食べる魚類学: 2008年5月アーカイブ

same0805333111.jpg
●クリックすると拡大

 市場に到来する魚は発泡スチロールの箱にはいっている。
 ある日、八王子魚市場で見つけた箱はパッチが粘液でべとべとして、そのなかに薄汚れた魚が投げ込まれていたのだ。
 これをみつけて「やったー」と叫んだのはボクだけだったようで、横に〈サメガレイ3尾3.14〉とかかれた中身はだれも触った様子がない。
 荷主が北海道羅臼の『鈴木シーフーズ』であるというのも魅力を感じるところ。
 このサメガレイの値段がキロ当たり700円しかしない。
 値段の安さに喜ぶとともに荷受けや仲卸の勉強不足にも驚かされる。
 サメガレイは見た目は悪いがもっともうまいカレイのひとつなのだ。
 ベトベトするのを1本取りだして、量りにのせると、「これ買っていくの?」と近海担当が声をかけてくる。

 持ち帰ったサメガレイは、まずは粘液をタワシで洗い流す。流水で洗うのだけど、排水溝がつまるほどに大量の粘液が出てくる。
 粘液の下にあるのがザラザラ、トゲトゲしたウロコである。これをして「鮫鰈」となったわけだ。
 表は硬いウロコ、裏面はブヨブヨして薄汚れている。
 これを5枚におろしていくと、出てくるのが白濁した身なのだけど、これはいたってきれいなもの。
 このギャップが面白い。

 どうして身が白濁しているかというと、この身に食い込んだ微少な粒子ひとつひとつが脂なのである。そしてこの脂に甘味がある。
 鮮度さえよければ、サメガレイの刺身は最上級のもの。
 でも今回のものは刺身ギリギリという鮮度で、思い切ってフライを作る。なんだフライか? と侮るなかれ。フライにして美味な魚、まずいものがあり、サメガレイは「美味なものの代表格」なのだ。

same0805333222.jpg
●クリックすると拡大

 フライは5枚にしたフィレを適当に切り、塩コショウしてパン粉をつけて揚げるだけだから、ここで書くこともないだろう。
 さて、どうしてサメガレイのフライが素晴らしいのか?
 食べてみるとすぐにわかることなのだけど、サメガレイの脂たっぷりの身は、高温に晒されると一度溶ける。
 溶けた脂は中で揚げ油のような働きをするが、けっして全部外に出るわけではなく、多くは身の中にとどまるようだ。
 すなわちパンを作るときのショートニングのような役割を演じるのだ。
 しかもサメガレイにはたっぷりの旨味があり、例えば一般的なスズキ、マダラ、スケトウダラなどとはひと味違ったフライになる。
 たっぷりのフライは家族用、さてボクは粗(あら)を煮つけにする。この粗の煮つけだけはお父さんの取り分となるのだけど、フライよりも価値が高いと考えている。
●ぼうずコンニャクは“珍しい魚や、人知れず美味な魚をどんどん料理して利用してくれる料理人”を応援するのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サメガレイへ
http://www.zukan-bouz.com/karei/karei02/samegarei.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

ayameaaa0805.jpg
●クリックすると拡大

 JF長崎漁連東京直売所は築地に行くと必ず立ち寄る場所。ここには長崎県産の魚が毎日のように入荷して、おいしい魚、珍しい魚がたくさん並んでいる。
 中には毎度お馴染みの魚種があり、例えば「れんこだい(キダイ)」、そしてヒラマサ、「のどぐろ(アカムツ)」、マアジに「くろ(メジナ)」などなど。そのお馴染み魚の高いもののひとつが「あらかぶ(アヤメカサゴ)」なのだ。
 関東では「本かさご(カサゴ)」ほどには知られていない。むしろ鮮やかな山吹色からカサゴよりも一段下に見られていそうだ。

 西日本に多い魚で、当然長崎県などでは高級魚の代表格になる。
 カサゴならではの白身で、刺身、塩焼き、鍋物(ブイヤベース)などどのように料理してもうまい。
 今回は店長の入江さんに、小振りで姿のいいものを選んでもらった。
 アヤメカサゴの「文目(文様)」を再度撮影し直したかったからだ。

 さて、この小振りのアヤメカサゴをどう料理するか?
 子供達が待っているのが、唐揚げである。
 姿のまま背割りにして、中骨を取る。
 中骨、本体の水分をよく拭き取り(冷蔵庫などでラップをしないでしばらく置いてもいい。乾燥しすぎないように気をつける)、片栗粉をまぶして低温で揚げる。
 じっくり揚げたら、一度取りだして、こんどは高温の油でからっと揚げる。
 カサゴの骨は硬いので、どうしても二度揚げしないと「骨まで愛せない」。
 揚がったら、塩をふって出来上がり。我が家は子供がいるのでコショウは振らないが、これは好みにて。

 数ある魚の中でカサゴ科の唐揚げほどうまいものはない。
 面白いのは、白身なのに、揚げてもぱさつかず、表面の香ばしさの下には、しっとりした白身がたくさんのジュを保持している。
 だから香ばしい、そして白身がうまい。香ばしい、白身がうまいの繰り返しになる。
 ときどき鰭(ひれ)や頭部をまるで煎餅のようにパリパリ楽しみながら、カサゴ一匹は数分で食卓から消え去るのだ。

JF長崎漁連東京直売所はここから!
http://www.pref.nagasaki.jp/tokyo/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アヤメカサゴへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/kasago/ayamekasago.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

花鯛が旬なのだ!

0

tidai0805333.jpg
●クリックすると拡大

 関東ではチダイを「花鯛(はなだい)」と呼ぶ。これは花のように美しい色合いの魚という意味合いもあるが、マダイよりも小振りで可憐という比較の意味なのだと思っている。他の地域では「ちこだい」、「ちこ」などと呼ばれるが、チダイの呼び名の謂われと同様「小さい」を表している。
 市場ではマダイと比べると大きさのせいもあって安い。安いのだけど、江戸前寿司にはなくてはならぬ種であり、関東では主役級と言える魚。

 せっかく旬を迎えたのだから八王子魚市場にて一本買い求める。かなり上物で銚子産(千葉県銚子市)、キロ当たり2000円は最高値に近いだろう。値段が高いので情けなくも1本だけなのだ。
 さて、そろそろ刺身でもいけそうだ。そう思って刺身にしてみる。

 チダイは原則的に皮霜造りにする。
 三枚に卸して、血合い骨を抜き、皮に切れ目をいれて、熱湯をかける。
 すぐに氷水に落として、よく水分を切る。
 これはなかなか悪くない。でも350グラムという中型では、生では旨味が弱い。
 それで酢洗いとする。
 血合い骨を取るところまでは皮霜造りと同じ。
 ここに強塩をして水分を浮かせる。
 これを酢で洗い流す。
 これだけで生よりもぐっと旨味が増すのだから面白い。
 
 花鯛の酢洗いは、まったく酒肴でしかなく、日本酒、もしくはシャブリなど辛口の白ワインだけのために存在する。
 ということで本日は辛口の「土佐鶴」を一献。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、チダイへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki2/taika/tidai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

ainame080511.jpg
●クリックすると拡大

 木の芽時になると食べたくなる魚の筆頭にくるのがアイナメ。
 これから夏にかけて、毎日食ってもあきませんなー。
 活けなら洗い、刺身。
 この真っ白な身のどこに、こんな甘味のある脂があるんだろう、と不思議に思えるくらいだ。
 粗(あら)は潮汁にする。

 アイナメの和名の由来は「愛な魚」。
「愛」は愛でるだから、そのまんま「うまい魚」の意味となる。
 広島県など瀬戸内海に「籾種失(もみだねうしない)」という呼び名もある。
 これなどアイナメがうますぎて、籾種(稲などの種)を買うために残して置いたお金まで使い果たすということ。
 だれが食べても、これほどうまい魚はない。

 さて、本日のアイナメ料理は焼き物である。
 我が家の山椒(サンショウ)の木は小さくて、毎日2、3枚ちぎったら、そのうちに丸裸になってしまうほど。
 そこからなんと4枚も切り取って、小さく刻む。
 醤油(しょうゆ)と味醂(みりん)を同割にしたものに、身側に切れ目をいれたアイナメをつける。
 このとき風味づけに使うのが4枚の山椒なのだ。
 これをやや強火で焦がさないように焼き上げる。
 アイナメを焼くのは短時間でいい。
 味醂と醤油が少し焦げたら、慎重に皿に盛って、出来上がったのが「アイナメの木の芽焼き」である。

 アイナメは熱を通すとより身の甘さが感じられ、より旨味も増す。そこに香ばしい味醂と醤油の味が来て、山椒の香りがぷーんと鼻に抜けるのだ。
 これこそは完全無欠なる皐月の酒肴だ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アイナメへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/ainame/ainame.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

munier080524.jpg
●クリックすると拡大

 そげ(ヒラメの一キロ以下)を買い求めた。
 産地は不明だけど、活けじめにされたもので鮮度抜群。
 当然、刺身だな。その日は、そう決めてしまって、夕方を待っていたら突然仕事が舞い込んできた。
 ゆっくり夕食をとるなんてできそうにない。
 その翌夕のこと、さすがに「そげ」には活けじめの弾力はほとんど残っていない。
 これでは刺身にしても意味はない。
 久しぶりにムニエルをつくろう。

 ヒラメを5枚に卸す。
 今回は皮を引く。これは好み、気分の問題。ちなみにボクは皮つきが好き。
 塩コショウする。
 少し置いてから、小麦粉をつける。
 テフロンフライパンにニンニクを放り込みマーガリン(なんとバターがない)を溶かす。
 これをこんがり焼くだけ。
 デグラッセはマデラー酒を使った。とうぜん少し甘めのソースになる。

 やはり「ヒラメのムニエルはうまいなー。でもどうして我が家の冷蔵庫にはバターがないんだろう」なんて思う。世に言うバターの品薄現象が我が家を直撃ということ? もしくはお金の問題か?
 またマデラー酒よりも辛口の白ワインでデグラッセした方がよかったかな。もしくは最近ストックが切れているフィメ・ド・ポワソン、また作っておくべきだな。
 ヒラメのムニエルを作るだけでもいろいろ考えさせられることは多い。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ヒラメへ
http://www.zukan-bouz.com/karei/hirame/hirame.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

amimonn08051.jpg
●クリックすると拡大

 年に数回どっと押し寄せるように入荷してくる魚がある。例えば目立つものだとサンマだし、ゴマサバ、ときに東北のウマヅラハギ。
 そして目立たぬまでも、突然どっと来襲することで気に掛かるのがアミモンガラである。コイツは海を大挙して泳いでいるようで、まとまってとれてしまう。きっと港でもこの魚がとれると、それこそてんやわんやではないだろうか?
 アミモンガラはなぜだろう、頭も皮もとられて、鰭(ひれ)と胴体だけになって入荷してくる。しかも関東なら決まって銚子からくるもので、荷の表示に対する意識が非常に遅れている千葉県だから、丸裸の魚の正体が一向にわからなかった。そして予め、書いておきたいのは、これがアミモンガラだろうというのも鰭の形、位置と生息域から鑑みるもので、剥かれる前の姿を実験したわけではないということ。

 さて、剥くという手間をかけているのに、アミモンガラは非常に安い。この日は中型のマアジが800円(丸のまま)に対して剥かれた状態で500円(箱をばらすと600円 すべてキロ単価)なのだ。歩留まりからすると、ものすごく安い。

 これを買い求め、まずは『市場寿司 たか』に持ち込み。
 握りにして、
「うまかーねーなー」
 残念な結果となり。
 帰宅して、塩焼きにしたら、
「まずまず食べられるけど、もうひとつだなー」
 これも結果は芳しくない。干物にすればうまそうだ。
 それでムニエルにしたら、

amimonn080522.jpg
●クリックすると拡大

「ベリー美味ではないか!」
 大正解だった。

 この分ではフライ、煮つけもいけそうだ。
 とすると「アミモンガラは見つけたら買え!」ですな。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アミモンガラへ
http://www.zukan-bouz.com/fygu/mongarakawahagi/amimongara.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

aomeeso0805.jpg
●クリックすると拡大

 市場で「目光(めひかり)」と呼ばれている魚が2種類いて、まだ研究の途上であるように思われるのだが、銚子以北がマルアオメ、以南がアオメエソと思うのがいちばんわかりやすい。
 今回の「目光」が駿河湾産ということで、これは当然、アオメエソとなる。
 この地域による種の同定というのは心許ない。
 分類学者の方にはもっとわかりやすい検索方法を見つけだしてほしい。
 それほどにマルアオメとアオメエソは似ている。当然食べ方も同じ。

 今回、久しぶりに沼津魚市場へ行って、戸田の福徳丸さんに、たっぷりアオメエソをいただいてきた。
 その半分は『市場寿司 たか』に持ち込み、握りで堪能。
 さて、後の半分は、「どないしまひょ」。

 ここで思い出したのが福島県小名浜の市場食堂で出している唐揚げ定食。
 ご飯と魚の唐揚げが合うとは思えないので、とても注文する気にはなれない品書きだが、確かに目光の唐揚げはうまいよね。
 市場食堂の調理人が、無理矢理定食に唐揚げを差し挟みたくなった気持ちがわからないではない。

 それで、今回はおかずではなく、ビール(本物ではないけど)のアテに唐揚げを作る。
 アオメエソは頭を肛門から肩口に斜めに切り落とす。
 ワタを包丁でかき落とす。
 これに塩をまぶし、少し置く。水分が出るのでよく拭き取る。
 コショウを振り、片栗粉をまぶして、やや低めの油に放つ。
 これを170度くらいまで油の温度を高めたら、一度取りだし、よく油を切る。
 やや高めの油にもう一度もどして二度揚げをする。
 (実はコショウは揚げたての唐揚げに振る方がいい。でも残念なことに我が家は子だくさんなのだ)

 アオメエソの唐揚げは、あまりにも月並みな料理だ。
 これが月並みに思えるのは、それだけうまいからに違いない。
 どうしてアオメエソがこれほど唐揚げに向いているかというと、原始的な魚で、骨も鰭(ひれ)も総てが柔らかい。柔らかいから揚げると丸ごと食べられる。
 それでいて深海に棲息するがために、独特の旨味や脂を持っている。
 シャリっとかぶりつく、そこにまずは独特の皮目の風味が来て、白身だから淡白であるはずの身の部分からは、意外なほど旨味が感じられる。唐揚げとしてこれほど完成度の高い味わいも他にはないだろう。

 5月も半ばが過ぎて、なにがうれしいか、というと窓を開けたままにできることだ。
 出来れば一日中、窓を開けていたい。
 そして夕べとなり、アオメエソの唐揚げをアテに冷たーいビールを飲む。
 この狭いベランダには、近所の農家にいただいた、新種のミニトマトが実をつけている。
 そういえば、今日初めてカラスアゲハを見たのだった。
 季節は凄まじい早さですすむ。

 戸田の福徳丸さん、ありがとうございました。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アオメエソへ
http://www.zukan-bouz.com/hime/aomeeso/aomeeso.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

munier0805111.jpg
●クリックすると拡大

 アコウ、オオサガ、バラメヌケなど赤くて、大型のものを目抜類と呼びたい。
 そして今回の主役が岩手県からきたサンコウメヌケである。
 目抜類は魚類中もっとも高価なもので、普通仲卸でも3000円を切ることはない。小振りのものでキロ当たり2000円台なんてあると、やはり高値だとは思うもののついつい買い求めてしまう。
 このサンコウメヌケもキロあたり3500円なので1本で5000円以上する。これはなかなか買えない値段だ。それでも最近、目抜類を食べていないな、なんて思ったら買わないではいられなくなった。

 さて、このサンコウメヌケを使って作ったもの。霜皮造り(刺身)、鍋、頭部など粗の煮つけ、握り(『市場寿司 たか』)、ムニエル、塩焼き。
 これが全部うまかった。あまりの美味に幸福感に浸りきる、こんなことは年に何回もないほど希である。

 さて、ではどの料理がいちばんうまかったのだろう。
 つらつら考えてみるにムニエルなのだ。ムニエルにするか、ポワレ(粉をつけない)にするか、かなり迷った。
 でも目抜類の旨味を出来るだけ逃さないように、小麦粉をうっすらとまとわせて、太白胡麻油でゆっくりとこんがり焼く。

 皮目がかりっと香ばしく、ナイフでパリっと割れる。その香ばしい皮自体と皮下の脂の液化したものが、甘いでもうまいでもない、なんだか文字に代えようがない。
 身の適度に繊維質で口の中で、あまり抵抗せずに崩れていくのも甘美である。

 目抜類を毎日食べるのは無理だ。1週間に1度だって難しい。せめて1月に1度くらい食べたいものである。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サンコウメヌケへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/mebaru02/sankoumenuke.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

TOUJINN0805.jpg
●クリックすると拡大

 トウジンという魚がいて、深海性の、まるで「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる、ねずみ男のような不気味な面構えをしている。まあ、どちらかというときれいな魚じゃない。これを西伊豆では「げほう」というのだけど、たぶん漢字で「外法」なんだと思ったのはボクの独断である。古くは仏教以外の邪教、邪悪なものという意味合い。この悪相から、そんな連想をするのはありそうではないか。
 奇妙きてれつな魚だから、人に嫌われて、売り物にはならない魚であるように思われるかも知れない。ところがその逆なのである。この魚、少ないながら一部の業者に非常に人気が高い。なぜならば、例えば、魚屋である知人はこの魚を見つけると必ず買い求める。買い求めたら店頭のいちばん目立つところに、丸のまま陳列するのだ。こうすると道行く人が、立ち止まる、立ち止まる。その日は大繁盛間違いなしなのだとほくそ笑む。またもう一人、フレンチのシェフがいて、この魚のフリットなどをお客に出すのだけど、そのとき、写真をお客に見せて、「こんな魚はめったに食べられません」なんて説明しているらしい。強烈なインパクトを持つ魚というのも商業的価値が大きいということだ。

 さて、久しぶりの沼津魚市場だったので、この不気味なトウジンを一籠買い求めてきた。
 その大半を八王子総合卸売センター『市場寿司 たか』に置いて、帰宅して撮影。
 夕食には刺身にして出した。
 刺身にするときに肝心なのが、その肝である。

 沼津市戸田村の漁師さんたちはトウジンをみそ汁にする。
「わしらは漁からもどるだら、すっと必ずコイツをみそ汁にするだー。なんせ肝がうまいだから」
 戸田の底引きには乗り込んだことがあり、岸壁で待っていた引退した漁師さんに聞いた話だ。
 漁師さんは、身はほどほどに肝を集めてたっぷりみそ汁に放り込むというが、ボクなどにはそんな真似はできっこない。それで刺身にして、肝を巻き込んで楽しむことになる。

 身の淡白で味わいに欠けるのを、この濃厚な旨味を持つ肝が補ってあまりある。肝には旨味と脂からくる甘味が感じられる。
 この身はどうでもいいから、肝ばっかり食べたいと思うのだが、叶わぬ夢のようだ。

 さて、昨日が沼津での底引きの最終競り日であった。これから9月まで底引きの禁漁となる。
 次回、トウジンの刺身を楽しむのは9月までお預けである。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、トウジンへ
http://www.zukan-bouz.com/taraasiro/sokodara/toujin.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

satumakasago080514.jpg
●クリックすると拡大

 カサゴの仲間は同定(種を調べる)が大変。それで見つけるたびに買い込み、胸ビレをひっくり返したり、頭部の棘を丹念に見たりして、さんざん検索(種を探し出す)に苦闘する。
 苦労のかいがあって、種にたどり着けたらうれしいのだけど、ダメだったら、それはやっぱり現在の分類の世界では貴重なものであって、食べないでしかるべき機関に差し上げる、もしくは譲ることになる。
 そして種にたどり着けたら、待っているのが魚類中もっとも味のいい魚群であるから口福というわけだ。

 今回のサツマカサゴはカサゴ目フサカサゴ科オニカサゴ属でも比較的同定が易しいもの。これを八王子総合卸売センター『高野水産』で胸ビレをひっくり返して見ていたら、社長が一言、「あげるよ」なんて言ってくれる。社長、「ありがとう」ともらい受けてくる。

 胸ビレの裏側の文様から探し求めているヒメサツマカサゴでないことは、わかっている。
 わかっているので大急ぎで頭からまっぷたつに梨割りにしてしまう。
 そして振り塩。
 魚体を元の状態に閉じて、半日寝かす。
 これを開いて冷蔵庫で半日乾かす。
 この時期、天日干しは無理。
 むしろラップしないで冷蔵庫というのが、いちばん簡単にうまい干物が作れる。

 出来上がった干物を焼きはじめると、ほどなく脂がにじみ出てきて、ジューっと焼き網から煙があがってきた。魚の身が自分の脂で唐揚げになるような、そんな状態がいちばんいいのだ。
 こんがり焼き目がついたら、「さあ、食うぞ」と手づかみでアチチチ、アチチチチチチ。
 むしくった身のうまさに、興奮して、またむしくり。脂からくる甘さ、旨味の強さが、口の中を満たして爆発する。咀嚼していると鼻に抜ける甘い香りがあって、これでボクはダウンする。これほどサツマカサゴの美味の一撃は凄まじい。

 八王子総合卸売センター『高野水産』の社長に感謝。そしてサツマカサゴを育んでくれた和歌山串本の海に、サツマカサゴを漁りした漁師さんに感謝する。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サツマカサゴへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/fusakasago/satumakasago.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

岩手県からの八角

0

hakkaku0805133.jpg
●クリックすると拡大

 関東では八角という名前がすっかり定着している。標準和名のトクビレを知る人なんて皆無であろう。この八角も寒い時期なら値も張ろうけど、そろそろ単衣でいいか? なんて言うときにはぜんぜん値がつきはしない。今回のものは岩手県産だという八角でオスメス混ざり合って、しかも小振りだ。それで市場での値段がキロ当たり1000円ほど。当然、これも買いだね。

 八角(トクビレ)だけを狙う漁はない。たぶん底引き網の副産物なのだけど、冬にはキロ当たり2千円も3千円もするのだから漁師さんといてはありがたい魚だろう。でも高いのは寒い内だけ。しかも八角は、標準和名のトクビレすらも、本来オスをさす言葉なので、メスが高い値をつけることはまずない。
 じゃあ、安い時期の八角がまずいのか? というと、そんなことはない。市場で見つけて、触ってみて、張りがあって、鮮度がよければ先ず間違いなく美味。
 通ぶったヤカラが八角の旬なんてあれこれいうが、ボクが声を高くして言いたいのは「本気で通ぶるヤツはバカだ」ということ。「通ぶる」というのは「除外する」ことであって、心を狭苦しくするだけの愚かな行為。

 閑話休題。
 持ち帰った八角は素直に塩焼きにした。
 刺身でもいけそうだったが、この魚、焼くとすこぶるつきにうまい。
 まずは背から梨割りに開く。
 肝を壊さないように鰓とワタを取り去り、軽く汚れを洗う。
 水分をよく拭き取って、振り塩。

hakkaku0805144.jpg
●クリックすると拡大

 このまま1時間以上置く。よく塩焼きは20分以上塩をして置け、というが八角は脂が強いので1時間でも足りない。
 これを硬いウロコ側から焼いていく。そして身は強火で焼き。
 できたら熱々の内に一気に食べる。

 2匹ずつ焼き、どんどん食べて、6本食べ尽くすのにそんなに時間を必要としなかった。
 やはり八角は肝がうまい。ボクは肝の部分をもらって、酒の肴にする。子供達は尾の身の剥がれやすい部分を手づかみで食べている。身に強い甘味があるのは脂からくるものだろう。

 さて、いくら八角が市場で売られているといっても「普通は買えないでしょ」と思われそうだ。そんなことはない。千葉県柏市、我孫子市の京北ストアには発泡トレイに入れられてどんと冷蔵ケースに並んでいた。東京都八王子ではスーパーイシカワという食料品店の店主、石川栄二さんが箱で仕入れて行く。これが夕方には刺身となって店頭に並ぶのだろう。
 ことほどさように最近では珍しいと思う魚だって、探せば買えるのである。ようは身近な場所に優れた小売店を探す努力をすることだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、トクビレへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/tokubire/tokubire.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

tinumesi080513.jpg
●クリックすると拡大

 やはり、クロダイは安いな。5月13日は魚が少なくて、魚貝類の値もよかったのに活け締めにされたクロダイがなんとキロ当たり1000円しかしない。同じ店でマイワシがキロ当たり1000円であった。いかにマイワシの値が上がり気味だといっても、立派なタイ科のクロダイが同じ値段というのはおかしい。これでは漁師さんがかわいそうだ。気の毒に思いながら、それでも一本買い求めてくる。
 見事なクロダイで産地は讃岐香川である。最近、瀬戸内海のクロダイの入荷は目に見えて増えている。

 持ち帰ったら、まずは三枚に卸す。
 そこに強塩を振る。水分が出てきたら拭き取り、ベランダに干しておく。
 乾かすこと2時間。無駄な水分を出してしまうのが、うまい炊き込みご飯を作るコツ。
 腹骨、血合い骨の部分を切り取り、米、ショウガのせん切りとともに羽釜に入れる。
 味つけは酒と薄口醤油(うすくちしょうゆ)だけ。

 後は炊きあがりを待つのみだから、ほんとうに炊き込みご飯というのは手間いらずだ。
 さて、本来の瀬戸内海の「ちぬ飯」というのはまるまる一匹炊き込む。でも一般家庭ではそんなに大きな釜で炊くこともなく、また頭部などを入れると、骨が残ってしまわないか心配だ。
 我が家などご飯の支度も、炊きあがってかき混ぜるのも子供の仕事なので、炊き込むに骨を除去して利用する。

 この単純な炊き込みご飯がやたらにうまい。子供達はこれを海苔に巻き巻き食べる。ボクは酒を飲みながら、まるで酒の肴であるかのようにして食べる。
 ぷーんとクロダイの甘い旨味を含んだ香りがして、ご飯にも旨味がたっぷり染み出している。まことに贅沢な気分に浸れる逸品である。
 たぶん、魚が嫌いという人にも、「ちぬ飯」だけは大丈夫ではないだろうか? なぜならクセのない白身のためか全然魚の生臭みがない。

 さて、クロダイにはたっぷり白子が入っていた。まさに産卵の最盛期であろう。この産卵期がまたクロダイ漁の最盛期でもある。当然、たくさん揚がると値段も安い、そして脂ものってうまいのだから、この時期のクロダイは大いに食べなきゃいけないね。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、クロダイへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki2/taika/kurodai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

KASAGO080513.jpg
●クリックすると拡大

 まったく値が下がらないという魚が何種類かあって、どうもカサゴ目に多い。きんき(キチジ)、アコウ、目抜類、カサゴにイズカサゴ、オニカサゴ……。
 全身が棘だらけである、頭でっかちなのがカサゴの特徴で、歩留まりがすこぶるつきに悪い。それで値が高いと言うことは、それだけ味がいいと言うことに他ならない。

 ただ、高いカサゴと言っても、鮮度はまちまち。また漁の方法なのか、型が良くても、まずそうなもの、また味の落ちていそうなのもある。

 そんなとき、まことにきれいなカサゴが来ていて、残念なことに箱を替えて並べていて産地がわからないのだけど、それにしても見事な色合い。
「値段はいくらだい」
 八王子総合卸売センター『高野水産』の社長に聞くと、「2500円だな。安いだろ」と宣う。
 確かにこれだけ鮮度のいいカサゴは滅多にない。

 持ち帰り、撮影のために鰭を固定する(展翅のような感じ)する。撮影のために室温にしばし置いたら、刺身で食べるというわけにもいかない。
 思い切って、久しぶりに塩焼きにしてみる。釣りに夢中のときにはよくカサゴの塩焼きを作ったもので、「カサゴを食うなら塩焼きに限る」なんて思いこんだこともある。あの頃は煮つけの旨さを本当には理解できていなかったのだ。

 そして久しぶりの塩焼きがよかったのだ。カサゴの旨さは皮下にあり、そこを箸でほぐすとプーンと旨味を含んだ風味が立ち上がる。箸でつまんだ身の甘さは言うに言われぬものである。カサゴの旨さに朦朧とするとはこのことではないか。小さなカサゴであるのに、味は大物だ。

 塩焼きの旨さは焼き上がってから、どんどん消滅していく。だから、むさぼるように食うのだけど、このせわしなくも幸福な瞬間は短すぎる。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、カサゴへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/kasago/kasago.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

sawara0805133.jpg
●クリックすると拡大

 魚の卵にもうまいまずいがある。例えば、マゴチの卵巣はうまいのに、イサキはそんなにうまくない。そう言えばキンメダイもそんなにうまくない。対するにニシン目はほとんど例外なくうまい。ニシンにマイワシにコノシロに、と産卵期の子持ちはそれなりに楽しめる。
 そして木の芽時ともなると大量にあがるサワラの、真子がこれまた非常に美味なのだ。サワラの卵巣は、ボクが改めて言うまでもなく、岡山県や香川県などでは昔から、春から初夏への風物詩的な食べ物である。また香川県では唐墨にするのだけど、なかなか高価で手が出ない。

 さて、4月から5月にかけて、市場ではサワラを卸している光景をよく見かける。関東の料理人は、この真子の真のうまさを知らないのだろうか、「真子はいらないよ」なんていたって淡白に身だけを持ち帰る。ということでサワラの真子をあっちこっちからいただく時期なので、我が家ではこれを惣菜風にコックリ甘く辛くたきあげる。
 煮方はいたって簡単至極。
 サワラの卵巣は細長いので4、5センチ幅に切る。
 熱湯を用意して、ここに落としていくと、ぱっと花が咲いたようになる。
 これを冷水にとり、布巾に上げて水分をとっておく。
 鍋に味醂(みりん)、酒、ほんの少しの砂糖、濃い口醤油を煮立たせて、少し煮詰める。
 沸き立った煮汁の中に卵巣を放り込んで短時間・強火で煮あげるのだ。
 煮上がる寸前にもう一度味醂(みりん)を回しかけ、一煮立ち、そしてしぼりショウガをふる。
 今回は天に針ショウガを盛ったのだけど、季節からして木の芽(サンショウの葉)の方がよかった。これでは我が家で勝手に作っている季語事典には載せられない、残念、無念。

 このような魚の卵巣の甘辛い煮つけは、食卓での滞在時間がやたらに短い。
 いつもだいたい10分もかからず消え去ってしまう。
 太郎が、「父ちゃん、今日はおかずが少ない」と文句を言うのはこんな一品を作ったときだ。

 サワラの卵巣にはまったくクセがない。甘味があり、調味料の甘味と合わさって、より濃厚で複雑な甘味となり、ザラリと崩れた卵粒(たまごのつぶ)が舌の上でより細かくつぶれてコックリとした風味が浮かぶ。
 これほどの美味であるが、酒飲みにとって残念であるのは、サワラの卵巣の煮つけは酒の肴である以上に、ご飯のおかずだということ。家族のおかずを減らしてまで、酒のアテとするわけにもいくまいね。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サワラへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/sawara/sawara.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

gima080511.jpg
●クリックすると拡大

 相変わらずギマが多いんだな、とビックリしてしまった。
 木更津での伝統漁すだての内側で手網を構えると、水面近くに何十匹ものギマは泳いでいる。
 ギマとは聞き慣れない魚かもしれないが静岡県西部から伊勢湾にかけては、その昔からたくさんとれて、よく食べられているものだ。

 形がまことに変わっていて、頭でっかちな宇宙船のように見えて、なんだか生き物らしくない。だいたい、銀白色なのでうまそうに見えないというのも残念な点である。そして実際に手に取ると、もっともっとやっかいな魚であるのを思い知ることになる。
 頭の真後ろ、腹ビレ、背ビレの第一棘状がまるで槍のように鋭い。しかもザラザラとした細かな返し(刺さった刃物が抜けなくする突起)が着いているのだ。そしてとどめのごとき滑り(粘液)で、それこそぬらぬらと気持ち悪い。初めて手にとって食べる気になれるか、どうか疑問に感じないではいられない。

「こりゃ食べるとうまいんだが」
 ギマがうまいことは数十年前から知っている。この魚をなにげに手にとって、「うまいから持って帰れ」と声をかけられたのが知多半島豊浜の魚屋でのこと。なんとカサゴを買い求めて、3本ほどオマケにもらった。
 親切にも皮を剥いてもらって、持ち帰り、刺身にしたら、なかなかうまいのだ。

 以後、いろんな食べ方を試してみたが、意外にうまいのが、一夜干しである。
 まず、塩をして、酒で風味を加える。これを冷蔵庫でひと晩干すだけ。
 後は焼くだけなので、こんなもの料理といっていいんだろうか? というほどに簡単だ。
 結局、ギマをうまく食べるには、手早く卸して、滑りから隔離するのが大変なだけというのがわかる。

 今回の一夜干しもやっぱり味がいい。このようにして食べるたびに思うのは、フグ目の魚は美味揃いであると言うこと。形からして変であるため、まさかフグ・カワハギの仲間と思い至らないだろうが、実際に食べてみると、そのしっかりした白身からしてフグに近いのがわかるだろう。

 骨離れのいい白身を手でむしる。これが淡白で、ほんのり甘味が感じられてうまい。
 困るのは、この手の干物は100パーセント酒の肴だと言うことだ。
 今夜の酒は島根県安来市の「月山」なのだけど、コップ酒の減りが早いのは、魚のせいだろうか、酒がうまいからだろうか?

網元 つぼや すだて遊び
http://sudate.web.fc2.com/
きんのり丸の漁師生活28年
http://kinnori.jugem.jp/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ギマ
http://www.zukan-bouz.com/fygu/sonota/gima.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

konosiro08084546.jpg
●クリックすると拡大

 木更津での海遊びに興じた日は楽しかった。『網元 つぼや』さんのおいしい天ぷら、ご飯もあってまことに、まことに満足至極。
 その上、獲物もいろいろあり、それこそ内房ならではの見事なスズキにマダイなんか、どう料理したってまずいわけがない。しかし中にはなかなか難敵が混ざっていて、トゲトゲのギマ、小骨がだらけのコノシロ(こはだの親)、ダツなんかも混ざっていた。
 すだて漁に参加したなかでたぶん、コノシロがとれていて喜んでいたのはボクだけかな? なんて思われる。この一見端正でうまそうな魚、煮ても焼いても、その細長い小骨に悪戦苦闘する。
 うまくなかったら、別に食べなきゃいいんだけど、小骨問題を除けば、非常に味がいいので、またなんとも悩ましい限りだ。

 ボクはその昔、この大型のコノシロをもっぱら塩焼きにしていた。真子がたっぷり詰まっている時期で、塩焼きにするとホカホカして味のいいこと。身は細かく骨切りをしておくとなんとか食べられる。
 最近、塩焼きよりも何倍もうまい食べ方を覚えてしまった。それが韓国風の胡麻油(ごまあぶら)焼き。
 別に難しい料理ではなく、頭とワタを除き、骨切りする。ここに塩をして、少し寝かせる。
 テフロンフライパンに胡麻油をややたっぷり入れて、そこにコノシロを泳がせて、弱火でコンガリと焼き上げるだけ。コツはただひとつ、ゆっくりとコンガリと焼き上げること。慌ててはいけない。

 食べ方はそのままでもよく、またコチュジャンをつけながら食べてもいい。皮目は限りなく香ばしい、それでいて身の方はしっとりしている。甘味もある。それになによりも味がいいのが真子である。ニシンもそうだが、ニシン目の魚の特徴は真子がうまいこと、というのがしみじみわかってくる。
 さてさて、酒を合わせるなら、マッコリルといきたいね。

 この料理法は昨年、韓国の漁師さんに、とにかく魚だったら、胡麻油で焼いて食べるのだ、と聞いて病みつきになった料理。たぶん、韓国料理には魚貝類の食べ方で、もっともっと面白いやり方があるとにらんでいるのだけど、いかがなものだろう。

網元 つぼや すだて遊び
http://sudate.web.fc2.com/
きんのり丸の漁師生活28年
http://kinnori.jugem.jp/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、コノシロ
http://www.zukan-bouz.com/nisin/konosiro.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

korodai08053.jpg
●クリックすると拡大

 鹿児島県南さつま市笠沙、わかしお君からたくさんのお魚が届いた。なかでも一際目を引いたのが2キロ弱のコロダイで、見事としかいいようがない。

 この魚の特徴はイサキの仲間なんだけど、体高がありタイ型で、体中に黄褐色(鮮度がいいときは鮮やかな黄色)の斑紋があること。関東ではあまり馴染みがない魚なのだけど、関西以西では普通に魚屋さんなどに並んでいる。これが温暖化のせいか増えてきているようなのだが、なかなか人気が上がってこない。
 体中にある黄色い斑紋が嫌がられるのだろうか、もしくはときどき寄生虫がいるせいなのか?

 三枚に卸した身の美しさは、スズキ目のなかでも屈指のもの。しかも食べてもうまいのである。だから市場で見つけたら、値段の安さに喜びを感じながら、ついつい買い込んでしまう、そんな魚だ。

 たぶん、2キロ弱というのはコロダイでいちばんうまい、頃合いの大きさなのだろう。三枚に卸した身の美しさに感激する。とうぜん、刺身にして、もっと感激。イサキに似て、イサキよりも磯臭くなく、甘味がほんのりある。
 若潮君に聞いても、
「どうしてコロダイの値段が騰がらないんでしょうね、不思議で仕方がないんです」
 漁師は魚の値段が騰がらないと困るのだけど、コロダイの安値には困り果てているようだ。
 まったく、コロダイの安値には、ボクにも不思議で仕方がない。

 さて、うまい魚なのに安いということは、今時珍しくお買い得ということになる。だいたい刺身だけじゃない、コロダイのポワレはもっともっとうまいのだ。和洋どっちでもイケル魚、コロダイを食べてみませんかー?

若潮君のお魚宅配便
http://wakasio.seesaa.net/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、コロダイ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki/isaki/korodai.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

katuomesi08045154.jpg
●クリックすると拡大

 カツオのシーズンである。一年を考えると、前期ですね。脂はないけど、腹身など皮付きのまま刺身にするとまことにうまい。
 それでついつい買ってしまうのだけど、買い置きしていたことも忘れてしまい、もうとても刺身には無理なんて失敗がおうおうにしてあるのだ。

 そんなときはゆでてしまう。ゆでて冷やして、表面を乾かす。なまり節以前の状態なのだけど、ここから幾通りにも料理が作り出せてしまう。
 中でも定番と言えそうなのが「カツオ飯(鰹飯)」である。かなりかちかちに乾かして、味醂醤油で付け焼きするのもありだし、茹でたてをほぐして、味醂(みりん)、酒、砂糖、醤油(しょうゆ)でフレーク状にするのもいい。これを炊きたてのご飯もしくは、残りご飯を温めたものに混ぜ込むのが「カツオ飯(鰹飯)」。

 5月始めの本日は、わざわざ、生のカツオをゆでて、ほぐしで甘辛く味付けしたものを、残りご飯に混ぜ込んでみた。
 カツオには醤油にショウガ風味が加えていて、ここに細かく切ったミョウガを刻み込む。

 天に盛ったのは苗用の九条ネギの青いところだから、全然上等ではない。我が家の普段の食事はできるだけ材料を誂えない、のがモットウである。
 カツオのほぐし身の混ぜご飯はやや甘辛く、まったりした味わいである。そこにミョウガが利いているのである。しかして、カツオのなんと強い、またわかりやすい旨さだろう。これなら誰だって、飯茶碗三杯は食べられる。
 ここに錦糸卵や三つ葉でものせれば上等であろうに、そんな演出がボクには出来そうにない。
 こんな普段着の食べ物でも、我が家の姫は日本橋にニョキっと建っている今時の高層ビルで食べた「ピザよりうまい」と言ってくれる。
 それはそうだろう、父ちゃんの愛情がこもっているんだからね。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、カツオへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/saba/katuo.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

sawar000a080411.jpg
●クリックすると拡大

 島根の漁港などであがるマアジなどを和風ではなくフレンチやイタリアンに仕立て上げられないか? と考えて料理研究家のjasminさんに相談する。そしてリエット(野菜などと煮込んでペースト状にする)、コンフィ(低温の脂で火を通す)とともに上がったのがコトリアードという料理。コトリアードというのは初めて聞く料理法だ。
 ブルターニュ地方の伝統的な料理であること。魚、野菜、牛乳(生クリーム)、バター、ジャガイモのペーストなどを使うこと、煮込み料理であることがわかった。
 でもどんな料理なのか、もう一度、jasminさんに確かめようと思ったら連絡がとれないのだ。でも、これだけの情報があると出来上がりはなんとなく想像できる。考えたままに作ってみた。

 まずはサワラの切り身に塩コショウ。よく水分を拭き取って、オリーブオイルでソテー。こんがり色が付いたら取り出す。
 ここにセロリ、玉ねぎなどを乱切りにして放り込み。冷凍庫にあったスルメイカ、アサリを加えて、牛乳、ローリエ1枚を加える。牛乳が沸き立ってきたときにつぶしたジャガイモを入れ、サワラをもどす。
 ここでコトコト10分ほども煮込む。スープがトロリとしてきたら塩コショウして出来上がり。
 出来上がりは思ったよりもうまそうだし、なかなか見栄えもいい。

 さて、味加減がわからないので、なんども味見した。煮込むほどに、濃厚に魚貝類の旨味がスープに加わってくる。
 単に魚貝類と牛乳が出合っただけなのになんて濃厚な魚貝類のスープなんだろう。このスープにからめて食べるアサリやサワラ、スルメイカも柔らかく、口の中で旨味と甘味を残していく。
 食べ終わった後に感じたことは毎日食べてもあきない味わいであるというもの。コトリアードは、まさにフランス版みそ汁のような料理に違いないと思う。もしもボクが作り上げたのがコトリアードなら。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サワラへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/sawara/sawara.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、2008年5月以降に書かれたブログ記事のうち食べる魚類学カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは食べる魚類学: 2008年4月です。

次のアーカイブは食べる魚類学: 2008年6月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。