食べる魚類学: 2008年2月アーカイブ

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 この頃テレビなどを見ていて笑えるのは、グルメ番組などでの間違い、もしくは料理店、観光旅館の嘘。
 例を挙げると、昔ドラマで活躍していた女優が登場。泊まるのは宮城県の高級そうな旅館。「うちは地物しか使いません」なんて女将が説明していて、皿に載っているのがカナダからのスポッテッドプラウン。これを宮城県産の「ぼたんえび」なんて言っていけしゃーしゃーと威張っている。まあ旅館の女将なんて魚貝類に詳しいとは必ずしも言えないだろうから、無知から来る事例だろうな。
 そしてある日の夕方、この時間帯はグルメ情報がものすごく多い。アナウンサーが暖簾をくぐったのが都内のいかにもうまそうな、割烹料理店。誠実そうな板前さんが、「うちは近海ものしか使いません」といって出しているのがカリフォルニア産のマイワシ。
 そしてそしてボクが新宿を歩いていて見つけたのが、高級なデパ地下のお総菜売り場。サバのみそ煮をよく見ると、これが大西洋で上がるサバであり、その店は「“冷凍物、輸入物”は使いませんと」は書いていないが、一切れ500円もするのに「これはないだろう」と憤慨する。

 ことほどさように世間では嘘がはびこっている。何しろ、総ての加工品には材料表示は義務づけていない。しかも義務づけしていても材料に占める量が少ないと、産地も原材料もいい加減でいいと法律で決まっているんだから、政府は加工食品の世界で「偽装や嘘をやっていいよ」と言っているのに等しい。

 さて、そのごまかし素材の代表格である、北大西洋産のサバであるが、ボクはうまい魚であると思う。偽物として使われるのは惜しい。むしろ堂々と「ノルウェー産」と表示して「だから脂がのっているんだよ」と“売り”にして欲しいくらいだ。
 八王子総合卸売センター『フレッシュフーズ福泉』で買い求めたのがノルウェー産のサバ2本。これを自然解凍して筒切りにする。この切り口が真っ白であるのは、身全体に脂がある証拠。
 これを湯引きして、田舎味噌、白みそで煮あげていく。
 サバのみそ煮のコツは湯引きしたサバをヒタヒタの砂糖、酒を加えた煮汁でゆっくり長時間火を通す。身が柔らかくなったら、合わせみそを加えて、ここからもとろ火で、味噌がクリーム状になるまで煮るのだ。

 この北大西洋の脂がのったサバのみそ煮が、すばらしい惣菜となり、2日、3日と食卓に置かれる。3日目には最後の一切れが電子レンジで温められて、食べきりとなるのが理想だ。

 昨今、食堂などで出るサバのみそ煮は、みなこの北大西洋のサバである。きっとほとんど総ての人が、ご飯とともに「うまいうまい」と食べているだろう。ボクもその一人。だたしボクが特別なのは、そのみそ煮のサバの産地がわかることくらいだ。

 蛇足となりそうだがあえて書くと、そろそろ魚貝類(愚かにも水を含めて食料)を輸入してまで食べる時代は終わるのではないか、と思っている。原油高、中国・ソ連・インドなどの経済的な発展が進む、アフリカでの飢餓を考えると、とても海外から水産物を輸入などしていられないだろう。また国内での養殖というのも無理かもしれない。なぜならばその餌は国産だけではまかなえないからだ。
 こうなってくると原材料の表示は非常に大切になってくる。自然保護のために養殖魚は食べたくない、と思っても、例えばコンビニのおむすびにギンザケが使われていても、「チリ産養殖」の文字がどこにもない。また「焼きサバずし」というのがあって、ここにあるのも「原材料/さば」といういい加減なもの。サバの文様は明らかにノルウェー産であるといっているのに。
 ボクが考えるに政府は出来るだけ早く、食品表示のもっと厳しい義務づけを進めるべきだ。現状では自然保護・健康などに注意している人にまったく必要な情報を伝えていない。また国民の安全な食生活を送る権利を確保していない。がんばって欲しいな、厚生労働省もしくは農林水産省の人たちよ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、タイセイヨウサバへ
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ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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「フグって本当にうまいなー」と毎冬のように、つくづく思う。これは、たまに行く釣りでも、ついついフグ乗り合いを選んでしまうくらいにうまい。他を寄せ付けないうまさだとも言えそうだ。

 さて、フグと言っても種類は多く、例えばフグ目の魚であることは確実だが、その下の科の段階でも多岐にわたる。例えばハコフグ科、ハリセンボン科、そしてフグ科。当然、フグらしいフグというのはフグ科であり、そこにいくつかの属があるが、食用となるのはサバフグ属とトラフグ属のふたつ。2つの属ではトラフグ属の方が圧倒的に味がいい。そしてそしてフグの頂点に君臨するのが、ボクの個人的な意見かもしれないが、ヒガンフグ(関東では赤目河豚)とトラフグ(カラスフグも含めて)のふたつだろうと思っている。
 さて、その頂点にある2種のどっちがフグの王様なのだろう? これが意外に難しいのだ。
 普通は断然トラフグで決まりなのだけど、安いトラフグ、例えば養殖物とヒガンフグでは、間違いなくヒガンフグが上、では天然の上物ならば、残念ながら定評通りにトラフグが上を行く。
 でもトラフグであり、天然であって、しかも上物となると、1キロ当たり1万円以上する。そこにヒガンフグは総て天然なのだから、上物でもキロ当たり3000円前後、高くても4000円ほどしかしない。となると経済的な観念(あまり豊かでないなら)を含めるとヒガンフグはフグの中では王様に値するということになる。

 さて、今年はヒガンフグの当たり年なのかもしれない。暮れから1月にかけて入荷が多く、値段も安かった。

 見つけたら当然買い込み、知り合いのフグ調理師に毒の除去をお願いして、まずはペーパータオルにくるんで一日寝かせる。トラフグもそうだけど、さばいた当日はあんまり味がない。

 これを翌夕方に鉄さ(てっさ)にする。ヒガンフグの刺身を食べて、最初に感じることは、シコっとした身の硬さであり、それを噛みしめたときの旨味の濃さだ。この旨味を濃いというのは間違いかも知れぬ。甘味も旨味も平凡なのだけど、その硬さ故に長々と舌に感じられる。

 刺身の後は、鍋にする。これもトラフグに負けぬほどにうまい。なんとも言えぬ旨味が満ちた、しかもクセのない汁なのだろう。鍋をつつきながら、ついつい汁を飲みたくなるし、しまった身の味もいい。

 これならヒガンフグを食べて、彼岸に行ってもいい、なんていうのは洒落であるが、それほどに美味だ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ヒガンフグへ
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 大分県と言えば、佐賀関でとれる「関あじ」「関さば」で有名である。この徹底的に出荷時の品質保持に勤めた経験が、実を言うと他の魚貝類の出荷に関しても好影響をもたらしている。
 なかでも『丸昌水産』のものは凄い。活けものは必ず〆ているし、神経抜きをほどこしてある。そして平箱に鮮度保持のシートを敷き、丁寧に方向を違えて並んでいるのだ。

 この時期のマアジはけっして状態がいいわけではない。むしろ平均的に見るともっとも脂の落ちた時期にあたる。
 さて、基本的に味わいにあまり期待できないときに、この理想的な出荷方法の『丸昌水産』のマアジはどうなのだろう。好奇心から1本買い求める。

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 刺身したときに、もう脂ののりは低いのだとわかる。身は透明なのである。白濁していない。
 では、まずいのだろうか? というとあにはからんや、非常にうまいのである。ないと思われた脂であるが、少ないが甘味を感じさせるくらいにはあり、なによりも身がシコっとしている。
 真冬のマアジとしては、これ以上のものはあまり見あたらないのではないか?

 大分県の水産物の出荷を見ていると、やはり佐賀関から南の魚が極端に目立っている。これはアジサバに限らず、まったく珍魚としか言い様のないものまで、出荷方法が優れているのでいい値となっている。
 ただし、大分県の北部の地方が対比して霞んで見える。むしろ目立たなくなっている。
 そしてビックリしたのは、知人に問い掛けると「関あじはどこでとれているか?」と聞くと一般人は曖昧なのだ。「大分」「大分県佐賀関」と正確に答えた人が多かったものの、宮崎という答えが東国原知事のせいか2番目に多く。九州とだけしかわからなかった人が3位。あとは回答なしと、福岡、長崎となる。
 荷を考えると県名を明記しないと、どこか「弱いんだ」というのが、これほどブランド化した魚にもいえるのだ。

 さて、最後に築地などで見る限り、大分県佐伯市の『丸昌水産』の魚は素晴らしいな。ボクは迷ったときにはここの魚を買い求める。

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 さて「ばばちゃん(タナカゲンゲ)」をどう料理するか? 非常に慌ただしい日だったので、八王子総合卸売センター『さくら』のまささんに丸投げしたことを書いた。
 タナカゲンゲは鳥取県岩美町で、「ばばちゃん」として売り出しており、味がいいのはお墨付き。ただし、ご当地でやるがごとく鍋物にするのは面白みがない。あれこれ考えている内に、ひょっとすると中華はいける、と思いついたのだ。

 これがまさに的中だった。まささんの料理人としての力量が、タナカゲンゲをそれこそ高級中華のごときものに作り替えてしまった。なぜ「ごときもの」かというと突然の持ち込みで飾りに使う材料を欠いていた。それだけのことで、味の方は最上級であったのだ。

 さて作りっていただきましたもの、その一は刺身だ。これはともかく生のままで食べてみようということで、特製中華ダレでいただく。残念ながら、これは中華ダレがうますぎた。というか生のタナカゲンゲに味がなかったのだ。
 そしてその二が中華煮込み。豆腐、ネギに白菜、キクラゲなどで、ベースは『さくら』の鶏ガラスープ。ここにきてタナカゲンゲの味わいの本質がわかってきた。
 大型で表面がヌルヌルして、全体が柔らかい。じゃあ水っぽい身をしているかというと、違うのだ。熱を通すと、とたんに味わいが濃くなり、出しがでる。
 これをまさしく立証したのが最後に奥さんが作ってくれた塩味だけのスープ。この単純な塩味に濃厚な旨味が溶け出して、また熱を通すことで引き締まった身自体がうまい。

 来週に迫った島根・山陰の旅の始まりは、鳥取県岩美町から始まる。そこで当地で味わえる「ばばちゃん」料理を堪能できそうなのだ。さて、ご当地の味わいやいかに?

 最後に我が『市場魚貝類図鑑』作成にご協力いただいた『さくら』さんに感謝。

浜勝商店
http://www.hamakatu.co.jp/
岩美町役場
http://www.iwami.gr.jp/
岩見町観光協会
http://www.iwamikanko.org/index.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、タナカゲンゲへ
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 ハマトビウオは別名「角飛び」。トビウオ科ではもっとも大きくなる種であり、大衆魚であるトビウオのなかではやや高値となる。
 毎年新年早々鹿児島県屋久島からまとまって入荷してくる。これが新たな年の始まりを告げるようでもあるし、厳寒の多摩地区で暮らしていると遠く鹿児島県の春を思わせる。

 料理法としては、まずは三枚に卸して皮、血あい骨を抜き。サイコロ状に切る。これをわけぎや、山菜であるウルイなどと和えるのだ。和えるのは醤油、味醂(煮きる)、柚など。
 この小鉢ものが、なんとも春めいていい。

 そして半身だけど、我が家で定番となっているのが「よしる干し」。能登半島の魚醤「よしる」はマイワシを塩漬けして、染み出してきた汁を発酵させたもの。白身で旨味に欠けるトビウオに濃厚な旨味を追加してくれる。
 この「トビウオのよしる干し」を肴に壱岐の麦焼酎というのが、素晴らしい一時をもたらしてくれる。まさに「幸せだな」という一瞬である。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ハマトビウオへ
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 鳥取県岩美町『浜勝商店』一九百(つづお)さんから「ばばちゃん(タナカゲンゲ)」、「おとく(ガンコ)」、「どぎ(ノロゲンゲ)」、ヒメクロザコエビが送られてきた。

 タナカゲンゲは岩美町の役場職員川上寿郎さんの発案で、地元名「ばば」に「ちゃん」をつけて、鍋ものになって現地での名物になっているもの。ガンコのうまさはわかっているものの、この大きなタナカゲンゲをいかに調理するか? 考えあぐねて、八王子総合卸売センター『さくら』のまささんに丸投げすることにした。
 八王子総合卸売センター『さくら』はラーメンの世界ではかなり有名な店。でもこの店の本当の凄さは、自由な発想で作り出される中華料理にある、とボクなどわかりかけてきている。中華料理の腕がいいので、「中華そば」がうまいわけだ。

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 タナカゲンゲの半身を持ち込み「ハイ!」と手渡し。これを三枚に卸して、あれこれ勝手に悩んでもらっている間に隣の『市場寿司 たか』へ。ここで「おとく(ガンコ)」と「ばばちゃん(タナカゲンゲ)」の握りを撮影。

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「これはうまくはないなー。生で食べても旨味がない。こっちは皮目を焼いたヤツ、これが湯引きね。そしてなんにもやってないの。こっちの小さいヤツ(「おとく」)はもっと難しいね」
 たかさんの感想に同感である。

 撮影の合間に、『さくら』にもどる。
「まず生で中華のタレで食べますか」
 まささんの作ったタレは酢と醤油と自家製唐辛子味噌と各種調味料を合わせたもの。これをキュウリを包んで食べる。
 撮影は『さくら』ではなく『市場寿司 たか』で行う。これは『さくら』よりも『市場寿司 たか』の方がホワイトバランスがとりやすいため。

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 たかさんとふたりでこれを味見する。
「このタレうまいね」
「魚はどう?」
「どうって、なに? わかんねーや」
 すなわち味がないのである。

 またまた『さくら』にとって帰ると、かたくり粉をまぶしたタナカゲンゲの身をゆでている。これをスープで煮込んで出来上がったのが、まるで高級中華料理店の一皿のごときもの。
「どうでしょうね?」
 これまた『市場寿司 たか』で撮影するとともに、試食する。
「うまいねー。うまいよ。火を通すとうまいんだね」

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 たかさんはお代わりまでして、このタナカゲンゲの中華風煮込みを大絶賛。
『さくら』にもどると八王子総合卸売センター『総市』商事部のタヌキオヤジが来ていたので、コヤツにも味見させる。
「塩味が足りないけど、うまいよ」
 このタヌキオヤジ、漬物にでも、あらゆるものに醤油を湯水の如くかける病的な塩分大好き人なので「塩味たりない」は無視していい。
 この「ばばちゃん中華風煮込み」がすこぶるつきにうまい。ほとんど「皿をなめ回したいほどのうまさ」とはこんなものを言うのかも知れない。なかでも驚いたのがタナカゲンゲの身がうまいことだ。生で食べて旨味がほとんど感じられなかったのに、不思議で、不思議で堪らない。

 そして最後に来たのが、これは『さくら』の奥さん特製の「ばばちゃんスープ」。中骨で出しをとり、ただ単に塩味のスープなのに、これがまた美味なのである。

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もっとも単純な塩味だけのスープがうまい

 しかし『さくら』、おそるべし。これからも魚の料理に悩んだら、まささんにお願いするしかない。
「まささん、お願い。絶対に繁盛店にならないでね。ボクと遊んでくれなくなったら困る(注/最近徐々に客の数が増えていて不安だ)」
 あまりのうまさに、ついついあらぬ事を口走ってしまった。ごめんなさい。

 また滅多に手に入らない「おとく」を探して、タナカゲンゲなどと詰め合わせて送ってくれた『浜勝商店』一九百(つづお)さんに感謝。

『浜勝商店』
http://www.hamakatu.co.jp/
八王子の市場に関しては
http://www.zukan-bouz.com/zkan/sagasu/toukyou/hatiouji/hatiouji.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、タナカゲンゲへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki/gengeamoku/genge/tanakagenge.html
ガンコへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/uranaikajika/ganko.html


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