食べる魚類学: 2007年9月アーカイブ

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「大黒さんま」とは昨年(2006年)から、北海道厚岸漁協が船上で大型のサンマだけを厳選して出荷してきているもの。いうなれば最近流行のブランド魚(この言葉いやだねー)である。この一週間ほど並サンマが40円〜50円というときに250円、ときには400円近い値を付けている。

「これがうまいんだよ」なんていう寿司屋、料理屋も決して少なくない。その言葉を裏付けるように、目の前にかなり上物というサンマが100円なりであるのに「大黒さんま」350円を持っていくのだから、こーりゃ本物にちげーねーや、ということで1本300円を買って帰る。
 まずは重さを量ると200グラムちょうど。当日の並が160グラムだから、かなり差がある。その差は姿にも現れていて、頭の後ろ背中が盛り上がって見える。これラグビーの重量級選手といったごっつい体つきだ。またサンマは鮮度がよいほどクチバシの黄が強いといわれるが、まさにこの大きな黒灰の背、銀色の体色に最先端の黄金色が浮き上がって見える。

 これを晩酌のアテにする。最近、鮮度の良し悪しということでは入荷してくるサンマの、ほぼ総てが刺身になるということ。またほとんど全部が脂ものっていること。そこにくる「それ以上のサンマ」ってどんなもんだろう。
 実際口に入れてみて見事なほどに脂がたっぷりのっている。でも並と比べてもそれほどではない。やや「上」というものだ。それよりもビックリしたのがもちっとふくらみのある食感と「シコッ」とした歯触り。これは船上で厳選して丁寧に氷り詰めにしたからこそ味わえるものに違いない。
「ええ?」と思って昨日は「大黒さんま」ではないが、100円の並では上というものを比較すべく買ってきてみた。やはり食感はもちっとしていないし、歯触りは「シコッ」ではなく「ビィニュ」であった。この食感、かなり味わいに影響を与えるようでやはり「並上」よりは「大黒さんま」がうまいなーと思わせる。きっとたぶん脂ののりも他を圧倒しているのかも知れないが、この「シコッ」がそれを感じさせないようだ。その分、食べた後にじわりじわりと旨味と甘味がぶり返してくる。これは高値で買っても損はしないだろう。

 さて、本日の「大黒さんま」は安値200円、高値350円であった。そして普通のサンマの最安値はなんと40円ほど。この差額、違いが「わっかるかなー」。

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 東京湾と駿河湾で「顎無(あごなし)」と呼ばれる魚がいて、この名もあんまりよろしくないのに、標準和名のクロサギというのもちょっとね。これをたっぷり仕入れてきた八王子綜合卸売センター『高野水産』の社長が嘆く。もっといい「名前つけてくれよ」。

 でもでもこの魚にそんなに雅な、うまそうな名前をつけても仕方ないかもしれない。例えばマアジ、イワシと比べても、「劣性で判定負け」するだろう。当然、マダイ、メダイ、アマダイなどとは比ぶべくもない。
 ひとつだけ取り得があるとすれば刺身は在る程度うまいということか。今回のものは多分、富津あたりでとれたものだろう。それが無謀にも8キロ判(8キロ入りの発泡スチロール)できたのだから、高野社長の嘆きもわかるってもんだ。

 さて、キロ当たり600円、1匹200円ほどのクロサギ君は売り切れとなっただろうか?
 ボクは鮮度的にイマイチだったのでムニエルにして楽しんだ。この手の旨味に欠ける魚にはムニエルやフライがいちばんよい。

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 これはイケましたね。身がやや柔らかいのだけど、バターで焼くと身がふわりとして、香ばしい味に出来上がった。

 これなら「あごなし」に目がないという人も出てきそうだ。

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 さて、関東に近くて漁業が盛んであるのが福島県。南は小名浜から北は原釜まで有数の漁港が目白押し。その福島で盛んなのが底引き網である。そして、底引きにつきものなのが「めごち」である。「めごち」には何種類もあって産地によって種は決まってくる。福島県産は先ず間違いなくセトヌメリである。
 セトヌメリの「せと」は当然「瀬戸内海」からきている。どうにも東西、南北で隔たりがありすぎる産地に戸惑うかもしれないが、瀬戸内海の海水温は低めで安定しているというのを覚えておいて欲しい。

 福島県産で問題なのが取り扱いがやや粗雑であるということ。だから有名天ぷら店では福島県産「めごち」すなわちセトヌメリは使わないだろう。でもそれだからこそお値段が安いということで貧乏なお父さんにはありがたいお魚であるとも言えそうだ。なぜなら美味なのだから。

 ここで横道にそれるが「めごち」を天ぷらだねに卸すのは初心者でも簡単に出来る。とにかくウロコを取る必要がない。頭部近くのエラ下にある刺を含めて頭を落としてシッポを中心にして切り落とさないように三枚に卸す。文字で書くよりも出来上がりを見て欲しい。

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 作りますものは当然の如く天ぷら。これは技術に差が出るのであるが最近の天ぷら粉が優れている。ほとんど失敗がないほどにからっと揚がるのだ。

 後は皮目の香ばしさを楽しみながら酒のアテとすべし。意外に「めごち」界の王者ネズミゴチにも負けなかったりして。

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 イタリア料理にアクアパッツァというのがある。油と水とで手早く、焼き煮込むという誰にでも簡単にできる料理なのだけど、材料を揃える必要がある。例えば魚だけではなく、ジューを出すために貝なども使いたいし、干しトマト、ローズマリーや生のタイムなども欲しい。そんなもんいちいち揃えたくないので、我が家では単純にオリーブオイルで焼いてしまうのだ。

 ハタは適当に切る。ここにたっぷりの塩をまぶしつける。これをニンニクの香りをつけたオリーブオイルで焼くのだ。とにかくコンガリ香ばしく焼き上げる。最後に白ワインとあればバルサミコを加える。そしてここでもう一度焦がす。最後に魚を取りだして、フライパンについた魚の旨味、お焦げを白ワインで洗い落とす。これを一度沸騰させて皿にそそぐ。この少ない煮汁の上に魚をのせるだけで出来上がり。皿の脇にはエクストラバージンオイルを用意する。

 ヤマブキハタは色合いからしてハタ類のなかでは値が落ちる。でも厚みのある皮、皮下、そして頭部、ヒレなどにたっぷりと旨味が閉じこめられている。これを一気呵成に焼き、焼き上がったら一気呵成にむさぼり食う。ときに香りと油分が欲しかったらエクストラバージンオイルをかけて食えばいい。イタリアにあっては、これが醤油に替わるものなのだから。

 スズキ、カサゴ、ハタなどがあったらやってみる価値ありの料理だ。別に粗だけでもいい。

 このオリーブオイルを使った料理には酒はあいまへんな。できればシャブリかウイスキー、ジンの水割りでもいいかな? 皿の底には魚の旨味を吸った塩味のオリーブオイルが白ワインの風味も加わって溜まっている。最後にはフランスパンなんかで拭き取るように食べて欲しい。

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 先週から『高野水産』が続けて持ってきているもの。それは国産、たぶん三陸のものだというマカジキだ。これが、とにかく安い。なにしろコロ(ブロック)になっているのにキロあたり1500円しかしない。しかも見た目の赤がいいのである。
 それで高野社長が小分けにしている途中から一切れ700円ほどを買い求めてくる。

 これが驚いたことにうまいのである。この色合いからするとキロ当たり、コロで3500円と言われてもおかしくない。驚くべき安値で息を吐いている『高野水産』だから1500円なのかな? と首をひねりながらも、うまいマカジキの刺身でかるく晩酌を傾ける。

 新世紀となって、築地市場でもっとも賑やかなのは大物(マグロ)競り場、それに対して、その奥の奥にひっそりあるのがカジキの競り場である。なにしろ隅田川の岸壁近くだから築地の外れといってもいいだろう。ここにマカジキ、メカジキなどが並ぶ。でも数が少ないのだ。そして圧倒的にメカジキが多い。
 なぜ、マカジキがこんなに減ってしまったのか、たぶん取りすぎだろうけど、漁獲量だけの問題ではない。それは料理屋の基本的赤身がマカジキからマグロ類に変遷してしまったからだ。

 戦後30年代までは「マカジキがなければ魚屋をやっていけない」ほどに流通の基本的な魚だった。これにはワケがあって、冷蔵・冷凍技術の未発達であったとき、多少時間がたっても色合いが悪くなる、味が落ちるなどの品質劣化がマカジキでは遅かったのだ。そこへいくとマグロ類では温度が高いとすぐに脂焼けしてしまう、色変わりが早いなどマグロの消費量と冷凍・冷蔵技術の発達が正比例していることがわかる。

 マカジキの刺身でいっぱいやった翌日には、皮下の筋っぽいところを煮つけにした。これは酒、砂糖、醤油にお酢を加えて煮たもので、蒸し暑いときなどにはややさっぱりした味わいになり、食べやすい。これと、ミョウガ、キュウリの酢の物、古漬けタクワン、ワカメのみそ汁が残暑のときの朝ご飯である。

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 青森県小川原湖は我が国においてかけがえのない湖である。青森県の太平洋側にある大きな湖、小川原湖ではヤマトシジミやシラウオがいまでもたっぷりとれる。まさか、愚かな政治家、行政者がこの湖の埋め立てや、淡水化をしようなんてバカなことを考えやしないものかと、ボクなど日夜心配で堪らない。
 実を言うと人類の開発など結局長い目で見ると破壊でしかなく、将来の子供達に多大なマイナス点を残すだけのものだ。まあ中国の史記など読めば、それくらいわかりそうなものだけど、「貪婪なヤカラ」には理解不能かな。

 その小川原湖から小振りのシラウオが八王子魚市場に入荷してきている。シラウオはサケ目キュウリウオ科である。近い種にワカサギやチカ、アユも含まれるだろう。どっちにしろ命の短い魚。シラウオもアユ同様年魚であり、春に生まれて、春に死ぬ。
 だから夏にとれ始めて、秋へと大きくなり、冬に特大となる。旬は冬から春だろうか? いずれにしろ儚い運命の魚である。

 このシラウオは川や湖の塩水の混じる周辺に棲息。この汽水域の乱開発で激減、高値安定である。信じられないだろうけど、東京湾奥の佃島周辺など昭和初期までシラウオの産地だったのだ。彼の歌舞伎「三人吉三郭初買」でお嬢吉三の言う名せりふに「月も朧に白魚の篝も霞む春の宵」というのなどまさにこのシラウオ漁の篝火だろう。これに紛らわしいのが「素魚」。昼間に四つ手網などでとるハゼ科のシロウオである。この2種は混同甚だしい。例えば佃煮や紅梅煮、天ぷらにはシラウオ、躍り食いするのはシロウオ。と思ってもいい。とにかく食用として用途の広いのがシラウオであり、季節ものの珍味がシロウオだと考えるとわかりやすい。

 これを『市場寿司 たか』で軍艦にして生で賞味。帰宅してかき揚げにする。生で軍艦というのは、たかさんの意見と大きな食い違いがあった。すなわちボクは生が大好き、たかさんには疑問符がフワリと浮かんだようだ。

 これを盤洲、木更津のきんのり丸さんの海苔と合わせて、帰宅後かき揚げにする。これが申し分のない美味。意外に香ばしい中に海苔の風味も生きている。この美味、いかに例えるべきや。言葉もなくむさぼり食う。ご飯のおかずのはずが、かき揚げをとにかくあっという間に平らげる。だからご飯は太郎が大好きな「きゅうりのQちゃん」のお茶漬けで食うこととなる。
 しかしシラウオのかき揚げはいついかなるときに食べても感動できる。この旨さは天ぷら界の大王的存在、もしくは横綱だろうか。横綱として西か東かとにかく対抗するのはバカ貝の貝柱、すなわち小柱だけである。
 ともに昔は江戸湾の、すなわち江戸前の味だったものである。シラウオが大好きと思われる人々よ、なんとか自然保護に力を合わせられないかな。ボクは隅田川河口のシラウオが食ってみたいのだ。

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週に2本のサンマ

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 毎週2本のサンマを食べる。塩焼きで、と刺身で。昨日のお昼はサンマの刺身で、ご飯。本当は酒の肴にしたいのだが、忙しくて夜は帰ってこられない。
 八王子綜合卸売センター『綜市水産』で1本購入、その場で三枚に卸して、緑紙に包んで帰宅。お昼時にさっさっと刺身にする。ボクはとにかく柑橘類が欲しい人種なので海老名の海老さんの柚を添える。薬味はショウガとミョウガ。ミョウガの値段がどんどん下がってきているのがうれしい。ボクはネギよりもミョウガの方が好き。
 これをおかずにご飯を食べていたら、ニンニクが欲しくなった。ショウガ、ニンニクと生醤油。それをご飯にのせて、柚をかけ回す。それをかき込みながら、合いの手にミョウガ。これでお昼としては上等である。

 さて、9月3日の厚岸サンマ、1本150円の味は、というと、脂が程良くのっている。旨味というか、サンマ特有の微かな酸味もあってうまいですね。まだまだ脂ののりがよくなってくるとき。さて、今週は後一本の塩焼きサンマとする。

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マイワシの天丼

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 昼過ぎに外出と言うときに、冷蔵庫を探して、簡単な昼食を整える。ボクはこんな「さっさっと手早い料理」を作るのが大好きな性分である。
 見つけたのは、たくさんいただいたミョウガ、旗野農園の青じそ、一枚だけ残った、フライ用に開いたマイワシ。マイワシはフライにするために塩コショウをしてある。昨日、フライを食べて、今日もフライでは芸がない。
 思い切って天丼に仕立てる。まず丼汁は我が家の出汁醤油。味醂1、酒1、醤油1、水1のなかにカツオ節を削り入れ、火にかけて煮立てる。そこに差し昆布をして1週間ほど寝かしたもの。薬味は大根おろし、生姜、海老名の海老さんにいただいた青柚。
 比較的低い油温度のときミョウガ、青じそをまずは揚げる。次いでマイワシを高めの油でかりっと揚げる。マイワシの身はあくまでふわっとして、皮目が香ばしいというのが理想だ。

 残りご飯を電子レンジで1分チン。そこに青じそとミョウガ、マイワシの天ぷらをのせる。薬味は大根おろしと生姜。そこに好みで出汁醤油を回しかけながら食べる。
 予め塩コショウしておいたのが、予想外にいいのだ。塩で生臭みがとれただけではなく、マイワシの旨味が増している。そこにコショウがピリっとくる。揚げものとご飯の重苦しさを、コショウの刺激が軽減しているようだ。
 2口、3口と食べて、残り半分に青柚を搾りかけたら、これも大正解。青柚の香りが、まったく別の趣を醸して、また新たな丼となったように思う。

 マイワシはキロあたり400円で1匹60円弱。青じそ、ミョウガはいただきもので、出汁醤油、ご飯も多寡が知れた、お金に換算するに微々たるもの。おおよそ材料費100円弱のミニ天丼の出来上がりだ。

 まあ天ぷら専門店のものと比べるべくもないが、その辺の食堂よりは上という味。これをして「お父さんの優雅な昼食」と呼ぶのであった。めでたし、めでたし……。

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