食べる魚類学: 2008年4月アーカイブ

チカの地伝酒焼き

0

tika080411.jpg
●クリックすると拡大

 最近チカの入荷が増えてきている。根室、網走など北海道のチカは大きくて立派だ。
 我が家では、チカは焼き物にするのだけど、ほとんどが素焼きしてしょうが醤油をつけるという単純なやり方。これをアレンジして「つけ焼き」を作ってみる。
 チカはまず醤油に浸す。焼く10分ほどつけて、この醤油は一度捨てる(所謂醤油洗いに近い)。ここに島根県松江市米田酒造の「地伝酒」を入れて甘味を加える。

tikas080422.jpg
●クリックすると拡大
チカを醤油に漬け込んでいると、微かにキュウリのような臭いがする。これがキュウリウオ科である証拠だ。

 この酒は味醂(みりん)のように使えて、味醂よりも甘味が薄く、むしろ醸されたときに風味や、灰汁を使って酸を中和しているためにカラメルのような一種独特の渋みを感じる。
 ここに醤油を新たに加えて、数時間寝かせる。

 後はとにかく強火で焦がしながら短時間に焼き上げる。焼くときは一気呵成に躊躇なくやるのがいい。
 食べるときも同じく、熱い内に食べるのがよく、冷めると旨さは半減する。
 このように、阿吽の呼吸で調理し食べないとダメなものは、家庭でしかできない。
 皿に盛るのももどかしく、手でむさぼり食うべし。

 チカにはほとんどはらわたらしきものはなく、骨もワカサギと比べるとしっかりしているが、柔らかい。とにかくチカを食べるときに箸は無駄だ。
 口に入れた途端、チカの皮目の香ばしさに地伝酒、醤油の香り、次に白身のキュウリのような香りと甘味がほんのり浮き上がる。と、そのまたまた次に旨味と繊維質のほどけるようなホロホロ感も楽しめるわけで、とにもかくにも短時間に口の中をチカの旨味が満たして消える。面白いのは、地伝酒と醤油を使うと「魚を食べただけではなく醸造香を味わった」ように思えることだ。

 最近食品偽装なんて言われて、「アブラガニをタラバガニ」、「アブラボウズをクエ」、「ヒラメの縁側はアブラガレイの縁側」だったなんて喧しい。これに「チカをワカサギ」と偽って販売した例もあるとマスコミに出ていた。
 私、かねがねチカはうまい魚で、チカの見方であることを自認している。チカを悪者、偽物扱いにするなかれ、「チカはワカサギに劣らずうまいのだ。チカをワカサギだと偽る必要はない」と改めて宣言しておきたい。

豊の秋 米田酒造
http://www.toyonoaki.com/jiden.htm
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、チカへ
http://www.zukan-bouz.com/kyuriuo/tika.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

yuzuhonoka0804.jpg
●クリックすると拡大

 慌ただしい日々が続いており、毎日が戦争のようだ。それでなにが困るかというと、煮いかや、自家製のこはだ(コノシロの幼魚の酢漬け)を作る暇がないということ。
 八王子魚市場のあんちゃんから、開いたこはだを買う。
 本来は持ち帰って振り塩して30分ほど、後は酢洗いして、1時間ほど甘酢(ほんの少量砂糖を加える)に漬けるというのが我が家風。寿司屋で作るのは、塩をして、水洗い、酢に数分漬けて出来上がりとなる。我が家族はやや酢が利いたものが好きだし、子供はほんの少し甘く感じる方がいいようなのだ。
 今回は、慌ただしい土曜日だったので、いきなりぽん酢である「ゆずほの香」に漬け込んでみた。それで5分。もったいないけど、一度ぽん酢を捨てて、新しい「ゆずほの香」をかけ回して1時間(時間はこはだの脂ののりで決まる)。

 これが思った以上に、うまい“こはだ”となっていたのでビックリした。「ゆずほの香」の塩分はぽん酢としては低い方だが、漬け込むことからすると充分すぎるほどだ。だから「ゆずほの香」で漬けた“こはだ”には漬け醤油はいらない。単にワサビだけ添えて食卓に出す。

 これは困ったときの定番的な“こはだ”作りになりそうである。

米田醤油店
島根県松江市東本町3-58 電話0852-21-3591
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、コノシロへ
http://www.zukan-bouz.com/nisin/konosiro.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

fusetoku080411.jpg
●クリックすると拡大

 最近築地場内で買い求めるマグロといったら、常にパック入りで500円、1000円が勝負のしどころだと思っている。マグロは買い始めたら切りがない、まず間違いなくうまいマグロを買おうとしたら1万円でも心許ない。毎日毎日通って時には4,5万使う覚悟が必要となる。
 だから子だくさんのボクは諦めた。諦めて最高額1000円までのパックで勝負する。今回の築地行はあくまでも仕事なので、買い物は二の次。ただし帰宅は早いと思われるので夕食のおかず、もしくは肴としてマグロパックを物色する。

 築地場内をくまなく歩く内に、なかなかいいものに出くわさない。「いいな」と思ったら2000円だったり、柵になって5000円だったり、当たり前だ。マグロの良し悪しは額面通りなんだ、と諦め欠けたときに、『伏徳』の店内から「マグロのここ(額をさして)買わないかい」と声がかかる。
 ものは本鮪(クロマグロ)とのことだが、当然冷凍だろう。それでも下手な、ばち(メバチマグロ)を買い込むよりもいいに違いない。「1000円でどうだい」というのを喜んで買い求めてくる。

fusatoku080422.jpg
●クリックすると拡大

fusetoku080433.jpg
●クリックすると拡大

 これがアタリだった。八の身は脂が強く、室温で溶け出すほどである。食感は大トロに近い。ただしやはり大トロには筋っぽいこと、旨味に欠けることで及びも着かない。
 それでも一般家庭である我が家では存分にマグロの旨さを堪能できた。まことにうまい。トロっと口の中で溶けるのだが、適度な甘味とミオグロビンからくる酸味がいい感じだ。

 これなら1000円はお安い。よって今回の勝負は我が手にありなのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、クロマグロへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/maguro/maguro.html
築地でのお買い物に関する相談などはこちらへ
http://csi.or.tv/tsukiji/kb/rb.cgi


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

maiwasi080411.jpg
●クリックすると拡大

 なぜ4月にマイワシのフライかというに、魚の状態が不安定で少ないからと答えるしかない。当然、マイワシの脂の乗り、身の状態もいろいろで難しい。そのせいだろう、この季節に刺身を作る気になれない。

 それでおかずにするため、安いものを見つけたら、市場で手開きにしてくる。
 作るものは天ぷら、フライに蒲焼き。ムニエルなんかにもするんだけど、あまり凝った料理は合わないようだ。
 不思議なのは、あまり脂ののっていないマイワシでもフライにすると、ややふわっとして柔らかく、ジューシーになり、表面の香ばしさと相まって見事な一品になる。

 こんな料理を作るときは慌ただしい日に決まっているので、つけ合わせなんてどうでもいい。子供にレタスをちぎらせて、最近気に入っているキューピーのタルタルソースをそえるだけ。

 さて、ボクは普段ビールをあまり飲まない。それでも子供達の大好きなイワシのフライを作るときにはお父さんもビールとなる。ここでの注意点はやや多めに作ること。我が家は子だくさんなので2キロほどもマイワシを買い込んできてフライにする。

 イワシのフライを作ったぞ、山も笑い、お父さんはビールがうまい。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、マイワシへ
http://www.zukan-bouz.com/nisin/maiwasi.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

higan080411.jpg
●クリックすると拡大

 ヒガンフグ(関東では「あかめふぐ」)が各地でとれ盛っている。関東には茨城や千葉から、関西でも鳥取でも島根でもとれてとれて困っているのではないか。
 この和名の由来はそのものは、ずばり「彼岸頃にさかんのとれるため」なのだけど彼岸をとうに過ぎた4月になってもたっぷりあがる。
 ぱんぱんにふくれたお腹には白子もしくは真子が詰まっているけど、これは捨てなければならない。ヒガンフグはもっとも毒性の高いもので、真子、皮などを食べるとすぐに彼岸へ旅立つことになる。
 素人はフグ調理師、プロにお願いして、食べた方が無難なようだ。
 ボクは八王子総合卸売センター『高野水産』のフグ調理師の前で卸して、最終的にはいろいろ毒の除去なんか手助けしてもらった。ここまですれば間違いなく安全である。

 これを持ち帰って、リードペーパータオルに包み込み、一日寝かせる。
 これを焼き切りにしてぽん酢で楽しむ。

higan080422.jpg
●クリックすると拡大
あまりに定番的な食べ方ではあるが、やはりうまいな

 残りは島根県の郷土料理「煮食い」にする。

 焼き切りぽん酢は、まずいはずがない。ぱんぱんに真子を持っていたのに、身にも旨味が残っているし、甘味がある。また直火であぶった身のしっかりと堅いのに驚く。これはまさに絶品だね。

 その焼き切りに加えるのが、「煮食い」というもの。島根県出雲地方で「へか焼き」、岩見地方で「煮食い」、益田などでは「いり焼き」という。すなわち醤油(しょうゆ)味の鍋である。
 これをヒガンフグで作ったら圧倒的なうまさだった。
 あまりの美味におののくとはこんな状況を物語っているようにも思える。

higan080433.jpg
●クリックすると拡大

 ブルっと骨から抵抗しながら外れていく身。この身を噛みしめたときの充実した旨味。なんだこれは……、期待以上ではないか。

 長い間だ魚を飽食してきたのに気が付かなかった。
「ヒガンフグは彼岸過ぎまで食うのだ」

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ヒガンフグへ
http://www.zukan-bouz.com/fygu/fugu/torafugu/higanfugu.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

houbou080411.jpg
●クリックすると拡大

「ホウボウの味が落ちないね」
 寿司職人の渡辺隆之さんが、大振りのを2匹、3匹仕入れていく。よく見ると思ったよりも安いし、鮮度もいいではないか。
 旅から帰って疲れ果てているときに、食べたくなったのが魚の煮つけであり、「なにを煮つけようか」迷っていたところなのだ。
 最近、魚が少なくて、迷う以前にものがない。それでマグロ屋で八の身でも買ってこようかと思っていたところだ。
 ホウボウを買い込んで、八百屋で若ゴボウ(秋まき)に浅葱(あさつき)を見つけて、これまた買ってくる。

 ホウボウは食べやすく三枚に卸し(子供のためである)中骨を外し、頭を梨割り、これを湯通し。
 鮮度のよさから、予め味醂(みりん)、醤油(しょうゆ)、水の煮汁を煮立ててから放り込む。煮汁が魚を覆い尽くすように回ってきたら、下ゆでした若ゴボウを加える。
 そして最後に浅葱を加えて出来上がりとなる。

 島根県松江市『米田酒造』の味醂「七寶」がなかなかいい。疲れたときに煮つけが食べたくなるのは、この甘味が欲しいからかもしれない。
 ホウボウ自体にも脂があって、甘味を感じるが、これにまた本味醂がより上質の甘さをつけ加える。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ホウボウへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/houbou/houbou.html
米田酒造
http://www.toyonoaki.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

nodokuro0803111.jpg
●クリックすると拡大

 島根県水産試験場が作った『島根のさかな』(島根県水産試験場 山陰中央新報社)のアカムツの記事をここに転載する。
……一般に魚の選び方として、色・艶のいいものを選びます。しかしアカムツの場合、天然礁で漁獲されたものは鱗がしっかりついており、色・艶とも申し分ないのですが、脂の乗りは今ひとつといわれています。一方、底引き網によって泥場で漁獲されたものは鱗がはげ、白っぽくなっており、見た目にせんどが悪いのかなと思ってしまうのですが、実は皮下脂肪が多いために白っぽく見えるのであって、決して鮮度が悪いわけではありません。漁師さんに言わせると「のどくろは泥場のものに限る」と言われている。……

 浜田の底引きの水揚げでもっとも目についたのが、この白っぽくて鱗の剥げた「のどくろ(アカムツ)」だった。一見、網で痛んだ、鮮度の悪い魚としか思えないもの。でも手で触れたときの体表のぬめっと重い感触に「これは脂ではないか!」と驚いたのだ。後日、取り上げるけれど、横にあった見るも無惨な汚らしいタチウオにも同じ手触りを感じて、隣にいた地元のキタさんに値段を聞いてみた。
「そうだね。アカムツだったら4000円以上はするだろうね」
 4000円というのは水揚げ値段であって、流通の末端の値段ではない。この見た目の悪い「のどくろ」が高いにはワケがありそうだ。
 そのワケを仲卸市場で聞くと、やはり脂ののりの問題であるようだ。「あんまりきれいな、のどくろには脂がない」のだという。

 その見た目の悪いアカムツに惹かれて、買い求めたくなったのだが、悲しいことに旅の途中。残念無念、後ろ髪を引かれる思いで浜田を後にしたのだ。
 これを後日、キタさんが親切にも送ってくれた。開いた宅配便の中にあったのはまさしく白っぽい鱗の剥げた一見みすぼらしいアカムツであり、やや小振りながら無残な鈍色のタチウオだった。

 さて、このアカムツをどのように味わうべきか? まずは鍋にし、塩焼きにして、煮つけにした。明らかに上物と思える魚に、へたに凝った料理は似つかわしくない。

mpdplirp0803444.jpg
●クリックすると拡大

 鍋物は三枚に卸した身に熱湯をかけて、残った鱗や、アクを除く。これを酒と水半々の鍋の中でぐらっと煮立てる。煮立ったら浅葱を散らして、ぽん酢、もしくは生醤油でくらう。
 びっくりしたのは口の中に入れたアカムツの身が、ふわっと消えてしまう。消えて、残るのは脂の持つ甘味であって、「ほんまに、魚を食ったのだろうか?」と不安を感じるほど。これをなんど繰り返しても、同じように口の中でとろけていく。天においた肝は、身の脂の強さからして、濃厚な味なんだろうと思ったら、意外にあっさりと上品である。「こまるなー、この美味」。どのように表現すればいいのか言い表せない。

nodokuro0803222.jpg
●クリックすると拡大

 このふわりと口の中でとろけるというのは煮つけにしたときにも感じられた。ただし醤油と味醂の作用で、やや身が引き締まって、しっかりとスズキ目の持つ繊維質の筋肉がほどけていく様を感じられる。
 ここで永遠のライバル、煮つけ魚の王様は「きんき(キチジ)かのどくろ(アカムツ)か?」を考えてみる。この問い掛けに誰も返答できるものではない、それほど東西両横綱の実力は拮抗している。

nodokuro0803333.jpg
●クリックすると拡大

 さて、我が家で、もっとも夢中になったもの。それは塩焼きだった。この旨さの前兆は焼いているときに感じられたもの。塩を振り、時間を置いて串打ちをしてコンロにかざす。終始強火で、焼き上げる。その表面に脂が大量に浮き上がってくる。そしてコンロに落ちて炎を上げる。その表面の脂にアカムツ自体が丸揚げされるように思える。そして焼き上がったものの香ばしさも唐揚げの持つそれであって、一般概念の塩焼きのそれではない。その旨さはというと、あまりに食卓にあった時間が短すぎて、困ってしまうのだけど、甘味が強く、旨さは濃厚でいながら、身の繊維質であるために、あっさりしている。でもこの美味であることはとても言葉では表し尽くせない。

 さて、浜田のアカムツを食べて思ったのだが、魚貝類はまことに奥が深い。これが最上であるという、その頂点がなかなか見いだせない。美味の上には、より美味がある。
 そして、世に美味を追い求める人たちよ、必ずや浜田の「のどくろ」を食べてみるべし。「のどくろを食べずして、魚を語るべからず」なのだ。

 最後に、この美味をお送り頂いた、キタさんに「ありがとうございます。一生感謝いたしまする」。

●浜田底引きのアカムツなどは浜田漁港競り場前の仲卸市場などで買い求めることができる。
JFしまね
http://www.jf-shimane.or.jp/
島根県庁
http://www.pref.shimane.lg.jp/
島根県水産課
http://www.pref.shimane.lg.jp/industry/suisan/
●ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アカムツへ
http://www.zukan-bouz.com/suzuki2/suzukika/akamutu.html


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、2008年4月以降に書かれたブログ記事のうち食べる魚類学カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは食べる魚類学: 2008年3月です。

次のアーカイブは食べる魚類学: 2008年5月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。