食べる魚類学: 2008年1月アーカイブ

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 熊本県天草市志柿町で定置網を営まれている永野公介さんから、たっぷりのシマフグを頂いた。
 遠く届いた当日は、鍋でいただき、また焼ふぐにして堪能する。
 残ったシマフグはあれこれ悩んだ末に、干物にしたのである。
 永野さんが言われるには、天草志柿では「(シマフグのことを)“さばふぐ“といいますね。水っぽいので安いんです」とのこと。当地の漁師さんなどは鍋にしたり、煮つけにしたりはするものの刺身には向かないのだという。たしかに卸してみると、淡白ではあるが旨味に欠ける。それで干物にしてみようと思い立ったのだ。

 今回はシマフグを三枚に卸して、骨のない方は唐揚げやムニエルに、干物には骨のある方を使った。
 味つけは塩と味醂。
 これを二日間かけてやや強めに干し上げた。ちょうど2日目は初雪となり、シマフグの身が真っ白な多摩丘陵を前にして凍えているように思えた。

 このやや乾き加減のシマフグの干物が、深夜に帰り着いてのひと時の酒に、素晴らしい肴となった。

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 酒は島根県安来市の『月山 純米吟醸』である。この我が家とも縁のある安来の酒の美味であった事とも相まって、ささくれだった気分をシマフグの干物が和らげてくれたのであった。

 永野公介さん、ありがとうございました。

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 市場で、この時期通り過ぎようとして、通り過ぎることの出来ないほど魅力のある魚、それがアカガレイだ。この場合のアカガレイに「大きめの」という但し書きをつけ加えておく。

 さて先週のこと。八王子魚市場で北海道様似産のアカガレイを見つけた。それがなんとも見事なもので、量ってみると1キロ上ばかり。当然「高いだろうね」と聞いてみると、「1500円ですから普通でしょ」と言う。実際に支払を済ませて、持ったところがずしりと重い。

 さて五十路になってしまって、最近では服にも、持ち物総てに感心をなくしてしまい(もともと薄い)、そう言えばクルマにも執着はなく、住処には元来興味すらない。後は●●●と、このような見事な食材がドキドキするくらい好きだなー、と改めて考える。

 その見事なアカガレイを持ち帰り、撮影を済ませて、水洗いする。
 頭の方から、何等分にすべきか、指二本を当てて、なんどもなんども考えて大振りに切った頭を除いて5切れとする。腹にはぎっしりと真子が詰まっている。
 アカガレイを料理するときに、最大の急所はこの切り方にありと言っても過言ではない。
 ボクの場合、人差し指と、中指の二本分にする。これにはワケがあり、振り塩は切り口からする、次に裏表、そして焼くときも切り口から強火で焼き、またずーっと強火で裏表も焼く。すなわち四方から焼くので、角材状になるように心がけているのだ。へたに幅広く切ると、それこそ真子を焼くのではなく、蒸す、もしくは煮るようになってしまう。

 さてどうして頭の部分だけ、大きく切るのか、それはこの部分の真子は大きく広がっている上に、肝心要の肝が居座っているためだ。
 頭部を切るときには、いかに真子、肝を傷つけないようにするかが、これまたアカガレイを料理するときの急所なんだなー。

 切り身にした部分は塩焼き、頭部は煮つけにしないといけない。
 煮つけにすると、目の回り、頬などいちばんうまい筋肉があまさず食せる。
(注/この「しょくす」という口語体の使い方が気に掛かって仕方がない。使うとどうにも奥歯に何かが挟まったような嫌な思いになるのだ。「しょくす」に一家言あるかたはお教え願いたい)
 また肝を食らうと、それこそ愛のキューピッドにずどんと心臓を打ち抜かれたような衝撃を憶える。それほどにうまい。この感動は食べてしまったボクだけの秘密の小箱のようなもの。そして甘味のある真子。

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見よ! この美しい真子

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 5切れの塩焼きは、翌夕食で全部食べてしまう。食卓に出すと、一瞬にして消え去るほどの美味とは、これなんだなー。まごまごしているとヒレの香ばしさだけ、もじもじと食うことになる。我が、姫はずるがしこいことに真子をいっぱい集めて、ご飯にまぶしつけて食っているが、これもいい。
 晩酌を傾けながら「うますぎるものは肴とはなり難し」だと思う。(海老名の海老さん、素晴らしい炭をいただき、ありがとう、之介)

 アカガレイは塩焼き、煮つけがもっともその真味を表現できる料理法であると思っている。実は刺身もなかなかうまいのだけど、関東では「ずば抜けた鮮度のもの」が見つけられない。

 〆として一言つけ加える。
 本来庶民的であったアカガレイが、一切れ原価で300円(飲食店では尾の部分は使えないだろうから、5切れ340円。たぶん料理すると一人前1000円を超えることになる)もするという現実である。
 この値上がりは、底引きなどでとりすぎたことにもよるだろうけど、もっと根元的なこと、沿岸部、岸辺の破壊によることが大きいだろう。国内での自然破壊というのは、先ず間違いなく、必要だからするのではなく、一部の人間の利益のためだけにされているもの。アカガレイ一切れを食べても、もっともっと自然保護を訴えていかねばならぬのだ、と思う。

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 今週初めに買い求めたノロゲンゲは富山県産であるという。箱に書かれていた魚名は「どぎ」。
「どぎ」というのは富山県から鳥取県、ひょっとしたら島根県にいたる地域での多すぎるノロゲンゲの呼び名のひとつだ。他には「げぎょ」、「げんげ」、「げんぎょ」、「水魚」、「すがよ」なんて、挙げていったらきりがなくなる。
「げぎょ」、「げんげ」などは「下級な」と言う意味合い。「すがよ」は秋田県での“氷”を“すが”というのから来ているのだろう。透明な寒天質の部分を氷に見立てたもの。ところが「どぎ」に関して辞書などで調べても、まったく調べる手だてがない。こういった由来不明の言語を渋澤敬三などは一次的魚名と定義していたのではないだろうか?

 ノロゲンゲなどのスズキ目ゲンゲ亜目ゲンゲ科の特徴は、身体全体がぬるぬる柔らかいこと。身体はスズキ目であるのに一見かなり進化の低い魚のように思えるのは、この脆弱なつくりと細長い体形にある。またゲンゲの多くは深海魚であり、ノロゲンゲはこれまた深海を底曳く網でズワイガニなどとともにあがる。

 これを初めて見たのは、かなり昔のことで金沢市近江町市場だったと思う。暖冬で気温の上がった日に、市場の片隅に無造作に置かれていた。“初めて見た魚は、とにかく買って食べてみる”が信条なのだけど、触っただけでぬるぬるして、なんだか生臭そうな魚であると思って買わなかった。初めて買ったのも近江町市場であり、そこでどう呼ばれていたのか、メモを残していなかったのが痛恨のいたりだ。

 これを中一日かけて持ち帰ったものの、買った店で教わったとおりに作った汁はまことに生臭くて、以来恐れをなして、ノロゲンゲだけには近づかないようにしていた。
 その敬遠していたものの本当の味わいを知ったのは新潟県上越市片岡鮮魚店から送ってもらって、食べてからのこと。
 わかったことはノロゲンゲは鮮度が落ちやすく、また古くなったら使い物にならない、ということ。

 20年以上も前に教わったやり方は「醤油味のお吸い物くらいの汁の中に、ただ切っていれる」というもの。
 ここで肝心なのは切り身は「汁」に入れるということ。すなわち吸い物として出来上がったものにノロゲンゲを入れるのであり、水に切り身の旨味を放出しながら、すなわち「汁を作る段階」で切り身を入れるのではない、のだ。
 普通、お吸い物というのはかつお節と昆布でだしを仕立てる。この「だしをとる」必要はまったくない。
 私流(わたくしりゅう)の作り方は昆布をさしいれて、水を煮立てる。ここに酒、塩、薄口醤油で味つけする。このときの加減は「飲んでうまいな」という塩分濃度。そこに生のノロゲンゲの切り身を、肝とともに放り込むのだ。出てきたアクはよくすくい取る。
 生臭みが気になるなら生姜の絞り汁をたらす。もしくは七味唐辛子、コショウを用意する。ボクはコショウを使うのが好きだ。

 汁に放り込んだ、ノロゲンゲの切り身は一瞬にしてモヤモヤした、寒天質の衣をクルリとまとう。よくアクをとって澄んだ汁は意外なほど旨味がある。そして汁とともにすすりこむように食べる身は、モワっと頼りなく柔らかすぎるゼリー状で、なかに、これまた頼りない白身がくるまれている。ここで歯に当たるのは中骨だけだ。この身自体がうまいのか否かは今のところ、なんど食べても判然としない。

 冬の日の、寒い寒い駅からの道を帰り着いて。「どき」の汁をすすると、驚くほど身体が暖まる。まるで懐炉を胃の腑に忍ばせたような具合になる。
 この不思議な体験は食べたものにしかわからぬだろう。
 寒さ身にしみる候である。一度お試しのほどを。

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 市場で安いマサバを見つけたら、とにかくいろいろ料理をしてみる。なかでも絶対に外せないのが船場汁である。
 料理名にある「船場」とは大阪市内の地名。今ではビジネス街としてビルが林立して、東京でいうところの大手町のような雰囲気がある。それがその昔、大店の並ぶ町で、その中核にあったのが道修町。そこで番頭どんと丁稚どんの世界があったわけ。そんなつましい(けち)で始末に励む御店で食べられていたのが、それこそマサバを骨まで利用するという船場汁だ。
 謂われはせこいものだが、味わいは決して貧相ではない。それこそ味わい深さという意味合いでは「豪華絢爛」であるように思われる。ほんまにうまいものであるし、どこかしら滋味豊か、身体が癒される。

 作り方は簡単。サバの中骨を一塩して、ひと晩くらい寝かせて、適当に切り、軽く湯通しする。この水分を丁寧に拭き取る。
 これを水に浸して、差し昆布(昆布の切れ端を入れる)して火にかける。本来はこれだけで味わい深い出しがとれるのだけど、今回の中骨二匹分で足りないので、少しだけかつお節出しを加えた。
 あるていど煮えてきたら、アクを丁寧に取り、軽くゆでた大根を加える。
 味つけは酒と塩のみ。青味を加えてもいいけど、ボクなど大根とマサバだけで充分だと思っている。

 これは酒を飲んだ後にぜひとも頂きたいもののひとつ。なぜだか知らないが肝の臓あたりの重苦しさがとれてしまう。

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 昨日、今年初めてノロゲンゲを見た。初ノロゲンゲは富山県産(この日本海という荷の箱だめだな。むしろ産地を乱している)。とうぜん魚の名も「どぎ」。
 本種は日本海側でズワイガニ、つぶなどの漁で揚がるもので、その昔はまったくの雑魚だった。それがこのところ人気が出てきて、関東でも知る人ぞ知るといったものになっている。

 ノロゲンゲはスズキ目ゲンゲ亜目ゲンゲ科の魚で、この仲間ではシロゲンゲ、カンテンゲンゲも食用になり、流通している。
 ともに水っぽく、ヌルッとしている変な魚だが、食べてみるとうまい。
 今年は「げんげ」を食べてみてはいかがだろう? そろそろ「げんげ」のシーズン到来である。

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 マサバ料理の頂点に立つものは何か? これは簡単ですね。「さば塩」以外に考えられない。
 サバの塩焼きなんてどこでも食べられるだろう、と思っている人は、お魚を見る目がない。もしくは観察力に劣る。
 最近面白いものでファミリーレストラン(「ファミリーレストラン」と言ったら、娘に「それ何?」と聞かれた「ファミレス」が正しいらしい)、コンビニなどでも「サバ関連」の料理(商品)をしばしば見かける。でもそのサバの文様を見てもらいたい。そこにはくっきりと縞模様が出ている。
 昨日の昼下がり、コンビニ(am-pm)に「サケのお握り(ボクは関西語圏なので「おむすび」ではない)」を探していたら、一個も残っていない。仕方なくしめ鯖のお寿司というのがあって買ったら、ここにもくっきりと縞模様。この「サバ」というのがノルウェーなどから入されているタイセイヨウサバである。(このコンビニの材料の表示は単に塩サバだった。am-pmももっとこの辺を考えなければダメだぞ)
 実を言うと、近年では国産のマサバを使った料理(商品)はますます値上がりしていて、なかなかスーパーなどでも見つからない。

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マサバ料理一夜目。しめ鯖、サバのいり焼き、塩サバはビニール袋で密閉

 だから「サバ塩」は自家製するに限る。
 やり方は簡単至極、だれでも作れるもの。サバを三枚に卸して、中骨を外して、塩焼き加減で振り塩。このとき一緒に中骨にも塩をすて、後々船場汁にする。
 これをビニール袋に入れて密封、一夜おいてから焼くだけだ。

 朝ご飯用にサバ塩を焼く。我が家ではいたって普通の魚焼きに、もう二枚ほど焼き網(お餅を焼くもの)を重ねて強火で焼く。ときに焼き網を三枚重ねて火加減しながら、ほんの数分でサバ塩は焼き上がるのだ。
 脂ののったサバは自らの油で、その表面を唐揚げにするごとく揚げ、そして身の中ほどには旨味を含んだ水分を閉じこめる。

 これは焼き上げたら一気に、間髪入れずに食べるに限る。だから酒の肴というよりは、ご飯のおかずの方がサバ塩の偉大さをより感じられることになる。
 何しろマサバの旨味は膨大であって、焼くことで最大限に引き出される。
 微かな渋み、これが甘味と旨味をより引き出す媒体となり、繊維質の練り絹のような身の食感自体が心地よい。ましてや揚げた如く、香ばしい皮といったら、忠実に例えるべき言葉がない。
 ここで書いておかなければいけないことは、この季節、マサバの「脂ののり具合」はやや低下してきていることだ。だから値段も下がってきている。それでも「こんなにうまいのか」と驚愕させられるほどにマサバは偉大だ。

 朝ご飯に二枚のサバ塩、他にいろいろ料理が並んでいても、消え去るのは一瞬でしかない。ポテトサラダが寂しそうだし、奮発した千枚漬けも「そう言えばあったなー」なんて存在感が薄い。納豆君などは、それこそ「出さなければよかった」なんて、可愛そうじゃないか。ボクがサバ塩で困るのは一極集中型朝ご飯になることだけなのだ。

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 島根県の漁村などで作られている言うなれば漁師料理。実を言うと、これを初めて知ったのは関西テレビ(サンテレビだったかも。ボクが子供の頃の徳島県での8チャンネル)で見たことに始まる。小学校から異常に料理を作るのが好きだったので、このような「優れているな」という料理は忘れない。

 画面には漁師さん数人とタレントさんらしき人物がいる。鍋は普通のもので、水を張っており、酒と砂糖と醤油をドボドボと入れて、野菜とマサバ、カワハギなどを放り込み豪快に食べている。これがうまそうだった。

 島根には大人になってから何度か行ったのだが、なかなかこの「いり焼き」には出合えない。
 新鮮な魚を醤油味で煮るだけなので、どこにでもありそうだけど、これは飲食店で食べるようなものではないらしい。
 さて、漁師さんなどの作り方は、やや醤油辛い汁で魚と野菜を煮るだけというもの。東京に住んでいて、このやり方で作っても、魚の鮮度のせいかもわからないけど、ぜんぜんうまくない。
 そんなときに思い出すのが大阪などでの「鱧が出ると泉州玉ねぎが出る」という“鱧すき”という料理。要するに、すき焼きの下地でハモと玉ねぎをたき(ボクの言語は少なからず関西系)ながら食べるのだ。
 ようするに「家庭で作るすき焼きを魚に置き換えた」だけの料理。このハモをマサバやサワラなどの背の青い魚にすると、これが非常にうまいのである。

 まず汁を作る。これは水6、酒1、味醂1、醤油1、砂糖少々。これを醤油の塩分濃度や、食べるときに子供がいるかどうかなどでどんどん変化させていく。
 マサバは三枚に卸して血合い骨を抜き、皮付きのままそぎ切りにする。コツは出来るだけ脂があって鮮度のいいマサバを選ぶことだ。玉ねぎは輪切りでも、なんでもいい。好きなように切る。酒の肴に一人鍋とするなら、あまり大きく切らない方がいい。
 いちばん単純な材料はマサバと玉ねぎだが、ここに白菜などの野菜類、キノコ、豆腐などなにを加えてもいい。玉ねぎだけは外せないと考えて欲しい。

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 鍋に汁を張り、まずは玉ねぎを入れて、それにマサバを乗せるようにする。後は箸でつつきながら自分好みの煮え加減で食べるだけ。
 マサバの身に新しい旨さを発見できるはずだ。
 ここで肝心なのは玉ねぎはあまり早く食べないことだ。マサバを食べた後の、この甘辛い、魚の旨味を吸った玉ねぎが、どえりゃーうめーのだから。我が家の太郎は、これで三杯飯が食えると豪語しながら、四杯飯を食う。

 さて、本場島根の「いり焼き」とはどんなものだろう。島根の旅の日程も決まり、楽しみだなー。


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 八王子総合卸売センター『総市』は普段は卸しに徹しており、なかなか一般客が寄りつけない雰囲気を持っている。それが土曜日にはガラリと様相を変える。
 それこそ店一杯に広げられた魚を、どんどん安くバーゲンするのだ。なにしろもともと大口相手の店であるから価格は信じられないほど安い。またそんなに大衆魚ばかりではなく、ときに高級魚というものが混ざっているからうれしいね。

 この日も特売の目玉は宮城県からのマサバ、2本で380円というもの。これがなかなか侮れないものなのだが、そのとなりに断然上を行くものが置かれている。同じく宮城県の金華鯖の8本入りである。
「ミノルちゃん(総市鮮魚部部長)、こっちは高いだろう」
 念を押すと、
「キロ(あたり)500円だぞ」
 5キロばんで8本だから一本500グラム強だろう。実際に支払ったのが600円と少し。1本なんと300円ほどにしかならない。ちなみに冬になると途端にマサバの脂ののりが落ちてくる。だから見た目はちょっとの差でも開いてみると大きいことがある。

 これを『総市』で三枚に卸して持ち帰る。
 自宅のまな板にのせまして、いろいろ考えて挙げ句に、まずはしめ鯖、塩鯖、船場汁、鯖のいり焼きをつくる。

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一番上のしめ鯖は魚屋で三枚に卸すとともに作り始め、帰り着くや酢でしめてしまう。
中骨と、真ん中に一本の包丁目を入れたのは振り塩。ひとばん寝かせて、船場汁と塩鯖
一番下は皮付きでそぎ切りにして、島根県の郷土料理「サバのいり焼き」にする

 これだけ作ると、それこそ3日ほどはマサバ料理が楽しめる。
 さて、当日は『総市』で振り塩して、持ち帰るや酢につけてしめ鯖だけは夕方までには完成している。それでしめ鯖の話は割愛する。

 このマサバ2本がいったいどんな味覚となって、食卓を賑わすのか、これからマサバ話三題の始まりなのだ。

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 ニベ科の魚達はボクにとって最近の注目株である。
 例えば関東で「石持」と呼ばれているシログチだが、これがどうにも苦手な魚だった。ところが一塩して軽く干し、ゴマ油で焼くという韓国風の食べ方をし始めたら、俄然ボクの中での存在が大きくなってきた。また駿河湾などでよく見られるクログチも外見の地味さ加減からは想像できない、美しい白身、うまさなのだ。

 そんなニベ科でももっとも古くから「うまいな」と感じていたのがオオニベである。ニベ科で養殖が行われているのはフウセイと本種のみ。ニベの仲間というと小魚と思っている関東の人間には“養殖する”というのがぴんとこないだろう。ところがオオニベは2メートル近くになる巨大魚なのだ。

 オオニベは天然養殖ともにあまり入荷の多いモノではない。そのせいだろうか、八王子の寿司屋、魚屋などにも「これなあに?」とよく質問が寄せられる。「前に教えたでしょう」と言ってもどうやら外見の地味さ加減からか、なかなか憶えられない魚の一つである模様。
 当然、目立たないんだから値段は安い。今回のは3キロほどで1本が2500円ほどにしかならない。このお安い魚を下ろして食べてみると、その真価を思い知ることになる。しかも我が家は子だくさんなので、こんなに助かる魚もないであろう。

 よいこらしょっ、と持ち帰り、三枚に卸す。実際に下ろしてみると思った以上に鮮度がいい。当日はカルパッチョと刺身(この血合いが美しい)で楽しんで、あとは切り身にして塩コショウして冷凍保存する。これを時にはムニエルにフライにと使っていく。

 オオニベで真っ先に作るのがムニエルだ。
 塩コショウはしてあるので、小麦粉をつけて、たっぷりの澄ましバターで中火で焼き上げる。こんな簡単な料理はない、と思うのだけど毎回出来にバラツキがでる。表面はかっりっと中は柔らかく、オオニベの白身で繊維質の身がフォワっとほぐれて、ジュがほんの少し浮き上がってくるのがベスト。でも絶対にこうはならないのだ。ひょっとしたらムニエルというのはフレンチの中でももっとも難易度の高い料理かもしれないと思う。

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 面白いのは主食にパンを用意していても、「ご飯がいい」という子供がいることだ。皿にたまったほんの少量のバターに醤油を垂らして、ご飯にのせてワッシわっしとかき込んでいる。ボクが酒の肴とするときにも少量の醤油をたらすのだが、どうやらバターと醤油は相性がいいようなのだ。

 さて、もう一つの定番がフライである。フライの定義は門外漢からは難しい。この辺は今年の課題となる。
 我が家でオオニベを使うとき、しかもちょっとしゃれた感じにしたいときにはアングレーズ(卵、牛乳、油を混ぜた)を作り、ここに少量の粉チーズを入れる。今回のはヤギのチーズ(jasminさんありがとう)を粉にした。あとはパン粉をつけて、やや大目にフライパンに入れたオリーブオイルの中で焼き上げるように揚げる。
 揚がったら自家製の乾燥セロリとヤギのチーズを上から薄くスライスしながらのせた。

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 残念ながら、これは酒の肴にはならず、むしろ朝食を希にパンとするときにつくるもの。
 タルタルソースをかけてもいいが、できればそのままで、もしくはたんにレモンくらいをふり食べて欲しい。

 お父さんもたまには「家族に媚びた料理を作らなければ、孤立しかねない」という危惧を感じて、作る料理なのであった。

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 冬になると食べたいなと思う魚のひとつが「八角」だ。
 さて、「八角」と漢字で書くわけは、これが「越前がに」と同様に“ある生き物のオスのみをさす言葉”であるためだ。その名をトクビレというのだが、こちらの方はむしろ知る人ぞすくない。
 大まかに説明するとカサゴの仲間となり、そのなかのトクビレ科の魚だ。トクビレ科の魚で食用とされるものは少なく、ボクが見てきた限りでは本種とサブロウくらいのものだ。また全国的に流通するものはトクビレだけだろう。

 トクビレは年間をとおして少ないながら入荷してくる。しかし、本来の旬は秋から春までかも知れない。晩秋、メスオス混ざったものが入荷してくる。小振りで、脂が少なく、メスは卵を抱えている。これがトクビレの走りの時期だ。そして年末には「八角」、すなわちトクビレのオスの入荷が始まり、春の終わりにはまとまって入荷することがある。しかしこの時期すでに旬は過ぎてしまっているように感じる。
 産地はほとんどが北海道。発泡に互い違いに並んだ細長い黒い棒は、一見異様な光景だ。これがオスで大きければキロ当たり2000円、3000円する。頭も尾の方も食べるには煩わしく、魚としては歩留まりが悪い。それでこの値段と言うことは、実質的には1.5倍して考えないといけないだろう。

 さて、今年の「八角始め」は師走で、それ以来八王子では大振りのものを見ていない。「八角」はできるだけ大きい方がうまいのだが、なかなか新年明けて見事な「八角」に出合えない。

 その師走の「八角」は素晴らしいものであった。
 刺身にして室温で溶け出すのではないかと言うほどに脂で白濁しており、その脂が甘く、まったりしている。その脂の甘味の後に来るのはしっかりしたうまみである。また半身は単に塩焼きにしてみたのだが、こちらの方も中骨を外したその下にあるのは液化した脂とコラーゲン、そしてねっとりと繊維を感じる白身である。
 この大量に身に混在する脂は意外なことに上品で後味がいい。食べた後にまさに口福感を感じさせるもの。来週、築地に行く予定があるのだが、なんとか1本買ってこよう。

 寒い時期になってくると、不思議なことにカツオのような酸味のある味わいよりも、この甘味に惹かれる。例えば、「きんき(キチジ)」、アカムツなどもそうだろう。
 最近では寒い時期には自分の欲求に忠実に、このまったりした甘味を食べるように決めてしまっている。どうやらその方が体には優しいようでもある。

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 築地場内には、“ここにしかない”という専門店がある。それが天ぷら種を専門に扱う仲卸だ。
 シロギス、マハゼ、ウロハゼ、ギンポ、「めごち」各種、マアナゴに小柱(バカガイの貝柱)、クルマエビにクマエビにシバエビ、その他エビ多種。年間を通じてみるとその多彩さが光っている。そんな築地場内天ぷら種屋でも絶対に見つけられないもの、それがベニテグリである。

 天ぷら種で「めごち」というのは、決して一種類の魚をさすわけではない。スズキ目ネズッポ亜目ネズッポ科に属する魚の総称である。そして江戸前の「めごち」というと、前海である東京湾のせいぜい10メートル〜20メートルの浅い海であがっていた小魚のひとつだ(今では東京湾であがる「めごち」も少なくなっている)。
 対するに今回の主役ベニテグリが棲むのは深海である。深い海底に棲むネズッポ科というと、ベニテグリとヨメゴチの2種。しかもある程度まとまって上がるのはベニテグリだけという変わり種でもある。
 国内でも指折りの深海底引き網の基地、戸田の船に乗り込む。ソコダラやハシキンメに混ざって150〜200メートルの深海から上がってくるベニテグリの美しさはまるで宝石のように見える。
 残念ながら、これが魚貝類の中でも価値あるものだと知る人は少なく、沼津魚市場の競り人でも狙う人は少ない。だから狙う人がかち合わない限り値段もそれほど高くないわけで、きっと狙い通りに競り落としたらさぞやうれしいはずである。
 今回のものは沼津魚市場の競り人、『菊貞・山丁』菊地利雄さんから送って頂いたもの。菊地さんもベニテグリの味を知る少数派である。

 新しいものなら刺身にしてもいい。また昆布締めもうまいのだ。でもやはり、ベニテグリも「めごち」であることには違いがない。やはり天ぷらにするのが一番うまい。
 からっと揚げたベニテグリの天ぷらはまことに美しい。江戸前の「めごち」が黒く灰色であるのに対して華やかにさえ感じる。また身の味わいはホクホクと甘味があって、しかも上品である。面白いのは赤い皮目からアマダイなどと同じような香りがすることだ。この香りがベニテグリの味の価値をより高めている。

 美しくて、味が上品で、というと「めごち」でも最上級ではないか、そう思えてくる。でもこれがちょっと違うのである。ネズミゴチなど「めごち」が、なぜ天ぷら種として優秀なのか? それは油で揚げたときに独特の風味があるためだ。ベニテグリの味わいにそれほど強い個性はない。
 とすれば、とれる量の少なさもあって、天ぷら種でも“かわり種”であり、やはり定番とはならないだろう。もしもボクが天ぷら屋の職人であったとする。ベニテグリは、毎日欲しい種ではなく、ときどき仕入れるほどのものだと感じる。例えば週に一度。この“かわり種”のひとつとしてベニテグリは大きな価値を持つ。客として天ぷら屋のカウンターに座ったとき、いつもの種に赤い「めごち」が来たらうれしいはずだ。
「貝柱とまき(クルマエビ)、めごちにきす(シロギス)、穴子、墨いか(コウイカ)」、あとは野菜があればいい、そんな天ぷら屋は面白みがない。天ぷらという料理はいかようにも“遊び”が取り入れられる。
 ベニテグリを知る仲買は今のところほとんどいないだろう。産地の沼津、愛知県三河、三重県尾鷲でも、築地(中央)まで送って意味があるものか、わかっていないのではないかと思われる。こんな産地でも中央でも知名度の低い魚を、狙い目だと思える人はいないのだろうかねー?

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 昨年来なんども読み返しているのが「馬琴一家の江戸暮らし」(高牧實 中公新書)。そこに「鯔開き」というのが出てくる。
 嘉永元年(1848年 ペリー来航の数年前)のこと「風来猫(迷い猫)が飛び込んできた。妊娠していて子猫を4匹生み、知り合いにそれぞれ譲り渡す」。その仔猫と一緒に添えて送られたのが、かつお節、鯔開きなどだ。
 江戸時代、ボラは高級魚で祝祭などに使われていた。これが昭和初期まで続いていたのは「沖の百万町歩で養殖が行われていた」ことでもわかる。参考/『青べか物語』(山本周五郎)他
 当然、冷蔵法などない江戸時代だから、とったら加工する。その加工法のひとつが開き干しであったわけだ。

 ボラは刺身にしても、煮ても焼いてもうまい。その上、廉価だ。唯一問題となってくるのが海底の泥を食って有機質を漉しとって食べているので、環境によっては身に臭みを持つこと。最近では内湾の表面的な汚れが解消されつつあるのか、このような臭いボラは少なくなっている。

 さて年末に見つけたのが銚子産のボラ。値段はキロあたり500円と格安だ。買い求めたのは八王子総合卸売センター『総市』であって、勝手知ったる道具類を借りて、開く。
 開いたら、振り塩をして元通りに身をとじてビニール袋にいれて密封する。

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ビニールをグルグルと巻いて、ガムテープでとめる

 このまま寝かすこと一日、天日にて二日干す。
 12月の寒い風を受けて、よーく干し上がったものを、そのまま冷蔵庫で2日ほど密閉して保存。
 その後、もう一度半日干し、冷凍する。

 冷凍庫からとりだし、これを正月の肴とする。家族は実家に行っており、まことに静かな元日である。

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 鯔開きを飛騨焜炉に乗せると、すぐにジュウジュウと脂かしたたり落ちる。これをコンロ乗せたまま、少しずつ食らう。
 熟成が利いているのか、微かな渋みがあり、そこにアミノ酸からくる深い旨味が舌を押し下げる。

 合わせますのは島根県の銘酒「王禄 本醸造」の熱燗。このような旨味成分の多い干物には、燗あがりする酒でなければならぬのだ。

ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、ボラへ
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