食べる魚類学: 2007年12月アーカイブ

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 ヒラという魚がいる。どんな魚かと問われると、ニシンをもっと平たくして、大きくしたようなもの、と言ったらわかっていただけるだろうか? この魚の難点は小骨が多いこと。真骨類という我々が一般に「魚」と思っている生き物では原始的なものほど小骨が多い。そのもっとも原始的なニシン、イワシの仲間であるヒラには三枚に開いて神経棘、上神経棘、上椎体骨、上助骨、助骨とボクなど、なんど憶えようかと思い立っても、憶えきれないほどの骨棘が身にはある。

 ヒラはこの国の暖かい黒潮さすところならどこでもとれる。大きいし、銀色できれいなので、うまそうに思えるが、ほとんど総ての地域で小骨が多い故に単なる雑魚でしかない。極端な物言いをすると「捨てられ兼ねない魚」だといえよう。
「味はいいんだけど、この骨がねー」
 数年前に大阪中央市場で見つけると、仲買がすかさずこう言ったものだ。
「そうですね。ボクも何度か食べてみようと試してみたんですけどダメでした」。
 食べてまずいというわけではない。三枚に卸して骨を避けながら刺身にすると惨めったらしい代物とはなったが、味わい深いし、脂があるのか甘味がある。でも細切れの破片を拾って食う気にもなれず、「ヒラ=まずい魚」ではないが、「ヒラ=食べがたい魚」と、まあ敢えて食べることもないだろう思い込んでしまったわけだ。

 岡山に今夏行くまでは「ヒラ=食べがたい魚」という既成概念がボクの頭にしっかり突き刺さっていた。それがどうだろう、岡山中央市場にはヒラが溢れていた。なんとヒラは岡山の初夏の風物詩ともいえる魚なのだ。
 場内仲卸で、ヒラを三枚に卸したものを、ほんの1ミリほどの幅で切っているのを見た。そして既に切ってあるのを買って食べてみたのだ。これがまことにうまい。市場内に溢れていたヒラは産卵のために瀬戸内海に入り込んできたもの。だから決していちばんうまい時期とは言えないのだという。それでも薄くヒラヒラした身を箸でつまんで口に放り込むのが止められない。
 それこそ花びらのように薄く切っていたのは小骨を断ち切るためだ。こうすればニシン目の軟らかな神経棘は舌にも口にもあたらない。

 さて、今回のヒラは鹿児島県南さつま市笠沙のもの。送って頂いた定置網漁師の若潮さんによると水揚げされても競りの対象にもならない魚だという。だから値段はただである。
 岡山県でみたものと比べると小振りで体長45センチほど。味の期待はしないまま三枚に卸す。
 そして我が家でいちばん良く切れる柳刃で幅1ミリ以下に切り離していく。薄い切り身はまとめると皿の上でふわりと小山をつくった。
 これがまことにうまかった。ヒラとしてはまだ若魚であるのに、脂ののりも上々、無造作に箸でつまみ口に入れた途端に脂が広がり、甘味となり、そして青い魚独特の濃厚な旨味がくる。

 うまいヒラを食うたびに、岡山県人はなんとうまいものを知悉していることよと感心する。またその鋭い嗅覚を作り出したものは、間違いなく瀬戸内海にあるとも思い至る。

わかしおさんの「お魚三昧生活」
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ヒラへ
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茹でてザルに揚げたところ

「なまり節」とは節(かつお節、そうだ節などの総称)を作る工程で煮て、それをザルなどにあげる。それをある程度乾燥させたものをいう。

 節を一般家庭で作るのは決して難しいことではない。例えば、煮て、燻製にして、良く乾かせば出来上がりというもので、要するに至って簡単な工程でしかない。
 こうやって作ったものを「あら節」といい削れば出しがとれる。それでも作るとしたら十日以上かかるので、暮れの慌ただしいなかで、簡単そして、直ぐ出来上がる「なまり節」を作ることにする。

●作り方
1 マルソウダを水洗い。(注/「水洗い」とはウロコ内蔵などを取り、水洗いすること。これ以降、原則的に魚は洗わない)
2 三枚に卸す。
3 皮は引かないでそのまま、熱湯で完全に火を通す。(ゆで汁は、トマト煮込み、カレーなどにも利用できる)
4 ザルなどに上げてあら熱をとったら、腹骨、血合い骨を毛抜きで抜く。
5 これを冷蔵庫、もしくは外で1日干す。
6 干し上がったら出来上がり。

 自家製なまり節を作っていちばんお勧めなのが、塩コショウしてニンニク風味のオリーブオイルで焼く。
 軽く焼く、もしくは揚げて、カレーを作ってもうまい。この場合、ゆで汁は捨てないでカレーに使うといい。カレー以外にもトマト煮込み、中華煮込みにもいい。
 また煮つけにも、マヨネーズと和えてもサラダにと大活躍するだろう。
 余ったら1週間くらいしか保たないので、必ず冷凍保存すること。

 さて、なまり節はいろいろ使えて便利な食材である。最近では消費が落ち込んでいるというのを聞いたことがあるが、もったいないねー、こんなにうまいし、便利なのに。

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 九州から宅急便で25センチ前後のメジナが4匹とどいた。北九州の釣り師黄幌型さんからのもの。
 黄幌型さんはかねがね、大分の寒メジナのうまさを書いていて、ボクもいちど食べてみたいものだと思っていた。

 黄幌型さんは「靴底サイズ(この表現面白い)」という表現をしている、やや小振りのものだけど、ワタを抜いた腹にはべったりと脂がついている。

 この刺身がいい味だった。さすがに寒のメジナはクセがなく、身も美しい。そして皮近くに均質に含まれる脂が甘く、そして全体に旨味がある。

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 八王子総合卸売センター『市場寿司 たか』で握りに仕立てて、これまた食べてみたが絶品。この味はボクよりも、たかさんが惚れ込んだようだ。
 この大分磯釣りのメジナ、『市場寿司 たか』で食べられますので、お試し願えるとうれしい。

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 私もたかさんも味の良さは太鼓判を押します。

 このうまいメジナを送っていただいた黄幌型さんに感謝。

八王子の市場に関しては
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小虎もうまいなー!

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 小虎(小振りのトラフグ)が手に入って、まずは下ろす。白子はなくて、身とヒレ、皮。残念ながら皮から「遠近江」をそぎ出すのは諦めて捨ててしまう。時間があって、まな板に貼り付けた皮を包丁で研ぎ出していくと「遠近江」はとれなくはないが、やはり素人の悲しさで時間がかかるのだ。後は頭部から目、脳みそをきれいに取り去る。これで毒の除去はできたことになる。

 身は三枚に卸して布巾にくるんで冷蔵庫へ。粗で小鍋仕立てのちりとする。たまたま冷蔵庫にあるだけの白菜と豆腐。大根おろしに八王子総合卸売センター『さくら』の唐辛子味噌(ここのは味噌が入っているわけではなく、唐辛子をすり下ろして寝かせたもの)、万能ネギ。

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 時はそろそろ10時を回っている。今日は燗酒にして、煮えるそばから粗をシャブリ、豆腐を食い、柚を数滴落とした汁をすすって孤食を楽しむ。
 この小鍋仕立てで飲む熱燗はなんともうまい。
 当たり前だけど小虎は小といえども味は濃く、汁にもたっぷり旨味が溶け出している。

 翌日、夜は小虎刺し。やはりフグの身は一日寝かした方がいい。余分な水分の抜けた身はシコっとして、旨味がジワリと浮き上がる。

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 本日の酒は冷や。用意した柚も浅葱も不要であった。

●柚は海老名の海老さんからいただいたもの。感謝感激しております。
●器は岡山県倉敷市の武内立爾さんにいただいたもの。この頃、この皿に盛るのが楽しい。

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 寒くなって、うまくなる魚は多いのである。人に言わせると「冬にまずくなる魚はないだろう」というくらいで、市場で魚を見ていても欲しいものばっかりで困る。なかでももっとも魅力的な魚がヒラソウダである。
 この皮下に真っ白な脂の甘いこと、そして赤身ならではの旨味。
 和歌山県串本から入荷したヒラソウダ、なんとキロあたり500円というのを見て、居酒屋のオヤジが呟いた。
「これカツオと比べてどうかなー?」
「“どうかなー?“。失礼な。無礼ものめ、下がり居ろう」
 ボクはヒラソウダの家臣、まるで助さん・角さんのようになって一喝する。
「おいおい、おい、一食ったら。このお方の偉さがわかろうってものよ」
 こんなやりとりに安すぎるヒラソウダはあっという間に八王子総合卸売センター『高野水産』の店頭から消えてしまった。

 それで残ったのが一本だけ。失敗したなーもー。
 ヒラソウダは下ろすそばから包丁にべったりと脂をつける。その包丁を引くのが重いこと。半身を刺身にすると、出すと同時に一切れも残らず消え去る。そしてまた半身。

 ヒラソウダを酒の肴にというお父さんの目論見は露の如く消滅。後の2切れだけいただいて、欲求不満のため酒を過ごす。

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 松尾芭蕉の句に「あら何ともなや きのうは過ぎて ふくと汁」というのがある。この芭蕉の「汁」が現在で言う「鍋」であるとされているが本当だろうか?
 ボクは「鍋」ではなく、文字通り「汁」なのではないかと思っている。だとしたらその「汁」とはどのようなものだろう。勝手な思い込みかもしれないが「みそ汁」に違いないと考えている。(注/松尾芭蕉1644年〜1694年が活躍したのは元禄期。この時代まだ関東での醤油醸造は盛況ではなく、また醤油自体が高価だったなどの考察はここでは置く)
 あまり根拠のない説なので、真面目に考察されても困るのだけど、とにかくボクの直感である。「みそ汁」は日本酒にとても合う。「きのうは過ぎて」を現代語訳すると「昨日は飲み過ぎて」であるから、「汁」はまた酒の肴でもあったはず。松尾芭蕉は「きのう」仲間と一緒にフグのみそ汁で酒を過ごしてしまったに違いない。

 ボクが酒場に行って常々不満に思うのは、鯉料理の店はともかく一般に「酒の肴としてのみそ汁がない」ということ。例えば東北・北海道などの市場の食堂でみそ汁をお願いすると、ジャガイモ、ニンジン、大根などを放り込んだカジカのみそ汁が出てくることがあった。これが何度も煮返して、見た目は決してよろしくない。でも煮返すことで、汁に旨味が出て、とても濃厚にうまいものになっている。そして、このみそ汁を飲むと、ついつい酒が欲しくなる。ましてや「ふくと汁」の旨さはカジカよりも数倍上。だから酒の肴としても断然上なのだ。

 仕事で遅く帰った日、なかなか直ぐに寝付けるわけでもない。そこで日本酒、例えば高知県の『酔鯨 特別純米酒』などをコップに満たして、さてアテは何にしようかな? と冷蔵庫をのぞく。
 見つかったのがマフグのみがき(毒を除去したもの)1匹分。囀りを切り取り、適当に切り、湯通しする。付着した粘液をよく取り去って、昆布とともに水を張った鍋に放り込む。ここに味醂を少々。
 2杯目の酒をコップに満たして、鍋のコトコトいうを見る。待って待って、出しが出たなと思ったら仙台味噌を溶き入れる。この酒の肴としてのみそ汁には麦麹はダメ、愛知の豆麹豆味噌もダメなら、白みそもダメだ。あえて選ぶとしたら江戸の甘味噌、信州の赤みそ、京都の桜味噌、そしてボクとしては仙台味噌がいちばんいい。
 味噌を溶き入れても、もう少し我慢してコトコト煮ていく。そしてやっと椀にとったら、ネギを盛る。決してネギを汁の中で煮てはいけない。

 味噌というのは不思議なもので、濃厚な汁もさっぱりさせる。また味噌自体は旨味もあるのに、その塩味自体は単味に近いように思える。だから酒の肴としては、日本酒の後味を適度に洗い流しながら、また酒をやる、そういった飲み方になる。

 寒に旬を迎えるフグ。汁にすると旨味がたっぷり出る。また旨味をたっぷり放出して、まだまだ身自体もうまい、これが不可思議でならない。

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 広島県倉橋島の日美丸さんからの荷物には小振りのクロアナゴも入っていた。小振りといっても、大振りのマアナゴくらいはある。
 これをどうしようと思案しながら開き、その脂がありそうな真っ白な身を見ている間にハモのように「ちり鍋」にしてみようと思い立った。それでこの日、夕食の主菜は「クロアナゴのちり」となる。

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 クロアナゴもこれくらいの大きさなら骨も細く軟らかい。骨切りするに、ハモよりもむしろ手応えは弱いくらいに、包丁が身に沈み込む。これを熱湯に放り込み、花びらのように開かせて、冷水にとる。味見すると、思った通り、脂がのっていて、口の中でホロリと崩れる。

 当日は塩焼きも食べてみたかったので、鍋材料としては寂しい。だから白に白を足す形で「すけ白(すけしら スケトウダラの白子)」を助っ人にして、芹、タモギタケ、他いろいろ。
 クロアナゴというと大きなものばかりに当たってきたので、いつも悪戦苦闘していた。それがこのサイズならハモに負けず劣らず美味だ。これは最近の一大発見である。

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 鍋の後に焼いた塩焼きもうまいものであった。雑炊に満腹となった家族を尻目に酒の肴としてゆっくり味わって食べることが出来たのも幸いした。やはり「酒はしずかに飲むべかりけれ」だな。

広島県倉橋島『日美丸』へ
http://ww5.enjoy.ne.jp/~kogera0401/
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 八王子魚市場に着いた途端目に飛び込んできたのが、見事な「むき鮫」。これは北の海に多いアブラツノザメのはらわたを出し、厚い皮を剥いた物である。
 産地は青森、そして「むき鮫」と言えば田向商店だ。アブラツノザメは東北では普通のサメであり、高級な練り製品などに使われる。けれども大型で見事なものは鮮魚としていろいろ料理に生かせるのだ。

 我がサイトでお馴染みの田向さんが出荷してきたアブラツノザメの特徴は、触るとわかるほどの脂ののりである。そして身色のきれいなこと。
「これ一本買うよ」
 言ったものの既に売却済み。ちょっと残念であるが、これからどんどん出荷してくるのだろう? さて煮つけにムニエルに、フライに、いろいろ料理法を考えて待つかな?

青森県青森市「田向商店」
http://www.tamukaisyoten.co.jp/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アブラツノザメ
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 八王子魚市場内『源七』の若だんなにメカジキの切り落としをもらって、普通は煮つけて晩酌のアテにするのだけど、主夫としてはたまには子供にこびた料理を作らなきゃならない。ということでメンチカツ風にフライを作る。
 作り方はいたって簡単至極。
 メカジキをとんとんと包丁でミンチ状にする。
 玉ねぎのみじん切りをフライパンで炒めてさましておく。
 メカジキのミンチ、炒め玉ねぎ、ほんの少しの牛乳、セロリの青い部分、塩、ナツメグ、コショウ、小麦粉少々を良く混ぜ合わせる。

 これにパン粉をつけて揚げるだけだ。できるだけ揚げたてを食べて欲しいのでお父さんは台所。家族は食卓で揚がるのを待っているというのがベスト。

 これはあまり魚臭くない魚料理でご飯にもパンにも合う。またメカジキの切り落としは脂がのっているので、揚げたてはトロっと軟らかく、味に膨らみがある。
 お父さんは太郎にお願いして、一個だけ分けていただき発泡酒の友とする。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、メカジキへ
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 広島県倉橋島の日美丸さんからキキョウニシをはじめ、いろんな魚貝類が送られてきた。そこに飛びきりの「はまち」と小振りのクロアナゴがはいっていた。
 瀬戸内海で「はまち」というのは決して養殖ものという意味ではなく、出世魚ブリの40センチから60センチほどのをさす言葉だ。
 この「はまち」、日美丸さんのメールでは「いなだ」とあった。「いなだ」は主に神奈川県相模湾で30〜40センチ上くらいまでの若魚をさす言葉。広島県倉橋島では関東での「わらさ(ブリの50〜60センチほどのもの)」クラスを軽い気持ちで「はまち」と呼ぶらしい。

 この持ち重りのする丸々と太った「はまち」を水洗いして、三枚に卸し、当然のごとく刺身にする。

 そのとき、遠く20年前の初めての「わらさ釣り」のことを思い出す。場所は千葉県館山市相浜。ハリス5号の一本バリ片天秤のコマセ釣り。船中初っぱなから「わらさ」がかかる。これはどう見ても50センチ上の見事なものばかりで、ドキドキしながら「次はボクかな?」なんて、待っても待っても「わらさは来ない」。やっと来たのがホウボウ、そして小マダイ、イサキにイスズミ。船中では「わらさ」、カツオまできて、次々にグイーンと釣り竿が曲がっている。豪快だ。うらやましい。
 どうやら上がりの時間となり、唯一「わらさ」に見放されたのがボクだけらしいということで船頭が気にしてときどきタナを見に来る。そしてやっとやっと来たのが「いなだ」なのである。そのサイズからしてとても「わらさ」と呼べず、よく言っても「いなだの大きいヤツ」なのに、船中みんなで「よかったなー。わらさが来て」なんてなぐさめてくれたのだ。
 この悲しい釣行を思い出したのは日美丸さんが釣り船だからだ。そのホームページを見ると「わらさ級」を2本も3本も釣り上げた人がいる。「ああ、こんなに釣りのうまい人もいるんだな」と悲しい、そして惨めな気持ちになる。そしてボクも立派な「わらさ」、倉橋島での「はまち」が釣りたいなー、と切望。その内、日美丸さんにお願いして「はまち釣り」したいなー、とも考えるのだ。

 閑話休題。
 三枚に卸していると包丁にべっとりと脂がついてくる。確かに日本海のブリほどではないが、まことに「うまそうだ」。これを平作りにして冷蔵庫に一時保存。
 アラを出刃でとんとんとバラしていく。これをボウルにとり、大量の塩をまぶし、待つこと暫し。アラの切り身が汗をかいてきたら、湯通し。冷水に取り、汚れ、ウロコなどをきれいに洗い流して、下ゆでした大根とともに鍋に放り込む。たっぷりの水に酒と砂糖少々。火をつけてコトコト沸いてきたら丁寧にアク取り、しょうゆを加える。
 このままひと晩煮る。

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 夕食の「はまちの刺身」がうまい。それはまさにうまい刺身であって、「脂がうまい」のではない。魚本来の味がいいのだ。

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 ちょっといい気分になって、翌朝のこと。「はまち」のアラは骨まで軟らかくなり、大根は色づいてメノウのように見える。大鉢に盛り、食卓に出すや大根の争奪戦が始まる。これは不思議なことではないだろうか? 料理としては「ブリ大根」なのだから主役は魚の方であって、大根ではない。でも大根があっという間になくなって、「はまち」を食べているのは大人だけとなる。その内、妻までが大根のとりこになってアラはボクが食べる係になってしまったようだ。実際アラだってうまいのだけど、「はまち」の旨味を吸い込んだ大根はもっともっとうまいらしい。

 日美丸さん、ありがとうございました。

広島県倉橋島 日美丸
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 朝方の冷え込みが厳しい。そんな市場の片隅に積まれている荷から赤い尾ビレがはみ出している。三重県から入荷してきたオアカムロだ。
 アジ科ムロアジ属に種は多い。しかしほとんどが加工用となり、漁獲量の多い割に市場で見かける機会が少ない。そんななかではオアカムロは市場への登場回数の多いもの。

 旬は寒い時期。秋になり、そろそろ霜の季節だなというときになると途端に脂がのってくる。

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 旬は寒い時期。秋になり、そろそろ霜の季節だなというときになると途端に脂がのってくる。
 三重県産というオアカムロを選る。脂は皮下に層になっており、魚体を触るとウロコを通してもぬらっとして存在が感じられる。そして出来るだけ大きいものを2本買い求める。これが2本で1キロ200グラム。値段は600円ほどとなる。
 この一本を『市場寿司 たか』に持ち込み、握りにして味わい。一本はその場で開いて、塩をして、ひと晩寝かして干物にする。

 この握りがうまかったのだ。オアカムロは鮮度が落ちやすいので買い求めたその日だけ、刺身になる。また難点が多い魚でもある。たかさん曰く。
「血合いが大きいわね。それに身の色合いも赤っぽいしね」
 握りをじっくり見ても、その半面近くが血合いだ。そして身にやや酸味を感じるのも血合いのせいだ。
 でも握りの味はいいのだ。酸味さえ気にしなければ脂がのって、その甘味が感じられるし、回遊魚ならではの旨味の多さもある。

 さて、師走になって生のうまさを確認。後は干物が出来上がるのを、冬晴れの空を見ながら待つのみ。

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