2008年5月アーカイブ

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 市場に到来する魚は発泡スチロールの箱にはいっている。
 ある日、八王子魚市場で見つけた箱はパッチが粘液でべとべとして、そのなかに薄汚れた魚が投げ込まれていたのだ。
 これをみつけて「やったー」と叫んだのはボクだけだったようで、横に〈サメガレイ3尾3.14〉とかかれた中身はだれも触った様子がない。
 荷主が北海道羅臼の『鈴木シーフーズ』であるというのも魅力を感じるところ。
 このサメガレイの値段がキロ当たり700円しかしない。
 値段の安さに喜ぶとともに荷受けや仲卸の勉強不足にも驚かされる。
 サメガレイは見た目は悪いがもっともうまいカレイのひとつなのだ。
 ベトベトするのを1本取りだして、量りにのせると、「これ買っていくの?」と近海担当が声をかけてくる。

 持ち帰ったサメガレイは、まずは粘液をタワシで洗い流す。流水で洗うのだけど、排水溝がつまるほどに大量の粘液が出てくる。
 粘液の下にあるのがザラザラ、トゲトゲしたウロコである。これをして「鮫鰈」となったわけだ。
 表は硬いウロコ、裏面はブヨブヨして薄汚れている。
 これを5枚におろしていくと、出てくるのが白濁した身なのだけど、これはいたってきれいなもの。
 このギャップが面白い。

 どうして身が白濁しているかというと、この身に食い込んだ微少な粒子ひとつひとつが脂なのである。そしてこの脂に甘味がある。
 鮮度さえよければ、サメガレイの刺身は最上級のもの。
 でも今回のものは刺身ギリギリという鮮度で、思い切ってフライを作る。なんだフライか? と侮るなかれ。フライにして美味な魚、まずいものがあり、サメガレイは「美味なものの代表格」なのだ。

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 フライは5枚にしたフィレを適当に切り、塩コショウしてパン粉をつけて揚げるだけだから、ここで書くこともないだろう。
 さて、どうしてサメガレイのフライが素晴らしいのか?
 食べてみるとすぐにわかることなのだけど、サメガレイの脂たっぷりの身は、高温に晒されると一度溶ける。
 溶けた脂は中で揚げ油のような働きをするが、けっして全部外に出るわけではなく、多くは身の中にとどまるようだ。
 すなわちパンを作るときのショートニングのような役割を演じるのだ。
 しかもサメガレイにはたっぷりの旨味があり、例えば一般的なスズキ、マダラ、スケトウダラなどとはひと味違ったフライになる。
 たっぷりのフライは家族用、さてボクは粗(あら)を煮つけにする。この粗の煮つけだけはお父さんの取り分となるのだけど、フライよりも価値が高いと考えている。
●ぼうずコンニャクは“珍しい魚や、人知れず美味な魚をどんどん料理して利用してくれる料理人”を応援するのだ。

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オニオコゼ科を改訂
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掲載種 1977


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 JF長崎漁連東京直売所は築地に行くと必ず立ち寄る場所。ここには長崎県産の魚が毎日のように入荷して、おいしい魚、珍しい魚がたくさん並んでいる。
 中には毎度お馴染みの魚種があり、例えば「れんこだい(キダイ)」、そしてヒラマサ、「のどぐろ(アカムツ)」、マアジに「くろ(メジナ)」などなど。そのお馴染み魚の高いもののひとつが「あらかぶ(アヤメカサゴ)」なのだ。
 関東では「本かさご(カサゴ)」ほどには知られていない。むしろ鮮やかな山吹色からカサゴよりも一段下に見られていそうだ。

 西日本に多い魚で、当然長崎県などでは高級魚の代表格になる。
 カサゴならではの白身で、刺身、塩焼き、鍋物(ブイヤベース)などどのように料理してもうまい。
 今回は店長の入江さんに、小振りで姿のいいものを選んでもらった。
 アヤメカサゴの「文目(文様)」を再度撮影し直したかったからだ。

 さて、この小振りのアヤメカサゴをどう料理するか?
 子供達が待っているのが、唐揚げである。
 姿のまま背割りにして、中骨を取る。
 中骨、本体の水分をよく拭き取り(冷蔵庫などでラップをしないでしばらく置いてもいい。乾燥しすぎないように気をつける)、片栗粉をまぶして低温で揚げる。
 じっくり揚げたら、一度取りだして、こんどは高温の油でからっと揚げる。
 カサゴの骨は硬いので、どうしても二度揚げしないと「骨まで愛せない」。
 揚がったら、塩をふって出来上がり。我が家は子供がいるのでコショウは振らないが、これは好みにて。

 数ある魚の中でカサゴ科の唐揚げほどうまいものはない。
 面白いのは、白身なのに、揚げてもぱさつかず、表面の香ばしさの下には、しっとりした白身がたくさんのジュを保持している。
 だから香ばしい、そして白身がうまい。香ばしい、白身がうまいの繰り返しになる。
 ときどき鰭(ひれ)や頭部をまるで煎餅のようにパリパリ楽しみながら、カサゴ一匹は数分で食卓から消え去るのだ。

JF長崎漁連東京直売所はここから!
http://www.pref.nagasaki.jp/tokyo/
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花鯛が旬なのだ!

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 関東ではチダイを「花鯛(はなだい)」と呼ぶ。これは花のように美しい色合いの魚という意味合いもあるが、マダイよりも小振りで可憐という比較の意味なのだと思っている。他の地域では「ちこだい」、「ちこ」などと呼ばれるが、チダイの呼び名の謂われと同様「小さい」を表している。
 市場ではマダイと比べると大きさのせいもあって安い。安いのだけど、江戸前寿司にはなくてはならぬ種であり、関東では主役級と言える魚。

 せっかく旬を迎えたのだから八王子魚市場にて一本買い求める。かなり上物で銚子産(千葉県銚子市)、キロ当たり2000円は最高値に近いだろう。値段が高いので情けなくも1本だけなのだ。
 さて、そろそろ刺身でもいけそうだ。そう思って刺身にしてみる。

 チダイは原則的に皮霜造りにする。
 三枚に卸して、血合い骨を抜き、皮に切れ目をいれて、熱湯をかける。
 すぐに氷水に落として、よく水分を切る。
 これはなかなか悪くない。でも350グラムという中型では、生では旨味が弱い。
 それで酢洗いとする。
 血合い骨を取るところまでは皮霜造りと同じ。
 ここに強塩をして水分を浮かせる。
 これを酢で洗い流す。
 これだけで生よりもぐっと旨味が増すのだから面白い。
 
 花鯛の酢洗いは、まったく酒肴でしかなく、日本酒、もしくはシャブリなど辛口の白ワインだけのために存在する。
 ということで本日は辛口の「土佐鶴」を一献。

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 木の芽時になると食べたくなる魚の筆頭にくるのがアイナメ。
 これから夏にかけて、毎日食ってもあきませんなー。
 活けなら洗い、刺身。
 この真っ白な身のどこに、こんな甘味のある脂があるんだろう、と不思議に思えるくらいだ。
 粗(あら)は潮汁にする。

 アイナメの和名の由来は「愛な魚」。
「愛」は愛でるだから、そのまんま「うまい魚」の意味となる。
 広島県など瀬戸内海に「籾種失(もみだねうしない)」という呼び名もある。
 これなどアイナメがうますぎて、籾種(稲などの種)を買うために残して置いたお金まで使い果たすということ。
 だれが食べても、これほどうまい魚はない。

 さて、本日のアイナメ料理は焼き物である。
 我が家の山椒(サンショウ)の木は小さくて、毎日2、3枚ちぎったら、そのうちに丸裸になってしまうほど。
 そこからなんと4枚も切り取って、小さく刻む。
 醤油(しょうゆ)と味醂(みりん)を同割にしたものに、身側に切れ目をいれたアイナメをつける。
 このとき風味づけに使うのが4枚の山椒なのだ。
 これをやや強火で焦がさないように焼き上げる。
 アイナメを焼くのは短時間でいい。
 味醂と醤油が少し焦げたら、慎重に皿に盛って、出来上がったのが「アイナメの木の芽焼き」である。

 アイナメは熱を通すとより身の甘さが感じられ、より旨味も増す。そこに香ばしい味醂と醤油の味が来て、山椒の香りがぷーんと鼻に抜けるのだ。
 これこそは完全無欠なる皐月の酒肴だ。

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 北海道茅部郡森町の上平水産から入荷してきたズワイガニのメス、どこか変。どうおかしいのかわからないままゆでてしまって、食べてしまってから、またまた謎が深まる。
 だいたい森町は内浦湾(噴火湾)に面していて、ここではズワイガニはとれないのだ。じゃ、内浦湾でとれるのはと、『新 北のさかなたち』を見ると内浦湾でオオズワイガニがとれること、産卵期が1月から5月であることが記載されている。

 それでは森町から来たメスガニはオオズワイガニなのか? 食べてしまって頭部の殻も残っていないので画像だけで判断する。オオズワイとズワイガニの区別は簡単にできる。ズワイガニでは口の上の部分がまっすぐで平ら、オオズワイガニはM字形なのだ。
 さて、どっちだろうね。荷のままに撮影したものを見るとちゃんとM字形をしていて、オオズワイガニであることが判明した。
 まったく我ながらそそっかしい。この時期に内浦湾産のメスガニが入荷した時点で「おかしい」と思うべきであった。そうすればオオズワイガニの雌のちゃんとした画像がとれたのだ。

 時季はずれのメスガニの味わいのことだけど、ほとんど身が入っていなかった。そのせいだろうか? 八王子魚市場で買い求めるとき、担当者が「みそ汁用です」と念を押したのだ。
 ただし少ないながら身はうまい。甲羅には内子はなく、外子はたぶん幼生が抜け落ちた後なのだろう、パサパサしている。1ぱい200円だから、これでも充分に楽しめたと満足するしかない。

 さて、次回、オオズワイの雌が入荷してくるのはいつだろう? このように漫然と荷を見たら「あきまへんなー」。

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 最近、イワガキの産地は数知れず。
 今のところ市場で確認していないのは北海道、青森県、東京都、大阪府、和歌山県、岡山県、広島県、香川県、山口県、長崎県、熊本県、鹿児島県、沖縄県の13都道府県のみとなった。
 このイワガキの産地が爆発的に増えたのは、たぶんここ10年ほどではないだろうか?
 イワガキを昔から食べていたのは秋田県、新潟県、千葉県、鳥取県などである。(他にもありそうだ。情報求む)
 その千葉に近いことから東京築地などには、もっとも古くからイワガキが入荷していたのだ。古くからの消費地である関東では今でも「イワガキは天然物に限る」という考えが根強く残る。逆に新しい消費地の関西には養殖・天然の値段差はないようだ。

 そして千葉県でもイワガキを食べていたのは銚子近辺に限られていた。飯岡というのは銚子の隣町にあたり、イワガキの漁場である外川(とがわ)は至近の距離にある。すなわち飯岡産というのは銚子産と同じ意味合いだと思ってもいい。
 銚子産のイワガキは関東ではもっとも値が張るもの。ただし最近では大きなものが減ってきているように思われ、「大きいほど高い」イワガキの世界では苦戦しているようにも思える。

 今回の飯岡産イワガキの裏面は凸凹していて自然の岩石にくっついていたのがわかる。最近気になるのがきれいなアールを描いた平面的な裏側のもの。これは明らかに人口的な構造物、例えばテトラポットなどにくっついたもの。これは味とは関係ないけど、イワガキはやっぱり岩にくっついていて欲しい。

 イワガキの開け方はフタを上に向け、蝶つがいのある方を手前にし、時計の10時10分の場所を目安にして、貝剥きを前方に向けて差し込んで貝柱を切る。貝剥きを差し込む場所が見つからないときには、開け口を小さなハンマーなどで壊してもいい。(6月の築地土曜会ではイワガキの開け方の講習会でもやろうかな)
 ふたが開いたら、底の方の貝柱も切る。
 流水で貝殻の破片や汚れを軽く落として、あとは食べるだけだ。

 この飯岡産イワガキが絶品であった。まだ旨味が最高点にはなく、渋みも控えめながら、身がところどころコリコリしている。食べた感じがさっぱり爽やかに思える。それなのにそれなのに旨味というか適度な甘味もあって、もの凄く満足度が感じられる。

 イワガキはいっきに食べて、その後、少し余韻を楽しんでから辛口の純米酒で洗い流すのがいい。
 面白いのは一度消えたイワガキの味わいが、日本酒によってもう一度蘇る。これはなんとも不思議なのだ。
 このようなことは島根のトーボさんに質問してみたいな。

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 ソース・ベシャメルを作るのはいたって簡単だ。材料が牛乳とバター(マーガリン なんと市場にはバターがないのだ)、小麦粉の3つだけなので、「なにを作ろうか、今夜は」というときに、とにかくソース・ベシャメルを作ってしまう。
 当然、今夜作るのはグラタンである。
 ソース・ベシャメルさえ作れば、あとはなんでもいい。サラミでもベーコンでも、イカでもエビでも、もしくはバターでソテー(ソーテ)した白身魚でもいい。たぶん、家庭料理の中でももっとも簡単で、夕食のメニューに行き詰まったときなどに重宝なのが、グラタンではないかと思っている。
 そして今回は、駿河湾での底引き網でとれたミノエビを使った。
 静岡県沼津の底引き網最終日(5月16日 正確には最終競り日)にミノエビをたっぷり持ち帰ったので、余ったものを塩ゆでして、殻を剥き、コライユ(みそ)とともに冷凍保存しておいた。
 駿河湾の新鮮なミノエビは9月までお預けだ。
 エビグラタンの秘訣は、エビだけではボリューム感に欠けるので、マッシュポテトか荒く潰(つぶ)したジャガイモを副材料にすることだ。エビが多ければ多いほどうまいと思うのは間違い。多すぎるとグラタンの味わいが濃厚になりすぎる。

 テフロンフライパンにマーガリン(バター)を溶かして、篩い(ふるい)にかけた小麦粉をくわえる。
 小麦粉をマーガリンで適度にいためて、そこに牛乳を少しずつ加えていく。
 だまにならないように、猛烈早くヘラを回して、滑らかなお団子になったら、また牛乳を加える。
 お団子になったら牛乳を加える、を繰り返す。
 お団子が、ゆるやかなクリーム状になり、そしてもっと、ゆるんだら塩コショウで味をととのえる。
 脇の沸騰したお湯に塩、乱切りしたひね男爵(昨年とれたジャガイモ。新じゃがはダメなのだ)を放り込む。
 ゆであがったジャガイモはあらく潰(つぶ)しておく。
 グラタン皿にマーガリンを塗り、適度に潰(つぶ)したジャガイモを薄く引く。
 ソース・ベシャメルを流し込み、ゆでたミノエビをのせる。
 ミノエビのコライユ(みそ)も出来る限り、のせるのがいい。
 そこに市販のとろけるチーズをのせる。
 最後にまたゆでたミノエビをのせて、オーブンで焼き上げる。

 さて、グラタンはお父さんのものではない。残念ながら、ボクは寂しく、サメガレイの煮つけをつついて、2皿分のグラタンの消えるのを見ているだけ。一度でいいから一さじくらい食べてみたいな。
 じゃあ、「作ればいいでしょ、自分のために」、と思われるかも知れないが、グラタンだけは家族に作る料理と決まっているのだ。
 
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 長い間、謎の貝であったのがオオトリガイである。
 その昔、愛知県一色に行った折り、底引きのトロ箱に見つけて、「こんなところにオオミゾガイいたっけな?」なんてトンチンカンな見間違いをしたことがある。
 見た目が貝殻だけならオオミゾガイそっくりなのだ。そこから水管が伸びてくると、まったく違う貝であることは見まごうことはない。
 でもこのオオトリガイが食用にされているのか? またどんなところでとれるかなど、五里霧中の状況にあった。
 そんなとき、高洲でとれたオオトリガイをダイスケさんが送ってきてくれた。
 ダイスケさんは世にいうところの高洲名人のひとりだ。
(注/岡山県倉敷市児島高洲はもっとも多種類の貝、その他の生物がとれる潮干狩り場である。だたし、高洲を本当に楽しむには熟練が必要となり、そこには数少ないながら名人がいる)
 高洲では昔から食べられていたと言うことで、ここにオオトリガイの謎が解明されたのだ。そして実際に食べてみる。

 開いてみると水管が長く、また足の部分も大きい。
 これは水管・足を刺身にして、あとはバター焼きにしてみる。
 刺身といっても水管と足を半割にして湯引きしたもの。これが甘味があってとてもうまい。
 難点は赤い斑点が不気味に思えるところ。
 そしてバター焼きは申し分がない。

 ここに我が謎の貝がひとつ減ったことになる。非常に目出度い。とともにダイスケさんに感謝。

からこと丸のことは
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 そげ(ヒラメの一キロ以下)を買い求めた。
 産地は不明だけど、活けじめにされたもので鮮度抜群。
 当然、刺身だな。その日は、そう決めてしまって、夕方を待っていたら突然仕事が舞い込んできた。
 ゆっくり夕食をとるなんてできそうにない。
 その翌夕のこと、さすがに「そげ」には活けじめの弾力はほとんど残っていない。
 これでは刺身にしても意味はない。
 久しぶりにムニエルをつくろう。

 ヒラメを5枚に卸す。
 今回は皮を引く。これは好み、気分の問題。ちなみにボクは皮つきが好き。
 塩コショウする。
 少し置いてから、小麦粉をつける。
 テフロンフライパンにニンニクを放り込みマーガリン(なんとバターがない)を溶かす。
 これをこんがり焼くだけ。
 デグラッセはマデラー酒を使った。とうぜん少し甘めのソースになる。

 やはり「ヒラメのムニエルはうまいなー。でもどうして我が家の冷蔵庫にはバターがないんだろう」なんて思う。世に言うバターの品薄現象が我が家を直撃ということ? もしくはお金の問題か?
 またマデラー酒よりも辛口の白ワインでデグラッセした方がよかったかな。もしくは最近ストックが切れているフィメ・ド・ポワソン、また作っておくべきだな。
 ヒラメのムニエルを作るだけでもいろいろ考えさせられることは多い。

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22日の夜から、昨日の2時過ぎまで築地でした。
完全なる仕事で早朝から場内を歩き回り、
疲れ果てたときに史郎さんのエレトラックが通りかかった。
そして場内のホテルまで乗せて頂いた。
ガソリンのものは乗った経験があるのだけど、
エレトラックは初めて。
その驚くほど静かで、制動性に優れているのに驚く。
でも振動はすごいなー。
疲れ果てて、行きくれていたのを助けてくれた、史郎さんに感謝。
ありがとう! 史郎さん。

また、昨日は午後から別の仕事をこなし、
帰り着いたら、即ダウン。


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明日は築地です

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本日築地泊、明日は築地にいます。
メールの返信など遅れます。


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 年に数回どっと押し寄せるように入荷してくる魚がある。例えば目立つものだとサンマだし、ゴマサバ、ときに東北のウマヅラハギ。
 そして目立たぬまでも、突然どっと来襲することで気に掛かるのがアミモンガラである。コイツは海を大挙して泳いでいるようで、まとまってとれてしまう。きっと港でもこの魚がとれると、それこそてんやわんやではないだろうか?
 アミモンガラはなぜだろう、頭も皮もとられて、鰭(ひれ)と胴体だけになって入荷してくる。しかも関東なら決まって銚子からくるもので、荷の表示に対する意識が非常に遅れている千葉県だから、丸裸の魚の正体が一向にわからなかった。そして予め、書いておきたいのは、これがアミモンガラだろうというのも鰭の形、位置と生息域から鑑みるもので、剥かれる前の姿を実験したわけではないということ。

 さて、剥くという手間をかけているのに、アミモンガラは非常に安い。この日は中型のマアジが800円(丸のまま)に対して剥かれた状態で500円(箱をばらすと600円 すべてキロ単価)なのだ。歩留まりからすると、ものすごく安い。

 これを買い求め、まずは『市場寿司 たか』に持ち込み。
 握りにして、
「うまかーねーなー」
 残念な結果となり。
 帰宅して、塩焼きにしたら、
「まずまず食べられるけど、もうひとつだなー」
 これも結果は芳しくない。干物にすればうまそうだ。
 それでムニエルにしたら、

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「ベリー美味ではないか!」
 大正解だった。

 この分ではフライ、煮つけもいけそうだ。
 とすると「アミモンガラは見つけたら買え!」ですな。

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 島根県になんども行く内に気がついたのだけど、この地の干物はまことに美味だ。
 浜田、大田、出雲とほとんど全県にわたって干物作りが行われていて、少しずつ特徴を見せながら、どれをとっても出色のできばえ。
 これは島根県は干物どころと言わねばなるまいね、なんて思ったものだ。
 さて観光都市松江にあって、どこで干物を買い求めるか。実は、市内のスーパー、魚屋なら、どこにでもうまい干物が揃っているし、駅前の一畑デパートなんかでも素晴らしい干物が買える。
 それでは逆に、どこで買えばいいのか迷ってしまうことになる。そんなとき所用で県庁を尋ねた。たずねたついでに県庁の食堂でお昼ご飯を食べることになったのだ。
 そこは明らかに県庁職員の縄張りだが、それほど強く縄は張ってない。だいたい地下に下りる階段下に売っていたのが、なんと地場のイチゴだったり、またそれを買い求めるオバチャンはどう見ても近所の人だ。
 その昼前の腹減りの状態でイチゴの売場の先を見ると、たくさんの干物が並んでいる。「これは干物のワンダーランドや!」と叫びたくなる光景に、吾知らず小走りになる。

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「てがれい(ソウハチガレイ)」、「やなぎがれい(ヤナギムシガレイ)」、「はまち(ブリの若魚)」ハタハタ、ニギス、マイワシにマアジにウルメイワシ。脇に板わかめがあるのがいいね。
 ここから「はまち」とニギスを選んだら、地元のヤマトシジミさんがウルメイワシとヤナギムシガレイをくれた。ありがとう、一生感謝するよ。

 この干物が、どれもこれもまことにうまい。塩加減が絶妙だ。
 毎週金曜日には県庁で干物を買い求めるという職員の方も数知れずであるという。これはとてもうらやましい。

 こんな光景を見ると全国の県庁市役所なんかに、人知れずうまいものが隠されている、そんな疑惑がわいてくる。
 またこの島根県庁、あまりにもあっさり見て回りすぎた感がある。今度行ったら端から端までじっくりねちっこく探検してやるのだ。

(有)マルコウ 島根県松江市鹿島町御津351-1 電話番号 0852-82-1334


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 市場で「目光(めひかり)」と呼ばれている魚が2種類いて、まだ研究の途上であるように思われるのだが、銚子以北がマルアオメ、以南がアオメエソと思うのがいちばんわかりやすい。
 今回の「目光」が駿河湾産ということで、これは当然、アオメエソとなる。
 この地域による種の同定というのは心許ない。
 分類学者の方にはもっとわかりやすい検索方法を見つけだしてほしい。
 それほどにマルアオメとアオメエソは似ている。当然食べ方も同じ。

 今回、久しぶりに沼津魚市場へ行って、戸田の福徳丸さんに、たっぷりアオメエソをいただいてきた。
 その半分は『市場寿司 たか』に持ち込み、握りで堪能。
 さて、後の半分は、「どないしまひょ」。

 ここで思い出したのが福島県小名浜の市場食堂で出している唐揚げ定食。
 ご飯と魚の唐揚げが合うとは思えないので、とても注文する気にはなれない品書きだが、確かに目光の唐揚げはうまいよね。
 市場食堂の調理人が、無理矢理定食に唐揚げを差し挟みたくなった気持ちがわからないではない。

 それで、今回はおかずではなく、ビール(本物ではないけど)のアテに唐揚げを作る。
 アオメエソは頭を肛門から肩口に斜めに切り落とす。
 ワタを包丁でかき落とす。
 これに塩をまぶし、少し置く。水分が出るのでよく拭き取る。
 コショウを振り、片栗粉をまぶして、やや低めの油に放つ。
 これを170度くらいまで油の温度を高めたら、一度取りだし、よく油を切る。
 やや高めの油にもう一度もどして二度揚げをする。
 (実はコショウは揚げたての唐揚げに振る方がいい。でも残念なことに我が家は子だくさんなのだ)

 アオメエソの唐揚げは、あまりにも月並みな料理だ。
 これが月並みに思えるのは、それだけうまいからに違いない。
 どうしてアオメエソがこれほど唐揚げに向いているかというと、原始的な魚で、骨も鰭(ひれ)も総てが柔らかい。柔らかいから揚げると丸ごと食べられる。
 それでいて深海に棲息するがために、独特の旨味や脂を持っている。
 シャリっとかぶりつく、そこにまずは独特の皮目の風味が来て、白身だから淡白であるはずの身の部分からは、意外なほど旨味が感じられる。唐揚げとしてこれほど完成度の高い味わいも他にはないだろう。

 5月も半ばが過ぎて、なにがうれしいか、というと窓を開けたままにできることだ。
 出来れば一日中、窓を開けていたい。
 そして夕べとなり、アオメエソの唐揚げをアテに冷たーいビールを飲む。
 この狭いベランダには、近所の農家にいただいた、新種のミニトマトが実をつけている。
 そういえば、今日初めてカラスアゲハを見たのだった。
 季節は凄まじい早さですすむ。

 戸田の福徳丸さん、ありがとうございました。

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 最近では魚貝類のアカニシよりも人間のアカニシ(赤西 どんなアイドルなんだろうね)の方が有名らしい。
 その昔、東京湾が健全であった頃には湾奥のアカニシも、それはたんと食べられていて、珍しいものではなかったはずだ。それがたかがアイドルよりも知名度が低いものになろうとは情けない。
 各地で、この巻き貝を単に「にし」と呼んでいる。「にし」は「螺」のことで巻き貝という意味。身近にいる巻き貝でもっとも普通のものという意味合いもあるだろう。
 いつのころか、アカニシの知名度は低く急降下してしまったようだ。これは高度成長期に内湾の汚染や埋め立てが進んで、少なくなり、またこんな地味な貝を食べようとする人もいなくなったためだろう。
 その上、アカニシは過去にサザエの偽物に使われたりして、ちょっと最近でいうところのアブラボウズのような立場になったこともある。サザエの代わりになるくらいだから、味はいいのである。でもアカニシをサザエとして売るなんて、失礼と言えば失礼だ。

 さて、棲息している場所がアサリやバカガイと同じなので潮干狩りをしていて、大きなアカガイを見つけるとビックリする。でもなかなかこんなことは珍しく、こいつをつかまえるのはなかなか難しい。今回食べたのは、木更津のものは千葉の海人さんが掘り出したもの。それから、また1週間後にこんどは倉敷市児島高洲でダイスケさんがとったものが送られてきて10日ほどの間にたっぷりアカニシを堪能する。

 アカニシはサザエの偽物にする場合には、まずはゆでる。
 これを刻んでサザエの貝殻に入れて焼くのだ。
 このゆでたのを壺焼き風に焼くのもうまいことはうまい。
 でもいちばんうまいのは単に足の部分を刺身にすること。

 貝殻からの取り出し方はエゾボラと同じ。
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 取りだしたら、足の部分を切り取り、半分に開く。
 ボウルに塩を入れて、ここでよくよく揉む。
 滑りがいっぱい出てくるから、これを最後に水洗いする。
 よくよく水洗いして、水分を拭き取るのがコツ。
 中途半端にやると生臭い。
 後は適当に切り、貝殻にもどして食卓に出す。

 貝の臭みをどう表現したらいいのだろう。難しいねー。臭みなのか、香りなのか微妙である。
 身にはアミノ酸などからくる甘味があり、ちょっと渋みもあるけど、これもアミノ酸からくるのだろう。
 適度な渋みは甘味を強く感じさせる要因となっているようなので、アカニシはこのバランスがいい。
 他にはタウリンなど、たくさんのこれまたアミノ酸が混ざり合って複雑な旨味を作り出している。
 そこにコリっとした食感がくるので、これだけ複雑な味わいの割に爽やかな感じがする。

 アカニシの刺身は、もう完全に酒のつまみである。意外に巻き貝の刺身には吟醸酒が合う。
 と言うことで、島根県安来市の「月山 純米吟醸」を合わせることにする。
 こんなとき五十路オヤジはちょっと幸せな気分になる。この年になると普段が不幸の連続なのだから、こんな小さな幸福がやたらにうれしーねー。

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からこと丸のことは
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きんのり丸の漁師生活28年
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 アコウ、オオサガ、バラメヌケなど赤くて、大型のものを目抜類と呼びたい。
 そして今回の主役が岩手県からきたサンコウメヌケである。
 目抜類は魚類中もっとも高価なもので、普通仲卸でも3000円を切ることはない。小振りのものでキロ当たり2000円台なんてあると、やはり高値だとは思うもののついつい買い求めてしまう。
 このサンコウメヌケもキロあたり3500円なので1本で5000円以上する。これはなかなか買えない値段だ。それでも最近、目抜類を食べていないな、なんて思ったら買わないではいられなくなった。

 さて、このサンコウメヌケを使って作ったもの。霜皮造り(刺身)、鍋、頭部など粗の煮つけ、握り(『市場寿司 たか』)、ムニエル、塩焼き。
 これが全部うまかった。あまりの美味に幸福感に浸りきる、こんなことは年に何回もないほど希である。

 さて、ではどの料理がいちばんうまかったのだろう。
 つらつら考えてみるにムニエルなのだ。ムニエルにするか、ポワレ(粉をつけない)にするか、かなり迷った。
 でも目抜類の旨味を出来るだけ逃さないように、小麦粉をうっすらとまとわせて、太白胡麻油でゆっくりとこんがり焼く。

 皮目がかりっと香ばしく、ナイフでパリっと割れる。その香ばしい皮自体と皮下の脂の液化したものが、甘いでもうまいでもない、なんだか文字に代えようがない。
 身の適度に繊維質で口の中で、あまり抵抗せずに崩れていくのも甘美である。

 目抜類を毎日食べるのは無理だ。1週間に1度だって難しい。せめて1月に1度くらい食べたいものである。

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 岡山県倉敷市高州の潮干狩りは、国内でもっとも多彩な生き物と出合える潮干狩り場である。
 普通、潮干狩りというと目的は間違いなくアサリだろう。ところが高州ではアサリは脇役でしかない。
 単純にとれるものを上げていくと、アカニシ、ツメタガイ、タイラギ、ハボウキガイ、ミルクイ、ナミガイ(白みる)、アケガイ、アサリにアカマテガイ。その他、面白い生き物がワンサカサッサといるのだ。

 なかでもとるのがもっとも難しいのがナミガイなのである。潮干狩りといったら持っていくのは、くま手という長さが30センチほどの道具だが、ナミガイをとるには大きなスコップを必要とする。
 まずはナミガイの穴を見つけて、ざっくざっくと掘り進み。なんとスコップで1メートルも掘らなければ、貝までたどり着けないのだ。
 高州でナミガイをとれるようになったら、間違いなく「高州を極めた名人」とも言えそう。
 今回のはそんな高州名人、ダイスケさんにいただいたもの。いろんな貝をいただいたのだが、まずはナミガイから。

 ナミガイは市場では「白みる」と呼ばれる。食品表示が厳しくなる前は、安い寿司屋では、そのものずばり「みるがい」とされたこともある。ミルクイの代用になるくらいだから味は抜群にいい。
 今回は、せっかく頂いたのだから、水管を刺身、その他ワタなどをバター焼きにする。
 いっぱんにナミガイで食べるのは水管のみ。料理屋さんなどではワタは簡単に捨てられる。
 このワタなどのバター焼きのうまさを教えてくれたのが、同じく高州名人である陶芸家の武内立爾さんとダイスケさんである。

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 刺身の作り方は、そのまま生よりも、水管を切り開いて、湯通しして、冷水に取り、適宜に切る。
 バター焼きはフライパンにバターとニンニクを入れて火をつけ、熱くなったら、ワタやヒモなどを短時間で焼き上げるもの。

 刺身は旨味甘味に、水管の弾力が楽しめて、当たり前だけどうまい。
 それ以上にうまかったのがバター焼きである。
 ナミガイは熱を通すと甘味がまして、柔らかくなる。そこにワタの持つ濃厚な旨味がきて、ちょっと感動的な味になった。これは高洲の名人達に教わった味というしかない。

 ナミガイを食べながら遠く高州の青空を思い出す。また行きたいねー。
 ダイスケさん、ありがとう!

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 関東では意外に食べないと言うものがあって、それが魚貝類のみそ汁なんである。
 魚貝類でだしが出そうなものを、適当に切って、水から煮立たせて、みそを溶くだけという単純極まりない料理であって、しかも滋味豊かなものとなる。これほど家庭料理としても、もしくは料理屋料理としても、栄養学的にいっても、魚貝類をむだなく食べる点からしても優れたものなのに「わざわざ魚を買ってまでみそ汁作るかね?」なんて、ものの価値を知らぬヤカラが多すぎる。

 ボクは魚貝類を調べれば調べるほど、みそ汁の重要性を思い知るのである。
 さて、魚をみそ汁にするときには、ウロコを取り、内臓をだし、適当に切って、湯通しして、汚れを取り去る、なんて単純な料理の割に下準備が大変だったりする。これが甲殻類なら、至極簡単である。買い求めてきたら、とにかくぶつ切りにして放り込めばいい。

 今回の主役は岩手県からきたヒラツメガニ。外海に面した砂浜などに棲息するもので、千葉県では背中の門から「ホンダがに」、「Hがに」と呼ばれ、岩手県では「丸がに」となる。
 値段はワタリガニの仲間では小振りで、もっとも安く、今回のものでキロ当たり1000円(仲卸にて)しかしない。

 一日部屋にこもりっきりで、一人っきりのお昼ご飯。
 しかも時間がなく、それでもせめて美味しいものが食べたいので、みそ汁だけは贅沢に仕立てる。

 ヒラツメガニは包丁でガッシガッシと適当に切る。
 これを水、少量の味醂(みりん もしくは酒)とともに鍋に入れて、ガスの火をつける。
 沸騰してきたら、アクをひき、水溶きしたみそを加える。
 もう一度沸騰してきたら出来上がり。

 カニのみそ汁は、とにかく行儀悪く食べるに限る。
 器からはみ出したカニをシャブリ、殻を噛み砕き、身をすする。
 ヒラツメガニは殻が柔らかい。
 身には甘味があり、ミソにも濃厚な旨味がある。
 ときに汁をすするのだが、ここに濃厚な旨味が感じられて、おかずのような汁のようなものとなっている。
 すなわちみそは少な目なのに、汁の濃度が非常に濃くて、ひとすすりして白いご飯をかき込むとまさに絶品。

 みそ汁、残りご飯と、沢庵(たくわん)だけの昼飯だけど、腹が温まり、とても豊かで幸せな心持ちになる。
 午後からもがんばるぞー! とエネルギーが満ちてくるのだ。

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 トウジンという魚がいて、深海性の、まるで「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる、ねずみ男のような不気味な面構えをしている。まあ、どちらかというときれいな魚じゃない。これを西伊豆では「げほう」というのだけど、たぶん漢字で「外法」なんだと思ったのはボクの独断である。古くは仏教以外の邪教、邪悪なものという意味合い。この悪相から、そんな連想をするのはありそうではないか。
 奇妙きてれつな魚だから、人に嫌われて、売り物にはならない魚であるように思われるかも知れない。ところがその逆なのである。この魚、少ないながら一部の業者に非常に人気が高い。なぜならば、例えば、魚屋である知人はこの魚を見つけると必ず買い求める。買い求めたら店頭のいちばん目立つところに、丸のまま陳列するのだ。こうすると道行く人が、立ち止まる、立ち止まる。その日は大繁盛間違いなしなのだとほくそ笑む。またもう一人、フレンチのシェフがいて、この魚のフリットなどをお客に出すのだけど、そのとき、写真をお客に見せて、「こんな魚はめったに食べられません」なんて説明しているらしい。強烈なインパクトを持つ魚というのも商業的価値が大きいということだ。

 さて、久しぶりの沼津魚市場だったので、この不気味なトウジンを一籠買い求めてきた。
 その大半を八王子総合卸売センター『市場寿司 たか』に置いて、帰宅して撮影。
 夕食には刺身にして出した。
 刺身にするときに肝心なのが、その肝である。

 沼津市戸田村の漁師さんたちはトウジンをみそ汁にする。
「わしらは漁からもどるだら、すっと必ずコイツをみそ汁にするだー。なんせ肝がうまいだから」
 戸田の底引きには乗り込んだことがあり、岸壁で待っていた引退した漁師さんに聞いた話だ。
 漁師さんは、身はほどほどに肝を集めてたっぷりみそ汁に放り込むというが、ボクなどにはそんな真似はできっこない。それで刺身にして、肝を巻き込んで楽しむことになる。

 身の淡白で味わいに欠けるのを、この濃厚な旨味を持つ肝が補ってあまりある。肝には旨味と脂からくる甘味が感じられる。
 この身はどうでもいいから、肝ばっかり食べたいと思うのだが、叶わぬ夢のようだ。

 さて、昨日が沼津での底引きの最終競り日であった。これから9月まで底引きの禁漁となる。
 次回、トウジンの刺身を楽しむのは9月までお預けである。

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 最近流行のガスバーナー、これがいろいろある。
 いろいろある中で、どれにしようか、どこで買おうか? 迷ってもいた。
 そんなとき、近くの厨房機器を売っているテンポスで5000円だというのを聞いて、思いって買うことにする。この5000円というのが安いのか高いのかわからない。
 でもいろんな人に聞くと、火力の強いものは、それなりの値段がするという。そして「火力は強くなくちゃいけない」のだと力説する人がいて、八王子総合卸売センターから5分ほどのテンポスで即買いする。

 形状は棒状で、非常に単純な構造に見える。これを確実に取り付けて、まずは炎を出してみる。これが「ゴー」と凄い音で、炎が青い。確か炎は赤いほど低く、青いほど高いんじゃなかったっけ。
 さて、バーナーを買ったはいいけど考えてみると、あぶる魚がない。仕方なく塩焼き用に買ったニシンをあぶってみる。このニシン、厚岸産なのだけど、意外に鮮度がいい。

 三枚に卸した身をあぶる。凄い音を立てながら、青い炎でニシンの身をなめるようにあぶると、それこそクレヨンでなぞるように焦げ目がつく。
 ここにレモン、ニンニク、ナンプラーを合わせたものを回しかけて食べてみる。これがいけるのである。
 昨今、寿司屋などで「あぶる」のが流行だと言うが、確かにガス台などあぶるよりも、ぜんぜんきれいな焼き目がつくし、また炎を当てる範囲を限定できる。

 買い求めてからサワラ、マイワシ、カサゴなどをあぶってみたが、どれもきれいな焦げ目がつき、味もいい。この「あぶり」行為、今年は病みつきになりそうだ。

オリエンテック
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 カサゴの仲間は同定(種を調べる)が大変。それで見つけるたびに買い込み、胸ビレをひっくり返したり、頭部の棘を丹念に見たりして、さんざん検索(種を探し出す)に苦闘する。
 苦労のかいがあって、種にたどり着けたらうれしいのだけど、ダメだったら、それはやっぱり現在の分類の世界では貴重なものであって、食べないでしかるべき機関に差し上げる、もしくは譲ることになる。
 そして種にたどり着けたら、待っているのが魚類中もっとも味のいい魚群であるから口福というわけだ。

 今回のサツマカサゴはカサゴ目フサカサゴ科オニカサゴ属でも比較的同定が易しいもの。これを八王子総合卸売センター『高野水産』で胸ビレをひっくり返して見ていたら、社長が一言、「あげるよ」なんて言ってくれる。社長、「ありがとう」ともらい受けてくる。

 胸ビレの裏側の文様から探し求めているヒメサツマカサゴでないことは、わかっている。
 わかっているので大急ぎで頭からまっぷたつに梨割りにしてしまう。
 そして振り塩。
 魚体を元の状態に閉じて、半日寝かす。
 これを開いて冷蔵庫で半日乾かす。
 この時期、天日干しは無理。
 むしろラップしないで冷蔵庫というのが、いちばん簡単にうまい干物が作れる。

 出来上がった干物を焼きはじめると、ほどなく脂がにじみ出てきて、ジューっと焼き網から煙があがってきた。魚の身が自分の脂で唐揚げになるような、そんな状態がいちばんいいのだ。
 こんがり焼き目がついたら、「さあ、食うぞ」と手づかみでアチチチ、アチチチチチチ。
 むしくった身のうまさに、興奮して、またむしくり。脂からくる甘さ、旨味の強さが、口の中を満たして爆発する。咀嚼していると鼻に抜ける甘い香りがあって、これでボクはダウンする。これほどサツマカサゴの美味の一撃は凄まじい。

 八王子総合卸売センター『高野水産』の社長に感謝。そしてサツマカサゴを育んでくれた和歌山串本の海に、サツマカサゴを漁りした漁師さんに感謝する。

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岩手県からの八角

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 関東では八角という名前がすっかり定着している。標準和名のトクビレを知る人なんて皆無であろう。この八角も寒い時期なら値も張ろうけど、そろそろ単衣でいいか? なんて言うときにはぜんぜん値がつきはしない。今回のものは岩手県産だという八角でオスメス混ざり合って、しかも小振りだ。それで市場での値段がキロ当たり1000円ほど。当然、これも買いだね。

 八角(トクビレ)だけを狙う漁はない。たぶん底引き網の副産物なのだけど、冬にはキロ当たり2千円も3千円もするのだから漁師さんといてはありがたい魚だろう。でも高いのは寒い内だけ。しかも八角は、標準和名のトクビレすらも、本来オスをさす言葉なので、メスが高い値をつけることはまずない。
 じゃあ、安い時期の八角がまずいのか? というと、そんなことはない。市場で見つけて、触ってみて、張りがあって、鮮度がよければ先ず間違いなく美味。
 通ぶったヤカラが八角の旬なんてあれこれいうが、ボクが声を高くして言いたいのは「本気で通ぶるヤツはバカだ」ということ。「通ぶる」というのは「除外する」ことであって、心を狭苦しくするだけの愚かな行為。

 閑話休題。
 持ち帰った八角は素直に塩焼きにした。
 刺身でもいけそうだったが、この魚、焼くとすこぶるつきにうまい。
 まずは背から梨割りに開く。
 肝を壊さないように鰓とワタを取り去り、軽く汚れを洗う。
 水分をよく拭き取って、振り塩。

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 このまま1時間以上置く。よく塩焼きは20分以上塩をして置け、というが八角は脂が強いので1時間でも足りない。
 これを硬いウロコ側から焼いていく。そして身は強火で焼き。
 できたら熱々の内に一気に食べる。

 2匹ずつ焼き、どんどん食べて、6本食べ尽くすのにそんなに時間を必要としなかった。
 やはり八角は肝がうまい。ボクは肝の部分をもらって、酒の肴にする。子供達は尾の身の剥がれやすい部分を手づかみで食べている。身に強い甘味があるのは脂からくるものだろう。

 さて、いくら八角が市場で売られているといっても「普通は買えないでしょ」と思われそうだ。そんなことはない。千葉県柏市、我孫子市の京北ストアには発泡トレイに入れられてどんと冷蔵ケースに並んでいた。東京都八王子ではスーパーイシカワという食料品店の店主、石川栄二さんが箱で仕入れて行く。これが夕方には刺身となって店頭に並ぶのだろう。
 ことほどさように最近では珍しいと思う魚だって、探せば買えるのである。ようは身近な場所に優れた小売店を探す努力をすることだ。

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トリガイの快楽

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 活けトリガイの入荷が目立ってきている。今年も安い。このトリガイほど、ボクが興奮するものはない。それこそ毎日でも食いたい。
 トリガイに旬があるのだろうか? あるとしたら晩春の今頃かな。なにしろ市場で見ない日はないほどに入荷が多いし、また身の甘味がなんとも頂点にあるように思える。ただし毎日のように食べたいと言っても、仕込みが大変なので、それこそ週一くらいに食べる程度で偉そうに言えないかも知れない。

 トリガイの仕込みは、貝殻を剥く。
 このとき表面にできるだけ触れないように気をつける。
 取りだした鳥のクチバシのようなものが足。
 このクチバシを半分に開く。
 開く間にも出来るだけ足の表面の黒い部分に触れてはいけない。
 鍋に湯を沸かし、少し塩を入れる。
 トリガイの足を約10秒ゆでて、氷水に落とす。
 熱を通すと、足の表面の黒い部分がはがれ辛くなる。それでも布巾で水気を拭き取ったりしてはダメ。
 布巾の上に開いた足を置き、水分の落ちるのを待つ。

 後は、必ず貝殻の上に盛りつける。
 トリガイの貝殻の裏側は赤紫色で美しい。ここに真っ黒な刺身をのせた、その姿がよろしいな。
 味はぶるんとして、しかも適度に噛み切れる食感がいい。そこに甘味があって、貝の風味が襲ってくる。
 この極楽気分になれる旨さは、食べなきゃわからない。しかもゆでて市販したものではなく、自分自身で手間と細心の注意を払って刺身を作らないと、極楽にはいけません。

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 その昔、深川はシジミ、アサリ、青柳(バカガイ)、ハマグリなどの産地であった。現在では江東区となっている建物のごみごみした、まるで緑のない地帯に広大な干潟があり、魚貝類の宝庫であったなんてとても想像だにできない。そこに今では名物とされる「深川飯」というのがある。

 本来の深川飯とはどんなものだろう。
 たぶん、徳川幕府以前から、アサリやシジミはたっぷりとれていたはず。ただここで問題になってくるのが「飯」である。江戸に米が潤沢に入ってくるようになったのは徳川幕府が開かれてから。そして江戸初期の調味料はもっぱら味噌だった。だから「元祖 深川飯」はアサリのみそ汁かけご飯であっただろう。
 それがいつのときにか変質していき、醤油仕立て(しょうゆじたて)のぶっかけ飯になり、また炊き込みご飯も「深川飯」の仲間とされている。
 要するにアサリを種にした飯もの総てが「深川飯」なのだろう。

 今回は木更津で子供が掘り取った小振りのアサリ。これは「網元 つぼや」での伝統漁すだてを楽しんだ合間にとったもので、まさに江戸前のアサリだ。
 砂抜きが出来ていないので、まずは少量の水でゆでる。
 貝殻を外して、身についている砂をよく洗い落とす。
 ゆで汁は砂を漉しとって捨てる。
 まずはご飯を用意して、ゆで汁、酒、醤油、塩、ささがきゴボウ、ニンジン、油揚げ、せん切りのショウガに水を補ってやる。これで準備はととのった。
 我が家は羽釜なので炊きあげ、むらしをいれても時間は30分とかからない。

 出来上がった炊き込みご飯はたったの2合ほど。なにしろアサリが少なすぎた。これを家族が分け合って食べたのだけど、やっぱりアサリの炊き込みご飯は最高にうまい。
 アサリの旨味というか、ほんのり甘味が感じられて、適度な塩分濃度にごはんが進むから、いかにもあっけない。
 姫が「父ちゃんまた海に行こうよ」とねだるのだけど、次回は夏となりそうだ。

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 やはり、クロダイは安いな。5月13日は魚が少なくて、魚貝類の値もよかったのに活け締めにされたクロダイがなんとキロ当たり1000円しかしない。同じ店でマイワシがキロ当たり1000円であった。いかにマイワシの値が上がり気味だといっても、立派なタイ科のクロダイが同じ値段というのはおかしい。これでは漁師さんがかわいそうだ。気の毒に思いながら、それでも一本買い求めてくる。
 見事なクロダイで産地は讃岐香川である。最近、瀬戸内海のクロダイの入荷は目に見えて増えている。

 持ち帰ったら、まずは三枚に卸す。
 そこに強塩を振る。水分が出てきたら拭き取り、ベランダに干しておく。
 乾かすこと2時間。無駄な水分を出してしまうのが、うまい炊き込みご飯を作るコツ。
 腹骨、血合い骨の部分を切り取り、米、ショウガのせん切りとともに羽釜に入れる。
 味つけは酒と薄口醤油(うすくちしょうゆ)だけ。

 後は炊きあがりを待つのみだから、ほんとうに炊き込みご飯というのは手間いらずだ。
 さて、本来の瀬戸内海の「ちぬ飯」というのはまるまる一匹炊き込む。でも一般家庭ではそんなに大きな釜で炊くこともなく、また頭部などを入れると、骨が残ってしまわないか心配だ。
 我が家などご飯の支度も、炊きあがってかき混ぜるのも子供の仕事なので、炊き込むに骨を除去して利用する。

 この単純な炊き込みご飯がやたらにうまい。子供達はこれを海苔に巻き巻き食べる。ボクは酒を飲みながら、まるで酒の肴であるかのようにして食べる。
 ぷーんとクロダイの甘い旨味を含んだ香りがして、ご飯にも旨味がたっぷり染み出している。まことに贅沢な気分に浸れる逸品である。
 たぶん、魚が嫌いという人にも、「ちぬ飯」だけは大丈夫ではないだろうか? なぜならクセのない白身のためか全然魚の生臭みがない。

 さて、クロダイにはたっぷり白子が入っていた。まさに産卵の最盛期であろう。この産卵期がまたクロダイ漁の最盛期でもある。当然、たくさん揚がると値段も安い、そして脂ものってうまいのだから、この時期のクロダイは大いに食べなきゃいけないね。

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 まったく値が下がらないという魚が何種類かあって、どうもカサゴ目に多い。きんき(キチジ)、アコウ、目抜類、カサゴにイズカサゴ、オニカサゴ……。
 全身が棘だらけである、頭でっかちなのがカサゴの特徴で、歩留まりがすこぶるつきに悪い。それで値が高いと言うことは、それだけ味がいいと言うことに他ならない。

 ただ、高いカサゴと言っても、鮮度はまちまち。また漁の方法なのか、型が良くても、まずそうなもの、また味の落ちていそうなのもある。

 そんなとき、まことにきれいなカサゴが来ていて、残念なことに箱を替えて並べていて産地がわからないのだけど、それにしても見事な色合い。
「値段はいくらだい」
 八王子総合卸売センター『高野水産』の社長に聞くと、「2500円だな。安いだろ」と宣う。
 確かにこれだけ鮮度のいいカサゴは滅多にない。

 持ち帰り、撮影のために鰭を固定する(展翅のような感じ)する。撮影のために室温にしばし置いたら、刺身で食べるというわけにもいかない。
 思い切って、久しぶりに塩焼きにしてみる。釣りに夢中のときにはよくカサゴの塩焼きを作ったもので、「カサゴを食うなら塩焼きに限る」なんて思いこんだこともある。あの頃は煮つけの旨さを本当には理解できていなかったのだ。

 そして久しぶりの塩焼きがよかったのだ。カサゴの旨さは皮下にあり、そこを箸でほぐすとプーンと旨味を含んだ風味が立ち上がる。箸でつまんだ身の甘さは言うに言われぬものである。カサゴの旨さに朦朧とするとはこのことではないか。小さなカサゴであるのに、味は大物だ。

 塩焼きの旨さは焼き上がってから、どんどん消滅していく。だから、むさぼるように食うのだけど、このせわしなくも幸福な瞬間は短すぎる。

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 魚の卵にもうまいまずいがある。例えば、マゴチの卵巣はうまいのに、イサキはそんなにうまくない。そう言えばキンメダイもそんなにうまくない。対するにニシン目はほとんど例外なくうまい。ニシンにマイワシにコノシロに、と産卵期の子持ちはそれなりに楽しめる。
 そして木の芽時ともなると大量にあがるサワラの、真子がこれまた非常に美味なのだ。サワラの卵巣は、ボクが改めて言うまでもなく、岡山県や香川県などでは昔から、春から初夏への風物詩的な食べ物である。また香川県では唐墨にするのだけど、なかなか高価で手が出ない。

 さて、4月から5月にかけて、市場ではサワラを卸している光景をよく見かける。関東の料理人は、この真子の真のうまさを知らないのだろうか、「真子はいらないよ」なんていたって淡白に身だけを持ち帰る。ということでサワラの真子をあっちこっちからいただく時期なので、我が家ではこれを惣菜風にコックリ甘く辛くたきあげる。
 煮方はいたって簡単至極。
 サワラの卵巣は細長いので4、5センチ幅に切る。
 熱湯を用意して、ここに落としていくと、ぱっと花が咲いたようになる。
 これを冷水にとり、布巾に上げて水分をとっておく。
 鍋に味醂(みりん)、酒、ほんの少しの砂糖、濃い口醤油を煮立たせて、少し煮詰める。
 沸き立った煮汁の中に卵巣を放り込んで短時間・強火で煮あげるのだ。
 煮上がる寸前にもう一度味醂(みりん)を回しかけ、一煮立ち、そしてしぼりショウガをふる。
 今回は天に針ショウガを盛ったのだけど、季節からして木の芽(サンショウの葉)の方がよかった。これでは我が家で勝手に作っている季語事典には載せられない、残念、無念。

 このような魚の卵巣の甘辛い煮つけは、食卓での滞在時間がやたらに短い。
 いつもだいたい10分もかからず消え去ってしまう。
 太郎が、「父ちゃん、今日はおかずが少ない」と文句を言うのはこんな一品を作ったときだ。

 サワラの卵巣にはまったくクセがない。甘味があり、調味料の甘味と合わさって、より濃厚で複雑な甘味となり、ザラリと崩れた卵粒(たまごのつぶ)が舌の上でより細かくつぶれてコックリとした風味が浮かぶ。
 これほどの美味であるが、酒飲みにとって残念であるのは、サワラの卵巣の煮つけは酒の肴である以上に、ご飯のおかずだということ。家族のおかずを減らしてまで、酒のアテとするわけにもいくまいね。

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掲載種 1975


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 相変わらずギマが多いんだな、とビックリしてしまった。
 木更津での伝統漁すだての内側で手網を構えると、水面近くに何十匹ものギマは泳いでいる。
 ギマとは聞き慣れない魚かもしれないが静岡県西部から伊勢湾にかけては、その昔からたくさんとれて、よく食べられているものだ。

 形がまことに変わっていて、頭でっかちな宇宙船のように見えて、なんだか生き物らしくない。だいたい、銀白色なのでうまそうに見えないというのも残念な点である。そして実際に手に取ると、もっともっとやっかいな魚であるのを思い知ることになる。
 頭の真後ろ、腹ビレ、背ビレの第一棘状がまるで槍のように鋭い。しかもザラザラとした細かな返し(刺さった刃物が抜けなくする突起)が着いているのだ。そしてとどめのごとき滑り(粘液)で、それこそぬらぬらと気持ち悪い。初めて手にとって食べる気になれるか、どうか疑問に感じないではいられない。

「こりゃ食べるとうまいんだが」
 ギマがうまいことは数十年前から知っている。この魚をなにげに手にとって、「うまいから持って帰れ」と声をかけられたのが知多半島豊浜の魚屋でのこと。なんとカサゴを買い求めて、3本ほどオマケにもらった。
 親切にも皮を剥いてもらって、持ち帰り、刺身にしたら、なかなかうまいのだ。

 以後、いろんな食べ方を試してみたが、意外にうまいのが、一夜干しである。
 まず、塩をして、酒で風味を加える。これを冷蔵庫でひと晩干すだけ。
 後は焼くだけなので、こんなもの料理といっていいんだろうか? というほどに簡単だ。
 結局、ギマをうまく食べるには、手早く卸して、滑りから隔離するのが大変なだけというのがわかる。

 今回の一夜干しもやっぱり味がいい。このようにして食べるたびに思うのは、フグ目の魚は美味揃いであると言うこと。形からして変であるため、まさかフグ・カワハギの仲間と思い至らないだろうが、実際に食べてみると、そのしっかりした白身からしてフグに近いのがわかるだろう。

 骨離れのいい白身を手でむしる。これが淡白で、ほんのり甘味が感じられてうまい。
 困るのは、この手の干物は100パーセント酒の肴だと言うことだ。
 今夜の酒は島根県安来市の「月山」なのだけど、コップ酒の減りが早いのは、魚のせいだろうか、酒がうまいからだろうか?

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 木更津での海遊びに興じた日は楽しかった。『網元 つぼや』さんのおいしい天ぷら、ご飯もあってまことに、まことに満足至極。
 その上、獲物もいろいろあり、それこそ内房ならではの見事なスズキにマダイなんか、どう料理したってまずいわけがない。しかし中にはなかなか難敵が混ざっていて、トゲトゲのギマ、小骨がだらけのコノシロ(こはだの親)、ダツなんかも混ざっていた。
 すだて漁に参加したなかでたぶん、コノシロがとれていて喜んでいたのはボクだけかな? なんて思われる。この一見端正でうまそうな魚、煮ても焼いても、その細長い小骨に悪戦苦闘する。
 うまくなかったら、別に食べなきゃいいんだけど、小骨問題を除けば、非常に味がいいので、またなんとも悩ましい限りだ。

 ボクはその昔、この大型のコノシロをもっぱら塩焼きにしていた。真子がたっぷり詰まっている時期で、塩焼きにするとホカホカして味のいいこと。身は細かく骨切りをしておくとなんとか食べられる。
 最近、塩焼きよりも何倍もうまい食べ方を覚えてしまった。それが韓国風の胡麻油(ごまあぶら)焼き。
 別に難しい料理ではなく、頭とワタを除き、骨切りする。ここに塩をして、少し寝かせる。
 テフロンフライパンに胡麻油をややたっぷり入れて、そこにコノシロを泳がせて、弱火でコンガリと焼き上げるだけ。コツはただひとつ、ゆっくりとコンガリと焼き上げること。慌ててはいけない。

 食べ方はそのままでもよく、またコチュジャンをつけながら食べてもいい。皮目は限りなく香ばしい、それでいて身の方はしっとりしている。甘味もある。それになによりも味がいいのが真子である。ニシンもそうだが、ニシン目の魚の特徴は真子がうまいこと、というのがしみじみわかってくる。
 さてさて、酒を合わせるなら、マッコリルといきたいね。

 この料理法は昨年、韓国の漁師さんに、とにかく魚だったら、胡麻油で焼いて食べるのだ、と聞いて病みつきになった料理。たぶん、韓国料理には魚貝類の食べ方で、もっともっと面白いやり方があるとにらんでいるのだけど、いかがなものだろう。

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 毎日忙しくて追い立てられているようだ。それで料理もパッパのパッと出来るものばかりになってしまっている。
 その最たるものが冷凍保存しておいたスルメイカの胴で作る「スルメイカの生姜醤油焼き(しょうがしょうゆやき)」。

 冷凍スルメイカは流水でもどすこと数分。この水分をよくふきとって、適当に切れ目を入れる。
 テフロンフライパンにゴマ油を薄く引き、よく熱してからスルメイカをジュっと焼く。できるだけ強火で、短時間に焼くのがいい。
 火が通ったら、スルメイカを一度取り出す。
 火を止めて、同じフライパンに味醂(みりん)、醤油(しょうゆ)を入れて、もう一度火をつける。
 煮立たせて、少し煮詰めたら、生姜(しょうが)の絞り汁を加えて、スルメイカをもどす。
 ここで強火にして、少し搦(から)めるようにして出来上がり。

 スルメイカに火を通した時間は短時間であり、柔らかく仕上がっている。味醂の旨味とイカの甘味であるグリシンや他のアミノ酸なんかと相まって、ほんまにうまい一品になっている。

 この料理は、珍しくご飯のおかずでありながら、また酒の肴としても優秀である。もっとつけ加えると、焼酎にも赤ワインにも日本酒にも水割りにも相性がいい。
 だから家で作るときには、たっぷり作るのが真のコツ。

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シオフキの当座煮。佃煮よりはあっさり炊きあげている

 潮干狩りなどに行くと、必ずとれるものにシオフキとカガミガイがある。ともにまずいものだと思いこんでいたら木更津の漁師さん達から、「あんたそれは間違いだ」と言われまして、「ええ、確かに食べたらまずかったんだけどね」と再度、じっくり食べてみる機会を狙っていた。
 今回は、その剥き身をたっぷりいただき、シオフキとまともに闘って見ることにする。

 これが不思議なことに、剥き身なんだけど、みそ汁もうまいし、ボンゴレ風にスパゲッティ、かき揚げもいいぞ、そしてなによりも当座煮(佃煮ほどは保たないけど、当座、すなわち2、3日は保つということ)にしたらうますぎる。
 過去に食べたまずいシオフキは幻だったのだろうか?

 面白いのはアサリやホンビノスなどは熱を通しすぎると硬くなる。それがシオフキはあまり硬くならないのである。だからしっかり水分を飛ばすように煮あげても、ふっくらしている。味は当座保てばいいので薄くつけてある。

 日頃色々世話になっている『市場寿司 たか』のたかさん、『さくら』のまささん夫婦にも食べてもらったが、「ほんまにうまいね」と感激していただいた。

 木更津での潮干狩りは、夏にだってできる。例えば、名物の、すだて漁を予約して、潮待ちの間中、シオフキ、バカガイ、アサリを掘るなんて最高だ。今度からシオフキがいちばんありがたい獲物になるかも知れない。

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 鹿児島県南さつま市笠沙、わかしお君からたくさんのお魚が届いた。なかでも一際目を引いたのが2キロ弱のコロダイで、見事としかいいようがない。

 この魚の特徴はイサキの仲間なんだけど、体高がありタイ型で、体中に黄褐色(鮮度がいいときは鮮やかな黄色)の斑紋があること。関東ではあまり馴染みがない魚なのだけど、関西以西では普通に魚屋さんなどに並んでいる。これが温暖化のせいか増えてきているようなのだが、なかなか人気が上がってこない。
 体中にある黄色い斑紋が嫌がられるのだろうか、もしくはときどき寄生虫がいるせいなのか?

 三枚に卸した身の美しさは、スズキ目のなかでも屈指のもの。しかも食べてもうまいのである。だから市場で見つけたら、値段の安さに喜びを感じながら、ついつい買い込んでしまう、そんな魚だ。

 たぶん、2キロ弱というのはコロダイでいちばんうまい、頃合いの大きさなのだろう。三枚に卸した身の美しさに感激する。とうぜん、刺身にして、もっと感激。イサキに似て、イサキよりも磯臭くなく、甘味がほんのりある。
 若潮君に聞いても、
「どうしてコロダイの値段が騰がらないんでしょうね、不思議で仕方がないんです」
 漁師は魚の値段が騰がらないと困るのだけど、コロダイの安値には困り果てているようだ。
 まったく、コロダイの安値には、ボクにも不思議で仕方がない。

 さて、うまい魚なのに安いということは、今時珍しくお買い得ということになる。だいたい刺身だけじゃない、コロダイのポワレはもっともっとうまいのだ。和洋どっちでもイケル魚、コロダイを食べてみませんかー?

若潮君のお魚宅配便
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 カツオのシーズンである。一年を考えると、前期ですね。脂はないけど、腹身など皮付きのまま刺身にするとまことにうまい。
 それでついつい買ってしまうのだけど、買い置きしていたことも忘れてしまい、もうとても刺身には無理なんて失敗がおうおうにしてあるのだ。

 そんなときはゆでてしまう。ゆでて冷やして、表面を乾かす。なまり節以前の状態なのだけど、ここから幾通りにも料理が作り出せてしまう。
 中でも定番と言えそうなのが「カツオ飯(鰹飯)」である。かなりかちかちに乾かして、味醂醤油で付け焼きするのもありだし、茹でたてをほぐして、味醂(みりん)、酒、砂糖、醤油(しょうゆ)でフレーク状にするのもいい。これを炊きたてのご飯もしくは、残りご飯を温めたものに混ぜ込むのが「カツオ飯(鰹飯)」。

 5月始めの本日は、わざわざ、生のカツオをゆでて、ほぐしで甘辛く味付けしたものを、残りご飯に混ぜ込んでみた。
 カツオには醤油にショウガ風味が加えていて、ここに細かく切ったミョウガを刻み込む。

 天に盛ったのは苗用の九条ネギの青いところだから、全然上等ではない。我が家の普段の食事はできるだけ材料を誂えない、のがモットウである。
 カツオのほぐし身の混ぜご飯はやや甘辛く、まったりした味わいである。そこにミョウガが利いているのである。しかして、カツオのなんと強い、またわかりやすい旨さだろう。これなら誰だって、飯茶碗三杯は食べられる。
 ここに錦糸卵や三つ葉でものせれば上等であろうに、そんな演出がボクには出来そうにない。
 こんな普段着の食べ物でも、我が家の姫は日本橋にニョキっと建っている今時の高層ビルで食べた「ピザよりうまい」と言ってくれる。
 それはそうだろう、父ちゃんの愛情がこもっているんだからね。

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 今年はスルメイカが高くて、その上「ばらいか」を見ない。「ばらいか」というのは、昨年の秋からこの冬に生まれた子供のスルメイカなので、この高値当分続きそうで嫌な感じだ。スルメイカは我が家では必ず常備しておく素材なのだ。だから買うときにはまとめて買い、ワタを抜くなどして、胴体とゲソに分けて冷凍保存する。この冷凍保存したスルメイカは煮物にスパゲッティに焼き物にと日々大活躍してくれる。

 さて、そんなススルメイカで夕食などに一品足りないぞ、と思ったら、作るのが唐揚げである。
 輪になっているので可愛らしいし、子供達は香ばしいためかスナック感覚でついつい手が伸びる。
 人気が高いためか、父ちゃんに残るのはわずかばかりなのが残念だけど、やはりこのような定番的な料理はうまい。

 念のために作り方を書いておく。
1 胴の部分を5ミリほどの幅で切る。
2 輪に広げて、水分をよく拭き取り、塩コショウして少し置く。
3 もう一度水分を拭き取り、小麦粉をまぶす。
4 あとはやや高温の油で揚げる。

 ビールがおいしいこれからの時期には、毎日作っても、人気の衰えぬ料理である。

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 島根の漁港などであがるマアジなどを和風ではなくフレンチやイタリアンに仕立て上げられないか? と考えて料理研究家のjasminさんに相談する。そしてリエット(野菜などと煮込んでペースト状にする)、コンフィ(低温の脂で火を通す)とともに上がったのがコトリアードという料理。コトリアードというのは初めて聞く料理法だ。
 ブルターニュ地方の伝統的な料理であること。魚、野菜、牛乳(生クリーム)、バター、ジャガイモのペーストなどを使うこと、煮込み料理であることがわかった。
 でもどんな料理なのか、もう一度、jasminさんに確かめようと思ったら連絡がとれないのだ。でも、これだけの情報があると出来上がりはなんとなく想像できる。考えたままに作ってみた。

 まずはサワラの切り身に塩コショウ。よく水分を拭き取って、オリーブオイルでソテー。こんがり色が付いたら取り出す。
 ここにセロリ、玉ねぎなどを乱切りにして放り込み。冷凍庫にあったスルメイカ、アサリを加えて、牛乳、ローリエ1枚を加える。牛乳が沸き立ってきたときにつぶしたジャガイモを入れ、サワラをもどす。
 ここでコトコト10分ほども煮込む。スープがトロリとしてきたら塩コショウして出来上がり。
 出来上がりは思ったよりもうまそうだし、なかなか見栄えもいい。

 さて、味加減がわからないので、なんども味見した。煮込むほどに、濃厚に魚貝類の旨味がスープに加わってくる。
 単に魚貝類と牛乳が出合っただけなのになんて濃厚な魚貝類のスープなんだろう。このスープにからめて食べるアサリやサワラ、スルメイカも柔らかく、口の中で旨味と甘味を残していく。
 食べ終わった後に感じたことは毎日食べてもあきない味わいであるというもの。コトリアードは、まさにフランス版みそ汁のような料理に違いないと思う。もしもボクが作り上げたのがコトリアードなら。

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 北海道厚岸から、まとまった量のニシンが入荷してきている。鮮度もよく、触った感じからしても脂がのっている。
 魅力的だなと思って八王子総合卸売センター『総市』のミノルちゃんに値段を聞くと「800円だよ」とのこと。氷水に手を入れて、メスだろうと思うものを2本買い込む。1本あたり150円から200円ほどにしかつかない。

 持ち帰ったニシンは1本はあぶりに、そして1本を塩焼きにする。
 あぶり用におろしたら案の定たっぷり真子を抱えている。これを塩焼き用のワタを取り、そこにもう一腹分の真子を詰め込む。この二腹分の真子でパンパンに脹れたニシンに振り塩をする。
 小一時間おき、やや強火でコンガリと焼き上げる。
 こういったものは手づかみで食らうしかない。
 夕食はニシンとトンカツの2本立て。
 トンカツ用のロースは八王子総合卸売センター『カワベ』、コマちゃん厳選のを、なんといただいたもの。これならニシンは1本でも安全にボクのお腹に納まるはずだと思ったら、脇から太郎が真子だけをくすねていく。確かにニシンの卵巣の旨さは魚でも屈指のもので、上等のロース豚カツをしのぐ魅力が子供にも感じられるようだ。

 穏やかな5月の風が開け放たれた窓から吹き込んでくる。心地よいはずなのに、ボクは悪性の風邪のために、頭が重いのである。風邪を引いても食欲が落ちないのがボクの取り得なのだけど、このニシンを食らっていると、その頭痛を忘れてしまう。「うまい魚は妙薬か?」もね。

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