ある夜、築地のイングリッシュパブ(正確ではないかも)でやたらにバーボン(何故だ)を飲んでいたら、左右縦横どこから見ても漁師にしか見えないウエカツさんが、フィッシュアンドチップスを注文したと同時に叫んだのだ。
「フィッシュアンドチップスにはモルトビネガーがなきゃいけん」
このウエカツ言語には出雲、東京、ときどきオーストラリア(この人の先祖はコアラらしい)などがごちゃ混ぜになっている。
「モルトビネガーってなんなのさ」
「ええ、ぼうずさん、しらんの。だめだねー」
ワハハ、ワハハ、ワハハ......とコアラの目をして笑うのであった。
そして出てきたフィッシュアンドチップスには、ちゃんとモルトビネガーなるものがついてきたのだ。
「これこれ」
ウエカツさん、おもむろに瓶のふたを開け、
「本場じゃーどばどばっと一瓶くらいかける人がおる」
ほんまかいな? とは思ったが、この薫り高い、かすかに甘みを含んだイギリス製の酢がうまかったのだ。
これなど大阪の豚まんを酢に浸して食べる、に通じるものがある。
ただしフィッシュアンドチップスに非常に合うかというと疑問だ。
だいたい揚げたポテト自体うまいわけで、水割りのバーボンがクイクイいける。
白身のフライもうまい。
ボク的には、イカリソースをどばどばビジョビジョにかけた方がうまいんじゃない? ということはその場では言えなかったね。
しかし本場イギリスでは〝モルトビネガーなくしてフィッシュアンドチップスを食べない〟と言われては改めて自宅でやってみないわけにはいかない。
そこでモルトビネガー探しを何故か京都で始める。
三条あたりに明治屋があって、そこにあったのだ。
ただしアメリカ製。
本場物ではないので、待て暫しと考えてやめた。
この日、食通のヤマトシジミさんが一緒だった。
これまた何故かボクと一緒に築地でウエカツさんの叫びを聞いていたので、アメリカ製でもいいやと購入する。
ボクは探しに探して、結局京橋の明治屋でパブに置かれていたのと同じ銘柄「サーソンズ」のものを見つけ買い求める。
そしてスケトウダラのフライにポテトのフィッシュアンドチップスにどばどばビジョビジョにかけたらまずくはなかった。
お酢好きなのでうまい、とも思ったのだ。
思わなかったのが子供たちで、お父さんはもう一度、フィッシュアンドチップスを作り直したのだ。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、スケトウダラへ
http://www.zukan-bouz.com/taraasiro/tara/suketoudara.html
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