食べる魚類学: 2007年2月アーカイブ

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 サケの王者であったベニザケのサケ界での凋落は養殖サケの台頭によるのだ、というのを何度か書いてきた。その昔はもっとも味のいい、またもっとも高価なサケ科の魚であったわけで、戦後北洋でのスターといえばまさに本種をさしていたのである。

 それが今ではときに標準和名のサケとあまり変わらず、またときに養殖ギンザケよりも価格的に低いという現象が起きてきているのだ。
 例えば2006年度の冷凍輸入ベニザケの平均は481円、ギンザケ461円、サーモントラウト519円である。ここでは養殖のサーモントラウトより低く、またギンザケとの差がほとんどない。ちなみに2005年度はベニザケ524円、ギンザケ411円だった。このギンザケ、サーモントラウトとの価格差はベニザケの好漁不漁によっては、まや変わってくるだろう。またますます脂嗜好が進むと、天然物で脂ののりにバラツキがあると、価格がもっと下がる可能性もある。
 そのベニザケには釣りもの、刺し網、巻き網など天然であるゆえの3種類のランクが存在する。釣りものが最上級であるのは当然であるが、刺し網は未成熟のもの、巻き網は成熟しつつある・産卵を控えたものである。塩鮭を専門に扱う業者や魚屋にとってはベニザケというのは良し悪しがあって扱いにくい。それに反してギンザケのほうが品質が一定でいいのだという。
「それではベニザケも養殖すればいいのに」、と素朴な疑問を大都魚類のサケの専門家に聞くと、なかなか難しいのだという。ということで今回のam/pm「紅鮭」の原材料「紅鮭」も間違いなく天然なのである。すなわち天然を差す原材料名は「鮭」「鱒」「紅鮭」となる。ここで間違って欲しくないのは「ますの寿司」にある「鱒類」、「鮭類」という非常にいかがわしい曖昧な原材料をのぞくということ。

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 この「紅鮭」という商品名の“たっぷりしっかり具がおいしい手巻きおにぎり”。なかなか原材料もたまたまベニザケだったのでわかりやすい。しかもご飯、海苔などが香ばしく美味である。とくに中に入っていたベニザケがフレークではなくほぐし身だったのもいい感じだ。この味わいからするとなかなかベニザケも厳選されている。
 ここで原材料表記をもう一歩すすめて原産国を入れてはいかがだろう? おにぎりの価格も138円と高めであるし、ベニザケもなかなかいいものだと思われる。それなら胸をはって「ロシアなのか、アメリカなのか、カナダなのか?」明記してほしいな!

am/pm
http://www.ampm.co.jp/home.html
シノブフーズ
http://www.shinobufoods.co.jp/
●参考/日刊シーフーズ・ニュース


ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑へ
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こはだ食べたいぞ

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 最近、思うに「こはだ」とは、なんとうまいものなのだろう。毎日、毎日、食べても、食べても、また、食べたくなる。

「こはだ」とは、江戸に置いてのコノシロの幼魚、10センチ前後のものを言う方言である。でも最近、「新子=4、5センチ」「こはだ=7、8、10センチ前後」「なかずみ=12〜13センチ」「このしろ=15センチ以上」という厳密な区分の内、「なかずみ」を知らない、もしくは省いてしまう傾向を見受ける。ということで「こはだ」の区分が広がって来ている。これには古い職人たち、寿司通と言われる人たちは大いに嘆かれているようだ。でもボクのようにいつも懐寂しいオヤジは、そんな「嘆き」とは無縁である。「こはだ」と出されたものが「なかずみ」であっても全然気にならない。冬の時期なら脂ののった「なかずみ」大歓迎である。それよりむしろ“こはだ”サイズが少ない時期に法外な仕入れをする寿司屋の方が怖い。

「冬になると、脂がのってくるのはいいんだけど“こはだ”サイズは少なくなるね。ちょっと骨が気になってきた。でも味からすると“なかずみ”はいいよ」
 たかさんがネタケースに「こはだ(厳密にはなかずみ)」を仕舞いながら呟く。確かにその通りなので、やや脂が落ちてきたとは言え、この「なかずみ」がすこぶるつきにうまい。
「でも、最近の客は“しめもの”を頼まないよ。だからさ、知ってる顔だけにすすめるだろ。これが嫌なんだよ。すすめなくちゃいけない」
 だから『市場寿司 たか』でもあんまり仕込みすぎても無駄になるそうである。もったいない話である。また“光りもの““しめもの”が嫌いというヤツは愚か者であり、寿司屋での楽しみの大半を知らぬものたちである。

 たかさんの作る「こはだ」は酢も塩もしっかり、適度に利いている。ちょうどすし飯と合わさっても、その酢は感じられないほどで、塩加減から「こはだ」の味わいが浮き上がってくる。ボクは昼の営業前に出来上がったばかりの「こはだ」をつまむのが最上級の楽しみである。

 天気予報では、九州には黄砂が見られたという。とすると今年は「新子」が出るのも早かろう。反面、「なかずみ」すら少なくなって、たかさんが市場を右往左往探し回るようになってしまうのも早いのだろうか。この暖冬傾向が気がかりでしかたない。

市場寿司 たか
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八王子の市場に関しては
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 生粋の沼津っ子である飯塚栄一さんは、また沼津の深海生物をもっとも知悉する。「まあ、飯塚さんにわからないことは誰にもわからないでしょう?」という沼津の漁師や仲買も数知れずなのだ。そんな飯塚さんがどっさりと沼津の深海魚を送ってきてくれた。これは『市場寿司 たか』に持ち込むしかない。
 さっそく仕込み。カナド、ソコカナガシラ、フウセンキンメにトウジン、それにヒメにホウセキキントキまである。朝っぱらから、これを全部食べてみる。やっぱりうまい。

「カナドのうまいね」
 最初に食べたのがカナドなので呟くと、
「こっちの方がいいんじゃない」
 目の前に来たのが小振りのソコカナガシラ。これは片身一かんである。

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ソコカナガシラの片身一かんの握り

「ああ、こっちの方がうまい」
「これがトドメだ」
 次に来たのがトウジン、沼津では「げほう」である。
「もう、どれがいちばんうまいのかさっぱりわからない」
 こんな混沌とした状態に陥ってしまった。

 さて、この珍しい沼津の深海魚。『市場寿司 たか』のネタケースに金曜日にはあるだろうが、土曜日まで残っているだろうか? 早い者勝ちだよ。

 飯塚さん、ありがとう。

飯塚さんの海の世界
http://www.numazu.to/sea/
市場寿司 たか
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 近年、どこへ行っても見かけるのが“トラウト”もしくは“トラウトサーモン”“サーモントラウト”である。これはニジマスの一世代交配種。すなわち本来この世にないものを人口的に作り出したものである。ただし種としてはニジマスとニジマスの掛け合わせなので「ニジマス」でしかない。そのために成熟しない、また成長を止めたり、早めたりという出荷調整も可能なのだ。

 ちなみに「ます」という概念はその昔、標準和名のサケ以外のサケ科の魚に対して使われたもの。だから「サクラマス」なのであり「カラフトマス」であったのだ。国内でも少ないながらとれるキングサーモンの標準和名にも「マスノスケ」で「ます」が入るし、今は「ベニザケ」だが、その昔は「べにます」であった。
 サケは大量にとれて食べてもうまいものである。だから江戸時代の産地、藩、蝦夷地でのアイヌの人々にとって大切な産物でもあった。特別だったのだ。
 そこにアメリカから「レインボートラウト」が明治期にやってくる。たぶん英語の入ってきた明治初期に言葉の意味としては「トラウト=マス」「サーモン=サケ」の基本は出来ていただろうから、「虹鱒」とすんなり名が付いたのである。ここにまた誤解が生まれる。後々、もっとサケマスの定義を深くするに「トラウト=淡水産」「サーモン=海水産」という意味合いにぶつかる。淡水魚として持ち込んだニジマスはこの点でもわかりやすかったのだ。だから現在での「マスというとニジマス」という概念が純然とある。
 そこにはまさかニジマスが「スティールヘッドになって海に下る」とは知らなかったのが一般的なところだろう。サケのように川で生まれ海に下るのだから当然、海で養殖することもできるのである。でもスティールヘッドをそのまま海で飼うと成熟してしまう。それでは歩留まりも出荷時期も狭いのである。この問題は未だにギンザケには残っている。
 じゃあ成熟しない、また餌を減らしたり、多くしたりの出荷調整に耐えうるサケの品種を一世代交配種で作り出そうとした。それで出来たのが「サーモントラウト」なのである。だから標準和名はなく、どうしても銘記しろとするとニジマスということになる。

 養殖であることから生食しても比較的安全である。ニジマスだから身の色合いは美しく、そして味もいい。チリで養殖して北海道に輸入、そこで骨などを抜いて後は切るだけにしたものが「刺身サーモン」である。
 チリという国は南米のしかも最南端にある。当然、地理的に産地としては遠いのであるが格安のギンザケの生産とサーモントラウトやアトランティックサーモンをフィレに加工するなどでサケ界ではノルウェーとともに二大勢力となっている。現在のところチリではギンザケの生産が主要なものである。これに追随してきたのがサーモントラウト。それが証拠に我が国においても見かける機会が増えていて、市場などでは毎日のように大量に解体されている。
 その上、生食の場合、アトランティックサーモン、次いでサーモントラウト、そしてギンザケというの序列が出来ている。またアトランティックサーモンが刺身、スモークサーモンなどになるのに対してサーモントラウトは生でも塩蔵、また西京漬けなどの加工品にもなる。

 画像は『市場寿司 たか』でのもの。たかさんのところは個人営業の寿司屋ではもっとも格安に寿司を提供している。しかも一人っきりで切り盛りするということで、なかなか激務の毎日なのだ。だから、その手間と、味わいを鑑みて、少ないながら冷凍や加工品を使わざるおえない。それで、とにかく「サケの生」を選ぶときに、散々迷って選んだのが「兼由」の刺身サーモンである。

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 ボクもときどき味を見ているが非常に味がいい。やはりサーモントラウトとしては割高なものだが骨抜きもされていて便利なのである。

 実をいうと回転寿司ではもっともっと多様に養殖サケを利用している。たぶん、輸入ギンザケも、そしてサーモントラウト、アトランティックサーモンも仕入れ値の加減でどんどん使い分けているはずだ。そして本来は一般の寿司屋では主にアトランティックサーモンを使っていた。
「(値段を安くしているから)お昼にはどうしても、サーモン類が必要なんだ。でも種類はわからないね。最近まで生(鮮魚)を使ってたけど、冷凍もある」
 これは本日も含めて都市部の寿司屋の何人かに問い合わせたときに共通する答え。この「サーモン」にサーモントラウトが進出してきているのだ。このときに問題となってきているのが市場などでの取り引きで使われる「トラウト」という言葉。これでは“マス”になってしまう。そしてサケにもマスにも使える「サーモン」という言葉が登場してくる。

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 だから「兼由」の商品名も「刺身サーモン」なのである。ちなみに裏面にはちゃんとサーモントラウトと表示されている。


兼由
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市場魚貝類図鑑のサーモントラウトへ
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 このスリーエフ『トウカツフーズ』というメーカーの作ったお握り、裏麺の材料を見て「大丈夫なんだろうか? この表示で?」と目を疑った。なんと原材料名なのに「醤油焼鮭」なのである。これでは「輸入ものであるのか? 養殖ものなのか?」がまったくわからない。たぶん、この表示は合法的なものであって、大量消費するコンビニお握りの表示は行政などでも野放しなんだろう。

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 でもこのお握りの原材料が標準和名のサケであるのか輸入のギンザケであるのか、サーモントラウト(トラウト)であるのかは大変重要である。「鮭」とあるなら標準和名の我が国で古来から慣れ親しんだサケだろうと思うのは大きな間違いであって、「鮭」という概念は「サケ科サケ属」全般に広がっている。
 とすると「鮭」という漢字表記はおかしい。この場合の正しい表記は【醤油焼鮭(標準和名)】とするべきである。セブンイレブンの「北海焼鮭」でも思ったことだが、コンビニ業界は養殖、天然、輸入、国産というとても大切なことにまったく無関心であるようだ。
 この表示紙の右上に「安心素材」とあるが、ぜんぜん「安心表示」ではないことをはっきりしておきたい。

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 さて、食べてみるにやはりコンビニお握りの味わいは平均化してうまいのである。どうも原材料は標準和名のサケかもしれない。ボクなどそれほどサケ通ではないので食べただけでサケの種名が当てられない。やや脂の少ない「鮭」の身に醤油味がほんのり感じられる。なかなか工夫された味わいである。
 このような工夫が25万トン前後も漁獲されている標準和名のサケがあるのに、それに比肩するほどの養殖サケを輸入することもなくなるだろうと思える。


スリーエフ
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トウカツフーズ 埼玉県川口市元郷4の5の1 


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『まつ浅』は八王子大和田のいたって平凡なそば屋である。カツ丼もサンマーメンも、もちろんそばだって、味がいいので評判なのだ。でも、この店の通称浅やんを有名にしているのが、食いしん坊釣り師としてなのである。なにしろ「うまい魚しか釣らない」というまっとうな沖釣り師なのである。今時の「釣りはスポーツだ」なんていう風潮は大嫌い。釣った魚をいかにうまく食うかというのが、この男の主題になる。

 その浅やんお勧めは数あれど、最近一押しなのが、「さばのしょうゆ干し」。この作り方が凄まじい。
 まずは秘伝の醤油ダレを作る。「どうやって作るの」と聞くと、「教えるわけないだろ」とけんもほろろ。たぶん、そば屋だからしょうゆにみりんかな。それを大きめのタッパーに入れて大磯の沖合にある「瀬の海」に船出するのだ。この船の本命は当然、マアジ。

「最初にね。アジは必要なだけ釣るわけ(これは自慢である)。今の時期のアジもうまいからね。だいたいそこそこアジを釣って、もういいかなとなる。そしたらさ、うわっかた(浅いところ)を走っているサバを狙うの。今の時期はね、底にいるサバはうまかねえ。上のがいいの。水面近くにカタクチイワシがいっぱい群れているの。これをいっぱい食ってるからかね。上にいるサバがうまいの」
 どうやら「上にいるサバ=ゴマサバ」、「底にいるサバ=マサバ」であるようだ。
「釣り上げるだろ。そしたらさ、すぐに頭落とすの、そして開いて、しょうゆの中に放り込む。まだ身はいかってる(生きている)だろ、しょうゆのなかでクククっと反り返えってくるのさ。しょうゆをすってるんだろうね」

 大変な代物をもらい受けたものである。でも今夜の晩酌、肴はこれしかない。
 夕食の支度が終わり、落ち着いたところでサバを焼く。身の方から焼き始めたら、驚いたことに身がクククっと反り返り始めた。
 これはいきなり海の中から釣り上げられたゴマサバが、「いやだいやだ」と思っている内に、頭をストン、身をばんと開かれてしまう。「私、死んだの」と気づく間もなくしょうゆ地獄に放り込まれてしまって、頭がないので泣くに泣かれない。きっと「私つらいわ、つらいわ」と泣いてるんだろう。それに浅やんのあまりの早業に「死んでしまったんだわ」とわからなかったのかな。成仏できなかったんだろうね。その怨念がこんなガス台の上で蘇ってきたのだ。「成仏しろよ、成仏しろよ」と箸でなだめながら焼いていく。

 焼き上がると、こんがり、こんがり、それはそれは見事である。しょうゆの色合いの表を外すと中には真っ白な、それでいてプックリ盛り上がるような身がはじけている。

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 味わいの表現は難しいけど、しょうゆ味は、それほど強くない。むしろ香ばしさが鼻を通り抜けていく。そして暖冬だとは言え、2月のゴマサバにこんなに脂がのっているなんて。そう言えば高知名物「清水サバ」の旬も真冬だったな。冬のゴマサバ恐るべし。こまったことにサバがうますぎて、酒がすすまない。「佳肴とは言えませんな」なんて三遊亭圓生の長屋のご隠居風に呟いてみるが、「でもうまいね」ともしみじみ思うのである。
 しかし食いしん坊釣り師とは「凄いもの」だと浅やんに感謝するのだ。

●最後につけ加えると、八王子大和田『まつ浅』はうまいそば屋であるのだ。
まつ浅そば店 東京都八王子市大和田町6丁目12-28
市場魚貝類図鑑のゴマサバへ
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 青森の田向さんのところから来たアブラツノザメの「はらす」。これを田向さんのアドバイスにしたがって「お吸い物」に仕立てる。
 田向さんは、「“はらす”を一口大に切り、一塩しておく、これを沸騰した青ネギを入れた湯のなかで煮立たせないように15分ほど煮る」ということだった。確かにこれはあっさりと上品なお吸い物になる。でもすすってみてややもの足りない。むしろ「はらす」のエキスをしっかり汁に煮出した方が味がいいのではないか? と思われた。

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水とはらすとネギの青い部分だけ

 それでもっとも簡単な方法でスープをとってみる。アブラツノザメにはまったく臭みがない。でもことこと煮ていくと、アクも出るだろうし、やはり生の肉片なのであるからクセも出てしまうかも知れない。それで水とネギの青い部分、そして「はらす」の細切りを入れて火をつける。湧いてきたらよくアクをすくい取り、煮立たせないように15分ほど。
 塩で味を調えて、青ネギをとりだし、器についでネギを散らした。これがなんとも素晴らしいスープなのである。まったく臭みがない。そしてスープには濃い旨味と、脂分からくる甘味が感じられるのだ。たぶんこれにコショウをふり、ラーメンスープにしても「魚貝由来のスープ」だとは思うかも知れないが、だれもサメの腹身までは思い至らないだろう。

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 スープで味わった後にもう一度、今度はセージとローズマリーの乾燥葉を入れて30分ほども煮詰め、塩コショウで味つけ、冷やしてジュレにしてみた。これがブルルンとした食感であって旨味が強く、いい味わいである。オシャレを気取ってシブレットを飾ると見た目にも非常に美しい。
 アブラツノザメの「はらす」は和だけではなく、フレンチの素材としても面白そうだ。


田向商店
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市場魚貝類図鑑のアブラツノザメへ
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マダラ子の煮つけ

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 いったい「たらこ」とはなんであるのか? 「親の顔が見たい」というならば、鷹を生むトンビの親、スケトウダラさんが「私恥ずかしながら親なんです」と名乗り出ることになる。
 なんだ、タラ「子」というから「たらちり」「タラの昆布締め」の鱈かと思えば、練り製品になってしまう「あんたのようなヤツが親かいな」というのは酷だろう。スケトウだって好きですり身になっているわけじゃない。それに鮮魚としてもうまいのである。

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これがマダラの子。なんだか表面が薄汚れていて、見ていて迫力がある

 じゃあ、正真正銘の鱈、真鱈の子はどうなんだいというと、これが不肖の子なんである。市場での評価はかなりの下段。だいたい白子があれほど優れているのに、真子の安さはヒドイじゃないか? 白子はキロあたり5500円もするのに、真子は1000円しかしない。かの「たらこ」だってキロあたり4100円だからマダラ子の4倍なのである。

 その価値4分の1の「真たらこ」が大好きな人がいるらしいと気がついたのが今週になってから。八王子綜合卸売センター『高野水産』が毎日仕入れてくる一箱を、そのままごっそり持っていく。誰なんだろうと気になって張り込みを開始。
 すると意外やいたって普通の食堂のオバチャンなのである。
「バカね。わたしゃ、生まれが山形だっすから。この煮つけたのが好きなんだよ(ここんところ波線を描くように高低をつけて読んで欲しい)」
 お客にも好評で小皿に入れておくと真っ先になくなるんだという。それを脇で聞いていたのが秋田出身の寿司職人。
「そうだ。子供の頃食べていた“たらこ”は“鱈子”でもマダラのこだったすね」
 なんだか二人してうれしそうだ。
“真だら子”は決して“すけそう子(スケトウダラ)”のようにきめが細かいわけでもないし、旨味が強いわけでもない。「でもコックリした味がいいんだー」という。
 それならと一腹、買ってみる。この一腹がなんと500グラム近くある。キロ当たり1000円だから、こんなにたっぷり買い込んで、500円玉でおつりが来る。

 作り方は鍋に砂糖、酒、みりん、醤油を煮立たせる。煮立ったところに一口大に切った「真たらこ」を放り込む。煮汁は酒が多めで全般に甘めにする。食堂のオバチャンが「甘い方がうめーよ」というのに素直に従がったのだ。鍋を適度に返しながら短時間で煮上げる。残念だったのは“真たらこ”を一度期に入れて丸まらなかったところだけ。

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 この煮たらこがうめー。うまくてご飯が進みすぎ。なんといってもやっぱり甘くホッコリホッコリした優しいのんびりした味わいがいい。煮つけをほぐして、ご飯にまぜまぜして“真だらこ飯”にしてもうまい。
 さて、ボクが思うに今の世の無機質でギスギスした都会人には、北国のホクホクと暖かい味わいが救いとなる。間違いない!

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 福島県相馬市原釜からきたアブラツノザメの腹す(はらす)がうまいと書いたら、「それなら青森のも食べてみてください」と田向商店からも送られてきた。なぜなんだろうと発泡のフタを開けたら、そのわけはすぐに合点がいったのである。納得するよりも先に驚いたと言った方がだとうだろうか、そこにあったのは巨大な一反木綿だったのだ。持ち上げると1枚で軽く1キロを超えている。まさか、これが一枚の「腹す」であるとは、持ち主はいかなる大きさなのか?
 築地に入荷する「むき鮫」のなかでも田向商店のは最上級だとされるが、それにしても腹すのこの脂分の多さや、また厚みはなんだろう。これが津軽海峡ならではの釣りものなのだろうか? おったまげたな!
 驚いたばかりいても仕方ない、とにかく焼いてみる。煮てみる。お吸い物を作ってみるのだ。
 最後になってしまったが、田向さん、うまいものをありがとう!

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 ある日、市場で知り合いの魚屋が、仲卸に呼び止められて、
「あの、安い“キング”あるんすけど持ってきません。2本だけなんすけど」
 その会話に割り込んで、箱の中を見せてもらう。これがアトランティックサーモン(標準和名のタイセイヨウサケ)なのである。
 アトランティックサーモンは今でこそ「サーモン」で通るのだけれど、長い間「キングサーモン」と呼ばれていた。その名残がなかなか消えないのだ。生食用サケでは今や最高級品としての位置を確保している。

 日常的に市場でみられるサケ科の序列をみると生食用と加熱用で2つに分かれる。
 生食用では
一、アトランティックサーモン(タイセイヨウサケ)
二、サーモントラウト(ニジマス)。量的にはアトランティックサーモンを抜き去っている
三、ギンザケ(宮城県産 値段は高いが量は非常に少ない)

 この中で生食用のトップにくるのがアトランティックサーモンである。生食用にできるのはサケ科でも養殖されたものだけ。天然は原則としては生食は不可となる。もし食べるなら寄生虫などの問題から自己責任となる。そして養殖のサケというとノルウェーでのアトランティックサーモンが嚆矢とも言えよう。同時期に国内では宮城県女川でギンザケの養殖が始まるが、量的にはまったくノルウェーの敵ではない。ノルウェーでの養殖ものが輸入され始めたのが1980年代。生食できると言うことで人気を博したのが1988年あたりからだろう。そして養殖サケが世界的に見ると天然魚の生産量を抜き去り。今日では日本に置いても天然のものを凌駕する勢いなのである。すなわちアトランティックサーモンという養殖魚は日本のサケ科の歴史ある硬い秩序を根底から破壊してしまったのである。
 ノルウェーから本種の輸入が始まったときいちばん問題となったのが「タイセイヨウサケ」という標準和名、もしくは「アトランティックサーモン」という英語名である。これではあまりに馴染みがなく誰も買っていくわけがない。それで苦肉の策で「キングサーモン」として売り出してしまったのだ。この“キングサーモン”が回転寿司、街の一般的な寿司屋でも料理屋でも瞬く間に受け入れられてしまうのである。そして今や生鮮品としての輸入量が2万トンを超えてアトランティックサーモンなくしては寿司業界は成り立たない状況となっている。
 アトランティックサーモンの養殖はノルウェーで始まり、南米のチリの飛び火、そして現在ではイギリス、カナダ、アメリカ、オーストラリアなどへも広がっている。この各地からの輸入ものが築地では一同に交いして見ることが出来る。
●本稿はボクのメモである。アトランティックサーモンに関しては、これからも書き加えていく

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これはイギリスからのもの

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 ニチロは鮭に関しては草分け的会社である。古くは明治期にカムチャッカへサケ漁にのりだしている。そして大正期のサケの缶詰生産。今でも「鮭といったら日魯」という意識が水産業に携わる多くの人たちにある。
 これはそんなニチロの白鮭をつかったもの。材料表示に「白鮭」とあるのは他のサケ属とわけるときの呼び名。本当は秋に定理に入ったものなら「秋鮭」、沖でとったものなら「銀毛」とか「目近」とか書いてくれるとありがたい。また何度も書くが原材料表示は()入りの標準和名で、というのがいちばんいい。だから「白鮭(サケ)」「秋鮭(サケ)」とかの表示がより最善だろう。
 さて年間25万トン前後もとれているサケ(標準和名のサケ)が意外に魚屋、スーパーでは見かけない。コンビニのおにぎりでも人気は薄いように感じるのだ。それではどんな使い方をされているかというと、本製品のようなお茶漬け、お弁当用のフレーク、そして、ふりかけ原料となりはてているのだ。
 だから何気なく我々が食べているものが、国産のサケなのであるというのも知っておくといい。フレークにするということは一度完全にほぐしてしまって、骨などを取り除かなければならない。その散々いじり回したものを食用としている。
 本当は切り身を自宅で焼いて食べるのが何倍も健康的であるというのを忘れてはならない。
 このフレークにも焼いてほぐす、蒸してほぐすの2種類がある。そしてこれは「蒸してほぐしたもの」である。蒸しているので、けっして香ばしいわけではなくサケの旨味と塩味を楽しむ。蒸しているがためにふっくらとしているのも魅力的なのだろう。でもこの身のボソボソ感は嫌だな。
 

ニチロ
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 日野市豊田駅前にもコンビニがあって、ときどき利用している。たぶん傘を買ってしまった回数の最大はここである。でもここが「スリーエフ」という名前であることを初めて知ったのである。だいたいコンビニに入っても店名のことなどまったく興味の対象ではなく「便利だから入る」すなわちまさしく「コンビニエンス」な使い方をしているということだ。

 ここで面白いものを見つけたのだ。そのお握りが、ずばり「銀鮭」、そして原材料も「銀鮭」とある。

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 しかしこの表示の仕方、だれが考えたんだろう漢字である。コンビニのお握りを買い裏側を見るようになって気がついたことだが、原材料表示の指導をするにプロは存在しないようだ。我がサイトを見てもらうとわかるのだが、標準和名は常に「カタカナ」であり通称、商品名は原則「」でくくる。もしくは漢字か平仮名書きなのだ。すなわちこれだけで標準和名か通称か商品名かが明確にわかる。それなのにコンビニの表示はなんなんだ「責任者出てこい!」。
 でもまあ原材料「焼鮭」とか「鮭類」よりはましなのである。でもね、この銀鮭は養殖なんだろうか? 天然だろうか? 国産だろうか? 輸入だろうか? さっぱりわからん。消費者はこんなところに注意した方がいい。
 近年、ギンザケというと天然だとアラスカかロシア産である。でも非常に量は少ない。そこからするとチリからの養殖ギンザケの多くは日本に来ているのだ。その量たるや凄まじい。2006年で72326トン。ちなみに国産サケの年間漁獲量が25万トン前後だからギンザケだけで3分の1にもあたる。しかもこの多くが塩水に漬けられて塩鮭となっている。と言うことでチリ産の養殖ギンザケが原料ということか?
 ちなみに我が国ではギンザケにタイセイヨウサケ約26000トン、サーモントラウトなどを足すと175000トン前後になる。
 先に国産のサケの漁獲量が25万トン前後と書いたが、ここから輸出量を引くと19万トン前後となる。しかもチリなどからの輸入ギンザケは“はらわた”も頭も落とされ、ときにフィレでの換算である。どれだけ日本人が養殖のサケ類を食べているかがわかろうものだ。だからこの現状を食べている側にも教えなければならない。
 しかるに今回の「銀鮭」を販売するスリーエフも埼玉の「トオカツフーズ」も表示は「銀鮭」だけとは嘆かわしい。もっとコンビニ業界も良識を持って食べ物を売って欲しいものだ。

 と言うことで、いろいろ思い、そして調べた後で食べてみた「銀鮭」を……。これ味わいとしてはがっかりだな。セブンイレブンやam-pmが優秀すぎるのだろうか? 平凡な味わいだし、中身の銀鮭(塩水につけて作った塩鮭だろう)が少なすぎる。脂があるか、風味があるかなど感じないままに喉の奥に消えてしまった。早食いすぎたのかな。また合成保存料や添加物はまったく使われていないようだ。その点では偉い!

 最後にコンビニで鮭おにぎりばっかり買うようになって考えた。ひょっとしたら切り身や丸など市場や魚屋、スーパーなどで取り扱うサケ類よりもコンビニなどで取り扱うものの方が量的に大きくなって来ているのではないか? これはどうやって調べたらいいんだろうね。

参考資料/水産庁「水産物輸出対策の現状と課題」、日刊シーフーズ・ニュース「2006年12月サケマス輸入貿易統計」

スリーエフ
http://www.three-f.co.jp/
トウカツフーズ 埼玉県川口市元郷4の5の1


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 八王子綜合卸売センター『高野水産』に相馬市原釜の八巻水産から
「なんだこれ、おおい、なんだろうな? “はらす”って書いてあるぞ」
 といった代物がとどいた。どうも砂刷り、すなわちはらわたを包み込んでいる薄い部分であるようだ。
「なんだか白いぞうきんみたいだな」
 立川で居酒屋をやっている『太鼓』さんが、手に持ってひらひらさせている。どこか楽しそうだ。この方、こうやっていろいろネタ探しをするのが好きなのである。
 そしてこの日は八巻水産からアブラツノザメのむき身も並ぶ。

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福島県相馬市原釜港底引き網で揚がったアブラツノザメを港でむいたもの

「あ、これはアブラツノザメの腹身だね。これはうまそうだ」
 と言うと高野社長が「そうだ」と言いながら少し分けてくれる。
「どうやって料理すればいいのかね」
『太鼓』さんが山形なまりで聞いてくる。
「普通は煮つけだね。きっといい煮こごりができそうだし」
「唐揚げはどうかな」
 こちらは日野市豊田駅南口の居酒屋「うろこ」さん。
「クセがないからね。唐揚げ、軽く干して焼くなんていいんじゃない」

 アブラツノザメは世界中の寒帯、そして温帯域の深い場所に生息している。一昔前まではたくさんとれて宮城県の笹蒲鉾の原料となったり、また高級な練り物原料ともなっていた。また大型のものは、むき鮫として現在でも高く取り引きされてもいるのだ。
●詳しくは青森の「田向商店」のページへ
http://www.tamukaisyoten.co.jp/

 ボクはこれを素直に煮つけにする。そして流し缶に入れて煮こごりを作る。
 煮こごりにする以前に煮つけのうまいのにビックリした。身が柔らかいのにしっかりしているというか、適度な弾力性を持っている。まるで良くできた練り物のようでもあるがしっかり繊維質を感じる。これが噛みしめるとすぐにほぐれ砕けてくれる。その上品な脂分と旨味もたまらない。
 そして冷蔵庫で冷やすとこれも見事な煮こごりが出来上がった。その味わいは筆舌に尽くしがたい。なによりも煮こごりに充分すぎるくらいにアブラツノザメの旨味が染み出している。
「煮つけを食べ過ぎるんじゃなかった」
 後悔していると太郎が白いご飯にのせている。のせたご飯との接点はもう溶け始めて汁になっていく、そこをかき込む。そしてまた煮こごりをのせて、またのせて。
 見ている間に煮こごりはなくなっていくのだ。どうも煮こごりのうまさの真価は酒の肴よりも、ご飯にのせて発揮されるようだ。

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 さて、このアブラツノザメの腹身、また来週も入荷してくるのだろうか? 火曜日が待ち遠しいな。

市場魚貝類図鑑のアブラツノザメへ
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 塩鱒に関する昔の話を魚屋さん、またいっぱんの方達にも話をうかがってきている。そこには予想もしなかった昭和史というものが見えてくるのだ。でも聞き書き、文献を漁るなどの前に、実際に塩鱒を食べてみたい。

 八王子総合卸売協同組合「興実水産」で見事に切り分けられた塩鱒。頭と尾の部分などを鍋仕立てにしてみた。これはなぜか旨くできなかった。昆布だしを取り、まず湯引きした塩鱒を入れて少し煮る。きっと煮ていく間に塩が出てくるだろう。だから塩加減は最後でいいだろう? と思っていたのだがまったく塩分が出てこない。昆布だしを取る次点で、すなわち火をつける前に鱒の切り身を入れるべきだったのだろうか。

 結局、ただ焼けばいいのである。脂がない、と思いこんでいたのは大きな間違い。初夏のいちばん脂がのったときにとれた「鱒」である。焼いてほぐすと透明な脂が照り返すように光る。身がしっとりしているし、なによりも皮が香ばしい。

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 これは「丘」と言われるものだろう。すなわち塩水につけたものではなく、塩を振り、すり込みしたもの。単に塩鱒と言うよりも「塩引き鱒」と言うべきかも知れない。塩をすりこみ時間をおくことで熟成された旨味が醸し出されている。そしてなによりも枯れた皮の風味がいいのである。

 またここでお茶漬けとしたのは厳密には違っている。正確には湯漬けである。最近、発見したことなのだが(遅すぎるかも)、魚や動物質のおかずには「煎茶」「ほうじ茶」など、とにかく茶葉の旨味は不要である。湯という素であるからこそ、旨味のあるおかずの味わいが生きる。
「塩鱒」を焼く、焼きたてを箸で適度にバラしてご飯にのせて、茶碗の縁から熱湯を注ぐのだ。けっして熱湯を塩鱒にかけていけない。これでは塩鱒の旨味は早く染み出すだろうが香ばしさが失われる。家庭で楽しむお茶漬けだからこそ味わえる上質な味わいを楽しむには心配りが大切なのだ。
 塩鱒と湯とご飯とをかき込む。その「塩鱒」を口の中で噛み砕いたときにジュワッと旨味の広がりくるのが凄い。まるでナイヤガラ瀑布の真下で飛沫を浴びるような衝撃を感じる。その上、皮の香り、鼻に抜ける香ばしーい気体には陶然と我を忘れてしまいそうだ。

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 しかも塩鱒とご飯とお湯なのだから三杯食っても四杯食っても太りはしないだろう。これは我が家では新たな常備菜となる。そしてますます肥満が気になって動きが悪くなったら「今日は塩鱒茶漬けで我慢しよう」と幸せな決断をすればいいのだ。

 閑話休題。
 塩鱒は安くて、そして焼きたてはうまいのである。そしてそして自然にも優しいので、もっともっと人気のおかずになってもいい。「美しい日本」をとりもどすためには無駄なダム(長野県でまた無駄ダムを造り始めた悲しいな)や道路を造らないで「塩鱒」を食べるべきだ。べきなのだ!

市場魚貝類図鑑のカラフトマスへ
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八王子の市場に関しては
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 商品名の「北海焼鮭」はつけもつけたり、いろいろ考えたんだろうな。いかにも日本人の日本人的心をくすぐるような、こんなところにもセブンイレブンの強さがあるんだろう。でも原料が「鮭ほぐし和え」はないだろう。これは「いけません」。実際になにが原料なんだ「責任者出てこい!」と昔の人生行路みたいなことが口から転び出る。

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 味わいからするとこの「鮭」はサケであるようだ。でも「銀毛」とか「目近(めじか)」とか言われる沖取りのサケなんだろうか? それとも秋に定置でとれたもんなんかい、「責任者説明せい」。どうしてこの曖昧な表示が許されるのかわからん。「鮭」というなら養殖の輸入ギンザケも「鮭」だろう。町の魚屋なら「サケとはですね」なんて答えもしようがコンビニの「私には責任ありません」というお姉ちゃんには答えようがないだろ。これは「武蔵野」という会社が悪いのか? セブン-イレブンが悪いのか? それとも今の制度が悪いのか? 「どっちやねん」と聞きたい気分である。

 ちなみにこれが沖取りのサケであった場合、サケを三枚に卸して中国に送る。そこで丁寧に骨取り。この骨取りは大変だろうな。でも個人的にはこのように丁寧に身をこねくり回したサケは嫌いだ。それを最輸入、調味して「おむすび」に入れるわけだ。結局、科学的法律的なものをクリアするとなんでもいいという商品とも思える。

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 また国産の沖取り、沿岸のサケの多くはこのようにコンビニや外食産業で使われ、消費される。もしくは中国などに輸出されるのだ。そこでいろんな付加価値が加わる。例えば、「丘」と呼ばれる昔ながらの塩引き鮭もあるだろう。塩水につけられた熟成のないものもあるだろうし。いろいろ考えられるだろうが、やはりしっかりどんなもんが「おむすび」に入っているのかしっかり、しっかり、しっかり表示しろよ! セブン-イレブン、と言いたい。
「合成着色料、合成保存料は使用していません」の文字が泣いてしまうだろう。
 そして最後に、この表示が曖昧な「おむすび」味は上々であったことを忘れずに記す。たぶん「丘」と言われる塩引きではなく、塩水につけたものが原料であろう。でもうまいな。

製造 武蔵野 埼玉県朝霞市
セブン-イレブン
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 市場に「たらこ」が入荷してくるようになった。一般に「たらこ」と言われるのは「鱈」すなわちマダラではなくスケトウダラの子である。「たらこ」「もみじこ」「すけそ子」なんて呼ばれる。マダラの子も今が出盛りで、これも味がいいのであるが、じっくり食べてみると「やっぱ“すけそ”には勝てないな」と改めて思うのである。
「たらこ」一腹はウインナーソーセージをふたつ抱き合わせにしてくっつけたような状態になっている。では一昨日入荷した羅臼産一腹は何グラムだろう? これがだいたい60グラムくらいから80グラムくらいだ。

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 一キロあたり4500円なので一腹だいたい250円見当である。煮るのには3腹は欲しいので、なんと支払が800円あまり。惣菜というのには高すぎるな。これがマダラの子なら半値以下、調べてみると3分の1ほどなのだ。ということで毎年「たらこ」を煮るのは2,3回となる。

 羅臼産「たらこ」の樽状の発泡を前にして小さいのばかり選んでいる人がいる。
「なんでそんな小振りのばっかり選ぶの?」
 知り合いの居酒屋のオヤジなので聞いてみる。
「ウチはね切らないでまるのまま煮ちゃうんだ。切るとどうしても卵がばらけるだろ。嫌なんだよ」
「でも煮る時間が長くなるから硬くなるだろ」
「ドンマイドンマイ」
 そう言えば「ドンマイ」って何語だろ。
 我が家ではだいたい2等分にする。それを予め湯通ししないでそのまま煮立った汁にそっと入れるのだ。あとは短時間ささっと火が通るくらいに煮上げる。

 ついでに割烹料理やで修業した若い寿司職人に煮方を聞くと
「そうだな3等分するよ。そうするとまん丸くなって可愛いだろ」

 でも3等分して卵がばらけないのだろうか? やってみなければわからない。
 やっぱりある程度はばらけてしまう。でもこのまん丸の「煮たらこ」が好評なのだ。食卓にあった時間は3分たらず。ボンボンのような形も子供たちを惹きつけている。でもやっぱり難点は卵が少々ばらけること。でもそれよりも煮る時間がより節約できる。だからフワリと仕上がるのだ。

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 でも貧乏生活なのでばらけた卵がもったいない。
「父ちゃん大丈夫だよ」
 太郎の方を見ると煮汁をご飯にかけて食べている。これでいいのだ!

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 八王子で唯一塩鱒を常備する『興実水産』で塩鱒(一キロほど)1300円を購入する。『興実水産』ではこれを「青鱒」と呼ぶ。初夏に根室釧路沖でとったものだろう。「隣には「めじか」がある。「めじか」はサケの銀毛で産卵回遊する以前の沖にいるもの。これは鱒よりは値がいい。でも秋に沿岸の定置に入った「秋鮭」は明らかに人気がないのだという。それでここにも置いていない。当然、値段は最底辺となる。

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 1本買うと、これを見事にさばいてくれる。頭を落として背ビレ尻ビレを切りとる。それを二枚に下ろして切り身にするのだ。さすがにプロは早い。ほんの5分とかからないで油紙の袋に1本の塩鱒が収まる。

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 塩鱒は香ばしく焼き上げると、なかなかうまいのである。ただし難点は冷えてから。冷えるとやはり脂がないのでパサパサする。でもお握りに入れる限りは充分すぎるほどに美味である。なんといっても香ばしさがいい。でもこのパサパサ感が子供たちの好みには合わないようだ。そのためだろう。今、コンビニお握りの「鮭」は鮭でもカラフトマスでもなく輸入もののベニザケやギンザケ、サーモントラウト(ニジマス)が主流となっているのだ。
 また、この塩鱒には「丘」の文字がある。これは水揚げしてから陸上で加工したということだ。この塩をするにもいろいろあり、輸入もののギンザケなどは「立て塩」すなわちフィレにして塩水の中に浸すことで「塩をしている」ものばかり。この塩鱒は明らかに塩をまぶして作っている。ということで香ばしい旨味を感じる風味もある。でもこれが並木町「魚茂」の言う腹の辺りが真っ黄色な塩鱒と同じ物だろうか。古くは「山漬け」といわれる長時間塩に漬け込む方法で作られた。これはたくさんのカラフトマスを何段にも重ねて長時間塩に漬け込むことで熟成させる。それによって有象無象の旨味成分が醸し出されるので味わいは薄塩を遙かに上回るようだ。この「山漬け」というのも実際に味わってみたいものだ。

 沼津魚の達人菊地利雄さんは御年58歳。代々魚を扱う家に生まれている。中学生の頃の話として、
「当時の物は山漬けであったと思います。現在、山漬けの製品を探しても見つかりませんし、『山漬け』と言う名称を知ってい
る方が何人いらっしゃるのか」
 昔の塩鱒の味わいを思い出してメールをもらった。この「山漬け」の塩鱒のことももっと調べる必要がある事も痛感した。

 最後に肝心な話をしていこう。食物にも「自然に優しい」、「害がある」のふたつが存在する。これは明確に分かれるわけじゃなく、「やや優しい」、「やや害がある」なんて微妙な話でもある。そこをじっくり考えてみるとサケ科の魚を食べるときにいちばん自然に害がないのがカラフトマスではないだろうか? それはまず「養殖ではない」、「完全なる天然でもないが孵化事業は明らかに養殖よりもエネルギーを使わない」、「回帰までの年数が短い」、当然、「天然の海で捕食する他の生物も少ない」、「輸入など移動にかかるエネルギーも国産なので少ない」、ということでサケを次点にしてどうどうの自然に優しいサケ科の雄である。
 またはっきり言って自然保護、温暖化などのことを考えると養殖もののタイセイヨウサケ、ギンザケ、サーモントラウトなどは自然には害はあっても益はない。喜んでいるのは飽食している北の諸国(南北問題の)だけだとも言える。

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 コンビニで富山で作っている、お握り型ますの寿司を探していてみつけたもの。ラベルにコンビニの名がないということは製造メーカーの「昔亭(せきてい)」と言う方が前面にくるべきものだろう。本家本元の富山のメーカーらしく味わいはなかなかいいのだ。だいたい酢飯というのはお昼ご飯としても捨てがたい。ボクなどサケか昆布にこの「ますの寿司」を組み合わせるのが大好きである。

 さて本場富山での「ますの寿司」というのは本来サクラマスを使ったものであった。また我が国で「鱒(ます)」とは主にカラフトマスとサクラマスを差すのだというのもわかってきた。
 繰り返し述べるが「陸封(淡水)」=「マス」、「海産」=「サケ」というのは英語の「トラウト」=「陸封」、「サーモン」=「川もしくは湖から海へ下る、上るもの」というのが入ってきて生じた誤解でしかない。紛らわしくも「サーモン」=「サケ」、「トラウト」=「マス」という誤訳によって生まれたものである。

 その本家本元富山「昔亭」の「ますの寿しおにぎり」の原材料名が「鱒(サケ類)」といういい加減な表示なのはどうしてだろう。ちなみに原則的に天然のサケ科魚類の生食は不可とされる。寄生虫などの問題から生食用としての販売は出来ないのだ。でも寄生虫ということからすると冷凍する限り死滅するはずだ。でも冷凍魚を使うにしてもわざわざカラフトマスや北海道産のサクラマスを使わなくてもいいだろう。またなんらかの方法で酢締めにしたときの寄生虫や細菌に関する情報があって、生に近い販売が出来ているとしても「鱒(サケ類)」というのは解せないな。

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 これを勝手に推測すると原材料はチリ産の養殖ギンザケもしくはサーモントラウト(海面養殖ニジマス)を加工したというこのではないかと思われる。じゃあ産地と養殖か天然か? 「サーモントラウト」もしくは「ギンザケ」という表示はなぜされないのだろう。“原材料名が「鱒(サケ類)」”というのはある意味原材料隠しではないか?
 たぶんコンビニのおにぎりにしたときには表示の義務が法律的にないんだろうな。でも買う側としてはこれはいかにも不親切極まりない。もっと誠実に積極的に原材料の表示をするべきだ。なぜならば日本の魚食のかなりの比率がコンビニに依存していると思われるからだ。そうなるとコンビニ業界の責任は重大である。当然もっと真剣に表示する義務がある。

昔亭
http://www.sekitei.ne.jp/


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