食べる貝・イカタコ学: 2008年6月アーカイブ

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 梅雨の最中の6月11日、島根県島根半島馬島へ定置網の水揚げを見に行った。
 まだ明けやらぬ松江市内を出るときには小雨、馬島に着くやいなや驟雨沛然となる。
 その湿度100パーセントの中、定置網の選別が行われた。
 大漁であった。たくさんのマアジに混ざり、無残にも放り投げられていたのが、これまた無数のアオイガイの中身だ。
 雨空は銀色であり、なぜか海水と雨水が混ざり合う地面がやたらに明るい。
 そこに青白く浮かび上がるのがアオイガイの美しい貝殻であり、その脇で蠢くのが貝殻の主である。

 アオイガイの仲間カイダコ類は国内には3種。
 貝を背負う軟体類というとオウムガイの方が有名であろうが、こちらはむしろイカに近く、アオイガイはタコの仲間である。
 美保関では家庭の玄関に飾られている、それほどに美しいアオイガイの貝殻だけど、選別を急ぐ漁師さんにはやっかいな存在でしかない。

 この美しい貝殻と、貝殻から抜け出した完全にタコとしか見えないものをたくさん拾う。
 そのまま八王子北野八王子総合卸売センター『市場寿司 たか』に送り、調理しておいてもらったのだから、これは言うなればアオイガイを丸投げしたようなものだ。
「いちばん忙しい金曜日にさ、荷物が届いただろ。そこにびっくりするくらいたくさんのタコがあって。汚れた貝殻がこれもいっぱい」
 島根から帰り着いて、アオイガイの握りを撮影するべく店内に入るやいなや、たかさんの怒りのお言葉が吹き出してくる。
「やっとゆでてたら、うまくもなんともない」
 やはり「うまくないんだな」。
 確かに握りにして、ちっともうまくない。
 持ち帰り、酢みそ和え、バター焼きにしても同様だ。
 どうやら身に水分が多いようだ。

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バター焼きがいちばんうまかった

 翌日、まだ怒りの冷めない、たかさんに
「人間初物を食うと80日長生きするって言うだろ」
「初物違いだろ。オレは80日寿命が縮まったよ」

 断って置くけど、アオイガイはそんなにまずくはない。
 水っぽいタコだと思えばいい味なのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アオイガイへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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 2日連続でナガウバガイが入荷してきた。
 ナガウバガイといっても誰も知るはずがなく、見たこともないに違いない。
 それでも実際に流通してきているのだから立派な食用貝である。

 今のところ、ナガウバガイを出荷してきているのは福島県相馬市原釜漁港からだけ。ここにはたくさんの底引き網漁船があり、膨大な種類の魚貝類が水揚げされている。
 そこにはキチジ(きんき)、ズワイガニ、ケガニのように主役級のもの、ナガウバガイ、クサウオのように隅っこに隠れて目立たないものまで、ありとあらゆる生き物が市場の床にちりばめられている。

 ボクの趣味からして、主役級よりも脇役に目がいく。
 その脇役にあってももっとも目立たないのがナガウバガイである。
 面白いのは漁港で選別する方達に、ナガウバガイを話しても地方名が出てこないことだ。売れなくてもサブロウは「とどき(ととき)」だし、サメハダヘイケガニは「三度笠」なんて呼び名がある。
 ちゃんと食べられる貝なのに「青柳だっけ」なんて不思議な答えが返ってくる。
 まあ、とにかくあまり売れない貝なんて興味がないようだ。

 じゃあ、ナガウバガイがまずいかというと、そんなことはなく
「うめえ、け(貝)だよ」
 ちゃんと味の方は地元でもご存じなのだ。

 主に食べる部分は足である。ここを開いて、軽く湯がいて食べる。
 バカガイ(青柳)のような独特の渋みがなく面白みに欠けるが、やはりうまい。
 そして残ったヒモや水管をみそ汁にする。
 昆布カツオ節のやや薄いだしに、ヒモ水管を放り込み。
 湧いてきたらみそを溶くだけの簡単な料理。
 ここに三つ葉を散らして、冷や飯にぶっかける。
 冷たい飯に熱いみそ汁というのがいいのだ。
 後はとにかくジャバ、ザバと一気にかき込むだけだ。

 遠藤哲夫さんの本に『ぶっかけめしの快楽』というのがあるが、まさにぶっかけ飯を食うと独特の爽快感に襲われる。
 もしくは「飯を食ったぞ」という満足感に満たされると言ってもいい。
 ちなみに深川飯というのがあるが、これももともとは貝の産地であった深川あたりで「有り余る貝でみそ汁を作り飯にぶっかけた」というのが発祥である。
 すなわち「ぶっかけ汁」は二枚貝で作るのが王道なのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ナガウバガイへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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「酢みそ合え」と「ぬた」、違う料理なのかというと、同じものだと思っている。「饅」という文字をあてるが、実は「沼田あえなます」が語源だ。ようするにみそと酢でもって沼のようにぬかるむ田を思わせる和え衣をつくり、野菜と生の魚貝類を合わせたもの。また「なます」は醤油誕生(醤油が人口に膾炙する)前、生の魚貝類の代表的な食べ方だった。

 この「ぬた」を我が家では日常茶飯事につくる。
 野菜も魚貝類も季節季節のものを使う。
 毎味水産さんに三河湾のトリガイをいただき、そのままいただき、そしてぬたにして楽しむ。
 季節の野菜はつるむらさきを使った。
 つるむらさきはもともと東南アジアなどを原産とする。
 これが夏野菜としてこの国に定着したのは何時の頃だろう?
 梅雨入りして、ほうれん草やアブラナ科の野菜がとたんに味を落とす。
 そんなときに、まさに救いの神のように出てくるのが、つるむらさき。
 夏に食べて、これほどうまい野菜もないだろう。
 独特の風味は、貝などと取り合わせて、まことに美味。

 作り方は書くまでもないが、酢みそ作りから。
 みそと砂糖を合わせて、すり鉢ですり、すこしずつ酢を加えていく。
 このとき煮きり味醂(みりん)、昆布だしを加えるのは料理屋の料理だから、我が家は単純に作る。
 トリガイは開いて湯がいている加工品だから、そのまま水分をよくとる。
 つるむらさきはゆでておく。
 つるむらさきとトリガイを合わせて、食べる直前に酢みそで和える。
 我が家の悲しいところは辛子酢みそにできないことだ。
 大人としては、なんだかもの足りぬ。
 でも、ぬたは子供達の大好物でもある。

 さて、ぬたを魚に酒を飲む。これほど「酒の味」を浮き立たせる飲酒法もないだろう。
 毎味水産のトリガイは冷凍流通するものなのに貝の旨味、甘味が強い。
 そのまま食べて美味なのだから、ぬたにしてまずいわけがない。
 合わせる酒は高知県の亀泉、この辛口の酒が梅雨のひぬまにうまいな。

毎味水産
http://kotomi.co.jp/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、トリガイへ
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 八王子魚市場に「京都産イワガキ」というのがあって、これが舞鶴湾であがったもの。
 手に取ってみるとテトラについたものではなく、岩にへばりついていたものらしい。
 とても厚みがあり、貝殻の表面はきれいに掃除されている。
 火曜日には同じく舞鶴湾の養殖トリガイのうまさを堪能して、今回はイワガキに挑戦となる。

 軽く水洗いして、貝殻を開けてみる。すると、驚くほど厚みのある身が出てきた。
 こんなとき「イワガキも旬なのだな」と夏を感じてしまう。

 イワガキは貝柱を目がけて貝棒を差し込み、貝柱を切り、フタを開けて、身自体も貝殻から、これまた貝柱を切るようにはなす。
 それから軽く細かな貝殻やなどを真水で洗い流す。

 この舞鶴産のイワガキがうまかった。
 関東では濃厚な味わいが好まれるが、舞鶴産のものは「適度に濃厚」である。
 それよりもなによりも身に弾力があり、ヒモまわりの筋肉はシコっとしている。
 たぶん、舞鶴湾にはよき河川が流れ込み、それでいて海がきれいなのだろう。

 関東に住んで、なにがありがたいかというと、北は北海道から南は鹿児島まで、様々な産地の水産物が食べられることだろう。ただし、その土地土地の魚貝類を食べたからと言って、「その地へ行ってみたくなる」ということは希である。
 今回の舞鶴産イワガキは、その希な例。京都府舞鶴市舞鶴湾に行ってみたくなった。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、イワガキへ
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 八王子魚市場に立派なトリガイが入荷してきていて、一見しただけで「これはただ者ではない」なんて思わせるほどにきれいだし、大きい。
 値段は卸値で1個380円だという。トリガイは原則的に1個で1個分の握りとなるわけだから、ネタの原価が380円プラス税。これは普通のお寿司屋さんではとても手が出ない。
 産地は京都府舞鶴市。箱には「丹後とりがい」の文字があり、脇には「京都 京都ブランド産品」のシールが貼ってある。この箱にしっかり産地や、トリガイに対する意気込みが表示されているのがいい。
 日本海のトリガイというのもあまり目にしない。好奇心から買い求めて食べてみる。

 ちなみに東京湾、三河湾などでは、これほど大きくは育たない。なぜならば毎年夏期に大量に死滅してしまうからだ。すなわち、これらの地方ではトリガイは一年で生育、食べられていることになる。

 貝殻をあけると、足がとにかく大きい。しかも砂、泥などの汚れがほとんど見られない。
 気になってネットで調べると、この舞鶴湾のトリガイは養殖されたものだったのだ。
 さて、個人的には二枚貝などでは養殖、非養殖の味の違いはない、もしくはほとんどない、と思っている。
 とにかく、足を開いて、軽く湯引きして食べてみる。

 大きいから甘味が強いとか、味がいいというわけではない。いたって鮮度のいいトリガイで、当然、甘味も旨味も上々なのはあたりまえだ。
 例えばキロ当たり1000円ほどの小振りのトリガイと比べても味に違いはないだろう。
 あえて違いがあるというと、やはり見ためのよさだろうか。

 値段からして、なかなか手が出ない代物ではあるが、刺身にして美しく、また筋肉に厚みがあるので、食べ応えも充分にある。
 たまにはこのような贅沢もわるくない。

JF舞鶴市 舞鶴市漁業協同組合
http://www.maizuru-kanko.net/menu/food/torigai/
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、トリガイへ
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 ボクの生まれ故郷は阿波の徳島。その徳島県松茂町からイワガキが入荷してきていた。
 過去に那賀川町のものを見ているが、これが二回目となる。たぶん、探せば徳島の海岸線のどこにだってイワガキはあるに違いない。
 松茂町は丁度徳島市の北にあり、鳴門市の南にある。こんな説明が必要なくらいに知名度が低い。徳島空港がある場所という説明の仕方もありだろう。
 実は徳島市からすると、海水浴の浜があったりして、身近な行楽地かもしれない。ちなみにボクが初めて海で泳いだのが、この松茂町だ。

 さて、徳島県産のイワガキ、箱に入ったのをひっくりかえして選ぶ。すると全体にまん丸いのが多く、やや平たい。これは「岩」ではなくテトラポッドについたものに違いない。
 いまのところ、コンクリートに付いていたからと言って、まずいとは感じたことはない。
 これが八王子魚市場で1個480円であった。この直径15センチやや大振りであることからすると平均的な値段である。
 表面には多種多様な付着生物がおり、貝殻にイシマテガイが潜んでいた。

 貝殻はもろいタイプ。イワガキには貝殻の硬さがいろいろあり、例えば日本海隠岐などのものは天然、養殖ともに非常に硬い。対するに千葉県銚子産、伊勢湾産などは柔らかい。徳島、銚子、伊勢湾の共通点は川の流れ込みがあるということ。海水の塩分濃度や川からの栄養塩などで貝殻がどのように変異するのか、調べたら面白そうだ。

 貝殻が柔らかいために開けるのは簡単至極。ずぶりと貝剥き(貝棒)が入っていく。
 出てきた軟体は貝殻の平たさの割に膨らみがある。
 軟体の汚れや貝殻を冷水で軽く洗う。
 今回はこれも徳島県産スダチを垂らして、一気に口に放り込む。

 イワガキ独特の濃厚な甘味と苦みがどっと口の奥の方に広がる。そこに甘味が追いかけていくのだけど、ここで咀嚼する軟体が適度に弾力とシコシコ感があるのがいい。
 残念ながら他の産地からして突出したうまさは感じられないが、「阿波のイワガキええじゃないか」とうれしくなる。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、イワガキへ
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 福島県相馬市原釜漁港から、それこどダサッっとマドカエゾボラが入荷してきた。見てすぐにはマドカエゾボラなのかユウビエゾボラなのかわからなかった。
 帰宅して「マドカだとは思ったものの」念のために千葉県立中央博物館の黒住耐二さんに見てもらった。結局生息域からして「マドカエゾボラでしょう」となった。
 マドカエゾボラは食用というよりも収集の対象となるものだ。
「これを食べるべきか? それとも貝の収集家に差し上げるべきか?」
 前回、マドカエゾボラを手に入れたときは、たった2個体だけだった。それが今回はどさっとあるのだ。
 これなら差し上げても余りある。いろいろ食べてみようではないか?

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マドカエゾボラへ
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