食べる魚類学: 2009年5月アーカイブ

ainame0905.jpg

 秋に色づくのがアイナメだ。真黄っ黄に染まる。
 これは産卵期の雄の婚姻色。
 この産卵期のアイナメも悪くない。
 けっしてまずくはないのだけど、やっぱりアイナメを食べたくなるのは春から夏にかけてだろう。
 そして5月のアイナメがうまい。
 今回のものは常磐から来た、活け締めのもの。
 死後硬直した状態で鮮度もいい。
 たった1本だけだけど買い込んだら、キロあたり1500円で650円也。
 これほど見事なアイナメなのに安すぎないだろうか。

 夕食用に水洗いして三枚おろし、血合い骨を抜き取る。
 皮目を焼いて氷水に落として、よーくよーく水分を拭き取る。
 飾りに万能ネギをのせてみると、なんだか5月らしくなった。

 さて、改めて書くまでもないが、5月のアイナメはうまい。
 皮下に旨味があって、ほんのり甘いのは脂だろう。
 活け締めなので、シコっと食感もいい。

 もう一本買い込むべきであった。
 後悔先に立たずなのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、アイナメへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/ainame/ainame.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

 急に暖かくなり、並木のアメリカハナミズキも散ってしまった。
 ツツジも野イチゴの花も、そろそろ盛りを終えて、初夏の花、エゴのつぼみが膨らんでいる。
 なんだかポカポカと気持ちいい。
 こんな時期になると、近所の農業の師匠・旗野さんの畑に行きたくなる。
 日野市にある数少ない専業農家、旗野農園ではイチゴが終わり、トマトの収穫期となっている。
 最近の品種を食べてみる限り、トマトは5月がいちばんうまい。
 畑をそれこそ死にものぐるいでやっていたころに、たどり着いたトマトの旬は5月から梅雨前。
 例えば古い品種・ポンテローザだって、実際に作ってみると真夏ではなく、初夏までに出来た物がうまいのだから、トマトは猛暑がきらいなんだろう。
 ハウスがあって初めて素晴らしいトマトが出来るのも、畑で覚えたことだ。
 ちなみにハウスは加温のためというよりもトマトに対しては雨よけだ。
 トマトに関しては、いかに水分をやらないかが「うまいトマト」を作る決め手だ。

 旗野農園で、旬のトマトを買う。
 暖かいので成長が早く、収穫が遅れると、大きく成りすぎたり、ムクムクとあっちこっちが膨らんで歪になる。
 これを旗野農園では「キズトマト」といって安く売っている。
 面白い物でちゃんとした形のものよりも、筋がいくつも走っていて、凸凹した方が甘みも香りも強く思える。
 これを築地場内で買ってきたマグロ(いろんなのが混じっているそうだ)と合わせる。
 ボクはこれを「トンノマリネー」と呼んでいるのだけど、フレンチ・イタリアン混合の造語なので、深く追求しないで欲しい。

 マグロは筋の多いところを取り去る。
 ボウルに放り込んでやや多目の塩を振り込む。
 少しおいておくと汗(水分)が出てくる。
 これをよく拭き取る。
 ボウルはそのままでここにトマトを切り込んでいく。
 ていねいに作るなら皮を剥き、種を抜いた方がいい。
 そしてピーマンを加え和える。
 これを冷蔵庫で冷たく冷やすと出来上がり。
 野菜はピーマン、玉ねぎ、ルッコラ、セロリ、ズッキーニ、エストラゴンがあってもいい。
 ただトマトがあくまで主役なのでトマト5に対して他の野菜は1〜2くらいまで。

 冷えたら、塩コショウで味をととのえ、レモンを絞り込む。
 子供抜きならタバスコがあると一際うまくなる。

tonnono0923.jpg

 これが我が家の「めちゃくちゃ簡単」なサラダ。
 子供が好きで好きで、なかなか大人まで回ってこないと言う、ある意味残念な初夏の味だ。

2008年5月9日
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

murasoi093.jpg
●クリックすると拡大

 最近目につくもの、それは嘘つきな人類だな。
 「正しい食事」とか「食育」とか語ってしまう、やな感じの人類。はたまた全然野菜をしらないのに何とか検定とか受けて、野菜のソムリエなんて本気で肩書き並べているバカな人類。
 漢字検定問題もそうだけど、この「検定」なんてやってるヤカラ大丈夫なんだろうか?
 その内、ボクが「食の無頼派検定」を行って、正しくない、正直な食の世界を教えるから、それまで無駄な検定を受けないようにすべきだ。

 これくらい目に飛び込んでくるくらいだから、それこそうようよ蠢いているんだろう、「正しい人々」って。
 気持ち悪いな。
 なんども書いているけど、ボクは正しい人間でも、正しい食べ物が好きな人間でもない。
 敢えて言えば正直な人類だろうな。
 かっこいいこと、見てくれだけいいことは言わないし、できない。
 そう言えば、ボクの知人に魚が嫌いな漁師がいる。
 この男がほんまにいいヤツだなと、確信した、その最大のものは、「ボクは漁師なんだけど魚が好きじゃないんで」とあっけらかんと言ったからだろうな。
 いかん、こんな酒飲みを登場させるつもりじゃなかった。枕が長くなりすぎている。
 結論として、正しい、いいことだらけのことばっかり話し、語る人類は不要だ、もしくは「とっても危険だ」と思っている。
 だから雑誌などでこの手の人類をたくさん見かけるようになったのは、非常に“危険な社会”に突入しようとしてるんじゃないのか、心配なんだけど。

 さて、今回のテーマは「子供向けの料理は必要か?」というもの。
 我が家ではボクが夕食を作るとき、とにかく料理の速度だけは速いので、2種類の料理を作る。
 1つは和食系、1つは肉系。
 例えば、ハンバーグとか、ポークソテー、グラタンに鶏の唐揚げ。
 方や魚の煮つけ、酢の物、和え物、蒸しものに、焼き物。
 さて、子供はどっち系をよく食べるのかというと、そのときどきで違っていて、判然としないのだ。

 そこで登場するのがオウゴンムラソイだ。
 ムラソイ自体が非常に目立たない、地味な魚。
 魚類学者がムラソイはよくよく分類すると4種類になる、「いや2種類だ」なんて言っているので、こっちの方面だけでスポットライトを浴びている。
 でも市場に並ぶと、あまりに地味で哀愁漂いすぎに見える。
 ある日、市場でたまたま“分類学者の目”であったときに、オウゴンムラソイの典型的なのを見つけたために、感激して3尾購入した。
 これを持ち帰り検索(同定、種を判別)して、煮つけにしたのだ。
 オウゴンは「黄金」なのだけどまことに地味な煮つけになった。
 ちなみに今回は酒と砂糖、醤油で甘辛く煮た。
 酒を使うか、味醂を使うか、砂糖を入れるか、入れないかは、「魚の身がしっかりしている(酒)、柔らかい(味醂)」、「ご飯のおかずにするのか(砂糖入れ)、酒の肴にするのか(砂糖なし)」などと考えているけど、気分で決めていることが多い。

 3尾とも煮てしまったのにはわけがあって、2尾ほど酒の肴に、おかずに食べて、残った1尾を明日朝に焼いてしまおう、と思ったのだ。
 煮魚をまたじんわり焼いて食うというのは瀬戸内海などでやっているのだけど、まことに鄙びていて好きなのだ。
 ところがここに誤算があって、この日も二系統の料理を作っている。
 子供達は大量に作ったポークソテーとグラタンも食べるには食べるのだけど、むしろ標的を煮つけに向けたことだ。
 3尾の煮つけが、あっという間に消えた。
 煮汁も、ご飯にかけて一滴も残らなかったのだ。
 我が家の子供達は、敢えて魚を食え、なんて一度も強制していないし、また魚好きでもない。
 だから、これを大誤算と思ったわけだ。

 オウゴンムラソイの煮つけも確かに美味であった。
 この煮汁に侵入をはねつけた真っ白い身が、まことに旨味が強く、またほろほろと舌でほどけていくのが、心地よかった。
 ムラソイはカサゴ目だけど、その姿のせいかとても安い。
 安い上に、これほどうまいのだから、ムラソイって偉いんだなと改めて思った次第でもある。

 ここで改めて検証してみるに、子供が好きなのは「ただ単にうまいもん」じゃないのかね。
 子供向けの料理なんて作るんじゃなくて、親はうまいもんを作るべし、かな?
 そう言えば、ポークソテーをいちばん食べたのは誰なんだろうか、というと“いちばん食べてはいけない人”だったりして。
 現在の体重90キロ弱なのであった。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、オウゴンムラソイへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/mebaru/murasoi/oogpnmurasoi.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

nodokuro0903.jpg
●クリックすると拡大

 最近、あいついで魚関連の本を読んでいる。
 買ったわけではなく、写真などを貸したので送ってもらったものだ。
 送ってくれたのはありがたいけど、間違いや、読者に誤解を招くような表現が多い。
 だいたい基本となる魚選びを大いに誤っている。
 このところの何冊か見ても、たぶんぜんぜん実際には使えないだろうな、という本ばかりだ。
 と、どうしてこんなことを書いているかというと、近年となってもまだ「魚をしっかり食べていないヤカラ」が魚の教科書的な本を書いているのに、少々不愉快だからだ。
 魚貝類はとにかく死にものぐるいで食うしかない。
 食い飽きて、顔を見るのもイヤなのよ、となって初めて魚のよしあしがわかる。
 要するにもっと魚を食べてから本を書きなさいよ、ということだ。

 だいたい本(お魚本とか、雑誌)を隅から隅まで読んでも「近海のユメカサゴのことが掲載されていない」ではないか。
 これほど飛び抜けてうまい魚もいないのだ。
 それなのに、なぜなぜ、この旨さを伝えないのだ。
 「飛び抜ける」のは近海のもの、のみだけど、遠洋漁業のものだって、長崎あたりにあがるものだって、「かなりうまい」。

 これほどうまい魚を掲載しないと言うことは、遠洋も近海のユメカサゴを食べていないんだろう。
 ついでに言って置くが、近年「喉黒(のどくろ)」というとアカムツのこととなる。
 島根県県水産物アドバイザーをやっているので、アカムツは実にうまいといっておくが、冷静に食べ比べるに駿河湾「のどくろ(ユメカサゴ)」とおっつかっつではないだろうか?
 しかも値段からすると、遙かにユメカサゴのほうが安いんだから「のどくろ」としてはユメカサゴの勝ちだろう。

 今回のものは駿河湾底曳網で揚がった新鮮極まりないユメカサゴ。
 佐政水産の青木修一さんにわけてもらって、その日の内に、料理して食ってしまったら、名状しがたい感動に打ち震えた。
「うう、うまいなんてもんじゃない。これは奇跡だ」
 まあちょっと大げさだけど、焼霜造りの美しさに感激し、その皮目の旨さよ、皮下の脂の甘さ、食感の素晴らしさよ、はたまたまだ生であるうす紅色の身の旨きことよ、と酒を飲むのさえ忘れるのだ。

 今年の駿河湾底曳網の禁漁はいつだっただろう?
 確か5月中旬のはずだ。
 なんとしてでも禁漁前に沼津に行き、今度は菊貞・山長菊池利雄さんに、市場でいちばん見事な「のどくろ」を競り落としてもらうのだ。

2009年4月13日
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ユメカサゴへ
http://www.zukan-bouz.com/kasago/fusakasago/yumekasago.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

sakuramasu0903.jpg
●クリックすると拡大

 サクラマスの入荷がまだまだ続いている。
 その優美な姿からか、なかなか値段が落ちない。
 連休前なので、これをマリネーしようと買って帰る。
 姫が自分で卸してみたいという稽古台でもある。

 実際に卸してみたら、思ったよりも見事。
 酢でしめようか、洋風にマリネーか?
 当人にきいたら、意外に和風がいいという。
 振り塩までやらせて、半日ほど待つ。
 これを少しだけ砂糖を加えた酢でしめる

 半日酢でしめて、酢を捨てる。
 切ってみると、中ほどは生の状態となっている。
 これがまことにうまい。

 最近思うことは雑誌、テレビなどで「若い人たちのために」といいながらフライや、フランス料理の技法を加えた、手の込みすぎた料理を見ることがある。
 我が家で実際に子供にたずねても、それほど洋に偏しているわけでもなく、子供子供で好みが分かれる。
 子供向けだから「洋」とか、フライだとか、いうのは無意味なんじゃないだろうか?
 ちなみに先日、同い年のオヤジと話していると、孫(なんと小学校高学年)は、彼のつまむ酒の肴が好きでこまっているという。
 特に孫が愛しているのが、東北地方の大手水産加工品メーカーのイカの塩辛というのも不思議だよな。
 塩焼き、煮つけ、なんでもこい、子供というのはあなどれぬものなのだ。

 ことほど左様に、大人の偏見ほどこわいものはない。
 まるで「子供の嗜好に合わせる」というのは現代版「ふるやのもり」のようだな。

 さて、サクラマスを酢でしめると、なんといったらいいのだろう。
 和洋折衷の味がする。
 面白いのは家族はつけ合わせの玉ねぎのスライスとレモンで食べている。
 太郎はやっぱりマヨネーズ。
 1キロほどのサクラマスの半身がきれいさっぱりなくなったのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サクラマスへ
http://www.zukan-bouz.com/sake/sakuramasu/sakuramasu.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

nukasannma0901325.jpg
●クリックすると拡大

 魚の糠漬けは加工品としても非常に重要なもの。
 江戸時代から記録に残るもので、主に日本海越前以北、北海道などで作られている。
 糠にはビタミン類、栄養素が豊富である上、独特な風味がある。
 魚の生臭みを取る働きもあるように思う。

 だだいいことずくめの糠漬けにも、大きな欠点があった。
 それは塩分濃度が高いことだ。
 塩っ辛い、昔ながらのものは、確かに独特の旨味があり、酒の肴としては上々だろう。
 ただ、高い塩分ではあまり量が食べられない、食べるのが恐くなる。
 そこへいくとこの「ぬかさんま」は塩分濃度が低い。
 低いのに適度に熟成して糠とサンマの合わさった旨味がたっぷり感じられる。

numasannma0903.jpg
●クリックすると拡大

 酒の肴にもいいし、しかもご飯にもいける。
 最近、「昔ながらの加工品」が単にいいとは思えなくなって、このような私自身に優しい水産加工品をありがたいと思うようになってきている。
 
岡田水産北海道 北海道赤平市共和町
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サンマへ
http://www.zukan-bouz.com/fish/datu/sanma.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

sawara0903.jpg
●クリックすると拡大

 富山県氷見からたっぷり入荷してきたのが、2キロほどのサワラ。
 ちょっと中途半端な大きさだけど、鮮度のよさから買い込んでみる。
 サワラは大きいほどうまい。
 3キロ以上でないと、旨味が薄い。

 それを補うのが料理法。
 例えば甘く旨味のある白みそで漬ける。
 幽庵地(しょうゆ、みりん、酒)に漬けるのも、旨味をつけ加える意味合いがある。
 今回のものは、尾に近い方を幽庵地に漬け込んで、残りを焼き霜造りにする。

 サワラは半身買い。
 頭に近い部分を腹と背に分けて、直火で皮に焼き目をつける。
 氷水におとして水分をとり、あとは平造りに。

 サワラの持ち味は、とことん上品であること。
 どこにも嫌みがない。その分、小振りのものには旨味が薄いともいえそうだ。
 焼き霜造りにして、ここでもう一工夫。
 つけ醤油を山口県柳井『佐川醤油店』の甘露しょうゆとする。
 甘み旨味のあるトロっとしたもので、ちゃんと醸造香が立つ。

 こうやって食らうサワラがうまい。
 皮目を焼くと、多少日向臭いような風味が出る。
 これが濃厚な醤油と合わさって、これがまたいいのだ。

 酒の肴とした残りを甘露醤油に漬け込んで、翌日茶漬けにしてみたら、これもよかった。
 一キロ1000円のサワラ半身、なかなかコストパフォーマンスが高い。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サワラへ
http://www.zukan-bouz.com/saba/sawara/sawara.html
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑(いちばぎょかいるいずかん)へ
http://www.zukan-bouz.com/


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
http://www.zukan-bouz.com/

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、2009年5月以降に書かれたブログ記事のうち食べる魚類学カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは食べる魚類学: 2009年4月です。

次のアーカイブは食べる魚類学: 2009年6月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。