食べる魚類学: 2007年8月アーカイブ

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 関東だけで突出した値をつける魚がいくつかある。前々から書いてきているが、「墨いか(コウイカ)」の新子、「こはだ(コノシロ)」、「こはだ」の新子、そして「めごち」「銀宝(ギンポ)」。「こはだ」「墨いか」は江戸前寿司に欠くことに出来ないもの。「墨いか」「めごち」「銀宝」は天ぷらに欠かせぬものだ。

 今回のお題目は「めごちとは何か?」ということ。よく食材などの本を見ていると「ネズミゴチのこと」とか「ネズッポの仲間」とかあるがこれではつかみ所がない。市場に脚を運ぶ毎に「めごち」を見つけると必ず買い求めてくる。
 ここで「めごち」というのは何か? と手短に説明すると、スズキ目ネズッポ科ネズッポ属の総てと、少ないがヨメゴチ属ヨメゴチのこと。このネズッポ科の魚は同定検索が難しく、見た目で判断できないこともある。それで油断しないよう買ってきて必ず検索するようにしているのだ。

 2007年8月30日、八王子魚市場内『海老辰』にあったのがトビヌメリであった。産地は千葉県内房の竹岡。この竹岡は今や江戸前の魚の一大供給地となっている。

 さて、「めごち」にも長い年月に構築されたヒエラルキーが存在する。頂点に君臨するのがネズミゴチ、その脇に居並ぶのがヌメリゴチ、トビヌメリ。まあ横綱、大関はこのあたり。そこに関脇がセトヌメリ、前頭がイトヒキヌメリ。十両と行ったり来たりがハタタテヌメリと言うところだ。面白いのが、ここにヤリヌメリという存在がある。こいつ「めごち」界に入られぬ乱暴者ながら九州産は関脇並だから不思議だ。これはまたの機会に書く。当然値段はこの番付通りだと思って間違いない。

 閑話休題。
 一見してトビヌメリと判明したのは尻ビレの斜めに走る黒い筋からだ。「めごち」のなかでもネズミゴチとトビヌメリはわかりやすい。
 大関クラスだから根は張る。2000円を超えるのもざらである。しかも竹岡産は「めごち」の中でもブランドもの。怖々と値を聞いてみると、驚いたことにキロあたり1500円と破格。では、と触ってみて気がついた。「兄貴」なのである。(「兄貴」とは昨日仕入れたもの。「はるみちゃん」もしくは「あんこつばき」という隠語もあって、これはかなり前に仕入れた。もしくは「3日前に仕入れた」ということ)
「兄貴」でも鮮度的には良好とみた。迷わず購入。

 これを天ぷらにして昼飯のおかずとする。合わせたのは近所の旗野農園でいただいてきた青じその葉、はたまた頂き物のミョウガ。
 この「めごちの天ぷら」が絶品である。トビヌメリの産卵期は夏であり、旬も夏。皮目の香ばしさが際だち、白身のなかにもコクがある。これなら10本でも、20本でもあるだけくっちまうといううまさだ。
 この昼飯代がトビヌメリ9匹で500円ほど。まあ、比べるのも変だが、これを天ぷら屋で食べたらいくらになるかというと、千円以上は確実にする。普通は5,6匹で1500円ほどか。
 かなり低級な庶民生活をよぎなくされているお父さんには、天ぷらを自分で揚げるくらいお茶の子さいさいというやつだ。

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 八王子魚市場内『源七』の前でコイツを見つけて「あったー!」と叫びたい気持ちになる。それは黄金色のマアジ。形はそれほど大きくないが、「美しい姿」の内側には「すこぶるうまーい」がつまっている。これは淡路島周辺でとれるアジ。大阪湾、明石海峡辺りでは、なぜかマアジが金色に光るのだ。
 たぶん優れた寿司職人で「淡路のマアジ」を知らぬ人もおるまい、というほどに生で食べて天下一品である。
 しかも彼の「関あじ」がキロ数千円もするときに、こちらは高くても2000円どまり、まさに「遠くの藤原紀香よりも隣のみよちゃん。添い遂げてみたら灯台もと暗し」を思わせるものなのだ。ボクはこの可愛らしいマアジを二本買ってくる。

 まさに死にものぐるいの一週間で夕食を自宅でとるのは不可能。昼飯のおかずに致すのだ。
 帰宅したら、八王子綜合卸売センター『日本堂』で買った厳選された新潟米を研ぎ置く。昼時に、釜に火をつけて吹くまで3分、そこからチョロチョロにして七分、蒸らして待つこと20分ほど。この二分の一時間の長いこと。まるで地球を七回半まわったような気がするから不思議だ。

 よそおったご飯に生醤油に浸したアジの身をのっける。それこそ茶碗のご飯を覆い隠すほどに刺身をのせて、スダチを数滴落とす。後は一気にかき込む。そんなに一気呵成にご飯もろとも食っては味がわかるわけがない、なんて思う人よ、君は物事の本質がわかっていない。
 実は刺身の良し悪しは、飯と合わせてこそわかるのだ。炊きたてご飯の濃厚な風味、甘味、そして質量。そんな魅力的な夢見心地のなかに平凡な刺身がきたらどうなるか? 旨味を発揮できぬまま、存在理由を表せないまま消え去るのみ。対するに淡路島のマアジはどうだろう、この強敵の中で互角以上の存在感がある。ご飯の甘味とあいまって、旨さが相乗効果を生んで口の中がパラダイスと化す。

 どうしてこんな小振りのマアジにこれほどの味の実力があるのか、それこそ瀬戸内海の神さんにでも聞くほかない。
 ぼうずコンニャクの勝手な思い込みかも知れないが、淡路島のマアジ、見た目の黄金色ほどに千金の値ありと思っている。

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トビウオの羽根は前方2本が先で二股に分かれない。3本目からはキレイに2つに分かれる

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和歌山県串本市出口水産から

 トビウオの同定は難しい。特にハマトビウオとツクシトビウオに苦労している。そこへ行くと標準和名のトビウオは簡単至極。ぱっちりした大きな目、大きな胸びれを開いて見ると、前から2本の軟条(軟らかな筋)が一本で先が二股に分かれない。3本目からは分かれている。
 トビウオ科の魚は毎日のように入荷してきていて、種の季節の変化を調べていこうと思っていて、来る日も来る日もハマトビウオもしくはツクシトビウオというときに、突然のようにトビウオが大量に入荷してきた。
 今回のトビウオは和歌山県串本市出口水産からの荷。さて、トビウオの入荷はいつまで続くのか?

 撮影のために2本ほど持ち帰り、定番のたたき風にしたり、唐揚げにしたり。身自体はあっさりとあまり旨味があるわけじゃないので最近流行の「魚醤油」を使ってみたり、スダチや柚を粗塩と回しかけたり、トビウオを味わうには一工夫する必要がある。

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これは、たたき風。香辛野菜とスダチ、魚醤油と薄口醤油を最後に回しかける

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相模川のアユ

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 八王子市大和田のそば屋「まつ浅」さんは市内きっての釣りの名手。海に川にと年中魚を追いかけている。その浅やんがくれたのが相模川のアユ。やや小振りではあるが、いちばん食べてうまいサイズ。魚焼きに煉瓦をのせて頭を下に向けてこんがり焼く。焼いたそばから、食べると、まことに美味。
 太郎とふたりで一気食い。でも「あれれ」と思ったのがワタの旨味と苦み。あんまりうまい苔を食ってはいないように思えてならない。どうやら相模川の苔のつき具合が悪いように思える。
 さて、今年4回目の天然アユであったが相模川、吉野川、産地不明、霞ヶ浦と食べ比べて、残念ではあるが「感激はうすかった」としか言いようがない。
 今年、うまいアユに出合えるのだろうか? 浅やん、次は狩野川かな?
●器/武内立爾作

まつ浅そば店 東京都八王子市大和田町6丁目12-28 電話042-642-1720
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“柿の種“とは、相模湾でクロマグロのチッコイやつを言う。夏から秋にかけて相模湾にはクロマグロ、キハダマグロの幼魚、稚魚が入ってくる。これを乗合船で釣るのだけど、ときどき掌よりも少々大きいくらいのとか、せいぜい30センチほどのが混ざる。できるだけ素早く逃がしてやるのだが、手間取っていると直ぐに船上で成仏する。仕方なく持って帰っても「なんとか刺身にはなる」ものの、そんなにうまいもんじゃない。

 相模湾で「カッタクリ(疑似餌を使った手釣り)」をやらなくなって久しく、“柿の種“とも縁が薄くなった。それを八王子総合卸売協同組合『やまぎし』で見つけて、懐かしいなと買ってみた。どうやら相模湾の定置網に入ったもので、川崎北部に入荷したものらしい。

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 懐かしいけど、改めて食べてみて、「やっぱりそんなにうまいもんじゃない」と思った。例えば、この“柿の種“の刺身、醤油をつけると、そのアミノ酸の旨味に負けてしまう。だから粗塩をかけて、スダチ、柚などを回しかける。これはこれで夏らしくさっぱりした味わいで悪くはないが、うまいもんでもない。

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 さて、“柿の種“が成長して1キロを超えると「めじ(まぐろ)」と呼ばれる。クロマグロに旨味が出るのはこのサイズから。できれば7、8キロになってから食べるとしたい。
 残暑厳しきときいたずらに定置にとらわれた“柿の種“の冥福を祈りたい。

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 徳島県徳島市沖州市場で見つけたのがタチウオを短いリボン状に切り、塩で和えたもの。これが発泡トレイに入れられてずらりと並んでいる。
 一体これは何なんだろう? 仲買の方に聞いてみると、
「酢のもん(酢の物)にするんじゃ」
 と言う応えが返ってきた。
 これを小売店などで買い、各家庭で甘酢などに漬け込むようだ。

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 タチウオの旬は夏ではないかと思っている。自信なさげな表現となってしまうのが、産卵期の長さ故である。タチウオは海水温が高いと産卵が早まり、低いと遅くなる。春から秋まで、棲息する海域の水温によって産卵期がバラバラ。となると旬も以外に「夏」という単純な考えは慎むべきであるようだ。

 ちなみに土曜日の混乱状態で産地不明であったタチウオ。卸してみると抱卵していた。しかも三枚に卸しているとべったりと脂がつくほど。まさに旬のタチウオであったのだ。

 このタチウオを前身と後身に分ける。前身の背の一部分を刺身にする。これがまことにいい味わいである。何と言っても脂に甘味がある。
 後身は三枚に卸して一塩、これを甘酢に漬け込む。時期のミョウガ、生姜のせん切りを加えて、少々見た目は野暮ったいけど、まことに酒の肴にピッタリの一品。ちなみに甘酢に一晩漬け込んだ方が味がしみてうまかった。

 また前身の大方はタチウオ料理の王道、ムニエルに、真ん中の骨の部分は塩をして障子焼きにする。

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 この三品で梅錦を不覚にも飲み過ぎてしまった。

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 南さつま市のわかしおさんに九州が生息域の南限となっている標準和名のメバルがとれるのか、とれないのか? ケータイで聞いてみた。なぜかと言うと、オオメハタが鹿児島から「めばる」と書かれて入荷してきたのだ。

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 メバルはほとんどの地域で「めばる」と呼ばれている。例えば瀬戸内海で「めばる」はカサゴもしくはメバル。相模湾、東京湾でも「めばる」。だからメバルがあがる地域では他の魚が単に「めばる」と呼ばれる可能性は低いことになる。また沖合にいるウスメバルも東京では単に「めばる」と言う。でもこの魚、太平洋側では駿河湾が北限、また日本海にはいるが、東シナ海にはいない。

 と言うことで鹿児島で「めばる」というのはたぶんオオメハタ、もしくはそれに紛らわしいオオメハタ属のワキヤハタ、ナガオオメの3種類ではないかと思っている。

 オオメハタは相模湾では「白むつ」、駿河湾では「でんでん」と呼ばれ、知る人ぞ知るうまい魚なのである。刺身にも出来るがボクが好んで作るのが天ぷらである。
 小振りのを選んで尾のところだけくっつけたまま二枚に開き、高温の油でカラリと揚げる。
 天ぷらを食べるなら「揚げたて」に限る。これがなんとも「改めてうまい」。

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 静岡県沼津では「でんでんの天ぷら」は定番的なものとなっている。底引きであがるオオメハタ、ワキヤハタ、ナガオオメの小振りを選んで天ぷら盛り合わせにつける。これを観光客が「うまいね。キスじゃないしなんだろうね」と思わせるところが沼津の料理店の思うつぼだ。
 たぶん沼津だけではなくオオメハタ属のとれる土地では、きっと天ぷらを供しているに違いない。相模湾、三河湾、熊野灘、高知県、宮崎県延岡、鹿児島県鹿児島市、各地をオオメハタの天ぷらを探して旅したいものだ。

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霞ヶ浦のアユ

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 先週、船橋中央市場に行った折り、仲買で天然アユをみかけた。これが気に掛かって仕方がなかったのだが、今週になって八王子魚市場内『源七』が毎日同じアユを持ってきている。なんども書いていることだが『源七』の本拠地は船橋だ。
 仕入れの、あんちゃんに聞くと「霞ヶ浦だよ」という。これで合点がいった。
 今5月、霞ヶ浦の稲敷市小野川河口霞ヶ浦に定置網を見に行った。『川岸屋』の諸岡清志さんが定置網に稚アユを見つけて
「アユがとれるようになったのもそんなに昔じゃないよ。最初はわからなかった。それが夏になるといっぱい入るようになっただよ」
 こんな話を霞ヶ浦の湖上で聞いたのだ。千葉県からすると霞ヶ浦は流通的にも近く、持って来やすい場所なのだろう。また築地のように他県の天然アユと競合しなくても済むという利点もありそうだ。

 この霞ヶ浦のアユは色合いがやや黄色く薄い。値段は安い6本入ったパックが450円ほど。買い求めてきて塩焼きで食べてみる。

 残念ながら一口食べて河川アユの旨さがないことが明白にわかる。身の部分はアユ独特の香ばしさがあり、養殖アユとは比べものにならぬほどうまいのだが、ワタがやや泥臭いのだ。これを単に塩焼きにしたのは間違いであったと思う。例えば開きにして風干しにする。もしくは小振りなものは天ぷらとか。

 さて霞ヶ浦のアユの入荷は本日もあるのだろうか? あったらまた買ってきて風干しを作ることにする。

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さごちの幽庵焼き

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 幽庵焼きの基本は結局「地」だろう。「酒1、味醂1、醤油1」の地で味わいは決して甘くない。このちょっと素っ気ない地では漬け込む魚の良し悪しが如実に出てしまう。
 今回の魚は「さごち」すなわちサワラの若魚であり、脂も旨味ものっていない。これに大人の魅力を要求しても始まらない。今回は基本形に砂糖と魚醤油(魚と麹を合わせて醸したもの)を加える。

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 そう言えば最近「幽庵焼き」と書く以外に「柚庵焼き」とあることが多々ある。まあ本来の琵琶湖の魚を料理するに堅田幽庵(北村祐庵)が工夫したという由来からは明らかな間違いだが、この柚というのが悪くない。ボクは地に柚の香りというのが好きである。今回は海老名の海老さんからいただいた最後の柚を風味づけに使った。

 ここまで右往左往して、やっと「さごちの幽庵焼き」は出来上がった。子供にも酒の肴にもいい、しかもキロあたり500円という激安の「さごち」だから家計にも優しい一品となった。
 懐具合の寂しい月末には「さごち」、これは貧乏人の知恵ですな。

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ゴマサバの旬は?

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 ゴマサバの旬がわからなくなっている。沼津などでは「夏になるとうまくなる」と言われ、ある意味夏の魚であるかのように言われる。でも相模湾のゴマサバがいちばんうまくなるのは晩秋か冬まで、またゴマサバを名物としている高知県などでも秋から春までが漁期なのだ。
 ゴマサバの寿命は6年以上、産卵期は長く、冬から初夏までとすると大きさ、またとれる場所が重要になってくるだろう。
 そして旬というのを改めて見当するためには、1週間に数個体食べていくしかない。残念なら、その1本目の産地がわからない。これはお盆前の混乱している状況でやっと1本手に入れたからだ。
 今回のものは30センチ上、500グラムほどのもの。鮮度がイマイチであったので、塩焼きにする。
 これが脂がのっていた。旨味も上々でうまい。これならこの時期のマサバと比べてもひけは取らないように思える。
 通常、ゴマサバの旬が夏だろされるのは、マサバの味が落ちるときに、「味がおちない」ためだと言われている。でもむしろゴマサバの評価が低いのは血合いの量であるかも知れない。またゴマサバが寒い時期うまいと感じたのは、例えば「脂はあるにしても夏のゴマサバの血合いはすぐ生臭くなる」、比べて「真冬のゴマサバの血合いはあまり生臭く感じない」、そんなことが原因かも知れない。


 ゴマサバのことが知りたくて、ただただたくさん食べてみる、というのも芸のない話。でもボクなど科学者でも水産業者でもないのだから、この愚直な方法しかない。
 さて、今回の結論。8月14日のゴマサバは脂がのっていた。

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 東京湾の小イワシ(マイワシ)が毎日のように入荷してきている。これが小さいクセに脂がのって絶品。しかも1キロあたり350円から500円也と格安なのがうれしいなーー。
 刺身はもちろん「なめろう」、「さんが焼き」、フライ、塩焼きと脂がのっている魚はどんな料理法でもうまいうまい。そして本日は当座煮(10日間前後は保存のきく料理)にする。マイワシの当座煮はいろいろある。ボクの好みは単純な生姜と煮たもの。濃い口醤油で甘辛く、コックリ、黒っぽく作る。でもこの甘辛煮、猛暑日が続くと食べていて、なんだか重く感じる。となると梅干君が登場してくる。

 マイワシの梅干し煮というのはいたって簡単な料理である。
1/マイワシは一度煮こぼす。すなわち多めの水に並べて入れて沸騰させる。沸騰したらヒタヒタの湯を残してゆで汁を捨てる。
2/ここにたっぷりの酒を入れて、ことこと30分煮る。途中、水分が少なくなったら酒と水を足す。
3/マイワシが柔らかく煮えたら、ここに好みで砂糖を足し、また10分ほど煮る。このときにも水分を見て、足す。
4/最後に梅干しをちぎりながら好みの量入れたら、煮汁がほとんどなくなるまで煮上げてしまう。味つけは、これで充分なのであるが、煮上がる直前に醤油を加えてもいい。
 注意すべき点は水の量を常に見ていて、炒りつかせないようにすること。

 梅干し煮は酒の肴というよりは、ご飯のおかずだ。梅干しの甘酸っぱさが日本酒に合わないと思う。結局好みの問題なんだけど。

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 コノシロの稚魚が新子なのだけど、この新子ほんとうにうまいのだろうか? なにしろ出始めの新子は重さ3グラム、体長3,4センチといったところ。二本の指で隠れるほどのを研ぎに研いだ小出刃で開いて、これまた丁寧に酢でしめる。これを一度期に4,5枚も箸でつまんで口に放り込んでもいかばかりの味わいも感じることはない。これが8月初旬ともなると7,8センチ、10グラムほどに成長してくる。こうなるとぐっと味わいが増してうまくなるのだ。
 我が家にある『すし技術教科書 江戸前ずし編』(旭屋出版)には〈4センチ〜5センチを「新子」〉、〈7センチから10センチを「こはだ」〉、〈12センチ〜13センチを「なかずみ」〉、〈15センチ以上を「このしろ」〉と書かれている。この数字は動物学的な尾叉長ではなく全長のことであろうから、「新子」と呼んでいいのは走りの時期だけとなる。8月の一匹10グラムのものは、体長7、8センチとなっていて既に「こはだ」だ。

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 でも今日の市場にあってはこの7,8センチが立派に「新子」で通っている。たぶん10センチ前後までは
立派に新子で通るのではないだろうか? この教科書が出版されたのが1975年のこと。以後の「新子」への認識の変化には興味津々である。

 この1匹10グラムの新子を『市場寿司 たか』で味わう。このサイズだとちょうど2枚づけ(2匹で1かん)となる。その二枚の身はまだまだ柔らかく、口に放り込むとすぐにすし飯と馴染む。そこに魚としての生臭さはなく、すし飯の中からしっかり身の存在を感じる。そして甘味が浮き上がり、旨味もほんの少しだけれど舌に残るのである。
 それでも、
「やっぱりうまいという点では冬の方がいいね。体長14、15センチくらいの」
 冬の「こはだ」は1975年の『すし技術教科書 江戸前ずし編』では「なかずみ」となるもの。今年はこの「なかずみ」を堪能した。
「そうだね。今年の冬にはよくしめた(酢締めにした)ね。うまかった。それでも江戸前寿司に新子がなくちゃいけないね。新子は味じゃないのかもしれないよ」
 たかさんは意外に冷静なことを言う。

 さて江戸前寿司で新子を使うようになったのはいつ頃だろう。その昔、江戸前握りは屋台に作り置きして並べて売られていた。そしてその大きさも今の数倍、とても一口では食いきれないものだった。とすると新子ではネタとなりえないのだ。ひょっとしたら江戸時代の新子というのが今の「こはだサイズ」であり、こはだが「なかずみサイズ」だった可能性もあるのである。だから新子の出始めは二枚づけ、実は「こはだの二枚づけ」、そして一枚づけはまさに「なかずみサイズ」すなわち江戸時代の「こはだ」である可能性もある。それがたぶん関東大震災のあと寿司屋で酒を飲むようになり、握りのサイズが小さくなると共にコノシロの成長段階での呼び名が出来てきた。とにかくコノシロの成長段階での呼び名は時代と共に変化しているはずだと考えられる。

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 境港からハツメがたっぷり入荷してきている。ハツメはフサカサゴ科メバル属の魚でメバルやウスメバル(沖めばる)と同属なのだが、なかでももっとも値段的評価が低い。これはウスメバルなどと比べて水っぽいというのか身が柔らかく鮮度が落ちやすいためだ。味わいが低い評価を生んでいるわけではない。塩焼き、煮つけなどにすると高級魚となってしまったメバル、ウスメバルに決して引けを取らない。

「これは安すぎるじゃないか」と呟くと仲卸の社長が「この辺り(多摩地区)じゃハツメを知らんのよ。どうしてこの値段で売れねーのかな」と泣くのだ。
 安いと言うことでは漁師さんにはまことに申し訳ない。でも子だくさん、貧乏暮らしには、これほどありがたい魚というのも、そうあるものではない。見つけたらたっぷり買い込むことにしている。

 持ち帰ったらまずは手早く水洗い、身に切れ目を入れて振り塩をする。これを最低でも一時間は置いてから焼くのである。この多すぎる水分をしっかり皮下から追い出すのがコツのコツ。焼くのはとても簡単。火加減も適当なら、火の通りも早い。残ったものは3,4日かけて焼いて食べるといい。日に日にうまくなるといった喜ばしい一品となる。

 味わいの中心にあるのは皮目の香ばしさだろう。その真下の白身にすら風味がある、そして旨味が強い。これほど焼き魚にしてうまい魚もそうあるものではない。

 最近では魚屋などでも塩焼きにした魚が売れているという。買い求めてきて「自宅でチン」、今ではこれも「自宅で焼く」というよりも「普通」の光景かも知れない。そんな焼き置いて、また温めるというのにもクセのない風味が長続きするハツメはもってこいだろう。

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夏のハタハタ

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 真夏だというのに北海道噴火湾からハタハタがやってきた。鮮度はよいと思うのだが、触ってみてハリがない。またぬめりも少ないように思えるのだ。でも安いものなので好奇心から買ってみる。
 まずはムニエルにする。これは鮮度や脂ののりがイマイチのときには持ってこいの料理法である。またハタハタでは意外な料理法ながら、冬には多摩地区のフレンチのシェフの間で密かにブームとなっている。
 残念ながらバターや白ワインを使っても、この時期のハタハタのムニエルはあまりうまいものではない。酢締め、これももうひとつだな。唯一うまいなと思ったのはハタハタのよしる漬け(能登地方のイワシの魚醤)を干したもの。これは脂がなくても皮下に風味があっていい味わいだ。
 深夜に帰り着いて、ハタハタのよしる漬けを焼く。家族はとうに寝静まっている。日付では昨日の夕刊を読みながら、しみじみいっぱい、二はい、三ばいの酒を飲む。こんな寂しい夜に、時季はずれのハタハタというのも悪くはない。

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