食べる魚類学: 2007年4月アーカイブ

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 ウマヅラハギの産卵期は木の芽時から初夏だろう。と言うことは4月末ならそろそろ味が落ちてくる。そんな不安定な時期に大量の活け締めされたウマヅラハギがあって、しかも安く、腹を触るとしっかりして、肝も充実しているように感じられたら、「さて、買うべきか?」。
 迷うくらいなら買って見るべし。と、そんな時に限って、近所の釣り人からマアジがどっさりと届いたりする、人生とはこんなものである。だから夕食の刺身は食べきれないほどのアジ。ウマヅラは翌朝、煮つけにする。
 ウマヅラをはじめとするカワハギ科の魚は、「まずは刺身で」と考えるものだが、本当は煮つけにして飛びきりの素材なのである。煮つけていると濃い旨味が染み出し、しかも身はふっくらと甘い。そこに肝心要の「肝」のコク、旨味がふわりと加わると「例えるすべもなき美味」となる。
 でもでももう雑木林が若緑色に色づいてきている。まさに春たけなわ、夏の予感がするときのウマヅラハギはどうなのだろう。
 仲卸の荷にパッチ(魚などの上にふわりとのせてあるビニール)がなく産地不明。たぶん活けできたものを締めて、買い取られてきたもの。鮮度はまず、これ以上は望めない。カワハギの仲間は締めた首もとを引き、皮を剥くことから下ごしらえが始まる。そこには卵巣も精巣もなく、肝は思いのほかたっぷり。これはまさしくアタリだ。

 これを新玉ねぎとともに煮つけにする。我が家で朝つくる煮つけは肴ではなく、惣菜である。だから酒、みりん、しょうゆにたっぷりの砂糖。鮮度がいいので、煮汁を煮立ててから、ウマヅラの身と肝、新玉ねぎを放り込む。このまま煮ていき、煮汁の味見をして、ご飯にかけて「うまそう」なら出来上がりだ。

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 この「馬面の煮つけ」が素晴らしいものだった。なによりも身がふっくらとして繊維質に柔らかい。それを肝を潰した煮汁にまぶしながら食らう。これが飯との相性が抜群にいい。出来るだけ煮汁を残して最後には「骨湯」にする。この汁の表面に浮かぶ脂の粒を見てもらいたい。ここに味わいの表現は無用だろう。

市場魚貝類図鑑のウマヅラハギ
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 ボクは昔から煮つけと言うのは魚だけで作っていた。まあ加えるとしてもゴボウくらい。それが各地で野菜を一緒に煮ているというのを知り、はたまた今回は戸田滋愛丸の賄いでの玉ねぎ入りの煮つけに大感激する。
 この玉ねぎが我が国に到来したのは明治になってからだ。文明開化の波に乗り、肉食の奨励とともに日本でも作られるようになったもの。特にカレー、シチューなどには欠かせぬ材料である。明治天皇にまで肉食をさせて、西洋料理の導入をした明治政府、玉ねぎの普及も当然早いものであっただろう。面白いのは関西ではハモすきには必ず玉ねぎを入れるのである。大阪では「泉州玉ねぎが出てくると、ハモが旬(も出る)」という言葉があるそうだ。それからすると煮つけに玉ねぎとは至極当然のことである。この西洋料理の材料がいつのまにか煮つけ、魚すきなどと結びついたのだろう。それも意外に明治の早い時期からかも知れない。

 滋愛丸での煮つけは魚エビと玉ねぎが相乗効果を生んだのだろう。非常に全体の味わいが深く、そしてより一層ご飯にも合うものになっていた。
 沼津からは底引き網の魚をたっぷり持ち帰っている。これを玉ねぎと煮てみる。
 材料はイズカサゴ2匹とシロカサゴ1匹、シロサバフグ1匹である。今回はやや多めの煮汁で、酒、味醂、砂糖、しょうゆ、水。そこに玉ねぎ大を一個を大振りに櫛切りし入れる。後はただ単に煮つけるだけ。ちなみに煮つけのコツなどはないのである。うまい煮つけを作る最大のコツは頻繁に、日常的に、作ることだけだ。

 玉ねぎの甘さを考えて、今回だけは砂糖を大幅に控えた。それなのに出来上がりの汁を味見するとかなり甘味が強い。そこに魚の濃厚な旨味が加わって、最後に熱湯をそそいで飲む骨湯が楽しみに思える。
 イズカサゴとアカカサゴ、当然遙かに前者の方が美味である。しっかりした身質で、しかもほっくりとした食感。シロカサゴは煮つけると身がやせる。まあともに美味であるには違いないが、イズカサゴの値が高いわけを改めて再認識する。
 そしてシロサバフグだが、こちらはかなり味わいが落ちる。これは時期もあるだろうし、また肝を加えていないせいもある。シロサバフグの肝はたぶん無毒であるだろうが、一様、厚生省の指示通り食べないことにする。
 そしてあらかた平らげて、子供達は煮染められた玉ねぎで飯をかきくらい、最後に熱湯をそそいで骨湯となる。これはまさに至味である。

 煮つけを食い尽くして、千葉県小見川のウナギ漁師萩原さんの言葉を思い出す。
「昔はなんだって煮つけにしたもんだ。オヤジは刺身はぜいたくだって。わかるか、煮つけはそれこそ無駄がないだろ。皮も身も内臓も、食べられるところは全部食べられる」
 確かに魚を利用するに煮つけくらい無駄のでない料理はない。

市場魚貝類図鑑のシロカサゴ
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市場魚貝類図鑑のイズカサゴ
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市場魚貝類図鑑のシロサバフグ
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 滋愛丸が戸田港のもどりついたら様々な人たちが待ちかまえていた。そこにマグロ漁をしていたという人がいて、タチモドキを見て、
「これはな、三枚におろすじゃろ。そして端から切る。それを酢と砂糖と味噌で食べる。これがうまいだらよ」
 なんだか親切に教えてくれる。ちょうど滋愛丸さんからおかずに小振りのエビとタチモドキをもらったところ。持ち帰ってそのとおりに作ってみる。

 三枚に卸したタチモドキの血合い骨は思ったよりも強い。それで血合いを切り取り、ほそく切る。それに塩をして少し待つのだ。
 待つこと20分ほど。いちど水洗いしてから、酢と味噌、からしと砂糖のからし酢みそで和える。
 見た目は悪いが、これがなんともいける。特に日本酒の肴にはもってこい。
 思ったよりもタチモドキの身はシコっとしており、旨味がある。そこにさっぱりとした酢みそでなんともたまらんいい味わいなのである。
 夕べの気温が高いせいか、窓を全開としている。そよ風が心地よい。そこにさっぱり味のタチモドキの酢みそ和えはなんとも言うに謂われぬ味わいである。酒がすすむなー。

市場魚貝類図鑑のタチモドキへ
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カツオのはらも

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 戸田・沼津の旅でのありがとう。その三/西伊豆のうまいもんは山丁さんに聞け

 戸田の港で幾人かの引退した(してないかもわからない)漁師さんに話を聞いた。そんなとき飛び出したのが、「カツオのはらも」。その昔、よくおかずとして食べたのだという。
 これはカツオ節を作るときに卸し身にする。そのときに内蔵を包み込む薄い部分を切り取ってしまうのだ。その形がちょうど二等辺三角形となる。カツオ節工場では「はらも」を切り取り、塩水で洗う。だからそのまま焼いてもいいのだが、軽く干すとなおうまい。
 これなど西伊豆から沼津、すなわち静岡県東部ならではの食べもの。この「はらも」を探そうとしたら沼津魚の達人、菊貞・山丁 菊地利雄さんが持っていますとのこと。すぐさま冷蔵庫まで走り(58歳なのに素早い)、持ってきてくれた。

 これをいただいて帰り、七味唐辛子をふって炙って食べる。これがなんとも濃厚な旨味があり、脂がのっていてうまい。ブルンブルンと弾力があるので箸を使うよりも野性的に手づかみで食らう。
 これを肴に酒を選ぶとしたらやや甘口の酒をぬる燗というのがいいな。

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 さて、このような沼津西伊豆ならではのうまいもんを探すには、「まず菊地さんに聞いてみろ」というのが最短時間の好手となる。実に沼津に行くたびに菊地さんから新しい食材の知識をいただいている。菊地さんにも、彼のお父様以上に長生きして欲しいな!


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 八王子綜合卸売センター『高野水産』に千葉県銚子から大量に入荷してきたのがコモンカスベというエイ。当然、その箱には食堂や居酒屋が近づくだろうと思いきや、袋を持ち、買っていくのはフレンチ、もしくは洋食系の人ばかり。
 まあ、このエイひれのムニエルは天下一品、ムニエル界の王様といったものだから当たり前だが、居酒屋のオッチャン達は「どないしてるねん?」と思った。まあそんなことはともかく意外なほど売れ行きがいいので、素早く4,5匹確保。1匹だけを残して仲卸でヒレだけを切り取り、皮まで剥いで持ち帰る。

 今回はコモンカスベだがエイならほとんど総てがムニエルに使える。とくにうまいのはアカエイなのだか、なかなかめったに入荷しない。まことに残念。木更津のきんのり丸さんによると、毎年かなりの水揚げがあるという。「うまいアカエイのムニエルが食いたい」、東京湾の荷主さんよアカエイを出荷してくれ!

 エイのヒレはムニエルにする20分くらい前に塩コショウ。フライパンにオリーブオイルをたっぷり入れたら、やや低めの温度で安定させる。そこに粉をつけたエイヒレをひらりと滑り込ませるのだ。火加減は一定で弱火、時間をかけて火を通していく。こうすると表面はコンガリ、中はジューシーに仕上がる。こんがり焼けたら、ヒレを取りだし、フライパンに白ワインを入れる。これで焦げ付いた身などをこそげおとし、ふわーっと煮立ったら、大量にバターを投げ込む。香ばしい香りが立ってきたら皿に入れて、その上にエイヒレをのせて出来上がりだ。こがしたバターに塩コショウする。好みでレモンを絞り込んでもいい。

 我が家では家族のもっとも待ち望む魚料理がこれである。だから食卓に出す。すぐに箸が延びる(我が家は常に箸の家)、カレースプーンでバターをすくうと、すぐに3匹、4匹、5匹分(もう一度厨房に立つ)くらいのムニエルが消える。お父さんは悲しいことにほとんど作るだけの人となってしまうのだ。
 このエイのムニエルの惹かれるところは、エイヒレの軟骨の食感、そして身のクセのない味わい。表面はじっくりこんがり焼いているので、風味も抜群にいい。だからフレンチの基本的な料理となっていて、しかも高級フレンチでもよく使われるものである。それがいたって簡単に一般家庭でも出来るわけだから、もっともっとエイという食材が利用されてもいい、と思うのである。

市場魚貝類図鑑のコモンカスベへ
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