食べる魚類学: 2006年10月アーカイブ

 なかなか探しても手に入らないものがあって、東北北海道でとれるホラアナゴの仲間、ホラアナゴ、イラコアナゴ、カサゴの仲間でスイやシロウ、スジアイナメ、イトヒキダラ他にもいっぱい。
 そんなとき青森の田向さんから「カラスハモというのが来ましてね」という掲示板投稿があった。カラス=黒い、ハモ=長い、とするとイラコアナゴかホラアナゴに違いない。
 さっそくお願いして届いた荷をみてちょっと(大いに)がっかり。見事に開いていたからだ。なんとか種名がわからないかとルーペでウロコを見ると短い棒状。間違いなくイラコアナゴである。とりあえず種名はわかったものの丸がないことには撮影できない。
 しかたなく期待しないで食べてみることにする。驚いたことに、これが「うまーい」のだ。煮穴子(アナゴじゃないけど)にしてとろけるようだし、天ぷらは風味豊か旨味たっぷり。ほっぺが落ちるほどにうまい。これを『市場寿司 たか』に持っていくと、たかさんも絶賛なのである。先週「豪海投げ込み丼」を食べた方は味わっていただいたやも知れぬ。
 でも丸のままが欲しい、欲しい、欲しいな。

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このウロコの形がイラコアナゴの特徴

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天ぷらは熱い内に食べるとマアナゴに負けない

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煮たものは魅惑の味わい。パーシー・フェイスの管弦が耳をよぎる

北の海の幸なら、田向商店に聞いてくれ
http://www.tamukaisyoten.co.jp/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 沼津「伊藤水産」のマイワシの醤油干しの味わい、また銚子の「マルハラフーズ」さんの味付け干物のうまさに触発されてがんばって私なりに工夫してみた。それが「マイワシの醤油干し」なのだ。脂ののった旬のマイワシを三枚に卸して鹿児島のわかしおさんにいただいたヤマガミ醤油で味付け、それをとにかく一夜干し。使ったのは醤油以外にはほんの少しの味醂だけ。もともと砂糖などを添加している薩摩醤油だからこそ、味醂も酒もほとんど必要としない。結局柚や七味唐辛子も加えないで醤油味が生きるように作ってみた。
 これが自分で言うのもなんだか気恥ずかしいのだが「うまい」の一語に尽きる。焼き上げた醤油の香ばしさにマイワシの濃厚な脂の甘さ旨味、そして醤油の甘辛さ。焼き上げた途端に10匹分、20本の干物が我が家の食卓から消え失せた。おそるべし薩摩醤油の甘さよ、そしてマイワシのうまさよ。完全にノックアウトだ!

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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 沼津の佐政水産、青木修一さんからケータイがきて、
「伊東赤沢でカライワシの仲間でなんていいましたかね。この辺では珍しいんです」
 形を聞くと間違いなくイセゴイである。画像は持っているもののまだ食べていない魚なので面倒だが送ってもらうことにした。
 まあイセゴイを食べるというのは聞いたことがなく、定置網に入っても捨てられてしまうもの。大きくて見たところ立派なのに利用されないというのはまずいからに違いない。それを食べてみるというのも「市場魚貝類図鑑」を作る上での避けて通れないことではある。

 やや遅れて到着したイセゴイの鮮度はまだまだよく、その鱗の輝き美しさは見事というしかない。それを押っ取り刀で『市場寿司 たか』へ持ち込んだ。
「これきれいな魚でしょう」
「そうだね。でも鱗が硬そうだけどね」
 まな板にのせたイセゴイ、その鱗は硬くとてもとるのは無理。仕方なくすき引くのもだめなんだな、包丁がダメになりそうだ。それでもなんとか3枚に卸す。
「なんだこれ、身がベトベトしているな。それに軟らかいな。あっれ、骨が、ここと、ここと、ここにもあるよ」
「まあ、世の中に食べられない魚はないというでしょ」
 このあたりで明らかに、たかさんの顔に険しさが浮き上がってきている。
 柳をとりだして骨をよけて身を切り離す。そしてどこに包丁を入れても骨に当たるのだ。
「これは無理だろ。これだけやって3かんとれるかな」
 まな板の上にはイセゴイの身が散乱している。

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 そしてやっと握りが出来た。味わいは寿司図鑑に掲載するとして。

「どうして、毎回疲れる魚ばっかり持ってくるんだよ。たまにはまともな魚持ってこれないのかな」
 よく見ると目に涙をためて怒りに打ち震えているのだ。でも50歳を過ぎるとときどき理不尽なことに遭わないと余計に歳をとるらしいから、これもボクの親心なんだ。だから「ごめんよ」とは言わないからね。

 そして帰宅して半身を塩焼き、唐揚げ、煮付けにする。こんどはボクが泣いてしまった。
 辛きこと悲しきことおおかかりし五十路の秋。

市場魚貝類図鑑のイセゴイへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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