市場に到来する魚は発泡スチロールの箱にはいっている。
ある日、八王子魚市場で見つけた箱はパッチが粘液でべとべとして、そのなかに薄汚れた魚が投げ込まれていたのだ。
これをみつけて「やったー」と叫んだのはボクだけだったようで、横に〈サメガレイ3尾3.14〉とかかれた中身はだれも触った様子がない。
荷主が北海道羅臼の『鈴木シーフーズ』であるというのも魅力を感じるところ。
このサメガレイの値段がキロ当たり700円しかしない。
値段の安さに喜ぶとともに荷受けや仲卸の勉強不足にも驚かされる。
サメガレイは見た目は悪いがもっともうまいカレイのひとつなのだ。
ベトベトするのを1本取りだして、量りにのせると、「これ買っていくの?」と近海担当が声をかけてくる。
持ち帰ったサメガレイは、まずは粘液をタワシで洗い流す。流水で洗うのだけど、排水溝がつまるほどに大量の粘液が出てくる。
粘液の下にあるのがザラザラ、トゲトゲしたウロコである。これをして「鮫鰈」となったわけだ。
表は硬いウロコ、裏面はブヨブヨして薄汚れている。
これを5枚におろしていくと、出てくるのが白濁した身なのだけど、これはいたってきれいなもの。
このギャップが面白い。
どうして身が白濁しているかというと、この身に食い込んだ微少な粒子ひとつひとつが脂なのである。そしてこの脂に甘味がある。
鮮度さえよければ、サメガレイの刺身は最上級のもの。
でも今回のものは刺身ギリギリという鮮度で、思い切ってフライを作る。なんだフライか? と侮るなかれ。フライにして美味な魚、まずいものがあり、サメガレイは「美味なものの代表格」なのだ。
フライは5枚にしたフィレを適当に切り、塩コショウしてパン粉をつけて揚げるだけだから、ここで書くこともないだろう。
さて、どうしてサメガレイのフライが素晴らしいのか?
食べてみるとすぐにわかることなのだけど、サメガレイの脂たっぷりの身は、高温に晒されると一度溶ける。
溶けた脂は中で揚げ油のような働きをするが、けっして全部外に出るわけではなく、多くは身の中にとどまるようだ。
すなわちパンを作るときのショートニングのような役割を演じるのだ。
しかもサメガレイにはたっぷりの旨味があり、例えば一般的なスズキ、マダラ、スケトウダラなどとはひと味違ったフライになる。
たっぷりのフライは家族用、さてボクは粗(あら)を煮つけにする。この粗の煮つけだけはお父さんの取り分となるのだけど、フライよりも価値が高いと考えている。
●ぼうずコンニャクは“珍しい魚や、人知れず美味な魚をどんどん料理して利用してくれる料理人”を応援するのだ。
ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、サメガレイへ
http://www.zukan-bouz.com/karei/karei02/samegarei.html
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