食べる貝・イカタコ学: 2006年7月アーカイブ

 千葉県船橋などで増えているのが北アメリカ原産のホンビノスガイである。これがどうにも「売れなくて」こまっている。困っているけど「うまくないんだから仕方ないか?」なんて思っていたら。
「おい、おめーなホンビノスうまくないと思ってるだろ」
「うん、うまいかな。どうかなうまいことはうまいようだけど」
 こんな時は誤魔化すに限る。
「ちょっとコレ食っててみよや」
 八王子魚市場内『源七』の若だんなが偉そうに言ってくれる。
 と見ると、ホンビノスの酒蒸しが置いてあるのだ。そして手前にはうまそうな白みる(ナミガイ)もある。当然、ナミガイを一切れ二切れ三切れ、
「いやあーなかなかうまいな」
「そうだろ、うめーだろ酒蒸し。オレが蒸したんだからな」
 まだ酒蒸しは食ってないよ。
 そしてだ、酒蒸しも貝殻をもって「シャブリ」と口に放り込む。
 すると豊かな貝の旨味、そして甘味がある。身も硬くないのはどうしてなんだ。
「だからな、普通にというか、上手に酒蒸しにすればうまいわけよ」
 しかしまことにうまい。ついつい二個三個と食ってしまうほどにうまい。
 ここにホンビノスがうまい貝であることを証明するのだ。

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 フジイロエゾボラはBつぶの代表的なもののひとつ。東北から北海道まで棲息している。非常にきれいなつぶであり、こぶし状から細長いものまで形は様々だが特徴は貝殻に非常に太い螺肋(貝殻に浮き上がるようにしてあるひも状の縞)がある。
 エゾバイの仲間は形態的(形色合い)に似通ったものが多く、なかなか見分けるのが大変なのだが、フジイロエゾボラはなかでも特徴がはっきりしていてわかりやすい。
 産地は内浦湾(噴火湾)から根室までが多い。値段は安く1000円から高くて1800円ほど。
 味は刺身つぶのなかでもよい方だと思うが小振りなものが多いので歩留まりが悪い。

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これは産地不明。札幌の市場からきたもの

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 市場でBつぶと呼ばれるもののなかにエゾボラモドキがある。太平洋側では鹿島灘、日本海側では丹後半島から北、北海道を経てベーリング海にまで広く棲息する。
 このエゾボラモドキの同定が非常に厄介である。エゾボラモドキの特徴は螺肋(巻き貝の周りを回っているひも状の隆起)が顕著でたくさんあること。また貝殻は茶色ではあっても茶褐色ではなく、当然焦げ茶色でもない。貝殻の内側はオレンジ色である。これを当てはめていくと様々な矛盾点が出てくる。「螺肋は多いのであるが細かくはない」という特徴が当てはまる。なぜなら螺肋が細かいものにチヂミエゾボラがいるからだ。また茶色一色であるが焦げ茶ではないというのは濃い茶色のものにクリイロエゾボラがあるからだ。そしてこの総てに中間的なものが存在する。だからそれらを総称して「Bつぶ」という言葉が生まれたのだろう。

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この2つはやや典型的なエゾボラモドキ

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これはチヂミエゾボラではないかと思われるがエゾボラモドキの箱に混ざって入荷。確信が持てないもの

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クリイロエゾボラだと思われるが、すこし怪しい

 産地としては厚岸、樽前など道東、福島などが多い。値段は真つぶ(エゾボラ)よりも安く、キロあたり1000円代前半。ときに値崩れしてキロ当たり600円なんて値がついていたりする。
 味は真つぶ同様によくて刺身にすると絶品だと思う。刺身つぶなので唾液腺はかならず取り去ってしまうこと。また小振りなものは焼きつぶにも向いている。


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 刺身つぶ=エゾバイ科Neptuneaであるというのを書いた。この仲間の特徴は足の上部にある唾液腺にテトラミンという毒を持っていること。その代表格が標準和名のエゾボラである。市場では「真つぶ」もしくは「Aつぶ」と呼ばれている。当然、この呼び方は北海道での呼び名を踏襲している。
 もともとは北海道ならではの貝であったのが今では都市部では普通に見られるようになっている。関東の市場で見る限りエゾボラがないときはないといった現状である。
 産地は噴火湾から根室までが多く、また中でも様似、樽前、厚岸などからは毎日のように入荷してくる。
 値段は刺身つぶのなかで最も高く、卸値で1400円から3500円近くする。大きいものほど高く、だいたい1個200〜300グラムなので安くて250円、高いと1000円以上することもある。

 この刺身つぶの仲間も見分け方が難しい。エゾボラの見分け方をまとめると以下のようになる。
1 貝殻の各層が角張っていて表面がほころびて板状にせり出している。
2 貝殻がやや薄い。
3 貝殻の内側を見るとオレンジ色であり、透明感がある。

 さて、どうして真つぶが「刺身つぶ」の中でいちばん値がいいのか、というとまずその色合い。刺身にする足の部分が白くやや黄色味をおびている。また塩もみ、もしくはぬめりを取り去って刺身にきる。この刺身の食感が適度によく、また硬すぎない。味わいも非常に良くて、爽やかな食感から夏にふさわしい魚貝類であると思われる。寿司職人によってはネタとして好む人も少なくない。
 これに加えて貝殻がやや薄いことも高値がつく理由となるだろう。例えばサザエと同じくらい。例えば同じように刺身で食べるボウシュウボラ(内臓は食べられない危険)と比べると遙かに薄い。同属のアツエゾボラ、マルエゾボラなどと比べても薄いのである。これは歩留まりからいっても優れているのだ。
 また過去に書いたがエゾボラ(刺身つぶの仲間はほとんど同様)は貝殻を割らないで身が取り出せる。これなら料理店で刺身の盛り合わせにつかったときにも見栄えがいい。

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 北海道に「焼きつぶ」というのがあって名物であるという。それで函館にいったときも真っ先にたのんだのが「焼きつぶ」である。これが冷えていてまずいものだったが、貝殻だけは持って帰ってきた。これが1987年のこと。図鑑でみて北海道の「つぶ」とはヒメエゾボラのことだったのかと早合点したのは恥ずかしい思い出となっている。そしてまた青森駅前市場でわざわざ買ってきたこともある。
 考えてみると関東の市場にも見かけない日はないくらいに入荷してきている。わざわざ土産に買ってくるほどのこともない。また北のものといった思い込みがあって、茨城県で見たときには「意外」な感じがしたが大型の魚屋のオヤジは「ここいらでいっぱいとれる」という、考えてみれば生息域なんだから当然である。

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色や形は多彩である

 さて、このヒメエゾボラが市場では「青つぶ」と呼ばれている。日本海、茨城県以北の浅い磯から100メートルの水深ふきんにまで棲息する。もっとも値の安い「つぶ」の仲間である。産地は岩手県福島県が多い。意外に北海道からの荷が少ないのは値が安く商売にならないためだろう。

 この「青つぶ」、東北北海道では庶民的な「つぶ」として親しまれている。「Neptunea」の仲間だから刺身でもいける。貝殻が硬いので割った方が早い、またエゾボラ同様穴を開けてもいい。身を取りだしてこれまた「Neptunea」であるからテトラミンのある唾液腺を取り去る。あとは塩もしくはよくもみ洗いしてぬめりを取り去り刺身にする。甘味がありコリっとした食感が楽しめてうまい。
 またヒメエゾボラといったら何と言っても「焼きつぶ」である。我が家ではまず殻のまま軽く茹でる。身を取りだして唾液腺を取り去る。そしてもう一度貝殻に戻して焼き、酒醤油で味つけする。

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 北海道を旅したときに、ヒメエゾボラを前にして、
「これ食べると酔っぱらったようになるでしょ」
 函館の朝市での話だけど、
「あんたなら2個くらいは大丈夫っしょ」
 そんなことを言われたが、ここは安産第一でいく。ただし、このテトラミン、戦前戦後の物資のないときアルコール代わりに食べて、酔っぱらった状態になり、酒を飲んだつもりになっていたそうだ。まあ、そんなに危険なものではないのだろうか?
 値が安くて、味のいいヒメエゾボラも知っておくとお得な「つぶ」である。真つぶ(エゾボラ)が1キロあたり2500円もするときに、かたわらで600円〜700円で売られている。市場でこれを買って帰る調理人をみると「やるな!」と思う。そんな店はおすすめだな。


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 エゾボラの刺身の作り方というのは案外に知らない方が多い。非常に簡単なのだが面倒なのか知らないままで、つぶを敬遠している。
 これを簡単に説明する。
 エゾボラの刺身はクセのない味わいとコリコリした食感が信条。夏にもってこいの一品になる。

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1 絶対に貝殻は割らない。貝の口をこちらに向けて、アイスピックの当てているところに小さな穴を開ける。

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2 穴が開いたらアイスピックを上に向けて深く刺す

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3 そのまま身の部分を切断するかのように下に向けてこじる

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4 フォークなどでフタの下を差して軽く引き出してみる。出なかったらもう一度こじる。

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5 そしてフォークできくように引き出すと身とワタが出てくる

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6 とりだした身をふたつ割にすると中から白い(クリーム色のときもある)唾液腺が出てくるので取り去る。ここには毒であるテトラミンが含まれていて、当たると船酔いしたような症状がでる。そして身を塩などでもみ洗い、またぬめりをとって刺身に切る

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 前回は「灯台つぶ」は何かというのを書いた。その「灯台つぶ」とエゾバイ、コエゾバイ、またやや深いところにいるエチュウバイなどの仲間を「Buccinum」という属にくくられることを覚えて置いて欲しい。これらは刺身にもなるが主に煮たり焼いたりされることが多い。
 対して「Neptunea」というグループがあり、こちらを代表するのが真つぶ(エゾボラ)、青つぶ(ヒメエゾボラ)などである。真つぶでわかるように主に刺身に使われるのであえて「刺身つぶ」と呼びたい。
 この「刺身つぶ」はいちばん北から真つぶ(エゾボラ)、またマルエゾボラなど正体のわからないもの。クリイロエゾボラ、フジイロエゾボラ、アツエゾボラ、エゾボラモドキ、チヂミエゾボラ、青つぶ(ヒメエゾボラ)、日本海側ではもっとも西にいるセイタカエゾボラ、太平洋側でもっとも西にいるヒメエゾボラモドキまで種類が非常に多く見分け方はまた難しい。
 市場では一般的に青つぶ(ヒメエゾボラ)だけは三陸からの入荷が多く別格であり。真つぶ(エゾボラ)を別名「Aつぶ」、他のものを「Bつぶ」と大変おおざっぱわけるだけ。
 これを真つぶからはじめて詳しく解説してみたい。

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 スルメイカの別名を「夏イカ」という。市場にばらイカ(スルメイカの小さなもの。形が小さすぎて並べられない)、下氷(大きくなって氷を敷き詰めた上に並べる)もある。そこにとうとう本格的な入荷が始まったのが「活けスルメイカ(略して活けスル)」である。これは決して水槽で元気に泳いでいるわけじゃなく、身は生きて、吸盤を触ると吸い付いてくる、まるで「活け」のようであるというもの。
 産地は千葉や伊豆半島周り、三重、和歌山などである。それぞれ関東など消費地に近いところであり、すべて釣ったもの。しかもたくさんの釣りロボットを使い大量にとるのではなく、一本一本丁寧に釣り、氷入りの海水で急速に締める。これを冷やした海水をはった発砲に入れて、ビニール袋に入れた氷をそえる。すなわち輸送中にも海水は薄まることなくスルメイカの生きて泳いでいるときのままの状態にある。あとは翌日の消費地での競りまでに運び、その日の内に消費者のもとに届けられる。漁師さん、また流通ともに一丸となって「活け」のスルメイカが我々のもとに到来するのだ。
 旬の夏とはいっても、「スルメは使わないよ」といった寿司屋も多いのである。これは同じく夏が旬のアオリイカと比べて身の透明感、旨味でかなわないがためである。ところがこの「活けスル」の登場で庶民派のスルメイカもちょっと上等になった。すなわち寿司屋のネタとして認知されてきたのだ。
 しかし手間のかかった「活けスル」最初こそは値があがったものの、近年目新しさがなくなったのか求めやすくなってきている。安いとキロ/800円、1本あたり300円以下での取り引き。これでは漁師さんや流通業の手間からすると割に合わない。もっと「活けスル」は評価されていい。透明感のある身、そして弾力、甘味、寿司屋も上握りの主役に選ぼうではないか? 夏の「活けスル」。
 また街の魚屋を見て歩いていて、しっかり「活けスル」が並んでいる。大量に流通させることで成り立つ大型店舗では無理でも魚屋を覗けば「活けスル」が手にはいるのだ。食卓に「活けスル」の刺身、川本三郎さんの真似をしてビールというのも新鮮な気分になる。

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殺菌海水にビニール入りの氷、泳いでいる活けスルメイカの筋肉はまだ生きていて、吸盤を触ると吸い付いてくる

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 ヒモマキバイやオオカラフトバイ、シライトマキバイなど北海道から千葉県銚子まで徐々に南下してきて、太平洋側、相模湾、駿河湾から土佐湾までの深海に棲息するのがスルガバイである。北の3種がまとまった漁獲量を維持して市場を賑わしているのに対して、このスルガバイは相模湾でのカゴ漁、駿河湾以南の底引き網などで細々ととられているものの流通するほどにはまとまらない。
「灯台つぶ」というのは北海道でのヒモマキバイ、オオカラフトバイ、クビレバイの呼び名。これが太平洋側を下ると産地では「灯台つぶ」という呼び方はしないのだが、築地などでは経験上、いつのまにか三陸、福島、茨城などのシライトマキバイを混同して「灯台つぶ」として扱っている。だから「三陸産灯台つぶ」というシライトマキバイの名称を値付けに書くのである。そしてもっと南下してスルガバイに対して「灯台つぶ」という呼び名は当たり前だがまったく使われない。
 スルガバイは駿河湾では珍しい貝でもなく、かといって出荷できるほどにはまとまらない、まあ言うなれば漁師さんの「おかず」的な巻き貝として特別な呼び名すらなくなってしまう。また、分類学的に見るとシライトマキバイが福島県沖、茨城県沖までくると「スルガバイ形」としか言いようのないものが混ざり、南に行くほど膨らんだ形態になる。門外漢ではあるが、銚子に揚がった「スルガバイ型シライトマキバイ」をスルガバイと比べても区別がつきかねる場合がある。
 この地域による変化というものを把握することが巻き貝では重要となる。例えばオオカラフトバイは根室から来る荷に多く、厚岸、森町とヒモマキバイが多いように思える。また典型的な「オオカラフトバイ型」は根室産からしか見つからない。それに比べると「ヒモマキバイ型」は不安定ではないか。シライトマキバイは道東から見られるがここでは典型的な「シライトマキバイ型」である。これが福島県沖まで南下すると多少ふくらみをもった「スルガバイ型」が混ざる。そして銚子に揚がるものなど半分以上が「スルガバイ型」になるのである。
 さて、スルガバイはときどきまとまって揚がる。当然、まとまってもわずかだが、産地の沼津や三河湾では市場などで目にする機会が少なくない。また値段も安い物なので、見つけたら買ってみるといい。刺身、煮る、焼くとまことに美味である。
●「灯台つぶ」というのは北海道に置いての「ヒモマキバイグループ」の呼び名。これに関してはスルガバイが最後となる。日本海、また道東でのヒモマキバイ、オオカラフトバイなどもっと、典型的なものから中間的なものまで個体を集めて比較する必要性がある。これをまた「市場魚貝類図鑑」に反映していきたい。

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市場魚貝類図鑑のスルガバイへ
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