食べる魚類学: 2006年4月アーカイブ

 関東では「石持(いしもち)」と言った方がわかりやすいシログチ。東京湾でも人気の釣り魚、また食用魚としても馴染みが深い。これが旬を向かえる。例えば鮮度さえよければ刺身で絶品。とうぜん塩焼き用の魚として有名であるだけに、火を通したときの白身の繊維質の滑らかな味わいも特筆すべきものだ。
 ただ、このシログチというのは水分が多く、身の劣化が早い。よほど近い産地のものでなければ刺身は無理、ときに塩焼きにしても生臭いものがある。
 そんなとき広島県倉橋島、「日美丸」さんから届いたシログチの素晴らしいこと。『市場寿司 たか』に持ち込んだら、さっそく寿司職人の渡辺隆之さんが三枚に卸して刺身にしてくれた。そして当然握りに。
「脂はないけど、刺身でうまいね。これは旨味があるからだな。これお客に出すのはよして持って帰ろうかな、うちの孫は魚が好きなのよ」
 こちらも酒でも飲みたい気分になって、それを辛抱して帰宅した。そして残りのシログチを水洗い、塩をして一晩置いて、考えた。そして思い出したのが韓国食材店で聞いたシログチの干物の食べ方。在日韓国人のオモニが言うに、
「干物はフライパンに油を引いて焼いてもうまいのよ。焼き上がったらゴマ油をたらして、これはご飯にも合うの」
 これを鮮魚のシログチでもやってみた。すなわちフレンチのポワレを作るように弱火で焼き上げ、食べる直前にゴマ油をふる。丁寧に焼いたつもりがまだ表面に水分が多いのか、皮が剥がれてしまった。ちょっと見た目は悪いが、食卓にのせるや家人が夢中で箸を伸ばす。これはうまい。香辛料もなんにもなく、焼いてゴマ油をかけただけなのに塩味とシログチの旨味、そして絹のように滑らかな身質にゴマ油、これが渾然一体となってうまいのなんのって。やめられなくなってもう一枚。これは間違いなく我が家の定番料理になる。

isimoti.jpg

市場魚貝類図鑑のシログチへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki2/nibe/siroguti.html
●広島県倉橋島「日美丸」のページへ
http://ww5.enjoy.ne.jp/~kogera0401/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 沼津の仲買、佐政水産・青木修一さんはまるで魚類学者(仲買としても沼津では当たり前だが名を馳せている)のようである。市場に来て、彼が珍しいと感じてとっておいてくれたものは、私ならずとも魚類学会をも物議を醸すのだ。例えば先週来たクロダイは、相模湾でとれたものであるが「どうもミナミクロダイらしい(本州でとれること自体がニュースだ)」と研究機関で大騒ぎしているし、今回のキンメダマシも駿河湾で何十年も珍魚・珍生物を探す飯塚栄一さんをして数十年に1匹というものだという。
 だいたいこれくらい珍しいものになると画像も少ないだろうから、図鑑に掲載する前にお見せしたい。

tingyo.jpg

珍魚 キンメダマシ/南日本の深海に棲息する


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 豊川稲荷の門前で考えた。「せっかく寄り道したのだからうまいもん食いたいやないか?」。豊川稲荷で「いなりずし」。これが少々、もの足りない。門前町を歩くとき目に付いたのが鰻屋、そして香ばしい香り。愛知県豊川市では地焼き【蒸さない】か江戸前風【蒸す】のかも実際に食べてみないとわかりませんわな。
 豊川稲荷に近い、それこそ境内から見えるところにも何軒かあるが、これは土曜日だしさけたい気分。それで青い稲妻号で豊川稲荷から離れること30秒。鉄筋コンクリートの硬質な造りだが、どこか「うまそうな」店構えのうなぎ屋を発見した。
 この「京楽軒」店頭で品書きを見て、気に入ったのが鰻丼のあること。しかもいちばん高い「うなぎ定食」が2400円、いちばん下の「うな茶漬け 並」は750円であるから関東の鰻屋よりも安い。観光地にあってこの値段なら安心できる。
 店にはいると正面奥に厨房。さかんに団扇が動いている。若い娘さんのお客を迎える態度も悪くない。4人席に陣取るとすでに腰掛けている方に「うなぎ丼 梅 1150円」が運ばれてくる。「梅」でもいいかなと思ったが、せっかくだから「松 1500円」にする。
 待つこと15分以上。これは「蒸し」であれば予め蒸しの行程まで仕上げて作り置いた物。地焼きなら生から焼いたものだろう。地焼きならいいな、と思ったらまさに地焼き。一切れ口に入れるとやや硬めの蒲焼きの皮が香ばしい。タレはやや甘口であるがサラリとしているので丼一杯ではもの足りないくらいだ。1500円でこんなにうまい「うな丼」を食えるとは思っていなかったので感激する。きも吸いも塩加減もよくいい味わい。これでお新香がよければパーフェクトなんだけどな。

kyouraku0001.jpg
kyouraku0002.jpg

京楽軒 愛知県豊川市西本16 電話0533-86-2902
http://homepage2.nifty.com/kyorakuken/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、2006年4月以降に書かれたブログ記事のうち食べる魚類学カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは食べる魚類学: 2006年3月です。

次のアーカイブは食べる魚類学: 2006年5月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。