食べる魚類学: 2006年6月アーカイブ

 市場で「鯛の粕漬け」と呼ばれるものがあって、この原料がアラスカメヌケ、もしくは大西洋でとれる「目抜け類」のモトアカウオなのである。これらはカサゴ目メバル属の魚であって間違ってもタイの仲間ではないが今でも下町の食堂などに行くと「鯛かす定食850円」などと品書きにある。
 この「鯛かす」は決して商品名でもなければ、実際に市場で「鯛粕漬け」というものを探しても見つかるわけがない。これは40代以上の市場関係者、もしくは昔ながらの食堂だけで通用する言葉。今では「鯛かす」はなくて総て「赤魚の粕漬け」となっている。すなわち食堂でも「あこう」、もしくは「赤魚」くださいと言うところ、未だに昔のまま「鯛かす」でも通用する。
 この「赤魚の粕漬け」が「鯛の粕漬け」と呼ばれていたのは、どれぐらい前までなんだろう。明らかに戦後北洋漁業が盛んになってアラスカメヌケなどがふんだんにとれていたとき、加工されていろんな商品名で流通したのだろう。そこで粕漬けにしたときに……アラスカメヌケ=アコウダイの仲間=あこう鯛の粕漬け=「鯛」の粕漬け……と言葉が推移した。「あこう」が小さくて「鯛の粕漬け」が大きく表示されて「鯛かす」と呼ばれていた例は実際にみている。これは彼のJAS法以前までのこと。それ以前に堂々と「鯛の粕漬け」という商品名があったのかは実は知らない。この歴史も面白そうだ。
 さて、この「鯛かす定食」もしくは食堂で「鯛かす」を注文するのは年間一度か二度。めったに食べないのだが、ないと寂しい。そしてなぜか自宅では決して食べないのが「赤魚の粕漬け」である。粕漬けは焦げやすく家庭では焼けないなんて思っている方も多いかと思うが、魚焼き器にレンガを乗せて金ぐしを使うといとも簡単に美しく焼ける。もっと自宅で食べてもいいのに不思議なことだ。
 味わいは、さすがにカサゴの仲間だけあり白身の上品な味わいで、脂がのってうまい。ご飯にもあうのもで、自宅でももっと食べようかと思っている。でもこれが朝ご飯に出るとふと下町の場末の食堂を思い出しそうで嫌かも知れない。

TAIKASUDUKE.jpg
八王子総合卸売協同組合「光陽」にて

市場魚貝類図鑑のアラスカメヌケへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/mebaru/arasukamenuke.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 八王子総合卸売協同組合、丸幸水産の店頭に驚くべき大きさのアカヤガラが鎮座している。これぐらい大きいと白身でも脂ものっていそうだ。また初夏から秋にかけて比較的水揚げをみるのがアカヤガラ、旬もこの時期である。
 クマゴロウに、
「どこから来たの」
 と聞くと、ごそごそとパッチを取りだしてきて
「魚林だって、沼津だよ〜ん」
 このアカヤガラの重さが4.4キロ。大きさをみようとして持ち上げようとすると
「それ幾らするか知ってる。言わないけど、なんかあったら買ってもらうからな」
 嫌なこと言うなよクマゴロウ。

 パッチの「魚林」が気になって沼津の仲買「山丁」菊地利雄さんに問い合わせると、
「それは三宅島近海の引き縄であがったやつですね。『魚林』というのは会ったことあるでしょ。そのー、林家こぶ平に似ている」
 と言われてすぐに顔が思い浮かんだ(注/魚林さん、いい男なので誤解なきよう)。「魚林」さんというのは凄い魚を持ってきてくれるんだな、と改めて知る。またこれほどのアカヤガラがとれていると思うと、途端にまた沼津に行きたくなる。
 今、何があがってるんだろうな沼津では。ちなみにこの魚、前日沼津魚市場にあがり、翌日には川崎の市場、そして八王子総合卸売協同組合に来ているのだ。

akayagarra00001.jpg

市場魚貝類図鑑のアカヤガラへ
http://www.zukan-bouz.com/fish/togeuo/akayagara.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 福島県相馬市原釜にあがっていた魚でもっとも種類の多かったのはカレイ目の魚。市場数十メートルに渡って並ぶ白い腹は壮観としか言いようがない。これを見たままに列挙する。

 まず、カレイ目ヒラメ科のヒラメ【千島列島以南、南シナ海まで棲息。市場で見られるのは養殖、天然ともに少なくない。値段は2000円(キロ当たり)以上。いいものでは1万円を超えることもある】。大は10キロ上が目白押し。産卵からやっと回復したばかりだろう。

hirame00001.jpg
旬ではないと思うが肉厚で寿司ネタなどにも充分使えそう(ヒラメ)

 形のいいマコガレイ【九州は大分県、東シナ海から北海道南部まで棲息。初夏から秋までが旬。値段は状態によりマチマチ。活けものには非常に高価なものもある】。

mako00001.jpg
こちらはこれからが旬(マコガレイ)

 福島で「あかじがれい」と言われるマガレイ【中部日本から北、カラフトまで棲息。マコガレイよりも値が落ちる。味はいいのだがあまり刺身になることはない】はとれすぎと言った状況。

magare0001.jpg
ちょっととれすぎかな(マガレイ)

 卵を持っているのも見受けられる「やなぎ」ヤナギムシガレイ【北海道南部以南、東シナ海のやや深い海底に棲息。冬から初夏までの子持ちは非常に高価。主に焼き物にする】は非常に多く、「黒やなぎ」ヒレグロ【東シナ海から日本海、銚子から北、千島列島まで棲息。ヤナギムシガレイと比べて値段は遙かに安いが味はいい。三陸や北国では干物などに加工される】は少ない。「なめた」ババガレイ【東シナ海、日本海、駿河湾以北カラフト千島列島まで棲息。旬は秋から冬。この時期は高価。主に煮つけになる】も多い。

kuroyanagi001.jpg
これは「黒やなぎ」と呼ばれるヒレグロ。場所によっては「ばばがれい」と呼ばれるから紛らわしい

 またビックリするほど大きい「ほんだがれい」サメガレイ【日本各地で見られるがやはり東北以北に多いもの。味がいいのに外見の悪さから値が安い。今もっとも注目して欲しいカレイ】を揚げている船があって、見ていて壮観。

samegarei002.jpg
サメガレイはこれから売れ筋になる隠れたスター。今がお買い得

 後は少ないながらイシガレイ【カラフトから台湾まで広く分布。旬の夏から秋にかけての活けは非常に高価なもの。ただし野締め(締めないで死んだもの)は値が安い】、ヌマガレイ【霞ヶ浦、福島県以北の汽水域、また浅い砂泥地に棲息。ほとんどの個体の目が左にある。ときにまとまってとれるが値段は安く味は今イチ。ただし活けの刺身は美味】、マツカワガレイ【茨城県以北の太平洋側と日本海北部から北に棲息。近年漁獲量が激減。養殖も行われている。カレイ中もっとも高価なもの】。

numamatukawa.jpg
左がヌマガレイ、目の位置に注目。右がマツカワガレイ

 以上10種が16日の原釜港で目に付いたもの。もっとあったかも知れない。


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 それは昼過ぎにこと、宅配便のお兄さんがなにやら重そうな荷物を持ってピンポ〜ンっと来た。ぼうずコンニャクがその荷物を受け取ると腰が抜けそうになった。だがなんとか堪えて、エンヤラヤノウヤっと唄いながら、大きな玉手箱を開けると、そこには、マ、マ、マ、マダラトビエイ君が入っていた。
 これは高知市の浦戸湾で漁師の永野廣さん、昌枝さんの刺し網に、哀れにもかかってしまったものじゃ。そう言えば去年のは100キロあったそうだから、親の敵を討ちに来たのかも知れぬ。言うなれば返り討ちにあたんじゃな。哀れなことよ。永野夫妻も無益な殺生は大嫌いなんじゃ。エイの国の殿さんよ、浦戸湾に入ったらいかんという法律でも作るんじゃ。あたら若い身を、惜しいな。
 そして宅配便に乗せられて100里の旅。「おう、これがマダラトビエイか!」なんて言われながらパシパシ撮影されて、挙げ句の果てにはヒレをバッサリじゃ。顔を真っ赤にしてヒレの皮を剥ぎながら「これ食えるかな」なんて、まことに人間とは残酷な生き物だな。
 最後に、若きマダラトビエイ君よ、成仏しなされよ!

madaratobieni.jpg

高知市の永野廣さん、ありがとうございました。
涛y佐の廣丸へ
http://www.zukan-bouz.com/zkan/hiromaru/index.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

「お父さん、イワシが一匹3000円だってニュースやってるよ」と子供が呼びに来た。忙しいのでニュースは見なかったが、本当に3000円という値段がついていたんだろうな? と昨今のイワシの値段を見ていてそう思った。先月の八王子でのイワシの最高値は4000円(1キロあたり)である。この同じ日のキチジ(きんき)のキロ当たりの値段が3800円だからそれを上回ったのだ。ちなみにキチジはもっとも値の張る魚の代表選手である。
 気になって築地の尻高鰤さんにマイワシの最高値を聞いてみた。すると「相対取引(競りをしないで話し合って値を決める)ながらキロあたり7500円見当かな。まあこれで突出した値段が出ても(キロあたり)8000円だろうね」という。この高値を呼ぶマイワシというのが大羽イワシと呼ばれる大型のもの。24〜5センチ、230グラムから250グラムのもの。これなら5キロで25匹入っているわけで1箱4万円として1匹2000円である。これは荷受け(全国から魚貝類を集めてくる会社)での値段であり、仲卸(卸)で利潤を乗せる。高すぎる物にはあまり利潤は乗せられず、けっして得にはならない商売であるが、1匹2000円代の前半、2500円くらいにするとして、小売りでは3000円以上になる。とするとニュースは正しいということになる。でも正しくないんだね、これが。
 だいたい1匹250グラムというのは特別なマイワシである。築地だと店先に飾って拝みたいくらいの代物。この特の上の特上でマイワシの値段を考えるのはおかしいのだ。この特上の真下はせいぜいキロあたり3500円(魚体もやや小振りなので一匹700円)ほどだ。しかも春から初夏はマイワシの味がいちばん落ちる時期。産卵期の大量に漁獲しても卵を抱えたまずいマイワシが出回る。そして産卵後、脂も漁獲量も落ちているのが今なのだ。この時期に特のつくマイワシを食うなんて愚か者だ。賢い料理人は当然そんなものはやめて、旬とは関係しない、しかも味のいい小イワシ(小羽 50〜70グラム15センチ前後)でよしとする。これならキロあたり600〜1200円である。仮に高値の1000円だとしても高くて一匹70円なのだから、初夏には小イワシを食えということだ。そして6月下旬にはマイワシの値段も沈静化する。うまい時期に、あまり無理をしないで食いましょうね、うまいものは。
 渡辺栄一の名著『江戸前の魚』に「マイワシの旬」という項がある。そこにいちばん脂ののってうまい時期は6月下旬から1月までとある。しかも漁獲量と合わせてもマイワシは夏から秋にかけての魚なのだ。またマイワシは一定の周期性をもって豊漁、不漁を繰り返しているとしたら、今がどん底。マイワシを食べる時期にもっと気を配れば一匹3000円のマイワシに驚く必要もないというのがわかる。
 また、この高値に浜は決して喜んでいるわけではない。結局とれないのだから、浜の寂しさは変わらない。この詳細は気仙沼のmakoさんのブログにも出ていた。しかし浜値でキロ/5500円というのはダレが買うんだろうね。

maiwasitakane.jpg

アングラな魚日記
http://macoco.at.webry.info/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、2006年6月以降に書かれたブログ記事のうち食べる魚類学カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは食べる魚類学: 2006年5月です。

次のアーカイブは食べる魚類学: 2006年7月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。