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北海道でよく食べられるものに「焼きつぶ」というものがる。居酒屋などでは定番的な料理だ。
かれこれ20年くらい前、ボクは「北海道へ行ったら焼きつぶ」を食わなければと思いこんで、開通したばかりの青函トンネルをくぐり函館に行った。
北海道の食に関する本は数々あれど名著の誉れ高いのが『北の魚歳時記』(達本外喜治 北海道新聞社)だ。ここにある文章が魅力的。ちょっと引用すると「ツブ焼きは、イカ焼きやトウモロコシにもまさる、縁日の味である。夏の夜の、庶民の味でもある。たそがれの街角の屋台から、いまもってパタパタとうちわの音がすると、ツブを焼く正油のこげるにおいが、やわらかい夜風に運ばれてくる」。
この文章中の「焼きつぶ」の主な原料がヒメエゾボラなのだ。ヒメエゾボラは味のいいつぶなのだがやや小振り、歩留まりも悪いことから刺身よりもワタまで食べられる「焼きつぶ」のような料理に向いている。
予めこの文章を読んで北海道に渡ったので、てっきり「焼きつぶ」は街角でうら寂しく焼かれているものだと思いこんでいた。しかし函館の飲食店街、繁華街を歩けどそんなものは見つからない。仕方なくうまそうな居酒屋を見つけて、とりあえず入ってみて、品書きに「焼きつぶ」を見つけたときはうれしかったなー。でもたて込んでいた居酒屋でやっと目の前に来た「焼きつぶ」には残念ながらがっかり。あまりうまいもんじゃない、その店のまずい日本酒ともあいまって初対面の印象は最悪だった。
では自分で作ってみようと、帰途、青森駅前市場でヒメエゾボラを買い込んで作ってみることにした。それは現在も変わらないもので、手順をしるす。
まずは貝をよく洗って、数分茹でる。あまり短時間だと身が出てこない。これを冷水にとり、中身を取り出す。足の部分にある唾液腺を外して、また貝殻に詰め込んで網の上にのせて焼くのだ。貝殻が熱くなったところに酒と醤油を合わせたものをそそぐ、ほどなくそれが沸いてきてあふれ出てくる。じゅーっという音と共に貝の旨味と香りが浮き上がってきたら出来上がりである。火力は最初から最後まで強火。
焼きたてを大急ぎで食らうのも、この料理の秘訣だろう。あれほど函館でまずいと思った「焼きつぶ」がやけにうまいのはどうしてだろう。
考えてみるに、函館の大衆居酒屋では焼き置いていたのではないだろうか? まさかね? とは思うが、記憶をたどると、どうもそんな味であった。
自宅で「焼きつぶ」を作るときにも出来れば卓上の飛騨コンロなどを用意して、焦げた醤油の香りと、焼きたてのヒメエゾボラを「あちち」といいながら食べて欲しい。まさかこれがキロ当たり800円とか600円とかの貝だとはだれも思うまいよ。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ヒメエゾボラへ
http://www.zukan-bouz.com/makigai/ezobai/ezobora/himeezobora.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/