食べる貝・イカタコ学: 2008年4月アーカイブ

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 関東はイワガキを食べるという意味合いでは先進的な土地柄である。
 これは古くからイワガキを食べていた銚子に近いからである。
 だから今でも関東でもっとも珍重されるのは銚子産のイワガキだと思う。それが徐々に崩れてきているのが、日本全国から来るようになって顕著に見えてきている。千葉県、秋田県、山形県、鳥取県などの限定した地域から、現在では北海道を除く、ほとんどの地域からイワガキが入荷してくるようになっている。
 そして地域だけでなく、天然から養殖への転換も図られているように思える。

 築地場内を歩く。岩手県大船渡、島根県隠岐海士の養殖がたっぷり入荷してきているなかに、富山県新湊産の天然イワガキを発見した。長野水産の店頭でのこと。「一個でも売ってくれるか」と聞くと大丈夫だというので買い求めてきた。そのときボクのクーラーバッグにはいくつものイワガキが入っていたのだ。
「ウチは養殖イワガキは仕入れないんだよ。だから今年最初のイワガキがこれ」
 築地場内にはこのような店がまだまだありそうだ。ボクとしてはこのようなこだわりは聞いていて気持ちがいい。大好きであるといっても過言ではない。

 帰り着いて、持ち帰ったイワガキを総て剥き、並べて食べてみた。
 他のイワガキに関しては別項を立てるとして、この富山産のイワガキが素晴らしかった。
 まずは養殖のイワガキ(岩手県大船渡、島根県隠岐海士産)よりも旨味が濃厚である。それなのに舌の上にあって決して重くはない。これはイワガキの身に適度の弾力性があり、鮮烈な苦み(本当に苦いのかわからない)がくる。この苦みと旨味が合わさって、甘いように感じるのはどうしてだろう。
 まさに濃厚で、1個でも満足度大なのに、不思議と、もうひとつ食べたくなる味わいである。

 結論としては富山県新湊産のイワガキは非常にうまい。これなら「毎日でも食いたい級」である。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、イワガキへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 マテガイという二枚貝は、とても味がいい。別に珍しいものではないのに、意外に流通にのることがない。だから希に見つけると必ず買い求めることにしている。

 北海道南部から南、ほとんど日本各地の干潟に棲息。細くて一見平たい棒杭のような形で、泥に縦にもぐり込んでいる。
 東京湾にもまだまだたくさん棲息するありふれたものなのに、どうして市場にあまりやってこないのかというと、ときどき泥臭いのがいるのと、輸送に弱いせいだと思われる。

 八王子魚市場特種で海水入りの箱の中で元気に水管を伸ばしているのを、見つけてひとつかみ買ってくる。
 大分県の北部周防灘に面した宇佐市からきたもの。このあたりには干潟が多く、ほとんど国内では消滅したハマグリの希な産地でもある(大分県のハマグリの種に関してはいろんな説がある)。
 会計をしていると、寿司屋の富さん(八王子上壱分町『寿司 富』)から声がかかる。
「これ、どうやって食べるんだい。バター焼きにしたらまずくてダメだったよ」

 このマテガイをどう料理するかというと、水洗いして、丸のまま強火で焼く。終始強火で短時間に焼くのがコツで、まさに単純極まりない、料理とも言えないような料理法が、マテガイのいちばんうまい食べ方なのだ。けっしてバター焼きなどにしてはいけない。
 焼き上がったら、生醤油かだし醤油を回しかけて、あとは食べるだけ。
 ほんの少しだけ、泥臭く、また貝の持ち味である海の香り、甘味があっておつな味。これはもうおかずではなく、酒のアテとしかいいようのない一品である。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マテガイへ
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 北海道は根室からオオミゾガイが来た。築地場内にもまとまって来ていたので、根室周辺でホタテガイ漁もしくは「ほっき漁(ウバガイ)」が行われているんだろう。

 この北の代表的な二枚貝の副産物であるオオミゾガイがどうしてこんなに安いのか? 例えばキロ当たり1000円、ときに800円なんてときもある。これではアサリよりも安いではないか? 刺身でよし、焼いてうまし、なのに残念でならない。

 だいたいこの二枚貝は大きくて、しかも歩留まりがいい。当たり前だけど足(舌)に加うるに水管も食べ応えがある。まるでミルクイとウバガイ(ほっきがい)を足して、そのまま二で割らないような貝ではないか、素晴らしい。

 しかも食べてグリシンが多いのか甘味があって、旨味とか貝の風味も堪能できる。ボクは今、オオミゾガイを愛してるんだな、と実感する。

 さて、外見からして地味でうまそうにも感じないオオミゾガイ。もっと知って欲しいものだし、知られたくない。
 これで宮崎県日南市の八重桜そば焼酎を飲(や)りながら複雑な思いにかられるのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、オオミゾガイへ
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 岩手県大船渡市赤崎産養殖イワガキ、島根県隠岐郡西ノ島波止で養殖されたものを兵庫県相生市にある『あけぼの海産』が出荷したもの、同隠岐郡中ノ島海士で養殖してCAS冷凍して送られてきたものの3種を食べ比べる。
 最近、隠岐で養殖したイワガキの味は太平洋側、能登半島などのものとは全然別物ではないか、と思うようになっている。それを確かめる意味合いでも同時に3種を食べ比べてみる価値はありそうだ。

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右から、海士町養殖ものをCAS冷凍したもの、真ん中、西ノ島波止養殖、左端、大船渡産養殖イワガキ。
値段はCASが小売値で一番高く、他は同じくらい。小売値と仲卸値段なので比べられない

 まずは大船渡のイワガキである。岩手県でのイワガキ養殖は10年ほどの歴史を持つ。2008年の春に市場でよく目にするようになって、何度か購入した。
 味わいはやや濃厚で渋みがある。身の弾力はやや弱く、強い旨味が口を満たす。これが関東でのイワガキの基本的な嗜好に一致するもので、仲卸では「銚子(関東での高級品)の方が濃厚だが、いい味だ」という評価がされている。

 隠岐西ノ島はイワガキ養殖発祥の地。波止のものはまさに隠岐のイワガキそのもの。太平洋側のものが濃厚な生クリームのように感じるのに対して、新鮮な果実を味わうような感触をおぼえる。渋みも薄く、後味がいい。また身に弾力があって、これも心地よい。旨味自体は大船渡よりも低い。

 海士のCASは隠岐でとれたもので、当然、生きているものを急速に冷凍したもの。これがやや濃厚な味わいで、渋みもほどよい。旨味は大船渡と西ノ島波止との中間的なものに思える。知らないまま食べさせると冷凍物だとは気がつかないだろう。このCASの持つ意味合いは離島と言うだけでなく、味わいからも注目するひつようがありそうだ。年間を通してうまいイワガキが食べられるというのも「好きな人には」たまらないかも。

 太平洋側と比べると隠岐のイワガキ養殖での出荷までの年数は長くかかるという。これは隠岐海域が清浄であるためである。この少ない栄養分の海、また離島ならではの荒天にもまれて長く育てるために味わいはあっさりして、シコっとした弾力を持つのだろう。この対決は、好みの問題となるだろうけど、飲食業者とも話してみて一致したのは大船渡のは一個食べるだけで満足するが、隠岐のものはもの足りず、もう一個となるということ。またCASのイワガキは数が少なかったので、ボクと寿司職人のたかさんの評価である。

島根県隠岐郡海士町『ふるさと海士』島風便
http://www.ama-cas.com/index.html
あけぼの海産
http://www.akebonokaisan.jp/syohin/index.html


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 ボクの知る限り、アメフラシを食べるのは千葉県大原と島根県隠岐郡隠岐の島町くらいだろう。その隠岐島後(どうご)隠岐の島町津戸というところでアメフラシを食った。それこそたんとたんと、丼いっぱいくらい食べたのだから、ぼうずコンニャクとしてはアメフラシの味わいに関して語る権利を得たというべきだ。

 その前に、アメフラシとは何か? というと軟体類だからタコとか貝の仲間で、手短に言ってしまえばウミウシの親分のような生き物。磯で遊んでいると、それこそ両手一杯くらいの大きさの黒いヤツが、動いているのか止まっているのか、わからないくらいに水中をたゆたっている。春にはいつも大小2匹でなかよくランデブー(これは古くはデートという意味)している。オスとメスというか夫婦仲良くうらやましい。面白いのは木の枝なんかでチョチョイとつつくと紫色の液体を吐き出す。これがフワリと水面近くで雲のように見えるから、「雨降」と呼ばれている。
 アメフラシのことを隠岐の島町では「べこ」という。「べこ」とは広辞苑でひくと東北地方での牛のことで、「形が牛のようである」ための呼び名かもしれない。

 今回の「べこ料理」を作ってくれたのは、隠岐の島町津戸の浜田厚子さん。漁師を生業にする浜田家でのアメフラシの料理法をお教え願う。
 アメフラシの旬は春らしい。旬の意味には「うまい時期」というのと「たくさんとれる時期」というのがあって、どうやら後者の意味だと考える。
 磯に出て、のんびり波に揺れているアメフラシを拾い、持って帰ったら内臓を取り去る。
 これをゆでる。ゆでるとかなり縮み、煮汁が黒く濁るという。この煮汁のまま一昼夜鍋止め。
 翌日、「べこ」の表面についている黒いものをたわしなどで落とす。きれいになったら適当な大きさに刻んで、甘酢味噌で和えたり、甘辛く煮たりする。

 当日食べたのは酢みそ和えと、煮つけ。アメフラシの身はビローンとブヨブヨして、なかなか噛み切れない。噛んでいると、微かに苦みがあって、これがアメフラシの味だというほどの個性は感じられない。
 この弾力を楽しむのだなとは思うが、酢みそ和えではやや直接的だ。少し食べる分には面白いけど、アメフラシをじっくり味わっているのか、ブヨブヨした歯触りを楽しんでいるのかわからなくなる。

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酢みそ和え。

 対するに、煮物はいい味わいなのだ。ゆでて、油で炒めて、そしてまた醤油砂糖などで煮たせいで噛み切り易くなっている。だから弾力よりも味が楽しめる。また油を使ったためか、酢みそで感じられた苦みがほとんどない。

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煮物。酢みそ和えよりもうまかった。

 酢みそ和え、煮物ともに味付けが絶妙で浜田厚子さんの料理の実力のほどがうかがえた。きっと浜田家のご飯はうまかろうね。「べこ料理」を食べながら、「隠岐のうまいものは外食にはなく、家庭にあり」というのを思い知る。素晴らしい食材に恵まれた土地を旅するたびに思うことだが、いちばんうまいものは地元の方のみのもの。旅人は絶対に食べられない。浜田厚子さんの手料理が食べたいな。

 閑話休題。
 アメフラシを食べるというと、下手物のたぐいだろう、と思っていた。それがどうだろう、食卓にのると、いたって平凡な酢みそ和えであって、煮物である。酢みそ和えはまさしく酒のアテだけど、煮物などご飯にも合いそう。これは自分でも料理してみなくてはならない。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アメフラシへ
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 アカガイが高い。当たり前だ、いつでも高い。殻付きでキロ当たり2000円を割ることはおろか、3000円以上もする。キロ当たり3000円はそんなに高級かね? と思うだろうけど、貝殻とワタを抜くと、歩留まりは半分くらいだろうか、もっと少ないかもしれない。それでキロ3000円だから手が出ないのだ。
 関東では宮城産なんていうが、関西では瀬戸内海とか大分県産が高級品であり、ちょうど香川県産を見つけたのだけど、値段を聞くのが恐い。それで輸入ものにしようと韓国産の値段を聞いても、「高いよ」なんて返事が返ってくる。

「アカガイを諦めて、ほっき(ウバガイ)にするかな」と思っていたら、八王子総合卸売センター『高野水産』の隅っこに小振りのアカガイがあるのだ、しかもキロ当たり1000円だ。よく見ると大小入り交じり、泥に汚れ、貝殻が割れてるのが目立つ。
 見た目とクリーム状の泥にまみれているので安いのだ。でもこのアカガイをよく見ると、その昔、マルアカガイという標準和名がついていた内湾性の貝殻の薄いタイプであり、味の良さでは定評のあったもの。産地がわからないのがちょっと残念だけど、箱の底の残ったものを袋に放り込む。
「これ全部買うけど、幾らにしてくれる」
 高野社長に太っ腹なところを見せると、
「まあ、仕方ないか、キロ800円だな」
 こんな一瞬が市場通いでの醍醐味である。

 帰り着いて、殻を剥き、泥を落とすと、きれいなアカガイの刺身が出来上がった。我が家用なので中皿にヒモも身の方も放り込んで、ベランダに持ち出して酒のアテとする。
 小振りの身の味わいは濃厚で、アカガイの持ち味である、ほどよい渋みが爽やかである。それに適度の甘味がいいね。

 我が家の外にある桜にほとんど花びらはなく、葉桜となってしまっている。ベランダで受ける風が温い(ぬるい)。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アカガイへ
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