食べる貝・イカタコ学: 2007年10月アーカイブ

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 八王子綜合卸売協同組合『マル幸』に産地不明のアカマテガイが入荷してきていて、その翌日に築地を回ったら、ここにも大量に出回っていた。産地はなんと岡山県である。築地でこの「岡山本マテ貝」の文字を見て、今初夏の岡山県倉敷市児島高洲での潮干狩りがまざまざと思い出された。

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築地場内。

 その日は快晴。アマモの茂る浅瀬を歩く、ボクたちの手が届きそうな青い空。そこを歩けど、探せど目的の貝が見つからない。やっと見つかったら小指くらいのハボウキガイだった。
 そんなボクを尻目に地元組の竹内立爾さん、飯田さんのバケツにはアカマテをはじめたっぷりいろいろ入っていたのだ。

 岡山県というのはわかったけど、その先が判然としない。こんな大量なアカマテが岡山県のどのあたりでとれたのだろう。

 当然、すぐに10本ほど買い込んで『市場寿司 たか』で湯引きにして握りに、我が家に持ち帰って焼きアカマテにする。握りもうまいものであったが強火で焼いて、酒醤油をかけ回した焼きものの美味は文字に書きようがないほどだった。

 また高洲に行きたいものだし、竹内さんや飯田さんにもお会いしたなー。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アカマテガイへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 居酒屋の主人がうれしそうに「これくらいのがいいね」と発泡をのぞき込んで、「1キロくらいくれる」と買い込んでいく。目の前にあるのが山口県萩から入荷してきている白ばい(エッチュウバイ)である。そこへ、もう一人来て、「まだまだ大きさが揃っていない」と自分で大きさを揃えて小さいのばかり500グラムくらい買い込んだ。

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これを大中小に分けると、もっともっと売れると思う。値段も上がるだろう

 白ばい(エッチュウバイ)は山口県、島根県、鳥取県から毎日のように入荷してくる。多くは殻長4、5センチ、ときに7、8センチほどのものばかり。関東の多くの飲食店ではこれを酒蒸しにしたり、煮たりする。
 その味つけは千差万別であるが、料理の先付け、もしくは関東での「突き出し」用に3個、もしくは5個で一人前できるサイズをもっともよしとする。すなわちエッチュウバイは煮るための巻き貝なのだ。これが間違いであることはなんども書いてきたのでここではおく。でも市場で見る限り仕入れ人がもっとも好むサイズがあり、しかも大きさが揃っているほどいいとしているのは間違いない。

 これを100グラム買う。「100じゃ、なんにも出来ないだろう」。『マル幸』のクマゴロウが老眼鏡をずらして言い捨てる。これが税込みで126円。

 帰宅して撮影を済ませて、料理にかかる。少ない量なので普通に煮てはうまくいきそうにない。『源七』のあんちゃんに教わった甘辛煮にする。これは甘辛い地(醤油、砂糖、酒)を煮立てて、ここで転がしながら火を通す。エッチュウバイはこの煮汁のなかで熱を冷ます。

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 見た目は悪いし、食べるときにべたべたする。こまったもんだけど、うまいのだ。しかもエチュウバイは煮ても硬くならない。これをハッサクの酎ハイで流し込む。これは合わないねー。むしろ麦焼酎のほうがいい。もっといいのは島根の「王禄」だけど、昨日飲みきってしまっている。残念だー。

市場魚貝類図鑑のエッチュウバイへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 北海道でよく食べられるものに「焼きつぶ」というものがる。居酒屋などでは定番的な料理だ。
 かれこれ20年くらい前、ボクは「北海道へ行ったら焼きつぶ」を食わなければと思いこんで、開通したばかりの青函トンネルをくぐり函館に行った。

 北海道の食に関する本は数々あれど名著の誉れ高いのが『北の魚歳時記』(達本外喜治 北海道新聞社)だ。ここにある文章が魅力的。ちょっと引用すると「ツブ焼きは、イカ焼きやトウモロコシにもまさる、縁日の味である。夏の夜の、庶民の味でもある。たそがれの街角の屋台から、いまもってパタパタとうちわの音がすると、ツブを焼く正油のこげるにおいが、やわらかい夜風に運ばれてくる」。
 この文章中の「焼きつぶ」の主な原料がヒメエゾボラなのだ。ヒメエゾボラは味のいいつぶなのだがやや小振り、歩留まりも悪いことから刺身よりもワタまで食べられる「焼きつぶ」のような料理に向いている。

 予めこの文章を読んで北海道に渡ったので、てっきり「焼きつぶ」は街角でうら寂しく焼かれているものだと思いこんでいた。しかし函館の飲食店街、繁華街を歩けどそんなものは見つからない。仕方なくうまそうな居酒屋を見つけて、とりあえず入ってみて、品書きに「焼きつぶ」を見つけたときはうれしかったなー。でもたて込んでいた居酒屋でやっと目の前に来た「焼きつぶ」には残念ながらがっかり。あまりうまいもんじゃない、その店のまずい日本酒ともあいまって初対面の印象は最悪だった。

 では自分で作ってみようと、帰途、青森駅前市場でヒメエゾボラを買い込んで作ってみることにした。それは現在も変わらないもので、手順をしるす。
 まずは貝をよく洗って、数分茹でる。あまり短時間だと身が出てこない。これを冷水にとり、中身を取り出す。足の部分にある唾液腺を外して、また貝殻に詰め込んで網の上にのせて焼くのだ。貝殻が熱くなったところに酒と醤油を合わせたものをそそぐ、ほどなくそれが沸いてきてあふれ出てくる。じゅーっという音と共に貝の旨味と香りが浮き上がってきたら出来上がりである。火力は最初から最後まで強火。
 焼きたてを大急ぎで食らうのも、この料理の秘訣だろう。あれほど函館でまずいと思った「焼きつぶ」がやけにうまいのはどうしてだろう。
考えてみるに、函館の大衆居酒屋では焼き置いていたのではないだろうか? まさかね? とは思うが、記憶をたどると、どうもそんな味であった。

 自宅で「焼きつぶ」を作るときにも出来れば卓上の飛騨コンロなどを用意して、焦げた醤油の香りと、焼きたてのヒメエゾボラを「あちち」といいながら食べて欲しい。まさかこれがキロ当たり800円とか600円とかの貝だとはだれも思うまいよ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ヒメエゾボラへ
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「スルメイカは偉い」と何度も取り上げてきた。生でよし、煮てよし、焼いてよし。でも毎日スルメイカの刺身ってのも飽きてくる。飽きてくるけど、それでも「生っぽい」一品が欲しいとなったら一工夫する。それが湯引き造りである。
 スルメイカの皮などを剥き、細かく切れ目を入れる。氷水を用意して置いて、熱湯にほんの一瞬とおしたらできるだけ急速に冷やす。とにかく大急ぎであら熱を取り去るのがコツ。

 表面が白くなっているものの中は生というもので、これはやはり刺身の一種。面白いものでスルメイカは熱を通してやると甘味も旨味も増すのである。そして真ん中の生の部分にはねっとりした食感が感じられる。寿司屋ならこれに煮きりを一刷毛すると見事な握りになる。

 肌寒の頃の刺身三点盛りのひとつとしてスルメイカの湯引き造りを加える。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、スルメイカへ
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 関東の市場を回っていて不思議でならないのがエゾバイ科エゾバイ属の巻き貝の利用法だ。
 エゾバイ属にはエゾバイ、ツバイ、クシロエゾバイなどの大きく育たない種もあるが、エチュウバイ、オオエッチュウバイ、アニワバイ、カガバイなどの大きくなる種もあるのだ。小振りなものを分類の世界ではエゾバイグループ、大きくなるものをアニワバイグループと分けている。ボクなど食べる側からするとグループよりも上の属に格上げした方がいいのではないかと思うくらいに両グループは形態が違う。
 この大型のアニワバイグループ、せっかく大きく育つのに関東での評価が低すぎる。驚くべきはときに大きくなるほど評価が下がることだ。すなわち関東の市場人、料理人、一般人はエゾバイ属は総て「煮つぶ」としてしか利用せず、刺身には出来ないものと思いこんでいるのではないか? だから市場などで立派なエッチュウバイが売れ残ってしまって「あんこ椿は恋の花」なんて仲買の店員が歌ってしまっている。その意味は「三日遅れの(三日間店ざらし)」ということ。

 このエッチュウバイ(アニワバイグループ)の刺身がいかにうまいものかは、食べてみればわかるはず。これを珍重する新潟県や日本海側の人たちには、関東人の硬直した嗜好が愚かしく思えるのではないだろうか?
 そんな関東人の代表選手であったのが『市場寿司 たか』の渡辺隆之さん、初めてエッチュウバイを店に持ち込んだときには「これ生で食べられるの」なんて驚いていた。それがどうだろう、今や大型のエッチュウバイやアニワバイを見るとすぐに仕入れるほどにファンと化している。そして今回の『和江の浜づくり エチュウバイむき身』、これに一番惹かれたのもたかさんその人である。
 その『市場寿司 たか』に二袋持ち込み、まず刺身として食べて、その甘味、美味さに驚く。当然、たかさん、寿司ネタとしても最上級の賛辞をくれた。持っていったボクも、ちょっとうれしい気分になるほどに解凍後も「剥き立て」に近い。
 このエッチュウバイが関東で刺身にならない理由はその身の柔らかさにある。サザエ、エゾボラ(真つぶ)のコリコリっとした食感を巻き貝の刺身に求めるが故に、貝自体の旨味を楽しむことが出来ないでいる。まったくこれほど優れた刺身素材なのにもったいない。

 巻き貝の刺身を作るのは生臭みをとるために滑りを揉み出したり、よく水洗いするなどいろいろ面倒である。それが簡便な冷凍パックで楽しめるのだから便利極まりない。エッチュウバイの刺身を食べてみたいなら、最初は『和江の浜づくり エチュウバイむき身』を買ってみたらどうだろう。きっとエッチュウバイの刺身に夢中になるはずだ。ボクはその確率100パーセントだと確信する。
●注/島根県産のエチュウバイとあるが、カガバイである可能性もある。この2種は非常に紛らわしい。

島根県大田市和江漁協協同組合 海の特産加工センター
http://www2.ocn.ne.jp/~waefu/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、エチュウバイ
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「スルメイカというのは捨てるところがない」と、なんども繰り返し、くどいほど書いていきたい。なかでも重宝なのが下足(げそ)である。げそは足なのか手なのかというと、イカの場合、「手」だと言うのが正しいだろう。なぜならばイカはタコのように歩くのではなく、泳ぐのだから。
「手」である証拠にスルメイカは触手(獲物を絡め取る長く伸びる手)で獲物をつかまえると、残り8本の手でそれを確保して、締め付けて頭部を口に持ってくる。魚にとって頭は急所だから、そこをカラストンビでぐさりと一撃してトドメをさす。すなわちヘッドロックをかけるプロレスラーといった感じだろうか。とうぜん、この手はすこぶるつきに筋肉質。そしてその筋肉の動きをささえるのがアデニール酸であって、その旨味もここにたっぷりあるということに他ならない。

 我が家では、これを出汁が代わりにして里芋やジャガイモを煮る。このスルメイカで根菜類を煮るというのは東京都西部、昔の三多摩地区での郷土料理のひとつだ。例えば、これが山間部秋山村などに行くと祭のときのご馳走ともなるのだ。

 今回は昆布だしをとり、やや控えめにかつお節を入れて出汁をとる。これに砂糖、酒、醤油で味をつけて、げそ、竹輪麩(ちくわぶ)、里芋、大根をたく。残念ながら彩りのニンジンを冷蔵庫で探したが見つからなかった。色気に欠けるのは、お総菜なのでお許し願いたい。
 まっさきに無くなるのはスルメイカの旨味をたっぷり含んだ竹輪麩(ちくわぶ)である。これは八王子総合卸売センター『土谷食品』のお父さんとお母さんが作ったばかりの未包装のもの。我が家には竹輪麩が大好きな姫がいるので、おでん以外にもいろんな料理に登場する。そしてもっとも姫が愛しているのがゲソとの煮物なのである。

 この「ゲソ、根菜類、竹輪麩の煮物」これから寒くなるに従い、食卓への登場頻度が増してくる。そして姫があっという間に竹輪麩(ちくわぶ)、げそを食べ尽くして、最後にお父さんは里芋と大根でやや旨くちのぬる燗酒を飲むことになる。
 そう言えば、外から聞こえてくる虫の音が、外来種であるアオマツムシからエンマコオロギやカネタタキに代わってきたのをお気づきだろうか? やっとこの国本来の秋の風情となってきたのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、スルメイカへ
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八王子の市場に関しては
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イカワタの醤油漬け

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 スルメイカというのは捨てるところがない。あえて考えても足にある吸盤の角質のリングとカラストンビくらいだろうな。とにかくスルメイカは丸ごとボクたちの胃袋に納まるわけで、その部分部分でいろんな料理に生まれ変わる。

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 さて、先週の活けスルメイカを卸していた『市場寿司 たか』の渡辺隆之さんがちょちょいと作ってくれたのが「ワタの醤油漬け」。スルメイカのワタというのは肝臓であって、イカの場合には吸収も栄養分の蓄積も行う重要な器官。呈味(味を感じさせる)成分がたっぷり含まれている。

 たかさんが活けイカの大きなワタに「これを捨てちゃーいけないな」と言いながらくれた醤油漬けだけど、作り方はいたって簡単。ワタを醤油と酒を合わせたものに漬け込むだけ。丈夫なビニール袋にホイっと放り込んで「明後日か中二日おいて明々後日に食べな」と持たせてくれた。

 週末になって、晩酌のアテにビニール袋からワタを取り出す。醤油の塩分のためにやや硬くしまったワタを2切れ、3切れと手塩皿に盛るとトロっととろけてくる。この口に含んだときに感じる味わいの複雑さは表現のしようがない。醤油と少しだけの酒だから、そんなに甘いわけがないのに甘い、そこに何種類かの渋みと、濃厚な旨味が舌のざらっとへばりついてくる。これを酒で洗う。

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 カツオの塩辛を酒盗というがごとく、イカワタの醤油漬けも酒が進む。週末だから一升瓶は軽く空になってしまった。当然である。

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