食べる魚類学: 2008年11月アーカイブ

小きんきの唐揚げ

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 市場で歩いていたとき、顔見知りのオバチャンから「この魚の本名教えてよ」ときた。
「市場では“キンキ”だけど標準和名ってのがあって、キチジっていうんだけどね」
「なに? その“ひょ”っての」
「“ひょ”ってのは図鑑にのっている名前ってこと」
「だから本名教えろっていってるのに、バカだねアンタは」
 このような“七十”に手が届きそうなオバチャンに、変な固有名詞を使った自分が愚かに思えて、
「だから“キンキ”でいいんだっての」
「わたしゃね、その“キンキ”ってのを聞きたかったわけ。アンタはめんどくさいわね」
 そこにもう一尾のオバチャンが来て、ボクがいかに要領の悪い説明をしたかということで二人して朗らかに笑うのである。

 というわけで、今回は福島県もしくは宮城県からきた底曳網ものの小キンキ、じゃなくて小キチジ。
 こいつを小蕪とたき(ボクは関西系なので“煮る”ではない)、太郎の要望に応えて唐揚げにする。

 小型のキチジはウロコを取り、ワタを取り去る。
 このとき肝だけは捨てないこと。
 ていねいに水洗いして、これまたよーくよーく水分を切っておく。
 まずは最初に小蕪とたくのだけど、唐揚げようはザルに上げて、ラップしないで冷蔵庫へ。

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この大きさからして小町蕪じゃないだろうかな。漬物にしても煮物に使ってもうまい。これをキチジと合わせると、最高なのである。


 煮物を堪能したら、揚げ物にかかる。
 片栗粉をまぶすのだけど、このとき目にたっぷり押し込むようにする。
 こうすると目がはじけないで済むんじゃないかと思うのだけど、なかなかうまくいかない。
 最初は低温でじっくり揚げ、一度取り出す。
 二度目に油に放り込むときが怖い。
 とにかくはねる。
 それを我慢して高温でかりっと揚げる。

 ここで書いて置きたいのだけど、ビスケットを作るとき油分(ショートニング)を加えるとサクサクする。
 同じように魚でも脂が多いとサクサクするのだ。
 これは多分、揚げると筋肉のなかのコラーゲンというか、熱で液体化して、冷えるとまた固まるタンパク質をつなぎ止める物質が、小さな小さな空洞を無数に作るためだ。
 キチジの場合、このコラーゲン(脂も)が多いのに加えて筋肉中に均質に含まれているのではないか?
 だから余計にサクサクする。
 そしてそのサクサクはとくにコラーゲンの多い皮近くであって、骨であって、ちゃんと中付近の筋肉は繊維質で甘味がある。

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 唐揚げを作ると、人気が集中するわけで、いきなり皿上が皆無となり、ボクなども急がないと、一尾たりとも口に入らないことになりかねない。
 現代社会に置いて好まれるのは、微妙なしみじみした旨味ではなく、このようにわかりやすい香ばしさとか脂っこさとかなのだというのが、我が家庭でもまざまざと見えてくる。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、キチジへ
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 イボダイは多くの地域で「しず」、「しす」などと呼ばれる。
 関東では「えぼだい」。
 これは東京などでは「疣(いぼ)」のことを「えぼ」と発音したため。
 頭にある黒い斑紋が目立ち、粘液が出るのでこの名がある。
 べたべたして地味だが人気の高い魚。

 我が家では本種を季節感なく買ってしまう。
 秋が来て、春から夏にかけてさんざん食べていたのに、手に取ると、これが久しぶりである。
 産地は愛媛県らしいが、すでに箱もパーチもない。
 今回のイボダイは恐ろしく鮮度がいい。
 これはこの国の季節が進み、気温が下がり、冬が到来したこのの証拠である。

 我が故郷徳島県では、これを酢締めにする。
 酢締めにして姿寿司などに作るのだけど、今回は単純に塩焼きとした。
 魚を買い求めると、なぜか頭に浮かぶ料理があって、そこに一定の法則があるわけではない。
 ようするに私の欲求するところが塩焼きというだけだ。

 イボダイは午前中に振り塩をしてしまう。
 そのまま夕方になり、表面の水分をぬぐい取り、強火の遠火で焼き上げる。
 塩焼きとはまことに単純な料理であって、しかも和食の最たるものなので、香辛料は皆無。
 脇に大根おろしを添えて、後は手づかみで食べる。

 そのため塩焼きを食らう間は盃が動かない。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、イボダイへ
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むきどんこ発見!

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 福島県相馬市原釜漁港の水揚げを見ている。
 そこにグニュグニュしたオタマジャクシの化け物のような魚がいっぱい揚がっているのだけど、これがクサウオである。
 原釜など福島では「みずどんこ」なんて呼ぶ。
 さて、水揚げされたクサウオは美人揃いの原釜の娘さんたち(?)にいきなり頭を切り落とされて、エイ! ヤ! と皮を引き剥かれる。
 そしてトラックに乗せられて関東にまで運ばれるのだ。

 クサウオの盛期はまさに今。
 コヤツを八王子総合卸売センター『高野水産』にて発見!

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 小ムツ、中ムツが市場に並んでいる。
 その中ムツがなかなかいいのだ。
 産地はどこなのだろう?
 担当者に聞くけど、もう少ししたら電話するからといって結局わからずじまい。
 でも、この荷の形は千葉県産なのではないか。
 鮮度がいいだけに値段もキロ当たり1800円(卸値)で、お高い。
 このムツを三本ほど買い込んで、1尾は握りに、1尾は塩焼きに、1尾は刺身にする。
 さて、どの料理がいちばんうまかったのか、というと塩焼きなのだ。

 塩焼きは水洗いをして、身に包丁目を入れ、振り塩。
 1時間ほど置いて、魚焼き網に煉瓦を乗せて、串打ちしたムツを強火の遠火で焼き上げる。
 料理にコツというほどのコツはないのだけど、食べるなら焼きたてに限る。

 ムツの身はやや柔らかい。
 焼いてもフカフカしている。
 これをひと思いに半割にして、手づかみでほおばる。
 アツツツながら、うまままま、うまいので無言になって、我ながら動物的な面つきになっていそうで恐いくらいだ。
 この絹を思わせるような繊維のほぐれ感。
 そこに浮き上がってくる旨味と甘味。
 適度な塩味が皮目に張り付いていて、これがまたよろしいな。

 あまりに勢い込んでむさぼり食うので、酒をあおる間がない。
 ということで塩焼きは酒の肴としてはダメだな。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ムツへ
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 サンマに飽いたら、ちょっと一工夫する。
 持ち帰って生醤油と味醂(やや濃厚なタイプ。例えば三河本味醂など)に半日漬け込む。
 肝を裏ごしして使ってもいいけど、サンマに飽きたと言うことは、このようなわけ知り顔の料理がイヤだということなのだ。

 サンマと言えば「肝が大切」なんて一直線なバカな思い込みは今回は敢えてさけたい。
 ときどき「サンマ、肝」、「サンマ、肝」なんて、単純極まりないことにこだわるヤカラがいるが、幼稚だ。
 早く小学生くらいに成長すべしと思う。

 この漬け込んだサンマをじりじり弱火で焼き上げる。
 サンマの青魚らしい旨味と、醤油・味醂のアミノ酸、香りが相まってうまい肴になる。

 さてボクは山椒が大好きだ。
 だから焼き上がったら半割にして山椒をたっぷりと振って食らう。
 これには能登半島の宗玄なんて合うんじゃなかろうか?
 金沢への旅を控えて思うのだ。

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 築地場内の『大音』さんで野締めながら大振りでうまそうなカワハギを見つける。
 この店のよさは店のせまいことからもいいものを、選んで仕入れてきている点だ。
 どの魚をとっても、それなりに満足のいくものばかり。

 カワハギは秋になるとぐっとうまくなる。
 そういえば「餅はぎ(もちはぎ)」なんて呼ばれることがある。
 これはどうやら、秋になるとぐんと値段が上がることから、漁師さんの餅代の元になるためではないだろうか。

 秋の日は釣瓶落とし。
 寒くなってきていて、これは鍋だななんて、皮をはぐ。
 頭の角(第一背鰭棘)の前を包丁でまさかりのように叩き切り、この切れ目をぐっと前後に引きちぎる。
 するとワタは破れることなくきれいに飛び出してくるし、肝もきれいに露出する。
 残念ながら肝はやや崩れてきている。
 細心の注意をはらって肝をとりだす。
 頭は半割にして鰓を取り去り、目玉をとる。
 ここで気が変わり、「煮つけにしようか」と生姜を出してくる。
 魚を料理するときには、こんな気まぐれがよく起こる。
 これを熱湯をかけて冷水にいれる。
 ザルに上げて水気を切っておく。
 煮汁は味醂少々、酒、ほんの少し砂糖、しょうゆ、調味料と同量の水。
 カワハギの肝と身は煮立ったところに放り込む。
 途端にカワハギの身がプチプチっと割れる。
 これは鮮度がいい証拠だ。

 後は中火、やや強火で一気に煮あげていく。
 コトコト弱火にしてはだめだ。
 落としぶたを煮汁が持ち上げる程度に火加減する。

 待つこと暫しで皮剥の煮つけは出来上がる。
 あとはむさぼり食うのだけど、へたに箸で上品になんて思ってはいけない。
 煮汁の甘さよりも、カワハギの身の旨味をともなった甘さが、口の中に広がるのだけど、それを、味わって、その余韻をしみじみ感じていてはいけない。
 うまいカワハギの煮つけは、立て続けに一気食いする。
 残った煮汁で作る骨湯もまたうまし。

 さて、ボクはと言えば、こんな理想的な食い方をしているわけではない。
 片手に『多摩自慢 本醸造』を持っているわけで、口をしょうゆだらけに汚す姫達を見ながら、ボチボチ煮つけをつまんでいるのだ。
 煮汁の中に肝を見つけてはつまむ。
 この肝のうまさをなんに例えるべきか思い浮かばない。

 冷や酒をそそぎながら、ふとそろそろぬる燗にかえようかなんて、丹波・清水美和雄さんのとっくりを出してくる。
 この丹波立杭焼きであたためた酒がうまいのである。
 肌寒くなって、また立杭の集芸館に行ってみたくなる。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、カワハギへ
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集芸館
http://www3.ocn.ne.jp/%7Eleeko/top.htm


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