、そのときどきの相場にもよるが比較的高値安定なのがカサゴ類である。

 さて、静岡県沼津市沼津魚市場に通っている。この漁港の特徴は駿河湾の深海魚。なかでも競り場を赤く染めるほどなのが、ユメカサゴなのだ。
 これが水揚げ時の値段からして、なかなか高い。でもうまいので、ついつい買い込んできて散財してしまうのだ。このユメカサゴと同属で遙か天皇海山(北大西洋西側)にいるのがオキカサゴである。
 外見からは解凍してしまうと一般の方には両種の見分けは難しいだろう。当然、冷凍鮮魚の差はあるが、それを考慮すると味に差はない。
 このオキカサゴを見つけると子だくさんで貧乏なので思わず買ってしまう。
 鮮魚のユメカサゴ300グラム見当が小売りで1000円を超えるのに、なんと近所のスーパーで同じくらいのが2匹で450円である。

 解凍して、料理することになるのだけど、作るのはマンネリの極み、煮つけだ。
 煮つけに飽きて若狭焼き(酒を塗りながら焼く)にすることもある。オイル焼き(オリーブオイルで焼く)、アクアパッツァにもするけど、やっぱり煮つけがいちばんだろう。

 そう言えば3か月ぶりになるオキカサゴの煮つけがうまいのだ。
 高知県の辛口の酒「亀泉」がクイクイいける。
 いい酒の肴なのである。

 さて、遙か天皇海山からきたオキカサゴ、その目は何を思うのやら。

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 いつ食べてもうまい。それこそどえりゃーうまい魚というのがある。
 もちろんそんな魚は超少数派なのだけど、ヒゲダイはその最たるものなのである。
 これほどうまい魚であるけれど知名度はすこぶる低い。
 だいたい外見がよくない。和名の如くひげ面である。
 まるで田舎臭いジイサンに見える。真っ黒で小汚い。
 見てくれは悪いのだけどボクの世代以上には懐かしいのではないだろうか?
 顔の部分をよく見て欲しい。
 彼の「やめてけれ」とか「ズビズバー」で有名な左卜全そっくりなのだ。
 ヒゲダイの面を見ているだけで、あのサイケデリック(これも死語だな)な時代を思い出す。
 左卜全はなんと1971年にお亡くなりになっている。考えてみると40年近く前になるのだから知っている人も少なくなっただろうな。

 閑話休題。
 ヒゲダイはイサキ科である。この仲間にはコロダイ、コショウダイ、ヒゲソリダイなど美味な魚がいっぱいある。
 その頂点にあるのがヒゲダイだと言ったら言い過ぎだろうか? いや言い足りないくらいだ。
 その最上級のヒゲダイがなぜマイナーなのか? というとあまりとれないからだ。
 主に定置網などに入るのだけど、だいたい一匹だけぽつんとあがっている。
 そして漁港の隅っこで寂しそうにしている光景を何度も見ている。
 だからこんなに美味であるのに、値段もほどほど、これもまたいいところだ。

 やや硬めの鱗、皮をはぐと透明感のある見事な白身が出てくる。
 特筆すべきは血合いがきれいなことだ。
 この刺身にしたときの美しさはマダイより上だろう。
 そして味も抜群にいい。塩焼きがいいし、煮つけもうまい。
 でもいちばんうまいのはポワレである。
 ポワレはフランス料理で「ポワール鍋で焼いた」という意味。
 でもいつの間にかムニエルに対して、「粉を使わない」という意味合いになっているように思える。
 油に皮つきのフィレを入れて弱火で香ばしく焼き上げる。

 ヒゲダイのポワレは尾に近い方を使う。
 頭に近い方は皮を引く。
 この皮を切り離さないで、そのままにくるりとヒゲダイのフィレを巻き込むようにして塩コショウ。
 我が家ではこれをオリーブオイルで焼いて、皿に盛り、エクストラバージンオイルをかけてそのまま食べる。
 フライパンをデグラッセしてソースを作ってもいい。
 生クリームやフュメ・ド・ポワソンを使ってもいい。
 でも家庭の慌ただしい日常生活で時間がないので単純に。

 これは酒の肴にはならない。あえていうとシャブリなんて合うだろうね。
 でもボクの場合、自宅でワインというのは不似合いなのだ。
 本来落ち着くべき家庭でアンバランスなことをしても無駄である。
 ただただヒゲダイの皮目の豊かな旨味、身のジューシーな、また芳醇な味わいを楽しむ。

今回のヒゲダイは鹿児島県南さつま市笠沙 若潮便です
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 夏だな、と感じたのが福井県から入荷してきたホソトビウオ。この小型のトビウオは東シナ海から夏には日本海を北上して行く。
 この国で水揚げされるトビウオの中でももっとも量が多く、またまとまってとれる。
 長崎から島根県などで作られる煮干し、焼き干しの原料としても有名なもの。

 この可愛らしいトビウオだけど、我が家でよく作るのが唐揚げとか、たたき。
 今回は目先をかえて、タルタルにする。
 ホソトビウオは三枚におろして、小さく切る。
 玉ねぎ、ピーマン、オリーブの実もみじん切り。
 トマトもコンカッセ(小さなサイコロ状)に切っておく。
 ボウルにワインビネガー、レモン、塩汁(しょっつる)、ニンニク、オリーブオイル、塩コショウを合わせておく。
 トマトを除いた総てをこのドレッシングで和えて、皿に盛りつける。
 周りをトマトのコンカッセで囲み冷蔵庫でよく冷やして出来上がり。
 今回は買い置きがなかったのだけどバジリコ、ルッコラ(ロケット)などがあると本格的な味わいになる。

 我が家では、パンにのせて食べるのだけど、これがビールに合うのである。
 しかもたまのパン食に子供達も喜ぶわけで一挙両得となる。

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 ハガツオは知名度が低く、値段も安い。だけど食べてみると、これがまことにうまい魚なのである。
 難点は鮮度が落ちやすいこと。
 鹿児島県南さつま市笠沙の、わかしおさんから、
「ヒゲダイのいいのがあがったんです。送ろうと思うんですけど、他になにもなくて、小さなハガツオならいっぱいあるんですけど」
 こんな断りをいただいてのハガツオだったが、まだ小さいと言っても、初物は初物。
 長生きは出来そうにないが、今宵は楽しめそうだ。

 これをまずは『市場寿司 たか』に持ち込む。
 そのまま食べて「うまいよ。ほどほどにね」と言うのを聞いて、当然の如くあぶりにする。
 金ぐしを刺して、ガスの直火で皮目を焼く。
 それを氷水にとって握ってもらう。
「旨味も脂からくる甘味もほどほどだけど、いい味だね」
 たかさんがうなる。
 小振りで旨味も脂も少ない時期なのに、なかなかいけるのだ。

 握りで楽しみ、これを自宅に持ち帰り、また同様に造ってみる。
 軽く振り塩をしてあぶり、氷水に落とす。
 これにスダチと、『隠岐の島づくり』の藻塩。
 意外なことに、塩+スダチの単純極まりない造りがずば抜けてうまい。
 アジサイの咲く、梅雨のひるまに、とても程良い味わいの酒のアテとなる。

 これからハガツオはどんどん成長して旨味も脂ものってくる頃となる。
 さて、今年のハガツオもうまそうな。

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 その昔、ニシンの卵巣「数の子」を黄色いダイヤと呼んだ。
 今ではキチジ(きんき)を「赤いダイヤ」と呼びたいくらいの高値になってしまっている。
 このキチジを買い求めるのは勇気がいる。それこそ本来高級魚の壁である2000円(卸値でキロ単価)でも安いなと思わず買ってしまうだろう。でもこれがまともなものだった試しがない。それこそ仲卸の店先で数日経ったものであったり、またとった時点でなんらかの問題があるものばかり。
 もしも勇気を振り絞ってキチジを買うなら4000円以下には手を出したくはない。

 そして今回のキチジの値段が4800円なりなのだ。平日で、海は穏やかで魚も多い。
 どこにも魚が高騰する要因がないというときの4800円は手堅い値段だと思われる。しかも1匹あたり500グラム見当の大振りのもの。キチジとしては最上級ではないか。
 買い求めたら、1本3000円を出しておつりが少々。

 この高すぎる魚をどう料理するかというと、まずは半身を『市場寿司 たか』で握りに。
 半身は我が家で皮霜造りで楽しむ。
 普通は三枚に卸した身を主役とする。ところがキチジは粗の方が主役である。
 丸のまま煮つけにするのがいちばんいい。でもこれがなかなか難易度の高い料理なのだ。道具も選ぶ。
 だから身の方は塩焼きか皮霜造り(刺身)にして、残った粗(あら)を煮つけにするのだ。
 キチジの魚としての特徴はなんといっても最強の「煮つけ魚」であるという点。
 もしくは塩焼きにしても最強かもしれない。
 ことほどさように熱を通すことで持ち味が生きてくるという魚も数多く、その頂点にある何種類かの内でも覇者(覇魚)のひとり(一匹)なのである。

 肝心要の肝、粗をかるく湯通し。よごれをおとして水をよく切っておく。
 鍋に味醂(みりん)、酒、醤油、水を煮立てる。
 そこに粗を放り込んで、あとは強火のままに短時間で煮上げてしまう。

 キチジの煮つけを文字に代えるのは至難の業。
 例えば「うますぎる」なんてのは低級だし、「至味」もいやなのだ。
 それで「無言にさせられる味わい」だとしておこう。
 この味わいの中心にあるのは粗からこぼれ落ちてきた旨味、脂である。
 キチジは身にタンパク質が少なく、脂やコラーゲンのようなものが均質に混ざっている。
 熱を通すと、これが少なからず煮汁に溶け出す。
 この煮汁と身と皮と肝を搦めながら口に放り込むのだ。
 甘味が感じられるが、それは味醂からのものよりも粗からのものが圧倒的に多い。
 粘質とも言えそうな皮の、うまさの濃厚であることは言語に直しようがない。
 だから終始無言で食べきるのが、キチジの煮つけなのである。

 残念ながら、きんきの煮つけに合う酒はない。
 さて、お父さんの酒の肴はどこにあるのか?
 それは粗の粗と残った汁で作る骨湯にある。
 これを飲みながら、旨口の原酒のロックというのがボクの理想だ。

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 基本的に毎日だしをひく。中心になるのが昆布+サバ節、カツオ節、めじか節(ソウダガツオ)、マアジ煮干し、ひらご(マイワシ)煮干し、煮干し(カタクチイワシ)の6種。ここにときたまトビウオ、青森県の焼き干し、ウルメ節、マグロ節、冬季限定でハゼの焼き干し、また懐具合のいいときには故郷徳島県の干しエビなんてものも使う。要するに年間を通すと多種多様なものを利用しているのだ。
 最近、よく利用しているのがアジ煮干し。これは小さなマアジをゆでて干しあげたもの。八王子綜合卸売協同組合「やまさん」で買い求めているのだけど、安いし、品質がよい。

 アジ煮干しの特徴はうどん、そうめんなどの汁によく、麺食いの我が家には重宝なものだ。
「そういえば、よく使っているのに、産地や製造メーカーに関して無関心であった」
 そう思って、「やまさん」の店先にあったアジ煮干しの箱を見ると、なんと島根県大田市のものであった。

 島根県大田市仁摩町の「山根商店」。ここに電話番号があって、自宅と鮮魚店の2つが印刷されている。
 どうやらそんなに大きな会社とも思えず、たぶん鮮魚店も兼ねる小さな商店であるようだ。

 さて、ここでアジ煮干しでのだしの取り方を書いておく。
 我が家ではだしをとる6時間以上前、鍋にアジ煮干しをある程度細かくしたもの、日高昆布を入れて、水に浸しておく。
 それを火にかけて、ゆっくり温める。
 だいたい30分ほどで沸騰直前となるように。
 沸騰するかな、というときに火から下ろして、ザルで漉して、だしができあがる。
 うどんのだしにするときは、ここに味醂(みりん)、塩、薄口醤油(しょうゆ)で味付けする。
 かけそばのつゆなら、味醂、濃い口醤油、砂糖で味付け。めじか節、もしくはカツオ節で追い鰹をする。

 ただしアジ煮干しはうどん、そうめんには合うが、そばには合わない。
 隠岐島後に、「隠岐そば」というのがあって、ここではアジ煮干しでつゆを作る。
 でもアジ煮干しでは淡白過ぎてそばの重みに負けるのを、焼いたマサバや、サバの缶詰でおぎなっている。

 島根県には今年はたびたび行きそうである。山根商店に立ち寄る機会もなきにしもあらず。
 大田市の仁摩は底引き網などの漁港があり、それをみて山根商店でアジ煮干しを買い込んでくるのもいい。

山根商店 島根県大田市仁摩町仁万1987-89
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 最近、島根県浜田市の水産物ブランド「どんちっちあじ」をよく見かける。
 くわしいことは省くが、4月から8月のマアジであり、脂が15パーセントである。
 船籍は問わず浜田漁港に水揚げされたもの。というのが基本的な取り決めとなっている。
 脂の含有率などは県の水産技術センターが試行錯誤の上、測定する器械を開発するなど、島根県一丸となっての取り組みである。

 ただし「どんちっち」がわかりづらい。
 聞けば面白いのだ。これも詳細は浜田市のホームページを見て頂きたいのだけど、八王子市にある八王子総合卸売センター『総市』で売るとき「客に聞かれると困るな」なんて店員がぼやいている。
「大きいのも小さいのも“どんちっち”だろ。何が違うの。教えろよ」
 売場の責任者であるミノルちゃんに聞かれて色々説明したのだけど、
「じゃあ、なぜ“トロあじ”とか“脂たっぷりあじ”にしないんだ」
 わけがわからん、なんてボクが攻撃を受けた。

 個人的には「どんっちっち」は面白いと思う。築地荷受けでも名称だけはすぐに広がったということだし、今現在「どんっちっち」を探す仲卸もいるという。ここ数年で確実に「高値で売れる荷」となるだろう。
 ただし、「どんちっち」の意味合いがわかって買っている人が、どれくらいいるのかというと疑問符がいっぱい湧いてきそうだ。
 この「どんちっち」のラベルで何が欠けているかというと、書かれている、「島根県西部で漁獲された新鮮なお魚です」というのは情けないほどダメ。まったくの無駄コピーだ。
 必要なのは「旬の4月〜8月のもの」、「脂質10パーセント以上でうまいから“どんちっち”マアジなのだ」ということと「島根県浜田漁港水揚」の3つだと思う。
 今回のものは船名「海幸丸」までのっていて魅力的だけど、魚が小さいこと、「ブランド魚」なのだから「関あじ」のように鮮度もいいだろう、と思った人に誤解を受けていた。

 入荷してきて一日経ってしまっていたので、フライと一夜干しにして食べてみた。
 フライは脂がなくてもうまいだろう、そんなことを考えている人、いませんかね。油を使った料理なのに、フライはある程度脂がのっていないとダメなのだ。これはパンにショートニングを加えるのと同様の理由だ。
 このフライが絶品であった。そして一夜干しは脂(油)が体内からにじみ出てきて、表面が揚げ物のように香ばしく仕上がった。当然、こちらもうまかったねー。
「どんちっちあじ」の味は最上級である。

どんっち
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 岩手県産のマツカワガレイを見つけて、値段がキロ当たり2000円というので、すかさず買い込む。
 マツカワガレイはカレイ科ではもっとも高価なもの。カレイ目ではヒラメを遙かに凌駕する値段をつける。
 八王子総合卸売センター『マルコウ水産』で、なぜキロあたり2000円で売られていたかというと、小振りである、しかも大きさにバラツキがある、そんな理由からだ。
 そのなかでも大振りなのを買うと、ちょうど500グラム弱で千円札でおつりが数円くる。
「じゃあ、また明日ね」
 クマゴロウに声をかける。
 すると、
「いちばん小さいのあげるよ」
 いいこと言うね、クマゴロウ。
 ありがとう。

 大きめのヤツは刺身にして、粗を潮汁に。小さいのは姿揚げにする。
 肝をゆでて添えたマツカワガレイの刺身がうまかった。
 小さくても、さすがにカレイの王様、もしくは王女様だ。
 白身で上品なのに旨味が濃く、シコっとした食感が感じられるのは活け締めならでは。
 潮汁もクセがなく、それでいていいだしが出ている。
 滋味豊かである。
 潮汁を飲みながらも、辛口の酒がクイクイ飲めるのが、ちょっと困ると言えば困る。
 姿揚げだって、さすがに美味だな。
 とくにうまいのが鰭の周辺部。まるでポテトチップスのようにパリパリして、しかも縁側の筋肉が味わい深い。
 小振りのマツカワガレイだけで、「こーんなに夕食が豪華に感じられるのだなー」と、思い知った夜となった。

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 最近、関東ではコイを食べる機会は少ないように思う。例えば明治期や江戸時代には日常的に食べられていたものが、いつの間にか水産物としては隅の方に追いやられてしまっている。東京でのコイを食べる習慣の痕跡を見るのは下町などの居酒屋にしかない。
 また築地などでもウナギやドジョウがあるのに活けのコイが見受けられない。また都心に活けのコイを買える場所がない。
 ボクの基本的な考えは、伝統的な食文化を捨てるな、しかも新しい食文化の開拓も怠るなということ。
 その伝統的な食文化でも淡水魚を食べる文化の衰退が目立つ。

 そんななかにあって山形県寒河江市『丸原鯉屋』さんのコイの加工品は手軽で、しかも美味であることから、淡水魚を食べる文化が衰退する歯止め的な加工品となっている。
 今回のものは知人にいただいたもので「鯉ぶかし」というもの。
 普通、コイの甘露煮というのはウロコをつけたままの丸のコイを大胆に輪切りにして、甘辛い煮汁の中でそれこそ時間をかけてこってりと煮上げたもの。千葉県利根川周辺、茨城県霞ヶ浦周辺などで日常的に食べられているものだ。
 その煮る手前に蒸すという工程を加えたのが、「鯉ぶかし」であるようだ。ただし、味つけは千葉県などのものと比べて軽く、コイの旨味が生きていて洗練されている。

 レトルトなので熱湯であたためると、器に盛るだけ。
 この一切れの「鯉ぶかし」がなんともきれいである。
 切り身から盛り上がるように見えるのが卵。コイの卵は魚類中でももっとも美味なものなのだ。
 卵を箸で割るように取る。これを口に入れるとホクホクして、甘味があるのだけど、これは調味されたものではなく卵そのものからくる甘味で、後から甘辛い味つけが加わってくる。
 味わいは卵よりも身の方が濃くて、皮目がねっとりとして微かにゼラチン質を伴っている。
 さて、味つけには昆布や椎茸も使われている。それなのにコイの味わいが表立って、グアニール産やグルタミン酸などの旨味成分はあまり感じられない。この調和のとれた味つけが好ましい。

 山形県内陸部の郷土料理の柱ともいえそうなのがコイである。この「鯉ぶかし」などの加工品もいいのであるが、こんど実際に山形で鯉料理を堪能したくなってきた。とくに夏がきて恋しくなるのが「コイの洗い」。この洗いで、山形の淡麗辛口の酒というのは魅力的だ。

 最後に、ボクの個人的な意見に過ぎないのだけど、今、この国で失ってはいけないもののひとつが「淡水魚を食べる文化」である。今時、生まれてから一度もコイを食べていないという人も多いのではないか? その生まれて最初に食べるコイが『丸原鯉屋』の製品だったら、淡水魚食入門もたやすく出来るだろう。

丸原鯉屋
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 鹿児島県のわかしおさんから見事なコショウダイが送られてきた。『市場寿司 たか』でさばいてもらい、刺身や握りで堪能した。
 これが市場関係者もうなるほどに美味。
 シコっとした身に、程良い甘味と旨味が調和して、朝っぱらから酒のいっぱいも欲しくなるという味わいであった。

 さて、これほどの美味であるのに、知名度が低い。低すぎるのだ。
 関東の市場を見て歩いていても決して珍しい魚ではない。
 八王子総合卸売センター『高野水産』などでは毎日のように入荷をみる。
 それなのに『市場寿司 たか』でネタとして扱うに注文してくれる人が皆無なのだ。

「その辺の中途半端な天タイ(天然のマダイ)よりも何倍もうまいんだけどね」
 たかさんが首をひねる。
 まことにこの国の人は魚にしても野菜にしても、目新しいものを嫌う傾向が強い。
 何時になったら関東でも、コショウダイが高級魚の仲間入りが出来るのか前途は暗そうだ。
 ただし最近、このような状況を見越して、珍しい魚を積極的にメニューに載せている店が出てきているという。
 このような魚は定番魚よりも安く買えるし、またお客の「なんか珍しいのない?」などというリクエストにも充分すぎるほどに応えられる。
 きっとコショウダイなんてのを積極的に仕入れる店って、ある意味、根強い人気を持つのではないだろうか?

若潮便
http://wakasio.seesaa.net/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、コショウダイへ
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 標準和名のニザダイを「にざだい」と呼ぶ人はほとんどいない。ほとんどの地域で「三の字」と呼ばれ。三重県尾鷲市などでは敬愛を込めて(?)「三公」なんて呼ぶらしい。

 冬には美味であるが、夏の三の字には二の足を踏む。ときにもの凄く臭いのがいるからだ。
 今回のものは鹿児島県南さつま市笠沙の、わかしおさんからきたもの。けっして臭い個体には思えないが、包丁を入れるに躊躇するものがあった。それで今回は「丸投げ」することにした。
 さて、丸投げ先は八王子総合卸売センター『さくら』である。
 いたって良心的な中華料理屋である『さくら』を定期的に悩ますのは、誰あろうボクかな? と思っている。なぜならときどき手に負えない魚があると「なんとか料理に出来ませんかね」なんて強引に持ち込むからだ。
 ちょっと困ったような顔をしながら、『さくら』の店主まささんはいろいろ考え苦しみ、いつも絶品料理を作ってくれるのだから凄いね。

 今回のニザダイも、
「思ったより臭いが強くてこまったよ」
 なんて言いながら、2皿の料理になって出てきた。
 片や『さくら』特製スープでの煮込み。片や甘酢煮込みである。
 今回の試食にはちょんまげ切り落とし男のコトヤさんと、たかさんが加わる。
 まず出来上がった中華煮込みに3人とも夢中になった。

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 もちろんスープがうまいから興奮しているのだけど、これほど難敵のニザダイの身がうまいのである。
 たぶん一度揚げた身を、シイタケ、キクラゲや野菜と煮込んだもの。
 説明すると単純だけど味わいは奥深い。
 別に香辛料を大量に使っているわけでもないのに、ニザダイの臭みは皆無。
 しかも、たかさんをして皿まで嘗めさせるとは。
 続いて来た甘酢煮込みも、うまいことはうまかった。

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 ただ、これはニザダイの身の存在感がなくなっている。
 それでもやはり最後にはたかさん、皿まで嘗めていたんだから、優れた一品なのだ。

 夏には問題有りのニザダイが、これほどの美味に生まれ変わろうとは驚きだ。
 さて、次回はどんな難敵を『さくら』に持ち込むべきか、わかしおさんと作戦会議を開く。

八王子の市場に関しては
http://www.zukan-bouz.com/zkan/sagasu/toukyou/hatiouji/hatiouji.html
わかしおさんの「お魚三昧生活」
http://geocities.yahoo.co.jp/gl/komendago
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ニザダイへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki/nizadai/nizadai.html


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 オニオコゼが旬を迎えている。活けを買いたいと思うものの、とても手が出ない。ちょっと安い野締めを1本手に入れて、久しぶりに唐揚げにする。
「なーんだ唐揚げか」とバカにするなかれ、オニオコゼの身は揚げると魚ではなく餅に変化するのだ。そして周辺部のびろびろした皮はかき餅のような、カリカリっとした香ばしいものだから、まさに上等の揚げ餅そのものだ。
 しかもだ、そこに魚の旨味がたっぷり存在する。これこそ唐揚げ界の王様そのもの。

 作るのはちょっと大変。
 背鰭を切り落とす。プロは包丁で切り離すのだけど、調理バサミが便利。
 背鰭には強い毒があるので要注意。
 そして背開きにして、ワタを取り、中骨を外す。
 ここでよく水分を拭き取り、片栗粉をつけて二度揚げするのみ。
 揚がったら振り塩。
 背開きにして揚げると、まるでふくら雀のように本体が丸まる。

 このふっくらと丸い身を口に入れると餅っとした食感なのだ。
 中からジュワっとオニオコゼの旨味が吹き出してくる。
 この香ばしいなかに、餅っとした食感の身と魚の旨味が今残一体となったところに、「虎魚の唐揚げ」のよさがある。

 残念ながら、唐揚げは日本酒をやる静謐さには欠ける。
 むしろビールといきたいところだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、オニオコゼへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/oniokoze/oniokoze.html


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