食べる魚類学: 2007年1月アーカイブ

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 日常生活に置いてコンビニお握りに対する考え方は様々だろう。ボクなど忙しくて仕方なく食べているといった思いがあって、なんだかわびしい。あんまり美味しいとは思っていなかったのだ。
 でもサケ科のお握りをしっかり味わって食べるようになって、意外な旨さに、少々考え方に変化が生まれつつある。どうも「コンビニのお握りはうまい」と確信を持つようになってきつつあるのだ。そのとどめ的一個がこの「こだわりおむすび 紅鮭切身」である。

 ベニザケというのもは1990年代まではサケ界の大スターであった。サケ類のほとんどが日本、アメリカ、ロシアなどで消費されてきていたのだが、その3国で、もっとも高級なもっとも旨いものとされてきた。これが徐々に在り来たりな存在に成り下がってきたのは、北欧ノルウェーでのアトランティックサーモン、チリでのギンザケ、またトラウト(サーモントラウト)などの養殖サケの生産量が天然物を上回るようになってからだ。だから価格的には平凡なものとなっても市場に置いては多くの人に「高級」というイメージが確実に残っている。
 高級というイメージは身の紅色の色合いから来ている。このような付加価値をより大切にする関西では関東以上にベニザケの評価が高いという。それと、古い世代ではベニザケは「べにます」と呼ばれた時期があり、「鮭」とはサケだけを差す言葉であった名残がここに残る。

 お握りを食べていてもっとも不満に思うのは具(中身)の少なさだろう。間違ってひとかじり目に中身を食べてしまって、あとはご飯だけとなったときの情けなさと悔悟の念は名状しがたい。その点、「こだわりおむすび 紅鮭切身」ならそんな切ない思いにならないで済む。

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 お握りの山頂からベニザケの切り身が顔を出している。ここからかぶりついて、かなり底辺近くまで切り身がある。しかも幅の広い切り身で、ご飯と合わさっても旨味が塩飯に消されないで、ずんずん舌に響いてくる。なんだか幸せな味わいである。これなら食べていて北洋に心が広がっていきそう、なんだかロマンだな! なんて思うかも知れない。
 そして肝心な値段だがだいたいサケの平均的な値段が138円なのである。その質、味わいは様々だが、知り合いの女性に聞くと、「お握り2個とお茶で400円弱が目安」だという。とすると165円は高級な物だろう。でも30円ほどの上乗せでこれだけ上質のベニザケをたっぷり使っているのは凄いのではないか? やるな「わらべや日洋」。
 これは蛇足だがコンビニのお握りに、よくシールが貼ってある。今回のはミッキーマウスに1点とある。ディズニーの著作権は厳しいもので、なんかこのシール集めるともらえるんだろうか? でもお握りについているシールをわざわざ集めるなんて大変だろうな。画像を撮り始めて始めて知った事実であった。

わらべや日洋
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セブン-イレブン
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 コンビニのお握りがうまいとかまずいとか、あまり考えてもいなかったので、いざじっくりサケ科を材料としたものを連続して食べるようになって、そのうまいまずい、また完成度の大きな差に驚きを感じるようになった。そして鮭お握り三昧の日々にあって、いくつものうまいお握りに出合っている。これもそのひとつ。
 ノリを包装フィルムで隔離しないでご飯と直に巻いても海藻のもつ独特の風味が生きている。「とろサーモン」という、種名のわからぬサケ科の魚の身があってワサビ醤油と和えている。「とろサーモン」の旨味とワサビの辛みの、なんとうまいことか。これはコンビニ食を毎日のように強いられていると病みつきになる品かも。
 でも「とろサーモン」または「トロサーモン」とはなんだろうか? 包装紙の裏側には材料名が明記されていない。「原材料はなんなんだ」という不明確さからくるいらだちと、加工食品にしてしまえば、こんなに表示がいい加減でもいいという行政の怠慢に呆れかえる思いだ。

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 ボクなりに「とろサーモン」を推理してみよう。「とろ」=「脂がのっている」とするとサーモントラウト(トラウトサーモン)は外してもいい。サケもベニザケも違うし、ギンザケも外そう。そうするとキングサーモンかアトランティックサーモンということになる。また八王子綜合卸売センターでこのような食料品を扱う「福泉」で聞くと「腹身じゃないの」というがそうかも知れない。しかし曖昧すぎる。
 ampmと言うのは無添加だったり自然食とかに力を入れているんじゃなかったのかな、それなのに表示に「とろサーモン」とはおかしいのではないか? どうも加工すると表示は曖昧でもいいという不問率があるのがまざまざと見えてくる。でもねampmさんよ、できれば魚種、養殖・天然くらい表示してもいいだろう。いろいろ食べる側にもこだわりを持っている人もいるかもしれないよな。それともコンビニでお握りを買うようなヤツには情報はいい加減でもいいってことかい?
 しっかし、ボクにはこの「とろサーモン」という商品名がわからん。きっと誰にもわからんだろう? だから魚種名、天然・養殖を明記しろよ。

ampm
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ファーストフーズ
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 ここに「しゃけ」と言う言葉が登場してきた。これは「しゃけ」は関東での方言ではないかと思っていたが、「鮭」の呼び名自体がアイヌ語の「しゃけんべ」「さくんべ」からきているとなると本来の音を踏んでいるのかもしれない。でも「しゃけ」は古くより標準和名のサケを表す言葉であり、多くの辞書類にもそう書かれている。でも今回の「武蔵野」というセブン-イレブンのお弁当などを納入している会社の食品表示で見ると原料がギンザケなのである。すなわちギンザケも現代にあっては明らかに「鮭」ということになる。
 またおにぎりの食品表示には原産国と養殖か否かは明示されていない。これはどうも水産庁などのガイドラインにも含まれていないようだ。水産庁が義務づけているのは原材料名のみ。これは食べる側にとっては残念なことである。ボクの場合養殖即反対とは思っていないが、自然には優しくない存在であると思っている。例えばシャワーを浴びる、無駄な暖房を使う、レジ袋をもらってしまうなどと同じように「養殖物を食べるべきか避けるべきか」を消費者が判断できるようにした方がいい。ただしサケ科の魚ではなかなか養殖物を排除できない時代となっている。
 さて、コンビニのおにぎりがいたって味がいいのは世間一般に知られているところ。今では中身で勝負の時代となっているようだ。今回の中身は「銀鮭ほぐし身」。ボクとしてはこの「ほぐしみ」は嫌いなのだ。出来ればほぐさないで欲しい。でも原材料からするとそれじゃ高いんだろうな。また養殖物らしいギンザケに脂が感じられて、うまい。うまいのでもうひとつ食べたくなった。
2007年1月18日購入

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製造 武蔵野 埼玉県朝霞市
セブン-イレブン
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 面白いことに富山で有名だと思われる「マスの押し寿司」というものがコンビニでは定番なのである。どうして定番になったののだろうだれか教えて欲しい)。もともと富山市を流れる神通川の「マス」、サクラマスは有名で、この「ますの寿司」の原型は1717年(享保2年 大岡越前が江戸町奉行になった)に富山藩士吉村新八が藩主に献上するために作ったもの。『日本山海名産図会』1799(寛政11)年にも神通川のマスはある。これを富山市での鉄道開通とともに駅弁として売り出したのが明治の終わりで大正の始まりというややこしい1912年(受験の時に、この年のこと覚えておけよ、と言われた人おおいだろうね)のこと。
 名物となってデパートなどでも売られているので「富山に行ったら“鱒寿司”買わなければ」と思っている名物恐怖症の人も多いはずだ。この駅弁の「ますの寿司」も手軽に都内で買える。そしていつの間にか「ますの寿司」は総てのコンビニの定番と成り上がった(成り下がった? どっちだろう)ようなのだ。

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 そしてまず最初に買ってきたのがセブンイレブンのもの。ボクなんて学生の頃にはコンビニなんてなかった世代であり、やっと姿を見せたのがセブンイレブンだった。と言うことはセブンイレブンはコンビニ貝の老舗である。
 コンビニでよく見かけるのは丸い形のもの、でもセブンイレブンのは四角形であった、作っているのは富山県ではなく東京都武蔵村山で作られたもの。武蔵村山と言えば志村けんしか思い浮かばないかもしれないが、都区内への通勤圏にある中堅都市である。そこにある「わらべや日洋」が生産、セブンイレブンに卸しているようである。(この「わらべや日洋」面白そう。一度工場見学させてくれないかな?)
 さて、この押し寿司の原料は「トラウトサーモン(サーモントラウト)」でも原産国の表示がない。たぶん原産国表示は寿司に加工した時点で不必要になるのだろう。でも「サーモントラウト」は国産はまずなく、ノルウェーかチリからの輸入だろう。すなわちセブンイレブンでの「マス」は「サーモントラウト」ニジマスということになる。
 あとは甘酢に使う調味料や多少の添加物でなかなか身体には優しそう。
 この「押し寿司 ます」の特徴は表面に貼り付けた「サーモントラウト」そしてすし飯、いちばん下にもすし飯となり真ん中にコンブの佃煮が挟まっていること。この味わいはなかなか侮れぬもの。出来るだけ早く富山県産の「鱒の押し寿司」を食べてみたいと思っているが、高速のサービスエリアなんかで買い求めたものよりもセブンイレブンのほうが旨いかも知れない。また原料が「サーモントラウト」ならわざわざ富山で作る必要はないのである。

わらべや日洋
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セブン-イレブン
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参考文献/『ふるさとの味と技 いきいき富山特産品ガイド』富山県貿易物産振興会
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 まずはここでサケマスで問題となる魚種を限定しておく。まず間違いなく我が国でサケ、もしくはマスと呼ばれているのはOncorhynchus(サケ属)と大西洋に棲息するSalmo(タイセイヨウサケ属)、Salvelinus(イワナ属)のサケ科3属の魚たちである。これらが我が国ではサケ、もしくはマス、もしくはイワナと呼ばれている。英語ではsalmon(サーモン)とtrout(マス)のどちらかにあたる。
 このなかでイワナ属で「マス」と呼ばれているのがアメマスであり、陸封型をエゾイワナというが、サケマスの話から外しても問題ではないと思うのでこれを外してしまう。以下イワナを取り上げないので、ここで簡単に説明するとイワナ属で「trout(マス)」と呼ばれているのがレイクトラウト(北アメリカ、カナダ原産)、ブルックトラウト(カワマス 北米東岸)がいてともに我が国での認識は「マス」である。とすると本州に棲息するイワナも英語圏では「trout(マス)」になる。だから「イワナ」=「マス」の異名と考えても問題はないのかもしれない。

以下問題となるサケマスの仲間を列挙する。
太平洋に棲息するOncorhynchus(サケ属)
1 サケ
2 カラフトマス
3 サクラマス
4 ギンザケ
5 ベニザケ
6 マスノスケ(キングサーモン)
7 ニジマス
8 ニジマスから改良されたサーモントラウト(トラウトサーモン)
大西洋に棲息するSalmo(タイセイヨウサケ属)
9 タイセイヨウサケ(アトランティックサーモン)
10 ブラウントラウト

 さてサケとマスの使い分けはどのような法則でなされるものか。調べ始めると意外に厳密な言葉での区別はない。例えばsalmonは海性のサケ科の魚、troutは淡水性のサケ科に魚とわけるとあるが、これも陸封されれば「マス」であり、海に下れば「サケ」なのかという疑問が湧いてくる。
 それではその法則を摘要できそうなものを探すとベニザケにいきつく。ベニザケはたまに紛れて日本にまで回遊してくるものの本来は我が国よりも北に棲息するもの。でも陸封(一生淡水で暮らす)ものが阿寒湖、チミケップ湖(津別町)にいて、これをヒメマスという標準和名で呼んでいる。すなわちベニザケに関する限り、明らかに陸封、すなわち淡水型のものをマスと呼んで区別しているのだ。
 ところでそんなわかりやすい例とは違い、複雑なのがカラフトマス、サクラマスである。カラフトマスなどは川で生まれ下って一年間海で暮らす。そのやや小振りの時期にとったものを「あおます」と呼ぶが、大きくなってもカラフトマスであって、サケと同じような生活環なのに生涯「マス」なのである。またサクラマスは陸封型をビワマス、ヤマメ、アマゴと斑紋の違いなどで呼び分けられている。厳密に言えばこの陸封3型が「マス」であり、海に下ると“サクラサケ”とならなければいけないのにサクラマスと「マス」のままなのだ。ということで「マス」だからこうではなければ、「サケ」はこうだという定義がないのだ。
 この在来種、半在来種以外に「マス」という概念を明らかに我が国に植え付けた魚が登場する。それが1877年(明治10年)にアメリカからもたらされたニジマスである。ボクの子供の頃などカラフトマス、サクラマスなどのいない四国にあっては「マス」とはニジマスを差す言葉であった。これがサケのように海に下るなんて我が国の一般人には思いもよらず。淡水のサケ科で「マス」の代表格のようであったはずだ。このニジマスの海に下るタイプがスティールヘッドである。そう言えばこれは英語ではsalmon(サーモン)なのだろうか。現在ではニジマスは海で養殖されている。これがサーモントラウト(トラウトサーモン)であるので現代の食生活においてはもっとも身近なものとなっている。
 以上は太平洋のOncorhynchus(サケ属)の話である。それではこれを大西洋のサケ科の魚に話を移す。我が国で食用としているSalmo(タイセイヨウサケ属)で重要なのがタイセイヨウサケである。これはノルウェー、チリ、オーストラリアなどで大々的に養殖されて輸入ものが出回っている。市場では英語名の「アトランティックサーモン」とか「サーモン」と呼ばれている。これは世間一般では明らかに「サケ」なのではないか? でも「サケ」と呼ばれることはなくあくまで「サーモン」であるが、これは言葉としての「サケ」「サーモン」の分離だろうか。市場に見る限り「アトランティックサーモン」は明らかに「サーモン」とは認識されるが「サケ」ではない。

 さてここに始めるのは「サケの考現学」なのであるが、そんな面倒なことをやらかすわけではない。世に出回っているサケ科を材料とするお握りや、加工食品などが「サケ」と表示されているのか「マス」と表示されているのか、その標準和名は種名はなになのかを調べていくだけである。真面目なお勉強と言うよりもお気軽な読み物となるはずなので、適当に読み飛ばしてボクの混乱振りを笑っていただけるとありがたい。またくれぐれも銘記しておいて欲しいのは「表示はこうあらねばならない」という思いはまったくない。

市場魚貝類図鑑のサケマスへはここから
http://www.zukan-bouz.com/zkanmein/fish.html


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 サケとマスの違いはなにか? これに関しては一般的な辞書を数々当たってみたが思った以上に辞書制作者の混乱があり、意味不明の説明がたくさん見られた。
『言林』1986年では「サケ/サケ科サケのことで、語源はアイヌ語の“しゃけんべ”から」「マス/サケ科で“マス”とつくもの」
『大辞林』1995年では「サケ/サケ科サケのこと。別名“シロザケ”・サケ科の海水魚の総称」「マス/サケ科で“マス”とつくもの」
『広辞林』では「サケ/サケ科のサケ。しゃけ、あきあじ」「マス/サケ科の海水魚。茶色の斑紋がある」
『広辞苑』第二版1976年「サケ/アイヌ語の“さくいべ(夏の食物)”、“さっとか(乾魚)”からともいう。ニシン目の海魚。別名シャケ、アキアジ」「マス/ニシン目の海魚。北日本に多産するが陸封型は南部にも分布。サケに似、背は淡褐色で、側線下は銀白色、夏、川に遡って産卵。古称腹赤。ヤマメ(東京)、エノハ(九州)。地方によっては川に遡る海魚の大部分をマスという」
 以上を見てみるにサケは明らかに標準和名のサケだが、マスに関してはあまりにも曖昧である。比較的詳しい説明のある広辞苑の場合、マスの説明は明らかにサクラマスとカラフトマスの混乱が見られる。そこで少々詳しく、サケマスについて説明する。また大西洋や北太平洋からのサケ科の魚によって「サケ」「マス」の用途は広がっている。このあたりもここで詳しく述べる。


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くつあんこう鍋

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 昨日から多摩地区では久方ぶりに冷え込んでいる。ということでアンコウ、すなわち「くつあんこう」で鍋を仕立てる。
 アンコウは鮟鱇、キアンコウと比べて明らかに鍋にして落ちる。なぜならば肝の味わいがもう一歩足りないからだ。でも身も皮も、ヒレも、どこをとってもキアンコウに負けず劣らずにうまい。
 ということで、それじゃ鍋の話など書かないでもいいだろうと言うと、そうは問屋が卸さない。最近、旅番組を見ていると鮟鱇鍋が出てくる出てくる。でもその作り方というのが、ほとんど一様なのだ。確かに茨城県の「どぶ汁」はユニークで面白いのだが、あとは個性がまったくない。どこでも同じものだ。
 鮟鱇鍋というと神田須田町の「いせ源」だろう。ここでは注文すると野菜とキアンコウ、そして蒸した肝、そこには汁がはってある、が来る。この汁が醤油仕立てで、たぶん酒にみりんなどで調味してある。これをコンロに置き、火をつけて仲居さんは去っていくのだ。これはあっさりして食べやすいが、実を言うとすぐに野菜がくたくたになり、よほど仲の良い気心しれぬ間柄でもないかぎり、すぐに惨状をていする。
 この作り方が、ほとんどの地方で踏襲されているのだ。またときに女将さんが脇についているときもある。その場合なにをするのか、というとまず汁が沸いてきたらおもむろに野菜を入れる。そしてアンコウの生の切り身。すぐにフタをして「少しお待ち下さい」とでもいうのだろうか? これも「えいや!」と食わないと大変な状態になる。
 どうしてこのような作り方をするのか、不思議だ、理解できない。そこで我が家の作り方を。
 我が家ではアンコウの身や粗すべてを予め湯通しする。このときに内臓についた汚れもきれいに落とす。できれば白菜など野菜も湯通し。これは慌ただしいときには省く。まず汁だが、昆布だしに酒と塩で味をととのえたもの。これを沸騰したら湯通ししたアンコウを適宜入れる。そして煮えてきたら、そのつど各人好きな調味料で食べる。我が家はみなてんでんばらばらな調味料を使う。ボクは生醤油、柑橘酢、七味唐辛子。家人はもっぱらポン酢に大根おろし。子供たちは我が家のかけ醤油(カツオ節などで作ったもの)。
 そしてアンコウをある程度食べたら野菜、豆腐などを入れる。また醤油に肝を溶かして、この野菜を食べてもいい。そして野菜が減ってきたらアンコウ、野菜と各人の好みを聞きながら食べ進むのだ。だから最後の雑炊をつくるまで汁は美しく澄んでいる。
 我が家の方が鮟鱇鍋としては異端なのだろうか? テレビを見ながら毎回疑問に感じるのだ。

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撮影のために一時ガスを止めている。

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神田須田町(連雀町)「いせ源」へ
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「たく」というのと「煮る」という2つの言葉を関東ではしっかり区別する。「炊く」のはご飯や豆くらいだろう。でも関西では「たく」と「煮る」の区別がほとんどない。例えば「関東煮」は「かんとうだき」と読ませるし、また「野菜をたく」とは「煮る」ことなのだ。これは徳島でも同様で、「豆腐と菜っぱをたく」とは言うが「にる」とはいわない。
 ということで「あらだき」は「あら煮」のことである。ボクは個人的には「煮炊き」するは分けない方が好き。「たき」の方がうまそうなら、そのときの気分によって使い分けることにする。

 さて今回の主役は標準和名のアンコウ、「くつあんこう」である。ややこしい(この関西弁好きなのだ)ことに一般に鍋や「あん肝」なんかになる「鮟鱇」というのは標準和名のキアンコウのこと。
 だから関東の市場でアンコウを見つけるのはなかなか難しい。静岡県沼津魚市場には毎日のように揚がっているが、それでもキアンコウと比べると少なく、なかなか手に入れられない。どうもアンコウよりも浅いところにいて、しかもやや小振りであるようだ。
 キアンコウと比べると落ちるなと思うのは肝の大きさ、味わい。ほかはあまり遜色がない。でも肝心なところで差が付くので「くつあんこう」と一段も二段も下に置かれるんだろうな。
 この粗と肝、胃袋、腸をたく。しかもmoonさんの投稿に豆腐というのが出ていて、ボクには目新しい。それで今回は脇役を増やしネギに焼き豆腐を加えてたいてみた。

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 アンコウの粗は予め湯通し、豆腐を焼く。クセのあるものは皆無なので酒、味醂、砂糖はほんの少し、濃い口醤油、水適宜を煮立たせて、そこに材料を入れる。料理屋さんでは薄口醤油と濃い口醤油を加減して煮汁の色合いを調整するが、ボクは田舎臭いのが好きだ。ちなみに色合いと塩分濃度は反比例する。そして今回は田向さんのところのを真似て煮汁を多めにしてみた。

 出来上がりは、とても煮魚とは思えないもの。目新しいところで箸を伸ばしたら、驚いたことには豆腐がうまい。思ってもみなかった脇役のうまさに、汁をすするとこれもいい味わいなのだ。そしてアンコウも、ネギもよく煮汁がしみて味がくっきりと浮き上がってきている。アンコウの皮のうまいこと、そしてネギの甘味で、全体の味わいにバランスがとれている。どうもこのバランスをとる役割をネギが演じているようだ。生姜だと、明らかに動物質の旨味を引き立たせるが、風味の広がりや奥行きがなくなる。

 さて、煮魚に脇役を増やすというのは予想以上に面白く、また味がいい。今回、ゴボウがなかったのが残念で仕方ない。また今出盛りの三浦大根、ニンジンを入れてもよさそうだ。
 こうなると関東での煮魚のイメージではなく、「煮染め」、もしくは「汁」「鍋」とも重なり合う要素が出てくる。とすると、本来「煮魚」というものが汁、鍋とも決して独立した料理ではないのではないか? とも思えてくる。

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 田向商店の「さめの煮つけ」を食べていて「あ! そうだ。これ気づかなかった」と思うことがあった。それは煮魚にネギが入っているのだ。また煮汁にもネギの風味が移っている。だからただでさえまろやかな煮汁が、もっと穏やかなものとなっている。なかなかこの味わいはいいもので、晩酌にこのまったりした穏やかな煮魚が合う。
 ただし関東では鋭角的な味わいが好まれているように感じる。完全に醤油と砂糖とで甘辛く煮あげたものが多いのである。だから関東のオヤジ達がみなこのネギの甘味、風味を好むかどうかわからない。そしてこの青森のタイプは思い出してみると下町で出合っているのだ。
 それで何人かの居酒屋のオヤジに聞いてみると誰一人ネギを入れるというひとはいない。そしてついでだから田舎の幼なじみにも聞いてみた。こちらもネギは入れない。「しょうがに決まっとるだろう」と言い切るのだ。でも確か秋田県でも長ネギの入った煮魚を食べた記憶がある。そのときには煮魚にネギを使っても「いいじゃないか」と気にもとめないでいたのだ。
 そして下町のネギが入った煮魚の記憶はどこから来るのだろう。だいたい小岩に住んでいたこともあるので、下町での食事回数は非常に多い。
 しかし、どうでもよさそうで、改めて考えてみると、その土地にしかないものもあるだろう。それが東北では煮魚にネギを臭み消しで入れるという習慣にも当てはまるに違いない。また煮魚にネギを入れる地域となるとわけぎを使う西日本は無理だろうから、長ネギを使う東日本に限られそうだ。これも調べてみると面白そうだ。

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田向商店
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