市場で歩いていたとき、顔見知りのオバチャンから「この魚の本名教えてよ」ときた。
「市場では“キンキ”だけど標準和名ってのがあって、キチジっていうんだけどね」
「なに? その“ひょ”っての」
「“ひょ”ってのは図鑑にのっている名前ってこと」
「だから本名教えろっていってるのに、バカだねアンタは」
このような“七十”に手が届きそうなオバチャンに、変な固有名詞を使った自分が愚かに思えて、
「だから“キンキ”でいいんだっての」
「わたしゃね、その“キンキ”ってのを聞きたかったわけ。アンタはめんどくさいわね」
そこにもう一尾のオバチャンが来て、ボクがいかに要領の悪い説明をしたかということで二人して朗らかに笑うのである。
というわけで、今回は福島県もしくは宮城県からきた底曳網ものの小キンキ、じゃなくて小キチジ。
こいつを小蕪とたき(ボクは関西系なので“煮る”ではない)、太郎の要望に応えて唐揚げにする。
小型のキチジはウロコを取り、ワタを取り去る。
このとき肝だけは捨てないこと。
ていねいに水洗いして、これまたよーくよーく水分を切っておく。
まずは最初に小蕪とたくのだけど、唐揚げようはザルに上げて、ラップしないで冷蔵庫へ。
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この大きさからして小町蕪じゃないだろうかな。漬物にしても煮物に使ってもうまい。これをキチジと合わせると、最高なのである。
煮物を堪能したら、揚げ物にかかる。
片栗粉をまぶすのだけど、このとき目にたっぷり押し込むようにする。
こうすると目がはじけないで済むんじゃないかと思うのだけど、なかなかうまくいかない。
最初は低温でじっくり揚げ、一度取り出す。
二度目に油に放り込むときが怖い。
とにかくはねる。
それを我慢して高温でかりっと揚げる。
ここで書いて置きたいのだけど、ビスケットを作るとき油分(ショートニング)を加えるとサクサクする。
同じように魚でも脂が多いとサクサクするのだ。
これは多分、揚げると筋肉のなかのコラーゲンというか、熱で液体化して、冷えるとまた固まるタンパク質をつなぎ止める物質が、小さな小さな空洞を無数に作るためだ。
キチジの場合、このコラーゲン(脂も)が多いのに加えて筋肉中に均質に含まれているのではないか?
だから余計にサクサクする。
そしてそのサクサクはとくにコラーゲンの多い皮近くであって、骨であって、ちゃんと中付近の筋肉は繊維質で甘味がある。
唐揚げを作ると、人気が集中するわけで、いきなり皿上が皆無となり、ボクなども急がないと、一尾たりとも口に入らないことになりかねない。
現代社会に置いて好まれるのは、微妙なしみじみした旨味ではなく、このようにわかりやすい香ばしさとか脂っこさとかなのだというのが、我が家庭でもまざまざと見えてくる。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、キチジへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/kitiji/kitiji.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/
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